第1章 1-3 : 対決
「うわあぁぁぁ!!」
アイラが腰を上げた時にその声は聞こえた。
獣などでは無い明らかに人に属する者の悲鳴。
(何事じゃ!?)
アイラは驚きその声のする方へと走り出す。
数分程で叫び声がした付近へと辿り着き、辺りを見渡すと一人のー 年齢は15歳ほどだろうか、全身に革製の鎧を身につけ、ロングソードと思わしき武器を手に震えながらも何かと対峙する青年が見える。
その青年の目線の先には白い毛を靡かせながらグルルル…と唸る虎のようなものが見える、獣の虎と違うのはその虎が5mはある大きな躯体をしていると言う事だろうか。
今にも虎は青年へ飛びかかりそうな感じがある。
アイラは素早く体内で魔力を練り上げる。
練り上げた魔力を氷属性へと変質し、大きな氷柱を生み出す
「氷魔法・上」
そうアイラが呟くと氷柱は射出される。
射出された氷柱は虎へ向かって一直線に飛んで行く。
「ガルオオオオォ!」
氷柱が虎へと突き刺さる、そう思った瞬間虎の姿が消え、氷柱は空を切る。
(避けられたか!奴はどこに行ったんじゃ!?)
完全な不意打ち、避けられる筈が無いと思っていたアイラは驚き、虎の位置を一瞬見失ってしまった。
見失った虎を探すように辺りを見渡していると
「来るなああぁ!」
という叫び声が聞こえる。
叫び声がした方向を見ると虎が青年に咆哮を上げながら牙を剥き出しにして飛びかかっているのが見えた。
(しまったのじゃ!)
このままでは間に合わない。
そう思ったアイラは一瞬で魔力を練り、守護魔法属性へと変換し魔術を放つ。
「防護魔法・小」
アイラが呟くと青年の前に薄くガラスのように守護属性の魔力が展開される。
ほんの一瞬だが虎の動きが鈍くなる。
だが一瞬で十分、アイラは鈍くなったその一瞬を狙い虎へ向けて魔力を放つ
「火魔法・中」
アイラが放った火の玉は虎へと直撃して身体を遠くへと吹き飛ばす
魔法を発動させつつもアイラは青年の方へと走っており、吹き飛ばした数瞬の内に青年と虎の間へと入り込む。
「き、君は!?」
目の前に一瞬にして現れた少女に青年は驚き声を上げる。
「挨拶は後じゃ!まずはあやつを倒すからそこから動かない事じゃ!」
アイラがそう叫ぶと
「へ…? で、でも倒すったってあれは超災級の魔物!倒せっこないよ!!」
と青年は到底無理という態度で声を荒げる。
そんなやりとりをしていると体毛の一部を黒く焦げさせた虎が唸りを上げながら戻って来る。
ダメージこそ負わせていないが身体に攻撃を直撃させられたからだろうか、その眼は怒りに満ち溢れている。
「傷も無しかの、少しだけ本気を出さないと勝てないようじゃの。。」
アイラがそう呟くと気持ちを戦闘用に切り替え、魔力を練る。
何かを感じ取ったのだろうか、虎は大きな咆哮を上げながらアイラに飛びかかる。
飛びかかって来たのが見えたアイラは練った魔力を変換させ魔法を発動させる。
「捕縛魔法・上」
放った魔力は粘着性を持った網状に変わり、虎を丸々覆い被さるような形で虎へと向かっていく。
呆気なくも網に掛かった虎はもがきながら必死に網から這い出ようとするが、粘着性を持った魔力はそう簡単に外れない。
虎がもがいている間にアイラは次の魔法を発動させる為に魔力を練る。
その魔力は先程発動させたどの魔力よりも多く、その魔力量は王都の宮廷魔術師が見たら愕然とするであろう魔力量であったが、アイラにとってはて数十発程度打てる量である。
魔力を練り上げたアイラは炎へと変質させて魔力を放つ。
放たれた魔力はその形状を変化させる。
変化した先の形状は巨大な魔法陣。
半径数メートルはあろうかという魔法陣が虎の真上へと浮かび上がり光り輝く。
「炎魔法・極」
その言葉をトリガーとし先程の火の玉とは比べられない程の温度と大きさを持った炎弾が魔法陣から降り注がれる。
魔法陣を起動した瞬間、アイラは青年を引っ張りその場所を離脱する。
勿論、虎は身動きが取れない為にその炎弾をなんの抵抗も無しに食らうことになった。
炎弾が降り注ぎ大きな轟音と地響きがその周囲を揺らす。
その音が鳴り止んだ時、炎弾が直撃した周辺は巨大なクレーターとなっていて、
虎が居た場所には拳大の魔石が落ちているのみであった。
オーバーキルだったかなと思いつつもアイラは青年に声を掛けるのであった。