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ガララ――俺は扉を開けた。
すると、目の前にはいつものヨーロッ――
ピシャ――俺は扉を閉めた。
それから、ホリィから手を離し、床にうずくまって、
叫んだ。
「ありえ、なぁーーーーーーーーいぃぃぃぃ!!!!!!」
「ぴ!?」というホリィの小さい悲鳴が聞こえた気もしたが、今の俺にはそんなことを気にしている余裕はなかった。
何なんだこのヨーロッパピアン!? え? もしかして、ドッキリ??? ここはモノホンのパピアンで、俺が死んでいる間に連れてこられたとか!?? そんなバカな!!! 仮にそうだったとしても、じゃあ、今俺がいるこのいつもの保健室はいったい何なんだ!? ……精巧に造った〝レプリカ〟??? それこそそんなバカな!!! だって俺は毎日この保健室に日帰り入院(?)しているんだぞ!? 初めてくるような所だったのならそれも分からん話でもないのだろうが、事この場所に限っては、俺はもはや〝住人〟だ! そんな俺をまさか模造品ごときでダマし抜けるはずは決して有り得ない!! ――そう! 譬え俺の知らない、この、ホリィ、とかいう超々々・目立つ外国っ子を仕掛け人としてスカウトし、ホリィに俺の気を引かせて細部の違和感を誤魔化そうとも、だ!!!
そうさ! もうそれしか考えられな――あれ? でも……いや、ちょっと待てよ、俺!? だったら……えっ!? この状況って……いったい〝何〟なの???
……。
……。
……。
……俺は、考えた。考えに考え抜き、そして次の瞬間、気がついた。
――そう。〝現実世界の俺〟はまだ、保健室で〝寝ている〟のだと。つまり、今ここでこうしている俺は……どころか、今この場所に存在している〝モノ〟は全て、
〝夢〟であるのだということに……!!!
「――な! そうなんだろホリィ!!?」
がしぃ! 俺は、すがるような気持ちでホリィの小さい肩を捕まえて叫んだ。ぴ!? と叫ぶヒマさえ与えはしない。
「これは〝夢〟!! 俺も! お前も! 見える全てのモノも! 全部まるっと俺が生み出したただの幻想!! それしか考えようがないよな、ホリィ!!!」
「!?!?」
えーと! えーと! ホリィは俺に肩を掴まれたまま……急にそんなことを聞かれたせいで慌てたのだろう。質問に答えるどころか、もうどうしていいのか分からなくなったらしく、ただ広げた両腕を、ブンブン、縦に振っていた。――その様子は本当に子どものようで、瞳には渦巻き模様が現れ、完全に混乱しているように見えたが……しかし! 俺自身にもそんなことを気にしている余裕はなかった。というより、たぶん俺の瞳にもホリィと同じその渦巻き模様は現れていたことだろう。
「頼む! 答えてくれ、ホリィ! これは〝夢〟なんだろ!?」
ずずい! 俺はホリィに顔を近づけて迫った。その瞬間、また「ぴ!?」という小さな叫び声が聞こえ、ホリィの動きは停止する。
「……あ、あの……その……!」
そして、ようやくホリィが何かを口にしようとした――その時だった。
『――そノ、ことハ、わタしガ、ご説明、いタシましょウ」
ぴっかぁー! と、突然だった。ホリィの胸の辺り……そこから突然、青い輝きと共に、かすれた女の人の声が聞こえてきたのだ。俺は思わずホリィから手を離し、後ずさる。
だが、
「――まなお姉さま!」
ホリィはどうやらその声の正体を知っているようだった。
ホリィは叫ぶと同時に首元からシスター服に手を突っ込み、その輝く物体を引きずり出した。
――そこから出てきたのは、ホリィのミニマム~な手にもすっぽり収まるほどの、金色の装飾が施された〝小さな鏡〟だった。
ホリィはそれを手の平に乗せ、未だ輝き続ける鏡の面を上に何やら、ぶつぶつ、呪文のような言葉を唱え始める。
な、何だ!? これは、いったい……!!?
そう俺が思うが早いか――刹那だった。
カッ!
「うわっ!?」
――突然の、閃光!
俺は思わずそれを手で遮り目を閉じた。
その、僅か数秒後のことだった。
『シつれい、致しマシた、リョウ、さま……』
再びの、女の人の声……!!
俺はその声に導かれるようにゆっくりと手をどけ、そして目を開けた。
そこには、