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手術は無事に成功しました。

 麻酔をして、開腹手術をした動物病院の院長とスタッフは顔色を変える。

 内臓に数か所外部からによる裂傷……傷が裂け血が流れている。

 頭部も危険だと安部朔夜あべさくやは、


「一人、内臓縫合。助手。一人、口から送り込む麻酔、呼吸に変化はないか確認。私は頭部を」

「はい‼」


朔夜は、名医と知られているが、小さい頃からペットと共に生きてきた経験からである。

 留学経験もあり、本当は外国の動物保護区や動物園で獣医も考えた。

 いやしばらく、長男の一平いっぺいは大きく、覚えているが、他県の動物園で獣医をしていた。

 しかし、今の時代のペットとその飼い主の関係に疑問を抱き、そして、かずきのようなペットが命を落とすと言う論文、そして獣医仲間からのペットの虐待、ペットに躾を出来ない飼い主に縦横無尽に暴走するペット、それでいて、


「自分達の言うことを聞かない」

「噛む」

「子供の頃はかわいかったけど……」

「手に負えない」

「吠える」


という身勝手な理由で、保健所に連れていくと言うことを知り、故郷に戻り獣医としての経験とペットと飼い主の……特に飼い主の意識改革、その上で、ペットとのコミュニケーションの取り方を教える活動を始めたのである。

 これは町のドッグトレーナーやブリーダー、ペットショップ、市の動物愛護センターやNPO団体との連係もあったが、少しは成果があるように思ったのに……。


 一瞬悔やむように唇を噛むが、表情も視線も変えず、手術に専念する。




 4時間……先に縫合した腹部の状態をカルテに書き写していた若手の獣医と、骨折していた足の骨をギプスを巻き終えたもう一人の獣医は、ホッとする。


「良かった……今度こそもうダメかと思った」

「足の骨は、ヒビだけど……しばらく歩けないな……まぁ、この怪我だから……」


 かずきが運ばれたのは今日が始めてではない。

 もうすでに2度、他の病院で手に負えないと転院してきたのだ。

 二人の青年医師には、童顔の少女が、


「ごめんなさい‼かずき、かずき……ごめんね‼お姉ちゃんが、お姉ちゃんが……」


泣きじゃくりながらすがり付く。

 薄く目を開けた『かずき』は、ぐしゃぐしゃの少女の頬をぺろんと舐めていたのだ。

 少女に心を許している……そう思い、元気になって送り出したのに……。


「あの子……じゃないよな?」

「あの子じゃないだろ」

「静かに‼」


 朔夜が鋭く告げる。

 繊細な作業に、このかずきの体力がもつか、自分の技術がうまくいくかの瀬戸際とも言える。

 慎重にすすめ、縫合を終えると、ホッとし、


「……急変することもほぼない。安心しなさい」

「良かった」

「点滴」

「はい‼」


元々短い毛の犬だが、バリカンであちこち刈られ、包帯姿も可哀想である。

 しかし、


「エリザベスカラーを」

「はい」

「それと、ゲージに」


指示をして、スタッフは処置室の片付けと掃除を始める。


「先生。お疲れ様でした。後は私たちが」

「いや、君たちにも残業を……」

「いいえ、このかずきくんのように酷い目をあった子を助けられる……それだけでも違いますよ。心構えが。それに私は夜勤ですから大丈夫ですよ。何かありましたら、内線連絡します

「……ありがとう。ではよろしく頼むよ」


 他のスタッフにも労いと残業をしているものには帰るように伝えると、自宅に戻る。




「父さん、お疲れ様」


 リビングで母であり朔夜の妻のせとかと待っていた祐也ゆうやが声をかける。


「せとかも祐也も、先に寝ていて良かったのに」

「母さんには言ったんだよ?明日、兄貴やくれないのお弁当や、朝食もあるのに……って」

「あれ?穐斗あきとくんもいたのかい?」

「実家に弁慶べんけい義経よしつねって言う元猟犬がいて、心配だって」


 ソファで、すやすやと気持ち良さそうに眠っている少年。

 眼鏡をはずしているのはわかるが、前髪を娘達の可愛い髪飾りで持ち上げたのはせとかだろうと目星がつくが、普段のモサッとした少年が、どうして娘たちよりも可愛いのだろう。


「フミュ……」


 握りこぶしで目を擦るが、そのまま小さくあくびをして、


「すぷぅぅ……くぅぅ……」


と寝入ってしまう。

 その寝息も、子犬か子供である。


「可愛い~‼ゆうちゃん、あきちゃんをお嫁さんに貰って~‼」

「いや、穐斗、男だし、それに一人息子だから跡取りだって」

「えぇぇ~‼」

「せとか?無理難題言わない。祐也も、せとかのわがままをなんでも聞かないんだよ」


 朔夜はため息をつく。

 せとかは祐也が可愛い。

 他の子供たちもなんだかんだ言いながら可愛がるのだが、特に祐也には無条件に可愛がる。


 いや、祐也は、ひいきをされているわけではなく、祐也は朔夜とせとかの実子ではない。

 朔夜の妹のめぐみの息子である。

 しかし、いろいろ問題があって、朔夜夫婦が養子に迎えたのだ。

 人見知りと、人に恐ろしさを感じていた息子を時間をかけ心を癒したのだ。


「父さん……」

「かずきは、脳内出血、内臓は破裂まではないけれど、裂けていたので傷を全て縫って、脳は、酷い損傷はないと思うけれど、頭蓋骨骨折、肋骨骨折、足も、ひびではあるけれど二本折れてたね。全治何ヵ月かな……」

「やっぱり……」


 苦しげに呟く。


「あ、そうだわ。あなた。さき、醍醐だいごくんと主李かずいくんと一緒に、この方が来たのよ」


 せとかが名刺を差し出す。


「弁護士……大原嵯峨おおはらさがさん?」

「あ、父さん。醍醐先輩のお兄さんの同級生で、幼馴染って言ってた。何か、すぅ先輩やひな先輩もお世話になったって言ってたよ?」

「ふーん……」


 裏をめくると、カチカチとした小さい文字で、


『飼い主の優希ちゃん姉妹は虐待を受けている可能性があり、保護する手続きをするつもりです。かずきくんのカルテももしよろしければ、資料として提出いたします。出来れば二人とかずきくんのためによろしくお願いいたします』


と書かれていた。


「ここまで丁寧にかかれるとはね……若い辣腕弁護士って有名なのに」


 呟く。


 大原嵯峨は有名である。

 しかし、悪徳ではなく、見た目は冷静沈着、実家も京都の名家の家柄だが、報酬度外視の熱血な弁護士。

 でも、テレビに関わることはしない。


「大丈夫かな……」

「かずきと優希ちゃんが幸せになるようにしたいものだね」


 すると、病院からの内線が鳴る。

 受話器をとると、


『院長。実は……』

「なんだい?」

『実は、かずきくんの飼い主の曽我部そがべさんが……』

「優希ちゃんかい?」

『いえ、お父様です』

「解った。こちらに回ってもらおう」


受話器をおき、


「祐也。夜分で申し訳ないけれど、この大原さんに電話をして来てもらってくれるか、聞いてくれないかな?」

「はい‼」

「あなた。大丈夫?」

「喧嘩しても、かずきの為に何かできると思うよ」




 決戦の時が来る。

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