#1,お供は小学生? 1-1
※この作品は【お嬢さまは居候?】の〝番外編〟です。読まれる際は本編の【お嬢さまは居候?】から読んでいただくことを強くお勧めいたします。詳しくは【あらすじ】をご確認ください。また、不定期の更新となります。ご了承ください。
「――ホリィだよ! です」
――保健室。
昨日、不可抗力とはいえ、結の……は…はだ、か……を見てしまい、案の定、朝一からそこに強制送還されてしまった俺の下に、突然、その万歳のポーズをとった金髪ちびっこシスターさんは現れた。
「……えーと、お嬢ちゃんは……誰?」
ベッドから起き上がり、混乱のあまり俺はそう聞いてしまったが……小さい子にこういう聞き方はNGだった。
なぜなら、
「……? ホリィって、言ったよ? です」
……そう。何も解決しないのである。ホリィと名乗る金髪ちびっこシスターさんは、くにゃん、と万歳のポーズのまま、その細い首を大きく傾げてしまった。
むぅ……子どもの扱いは従妹の楓で結構慣れているはずなのに、この俺としたことが、しまったな……。
だが、まぁ……瞳がアクアな色といい、見た目はどう見ても外国人の子どもっぽいけど、どうやら日本語はペラペラなようだし(語尾がちょっとおかしいけど)、これならちゃんと話せば何とかなるかな?
そう思った俺は、えーと、と再び、しかし今度は冷静に、言葉を選んでホリィに聞いた。
「そうかそうか。お嬢ちゃんはホリィっていうのか……えと、じゃあ、どこからきたの? お母さんは?」
「え?」ホリィは首を戻した。――と思ったら今度は腕を組み、何やら、うーんうーん、悩み始める。
そして、数秒後。
「――わかんない! です」
キッパリ、一言……うん、何を聞いても無駄そうだ。
よっこらせ――諦めてベッドから立ち上がった俺は、そんなホリィの目の前に移動し、しゃがんで、ウィンプルとかいうシスター帽越しに一度その小さな頭をなでて話した。
「あ~そっか~、分かんないか~……じゃあ、迷子ってことかな? お兄ちゃんといっしょに、お母さんのこと捜す?」
「え? ホリィはまいごじゃないけど……べつにいいよ? です」
……迷子じゃないけどいいって、つまりはどういうことなのだろう?
……。
……まぁ、いいか。どうせこんな小さい子の言っていることだ。たぶん、本当は迷子なんだけどその自覚がなくて、それで俺に対してそんなふうに答えたのだろう。
よし! と勝手にそう思い込むことにした俺は立ち上がり、ホリィに向かって右手を伸ばした。
「――じゃあ、さっそく捜しに行こうか?」
「うん! です」
ぴょん! とホリィは伸ばした俺の腕に跳びつき、えへへ~、と可愛く笑った。そして、すぐにそのちっこい腕は、俺の腕ごと大きく振り始められる。
「おさんぽ♪ おさんぽ♪ たのしいなぁ~♪ です♪」
……どうやらホリィはこの状況を何か勘違いしているらしい。お母さん捜しのはずがなぜか、いきなり俺との楽しいお散歩の時間になってしまっていた。……いや、お母さんがいないって泣かれるよりは、全然気楽でいいんだけどさ?
……まぁ、いいか。それも気にすることをやめた俺は、振られる腕をそのままに保健室の出口に向かって歩き始めた。
――何はともあれ、ひとまず最初に向かうのは〝職員室〟だ。なぜなら、ここは高校である。飛び級制度がないこの日本という国では、こんなどう見ても小学生な小さな子どもが高校にやってくる理由など、もはや一つしか考えられなかったのだ。
そう、〝親の用事〟である。
この子の親は、学校の関係者で、この子はその親に連れられてここにやってきた。で、親に玄関辺りで良い子に待っているように言われたのだが結局は待っていられず、ウロウロ、しているうちにたまたま保健室に行き着き、そこで俺を発見し、冒頭の「――ホリィだよ! です」に戻ると……ほら。こう考えるともう全てのつじつまが合うことになるじゃないか。唯一気になる点があるとすれば、ホリィの服装……つまりはシスターな衣装のことだが……たぶん、親が〝そういう職業〟についているであろう。神社の神主の娘・楓がそうであるように、ホリィもそれを見習って着させられているに違いない。
……うん。間違いなくそういう経緯だな。そう自信を持って確信を持った俺は、振られ続ける腕をそのままに出口の扉に手をかけた。
――そういえば、俺って保健室に居さえすれば〝生け贄〟扱いだけど……迷子の親探しの場合って、どうなるんだろう?
……なんてことを、考えながら。
ガララ――俺は扉を開けた。
すると、目の前にはいつもの見慣れない、〝中世ヨーロッパ〟を思わせる古めかしい建――
ピシャ――俺は扉を閉めた。
「? どうしたの? です」
いきなり扉を閉めたことに疑問を持ったのだろう。ホリィはそう聞いてきたが、俺は……
「……ん? ああ、いや、うん……まぁその、ちょちょちょ、ちょっと……ね……?」
落ち着け!! ――そう心の中で、有り得ないモノを見てしまった気になっている自分をなだめるのに、精いっぱいだった。
――いいか、俺? ここは学校だ。俺がいつも通っている胎川高校の保健室。ここはヨーロピアンなコーヒーが採れる産地なんかではもちろんないし、現実的に考えて保健室を出たら普通は廊下に出るはずだ。決して外になんか出たりするはずがない。……あ、いや、仮に、最悪大地震とかがあって廊下が分断されて外に出ていたとしても、だ……あんな古めかしい、大きな建造物がこの学校に……いや、そもそもこの日本にはあるはずがない。てゆーか、それならそれで辺り一面ガレキの山になっていてもおかしくはないだろう。それに、あと、それから、えーと……でぃすいずじゃぱにーずはいすくーるおーけー?
……おーけー!!
俺はこの瞬間、さっきのは全て幻覚であると信じることにした。
――いや、だってそうだろう? ジョーシキ的に考えてもみたまえよ? 保健室を出たら、いきなりヨーロピアンよ? そんな、畳をはがしたら別の星、みたいなことが現実に起こり得るわけがないじゃないか。どこのドラちゃんの映画だよ。
ぃよぉーぅし! 考えがまとまった俺はいつの間にか止まっていたホリィの手を引き、再び扉に手をかけた。
――さっきのはたぶん、日頃元・お嬢さまに殺られ続けたせいで俺の脳の歯車が一瞬狂い、前世の記憶か何かを今の俺にフィードバックさせて見せたものに違いない。うん、絶対そうだ。
……なんてことを、考えながら。