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優希は新しい両親に会いました。

 しばらくして落ち着いた優希ゆうきは、薬が効いてくる前に、ぼんやりと視線をさ迷わせる。

 すると、竜樹たつきがそっと声をかける。


 あの日から、竜樹は優希を『お姉ちゃん』と呼ばなくなった。

 姉を卑下しているのではなく、その言葉に縛られている姉の苦しみを知ったのだ。

 自分が一言、そう呼ぶことで、優希は昔の役柄を必死に演じようとするのだと、聞かされたのだ。


「お、ゆうちゃん。お客さんだよ?京都から、醍醐だいごさんの伯父さんだって」


 着物姿の穏やかな男は、微笑む。


「初めまして。私は賀茂賢樹かもさかきといいます。妻の紅葉もみじです。大丈夫?」

「は、はい……ご、ご挨拶……ご、ご迷惑を……」

「良いのだよ?おやすみ。それに、かずきは、いい子で賢い子だね?ここに来る前に会ったけれど、ゆーちゃんって、ゆーちゃんどこ?って言っているらしいよ」

「かずき……」


 優希はホッとしたように、目をぱちぱちさせつつ、


「あ、私は、優希です……よろしくお願いいたします」

「無理しないようにね?さぁ、おやすみなさい」

「はい……ありがとうございます」


テディベアを抱き、すやすやと眠りにつく。


「……優希ちゃんと竜樹ちゃんのおばあさんですか?」

「わざわざ遠いところから、本当に……本当に申し訳ございません。私は、守田もりたタツエと申します。二人の祖母です……本当に……」

「大丈夫ですか?座られてください」

「はい、おいはん、おばはん。パイプ椅子」


 標野しめのがてきぱきと動く。


「あぁ、ありがとう。口と同じくらい手も動けるのは羨ましいね」

「おいはん……いやみやなぁ。そやさかい、あてはおいはんと正直、気が合わんのや」

「おやおや。誉め言葉としてうけとりまひょか……。シィは、性格はさくらによぉにてはるさかいに」

「あてはおとうはんに似とります‼」

「いや、嵐山らんざんはんにはにとらへん」




 嵐山と賢樹は同じ高校の一つ違いの先輩後輩、その一つ下が嵐山の妻で賢樹の妹の櫻子さくらこである。

 櫻子は『賀茂の祭(葵祭)』の斎王代さいおうだいに選ばれた、京都では『べっぴんはん』と呼ばれる程の美人で、賢樹も整った顔のおじさまである。

 そして嵐山は物静かな……いかつく見えるがなかなかの美丈夫で、長男の紫野むらさきのは父親のいいところを全部引き継いだ温厚な性格。

 逆に、一卵性である為見た目はそっくりだが、騒々しい、問題を引き起こすことにかけては天才的な才能を持っている標野。

 8才下の醍醐は醍醐でそんな正反対の双子の兄を見て育っている為か、母親の賀茂家の血を引いてしまったせいかしたたかで、表向きはニッコリと微笑む好青年だが、裏では策略を巡らすのにたけている。

 その為、醍醐ならと養子にと頼もうと思っていたのだが、キャンキャンとかんしゃくを起こす妹よりも、口数少なく、


「離れて生まれた末っ子や……もう少し大きゅうなってから……」


とボソボソ呟いた嵐山の寂しげな瞳にほだされた。




 しかし、醍醐は成長していくと、広い世界を知りたがるようになった。

 これでは、醍醐は跡取りの枠には収まりきれない。

 その為、諦めたのである。


 家も分家、それに今更子育てもと、妻とのんびり暮らそうかと話していた矢先、醍醐から標野に連絡があり、早朝、仕事を休んでやって来たのだった。




「おいはん。女の子引き取りはらへんか?」


 黙々と賢樹の朝の日課の掃除を終えるのを待っていた標野の一言に、夫婦は、


「シィ‼何かしはったんか‼も、もしかして、未成年に……‼」

「あきまへんえ?あの櫻子はんが、衣まくりあげて……」

「おいはんはともかく、紅葉おばはん、ひどうないやろか?」


28になるのだが、年相応の兄とは違い、少年のようにすねて見せる。


「違いますよって‼今日の真夜中に、醍ちゃんから電話がかかってきたんどす‼」

「醍醐は知略はめぐっても、そう言う方には興味をしめすようなこやないなぁ……」

「醍醐はんから、どんな?」

「……あての立ち位置がようわかりましたわ……ひどいわぁ。まぁ、それはあとにして、醍ちゃんが向こうで、可愛い4人の中学生のぼんやべっぴんはんたちにおうたていっとったんどす。で、べっぴんはんは姉妹で、曽我部優希そがべゆうきちゃん、竜樹たつきちゃんって言うそうや」


 甥を見る。


「姉妹のおひいさんを、醍醐が何で……」

「それがな……あ、ちょっと」


 今時のスマホの着信音に、標野がとると、


「はぁ?ちょおまちい。今、おいはんの家に来て話よるさかいに……あぁ?……ええわ。おいはん」


スマホを差し出す。


「大原はんとこの嵯峨さが


 受けとり、返事を返す。


「はい、大原はんで?」

「お久し振りです。すみません。仕事中で、この口調になっております。賀茂のおいはん」


 嵯峨は、甥の双子の同級生であり、京都の名家の息子である。

 整った瓜二つの双子とひけをとらぬ端正な少年で、大学に進学し、現役で弁護士試験に合格し、現在全国でも知られた弁護士になっている。


「かめへんよ。で、仕事と言うのは、シィがいうてたことやろか?」

「はい。実は、話は長くなるのではしょりますが、姉妹が学校で苛めにあっているんです。それと、姉妹を……特にお姉さんの優希ちゃんを言葉や手が出る暴力、性別、年齢による差別……つまり、女の子で長女だから、『お姉ちゃんだから、我慢しなさい』『お姉ちゃんだから、言うことを聞きなさい』『お姉ちゃんだから……』と、服は年子のお兄さんの古着、勉強が好きで頑張り屋の子ですが、高校に進学するな。働け。と、料理に掃除をさせられているとか。時間が空いたら図書館に行って読書をと言うと、兄に図書カードを捨てられたり、可愛がっている愛犬を虐待して、電話を掛けて脅すのだとか」

「……はぁ⁉嵯峨。その、優希ちゃんと言うのは中学生で、おにいはんも年子や言うたら、中学生か高校生か……」

「高校生です。実は、優希ちゃんのペットの犬は、醍醐の後輩のお父さんの動物病院で大手術を。そのまま放置したら死んでいたそうです。内臓ボロボロ、頭蓋骨骨折で」

「……そないな……」


 首を振る。


 昔から犬は人に寄り添い、人に従い、人は犬を飼うことにより、家を守ってもらったり、狩りに行った時に猟を助けてもらう、共存共栄の関係である。

 それが、崩れている……狂っていると言うのか……。


「それで、醍醐が知り合ったその子達を助けてくれないかと、前に縁のあった一条くん夫婦にも頼まれて、伺って見たのですが、状況は芳しくなく……その上、優希ちゃんはまだ中学生なのに自律神経失調症と、軽いうつです。親族にとも思い、お父さんのご家族に相談したのですが、多分、ここにいては治らないと」

「病の子を……」

「いえ‼本当に賢い子なんです‼醍醐が舌を巻く程の賢い子です。倒れても、自分が虐待されているのに愛犬や妹さんを思い、お父さんの体を心配する……優しい子なんです。それに、変わったことを言う子だと思ったと醍醐は言ったのですが、『京都に行きたい。ただすの森か、一条戻り橋に住みたい』と言っていたそうです。多分、本当に心が疲れていて、休みたいと訴えたかったんだと思います……」

「……」

「お願いします‼家は……本当は私が妹として引き取ろうと思いましたが、私は父と……ですので、お願いします。おいはんが頼みです‼小さく、優しい存在を、守ってあげてください。お願いします‼」


 賢樹は妻をちらっと見る。

 ニコッと笑う妻に、目を細め、


「……かめへんよ。あてらも、落ち着き次第、迎えに行くよってに、その前にシィをそっちに」

「……気持ちとしては、さきの方がええんですが……」

「あははは‼ほな、手続きについては、お手数やけど……お金は……」

「シィのスポーツカーをうっぱらいますよって、安心してください。あ、すみません。優希ちゃんのおばあちゃんを案内してますので、失礼します。また改めて……」

「行ってからやなぁ……ほな、娘をよろしゅうおたのもうします」


祭の片付けやその後の調整をして、夫婦で訪れ、病室で出迎えたのは、色白の愛らしい少女。


 この子が?


と思ったものの、


「曽我部竜樹です。よろしくお願いいたします」


とはにかむように頭を下げた。


 しっかりとしていると言うよりも、親の後ろに隠れている印象がある。

 では……と、ベッドに近づくと、妹よりも華奢で、顔色が悪く、疲労の色が濃い少女。

 かなり病が重いのかと思ったが、瞳を開けると、くりくりっとした大きな瞳の可愛い顔立ちに、くるくると纏まらない髪の毛は栗色で小動物のようである。

 挨拶をきちんとしなければと、必死になっているが、当然、現在のショックなことが原因で手足には点滴をしていて、その為に、目をぱちぱちとさせていたが、くぅぅ……と眠ってしまった。

 ぬいぐるみを抱き眠る姿は中学生には見えない。




 賢樹は、視線を移した。

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