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ニュクスの海に溺れて  作者: なつ
第一章 ユイ
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 ミステリー小説「ピーチスノウ 花残り雪」シリーズの笠倉岬側の最初の事件です。事件の時間的には「ラプラスの悪魔が囁く」よりも少し後の出来事ですが、書いた時期的にはかなり前です。「ラプラスの悪魔が囁く」は読まなくても現時点で共通する登場人物は警察くらいです。「推理」に分類してますが、それほどミステリ要素は強くありませんので、ご了承ください。もう少し詳しく活動報告に書いておきます。

 R-15に分類してます。精一杯セクシーにしましたが、この最初のページが一番クライマックスです。

 ユウキの体がぎこちなく動く。わたしはそんなユウキが愛おしい。あまりにも愛おしくて、壊してしまいたくなる衝動がこみ上げてくる。

 不安そうな顔をするなよ、

 ユウキの唇が動く。

 そんなんじゃないよ、

 わたしは答える。答えるけれど意味はない。ユウキの腕がわたしの体を包み込む。ぎこちなく、愛おしく。

 わたしはユウキの瞳を見た。緊張しているのだろう、かすかに震えている。

 それに、今日はこんなことのために来たんじゃない、

 知ってる、

 そう答えながら、ユウキの動きは止まらない。だからわたしも、それに応じる。キスをして、ユウキの首に絡みつく。このままきつく締めて、壊してしまいたい。

 ユイ、苦しい、

 わたしはユウキを無理やり押し倒すと、上に乗った。わたしの腕はまっすぐ伸び、手はユウキの首を絞める。

 苦しいよ、

 このまま一緒に落ちよう、

 ああ、なんて気持ち悪いセリフが口から出てしまうんだろう。けれど、快楽には逆らうことなどできないんだ。

 ユウキが動く。

 わたしも動く。

 この体が、すべて壊れてしまえばいいんだ。それこそが、わたしが望む絶頂。ユウキの唇が、わずかに揺れる。それを奪う。これがわたしのものだ。愛おしい。

 ああ、

 ああ。


 寝息が聞こえる。わたしもどうやら寝ていたようだ。ちらとユウキを見る。ユウキの線は細い。わたしとは正反対だ。羨ましい。だから壊してしまいたくなる。わたしはユウキの体が限りなく好きだ。けれど、どれだけ望もうとも、壊すことができない。わたしの力では無理なのかもしれない。イキたいのにイケない。それでもいい。

 わたしを受け入れてくれたのがユウキだけだったから。

 寝息が止まった。見ると、ユウキの目がうっすらと開いている。

「ごめんね」

 わたしは囁くように言った。ユウキは答えない。

「いつも、ごめんね」

 一瞬だけわたしを見ると、ユウキは笑った。笑ってないかもしれない、わたしには笑っているように見えた。それで充分だ。

「ユイだから」

「ユウキだから」

 わたしも答える。ユウキがいなかったら、わたしもいなかった。

「何があった?」

「うん」

「うん、じゃない。何があった?」

「失敗した、それだけ」

 しばらく沈黙が続いた。何となく怖かったから、わたしはユウキの頬にキスをした。

「ボクのせい?」

 ユウキは、わたしの唇に触れてから言った。

「ユウキとは関係のないこと」

「そうだね」

「わたしとユウキの間には、これ以上もこれ以下もない」

 ユウキの唇を奪う。舌を奪う。ユウキも応じる。


 日が昇る。

 それでもまだ時間は残っていたので。ユウキと三回交わった。三回とも壊すことができなかった。だからわたしは物足りない。

「何時から?」

「まだシャワー浴びる時間がある」

「ボクは今日休もうかな」

 わたしは立ち上がると、バスルームに向かった。蛇口をひねると、冷水が頭から降ってきた。胸が縮む。

 ユウキはまだ学生らしい。わたしよりも歳が上なのに学生ということは、院にでも行ってるのだろうか。あるいは留年を繰り返しているのかもしれない。どちらでもいい。ただ、時間が余っているだけ。その時間は安いものだ。

 ユウキの本心は分からない。関係があっても分からない。わたしには分からない。

 わたしが部屋に戻ると、ユウキはもう服を着ていた。ポロシャツにジーンズ。シンプルすぎる。お金は持っているのだから、もう少しおしゃれをすればいいのに。わたしがコーディネートすれば三倍は魅力的になるだろう。それはそれで困るけれど。

「学校?」

「家にいてもすることないし」

「そう。はい、これ」

 わたしは自分の鞄から財布を出すと、お札を二枚ユウキに渡した。

「もうこれ、いらないんだけど」

「ダメ。死にたいの?」

 ユウキは理解できなかったようだ。

「次はいつ会える?」

「営業?」

「違う」

「お金が入るの来週だから、その週末でいい?」

「今週末は?」

「きびしいから」

「サービスということで」

「死にたいの?」

「ユイになら、殺されてもいい」

 わたしはユウキにキスをする。


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