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『おヒさし振り、です。亮サマ……わた、シの名前ハ、〝マナ〟、と申しマス』
ホリィの手の平にある鏡から立ち昇る蒼い光……そこから現れたのは、まさにその光と同じ髪色をした、鏡サイズの小さな女性――いや、〝女の子〟と称した方がいいだろうか? 高めに結ばれたそのポニーテールや、文字もそのままに幼い顔つきから、どことなくあどけなさというものを感じる……白いドレスを着た、中学生くらいのかわいい女の子だった。
「え……あ……???」
もう、わけが分からない。やっぱり、これはもはや〝夢〟としか考えようがない……よな?
そう思った俺はすぐに……古典的でアナログな方法だが、自分の頬を思いっきりつねってそれを確かめ――
「――いだだだだ!!!!?????」
ばっ! すぐに俺は手を離し、その手をガン見する。
……痛…い……痛い!?! 痛いだと!!?
ということはまさか、これは現実……!!???
「――りょ~うさま~!! です!」
「うおぅ!!?」
唐突に目の前からホリィに大声で呼ばれ、俺はびっくりして思わず尻もちをついてしまった。
……どうやら俺が混乱している間、ずっと俺の名を呼んでいたらしい。ホリィはもうカンカンに怒って――
「いや! ちょっと待て! お前らさっきから、何で俺の名前を知ってるんだよ!?」
――そう、俺はこの二人とは全く〝面識はなかった〟のだ。それなのに……なぜ、二人はさも〝ずっと前〟から俺のことを知っているかのように、平然と名前を呼ぶのだろうか?
それも、〝結みたいに〟……元・お嬢さまみたいに、〝さま〟をつけて……。
「だーかーらー!」とホリィは大声で話した。
「それは今から、まなお姉さまが教えてくれるんだよ! ちゃんとお話し聞かなきゃダメでしょ! です!」
「あ……はい。ごめんなさい……です」
小さい子にもっともな理由で怒られる、という情けなさ……俺の頭はそのおかげで一応冷静さを取り戻すことには成功したが、その代わりホリィの語尾がうつってしまった……だが、もちろんホリィはそんなことは気にしない。「いいよ! です」とただそれだけ言って、ん、と尻もちをついたままの俺に向かって、〝マナ〟と名乗った女の子が浮かび上がった鏡を突き出してきた。
そこで、マナは改めて一礼する。
『――驚か、セテしまい、大変、モウシわけ、ありません……アラためまし、て、マナです。ミモリ マナ、とモウします。よろしク、お願いしマ、す』
「ああ、えーと、亮です……倉田 亮。こちらこそよろしく……」
……な、何かものすごく丁寧に、そして冷静にしゃべるコだな……先ほどまで慌てふためいていた自分自身が本当にカッコ悪く思えてきてぞ? 反省しなければ……。
――と、そんなことを思っていると……何分サイズが極めて小さかったために、よーく目を凝らして見なければ分からなかったが、マナは一度微笑み、それからゆっくりと俺が今置かれている現状についての説明を始めた。