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散々な目に遭い、良明さんは再び寝込みました。

「何なんで、これは‼ひどうちゃいまっか?」


 くわっ!


珍しく怒り狂った標野しめのである。


 せっかくだったので、親子の別れる前の僅かなやり取りを遠くで見届けようとスマホで撮影していたとたんの流血騒動。

 しかも、彼女は二度目の乱入である。


 養女に行くことになったとはいえ、実父を目の前で叩かれ血を見た優希ゆうきは泣きじゃくり、主治医が慌てて落ち着かせる薬を処方し、良明よしあきも一応娘の前では落ち着いた様子だったものの、手当ての為に自分の部屋に移ると、


「すみません……先生。参りました……もう疲れて……いけんのです」


と不安感や疲労感を訴え、娘たちと同じ自律神経失調症の可能性ありと診断された。

 過去にうつだったと言うことも本人の申告があったことからも、可能性は強いだろうと言われた。


 前々から眠れない、イライラしてうまくもないタバコを吸い、気管支は元々弱い、血圧は高い家系である。

 タバコを禁煙。そして、不眠を解消させるため睡眠導入剤を処方する。


 頬の手当てをしてもらい、標野に、


「だんだん……本当にすいませんが、わしは寝さして貰うけん……シィさんは娘たちを……」

「それはできんなぁ。ここにおるさかいに、おいはんはおやすみや」

「……すいませんなぁ……」


ホッとため息をつくと、目を閉じる。


「おんなじ……煙草の臭いがするなぁおもとったけど、タバコに逃げたくなるンも仕方ないと思いますわ……良明おいはん。ほんによう頑張らしましたな……」


 標野の煙草は、本当はちょっとした逃避。

 自分の将来への不安である。

 28にもなって、今更だが、自分はここにいていいのだろうか、と言う不安感である。

 双子の兄は伝統菓子を作るのに、本当は不器用なのに、黙々と毎日努力を続ける。


 飽きると言う言葉はないのか?

 諦めると言うことを考えないのか?


 自分は出来る分だけする。

 出来ないならしないし、思いついて別のものを作ってみる。


 だが、紫野むらさきのは、とことんまで、向き合い、作り上げていくのだ。


「あてはできしまへんなぁ……でも、あても、考えなあかんのかもしれん……」


 逃げない……。

 目を背けない……。

 そして……。


「あては独立せなあきまへんのや……て、豪語しとった。優希ちゃんや良明おいはん見てたら……あての方がまだひよっこやがな……京都に帰ったら、おとうはんから一から修業や……」


と誓うのだった。




「大丈夫か‼」


 醍醐だいごと共に嵯峨さがと手続きをしていた賢樹さかきが、電話で慌てて駆けつけた。

 優希は眠っているが、竜樹たつきはしくしく実里みのりに抱き締められて泣いており、紅葉もみじも颯爽とした美少年に慰められている。


「おとうはん……。うえぇぇ」

「はいはい。大丈夫だよ」

「大丈夫ですか‼ん?」


 嵯峨は目を止める。


「もしかして、知事のお孫さん?」

「はい、幼馴染みの柳沢翡翠やなぎさわひすいともうします」

「あ、私は、弁護士の大原嵯峨おおはらさがです。よろしくお願いいたします」

「あぁ。お疲れ様です。優希たちをよろしくお願いいたします」


 翡翠は頭を下げる。


「それでいいんですか?幼馴染みの……」

「優希が泣くんはみたないんです。小さい頃は快活で、好奇心旺盛で、二人で真っ黒になる位外で遊び回りました。……でも、だんだん、手伝いがある……。買い物に行く……。それに、よう『お兄ちゃんに図書カード取り上げられた。ふあぁぁぁん‼』と、頬を赤くして泣きながら家に来てました。でもすぐに連れ戻しに来て、頬を腫らして俯いて……」


 唇を噛む。


「家の祖父と、優希たちの祖父が友人なんです。優希の祖父は、きっぷのいい、気前のいい豪快なじいちゃんでした。年越しの金は持たないとよく言いますが、そんな人でした。他の人から見れば優しい、気軽に飲みに行こうと誘い、別れるときには小遣いやと金を渡す……裏では優希たちが古着でも、表では金をばらまく、そんなじいちゃんでした。好きで……嫌いでした。優希はボロボロの服……うちはこの身長で可愛くないから、母に泣かれていたので、優希にあげたら、おばさんは古着屋に売ったそうです。それで時々、父や母が隠れてお小遣いを。『翠ちゃんのお父さんに貰えません‼』って断ったそうです。ですので、『遠足のお菓子代にしなさい』って。……泣いてました」

「……」

「少しでも……優希の為に、竜樹やおじさんの為に、お願いいたします。何なら、優希のじいちゃんの行動を増長させた祖父を訴えていいです」

「はぁぁ‼」


 翡翠の言葉に呆気に取られる。


「祖父は、優希のじいちゃんにお金をたかってたんです。政治資金に飲み会、パーティ。優希のじいちゃんが死んだあとの借金は、優希のじいちゃんと家の祖父やそれに群がる人間の作ったもんです。それを増やしてるんは、優希のばあちゃんやおばさんたちです。家の祖父たちから、今まで苦労した優希のお父さんに優希に取り返してください」

「でも、証拠は……」


 袋を持ち上げ、差し出す。


「優希のじいちゃんが払って、家の祖父が政治資金として提出した書類と領収書です。祖父のサインと優希の死んだじいちゃんのサインがあります。筆跡鑑定できます」

「……わかりました。確かにお預かりします。でも、よろしいんですか?」

「……優希に竜樹に負い目がありました。申し訳なくて……でも言えずに……優希がこんなになってしまった……私を、こんなにずるい私に、二人は普通に接してくれて……。決心したんです。私も家ではなくて、優希たちを選びたいと……」


 俯く。


「優希に会わせる顔がなかった。でも会いたかった……でも、謝れなくて……」


 ポタポタと落ちる涙。


「優希たちを……よろしくお願いいたします。うちは大丈夫です。よろしくお願いいたします……おじさんにも会わせる顔がありません。ただ。謝罪しかできないんです」

「翡翠はん……翡翠はんはわるぅない。優希が悲しみますえ?」

「優希のお母さん……」

「悪いんはおじいはんや。翡翠はんが気に病むことやあらしまへん!大丈夫や。あての娘はええこやさかい。翡翠はんは知ってますやろ?」


 紅葉に微笑む。


「ありがとうございます。優希たちのお母さん。私は大学を県外にと思ってます。京都の大学に通ったら、時々遊びに行っても構いませんか?」

「当たり前やわ。いややわぁ。何時でもかましまへんえ?」

「ありがとうございます……」


 頭を下げて、ふと思い出す。


「優希のお母さん。明日はブルームーンだそうです。誰かと一緒に見ると幸せになれるそうですよ」

「ブルームーン?」

「はい。これは、母方の叔父に教わったんです。天文学者なのですが、とてもロマンチストで」

「青い月?」


 実里に、


「違うわ‼と言うか、地震の前に赤い月を見たって人もおるらしい。特に阪神淡路大震災の時には、何人も見たんだと。予兆があるんだ。ブルームーンも、火山ガスや煙がもやになって起こる現象がある。でも、明日のブルームーンは数年に一度の満月なんだ」

「テレビでは言ってなかったんだけど……」

「それは知らん。だけどおじさんが言うには、昔は月の満ち欠けと暦が一緒で太陰暦だった。でも、それだと地球の自転とずれていき閏月や閏年が出来る。で、太陽暦……グレゴリウス暦が採用された。でも、4年に一回2月29日がある」


翡翠の言葉に感心する。


「で、月の満ちかけは約30日。太陰暦は約360日で、その時点で5日のずれ、単純計算で行くと、6年程に一回、一年に満月の数が13回ある年が出来る。で、これはおじさんが教えてくれたが『二分二至にぶんにし』と呼ぶのだと思う。『春分しゅんぶん』『夏至げし』『秋分しゅうぶん』『冬至とうじ』。それぞれの初日から、次の日の前日までがその季節。で、その約3ヶ月の中に3回満月が見られるが、数年に一度、4回見られる時の3番目の月を『ブルームーン』と言うんだ。で、それが明日。滅多に来ないし、特別って言う意味だ。」

「何てロマンチックやろか……」


 うっとり……


と紅葉が微笑む。


「だんはんが聞いたら、喜びますわ……あぁ、櫻子さくらこはんにも伝えとかな‼」

「竜樹?」


 何かを隠したような笑みで、幼馴染みを見る。


「竜樹はうちとみるよね?」

「な、なな、なにいよんで‼」


 実里は叫ぶ。


 何となく、こいつにだけは負けたくない‼


 すると、


「駄目だよ~?翠ちゃん。彼氏泣いちゃうよ~?」

「あれより、優希と竜樹の方に愛はある‼」

「あははは……彼氏さん可哀想」


笑い声に、ようやく力の抜けた面々だった。

ブルームーンは、一季節(二分二至……春分、夏至、秋分、冬至)に区切られた3ヶ月間に4回満月がある日の3番目の月。

ブルームーンを一緒に見ると幸せになるとも言われる。

19世紀半ばに『once in a blue moon』は『極めてまれなこと』『決してあり得ないこと』という慣用句になった。

『blue moon』は『特別なこと』を指すようになった。


月の満ち欠けはは平均29.530585日が周期、グレゴリオ暦の一月の長さは平均30.436875日、最大31日。


毎月の月の名前はゲルマン民族や英語でつけられていて、こちらはネットでお調べくださいませm(__)m

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