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新しい両親は、穏やかな人です。

 紅葉もみじは、妹の竜樹たつきを見て微笑む。


「竜樹ちゃんは、何色が好き?」

「えっと……お姉ちゃんはピンクを選んでくれるんです……でも、ブルーとか緑色が好きです」

「あら、桜色もかいらしいけど空色も似合いますえ」

「お姉ちゃんはピンク大好きなんです。それに、タンポポとかの色が好きって」

「あらあらまぁまぁ……優希ちゃんには、ようにあいますわ……」


 ころころと笑いながら、


「家にはべべが……あぁ、着物が仰山ありますよって……いややろか?あてや、醍醐だいごはんのおかあはん……櫻子さくらこはんの着てはったのがありますのや……古いさかいに……」

「えっ?べべ……着物ですか?着てみたいです‼あの、あの、着たことがなくって、お行儀が大丈夫か……解らないです……」

「えっ?着たことない‼ばあちゃんは、優希と竜樹に着物を仕立てるようにって……お雛さんは‼4月まで飾らんかったんか?」


タツエは愕然とする。


「う、うん。それに、お雛さんって何?他の幼馴染みのみどりちゃんのお家に、こーんなの」


 大きな箱を示し、


「ガラス張りの中に雛人形がおった。そんなの?お姉ちゃんが大好きだった藤娘も捨てられたなぁ……」

「向こうの家が、誠一郎せいいちろうのことばかり‼うちは優希が生まれた時に『女やけんいらん』って言う向こうの家に、八段飾りの立派なもんを……優希や、次に生まれた竜樹にもと思たのに……」


泣き崩れる。


「あ、おばあちゃん。机ありがとう。ランドセルも大事につかっとったんよ。それにね、お姉ちゃんが教えてくれたんよ。おばあちゃんや隠居のばあちゃんにもらったお年玉やおこづかいを隠す方法‼他のは全部貯金するって言うお母さんに渡したの」

「そんな事……夏休みや、正月に会うだけやのに……」

「えっと、お姉ちゃんが金券ショップで葉書とか切手を買うの。でね、お釣りと残りは隠しておいて、お姉ちゃんが懸賞で、図書券とか映画のチケットとか当ててくれるの。半分こするの。でね?この間、醍醐さんたちに会ったのはね、美術館のペアチケットを当てたんだよ‼でね、二人で行こうと思ったら、お姉ちゃん先輩にデート誘ってもらったの‼でね、私もつれていっていいですかって。4人で行ったんだよ‼」


 目をキラキラさせる。


「四人?」

「うん‼お姉ちゃん、この間告白されたの‼守谷もりや先輩‼それと、先輩のお友達でお姉ちゃんと読書友達の菊池先輩。菊池の姓は『地』じゃなくて『池』だったの‼」

「え?」


 タツエも紅葉も、賢樹さかき標野しめのも呆気に取られる。


「あのね。おばあちゃん。お姉ちゃんが教えてくれたの。平安時代末期の源平合戦げんぺいがっせんのあったと言われている時代にね?壇之浦だんのうらの戦いがあって、源氏が平家を滅ぼした戦いで、二位にいの尼、平清盛たいらのきよもりの奥さんが、孫の安徳天皇あんとくてんのうを抱いて海に身を投げて、建礼門院けんれいもんいんって後で、出家してそう呼ばれる、母親の平徳子たいらのとくこが救われたって歴史にあるんだよ。けれど、実はその前に、天皇は九州の菊池家の子供と入れ替わっていて、天皇は菊池家の子供として一生を終えたって説があってね。それに聖徳太子しょうとくたいしは二人いたって説もあるって‼」


 全部、お姉ちゃんが教えてくれたんだよ‼


 嬉しそうに報告する竜樹に、高校を卒業したが、歴史などほぼ興味なしだった標野は?マーク。

 しかし、賢樹は、


「へぇ~。優希は、賢いね。竜樹に教えるなんて」

「えへへ。でもね。お姉ちゃんは戦国時代と幕末から後は駄目なの。これ、おばあちゃんが持ってきてくれたの‼」


姉の枕元から一冊の本を持ってくる。

『源氏物語』の訳本。

 小学校高学年のための本……古びたその本は、色褪せ、何度も読み返したあとがある。

 手に取り、ペラペラとめくる。

 本には細かく書き込みがしてあり、


『『十二単じゅうにひとえ』……日本の女性の装束であるが、略称であり、正式には、ひとえという下着に五衣いつつぎぬ唐衣からごろもと着せかける。

 そして季節によって、襟元の色を変えて、当時の花の名前や、季節の名前をつけてそれを身に纏うことで、美しさ、風流さを競った。

 しかし、現在は美しいと言っていられるが、正式な正装であり略称の十二単と言うように枚数を重ねる。

 その上当時は髪を、身長よりも長く伸ばした。

 その為に、重みで気絶する姫も多かった。

 走ることなどもっての他である。


 現在の着物は単に、昔の表衣を纏い、帯を締めたものではあるが、痩せていると見映えはせず、成人式などで着るときには、バスタオルやタオルで形を作り、締める‼

 痩せた女性では聞いたところではバスタオル5枚に、ハンドタオル二枚を巻き付け、エイヤっと締める。

 逆にグラマーな女性でも、着物は帯がきれいに見えないと、胸を締めつけ、ウエストにタオルを巻き付けてである。


 でも、襟の色であわせるのは素敵。』

紫式部むらさきしきぶは漢学者、藤原為時ふじわらのためときの娘。夫は宣孝のぶたか。娘は百人一首に入っている大弐三位だいにのさんみ


 漢字で書いているが、たどたどしい。


「これは、優希がいつの頃に……?」

「確か、幼稚園の年長でした」


 タツエの言葉に呆気に取られる。

 横から標野も覗き込み、


「ちょおおまちぃや。これを、あの子が幼稚園で?」

「はい。夏に家に遊びに来たんです。で、帰ったあとに残ってまして、こんなに書くとは思えませんでしたし、他の娘や息子の子供たちには聞いたんです。上の年の子供に。皆は首を振って。小学生の誠一郎せいいちろうは、この本を読むような子ではありませんでしたし……幼稚園のこが、ここまでとは思わんかったんです」


タツエは孫を見る。

 そして振り返り、祈るように、


「お願いいたします‼どうか、この子をお願いいたします‼息子は嘆きますが、上の子はこの子をここに残しても、辛い思いをするんはこの子や言うて……。この子も竜樹も、息子も悪ぅないんです……悪いんは、結婚を反対しきれんかった……それからも、何度も言うことができたのに、聞けんかった、私が悪い……私が……」

「おばあちゃん。そんな事言うたら、お姉ちゃんは悲しむよ?」

「竜樹……」

「おばあちゃん大好きやのにって。言うよ?」


竜樹はにっこり笑う。


「うちねぇ、おばあちゃんの孫で良かったんよ?嬉しいよ。大好き‼」

「竜樹……だんだんなぁ……だんだん」



 賢樹は、祖母と孫……今度正式に娘となる竜樹の姿に、涙ぐむ妻の手を優しく握り、隣にいた標野に一言二言囁いた。

 はっとした顔になった標野は、にっと、


「了解しました。おいはん。心込めてさせてもらいますわ」


とつげ、部屋を出ていったのだった。

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