婚約破棄を宣言されたので言ってやったーー「だが、断る!!」
海堂兄弟は2人とも色々拗れてる感が好きです。
放課後のカフェテリア。
賑やかな喧騒が、ザワザワとしたものに変わった事に気付いた。
書類に目を通す為、下を向いていた俺の視界に、体の横で握り拳を震わせている女生徒のスカートが映る。
「た、隆文さん!も、もう、私との婚約は解消じで下ざい!!」
俺の婚約者、結城 沙織が、大声で俺に宣言した。
俺の名前は海堂 隆文。白鳳高校の三年生で生徒会長をしている。
白鳳高校は良家の子女が通う有名私立高校で、小・中・高・大学まである一貫教育の学校だ。
俺の家は海堂グループと言う財閥系の家庭で、俺はそこの次男だ。
俺には、10才年上の兄がいるのだが、いろいろな事情で兄の結婚と子供は望めない。その為、俺には5年前、婚約者が用意された。
相手は、2才年下の幼馴染で(株)YUUKIの末娘、結城沙織だ。
幼児の頃から可愛がっていた沙織が相手なら婚約を受ける、と俺が条件を出した為に決まった婚約だった。
俺たちは子供の頃からとても仲が良かったので、向こうの両親もとても喜んでくれた。
俺が大学を卒業したら直ぐに結婚する予定だ。
予定が早くなっても構わないとも言われている。
沙織はとても美人なんだが、母親似のキツイ顔立ちをしており、「お高くとまっている」と良く誤解される。
しかし、本当は小心者で鈍臭い可愛いヤツなんだ。
身長163cm、体重は推定47kgーー最近また痩せたんじゃ無いかと思うーー肩より少し長めの髪の先はふんわりゆるく巻かれていて、躾が厳しい家庭だった為、いつも姿勢の良い立ち姿は隙のないお嬢様に見える。
その見た目のせいで、誤解を受け問題を起こす事が多々あるのだが、誤解を解く為に俺が動いてやった事は一度も無い。
まあ、問題の方は解決させるけどね。
沙織の可愛さは俺が理解していれば良いのであって、本質を見る事も出気無いようなヤツらに、わざわざ教える必要は無いと思っているからな。
俺も、「何考えてるのか解らなくて怖い」と良く家族から言われる。
いつも、本音を笑顔の下に隠し人当たり良く接しながら、無能と敵は容赦無く切り捨てていく俺を見て、両親は慄いていた。
そんな俺は、家族以外からは違った目で見られる事が多い。
見た目から、”爽やかで優しい優等生”と良く誤解されるのだ。その方が都合が良いので、あえてその方向性で行っているのだが、最近は少し疲れてきている……
夏休み明けには生徒会選挙がある為、その準備が忙しく、尚且つ大学生になったら起業する予定なので、その準備が必要なのだ。
勿論、大学進学も控えているので、その為の勉強にも力を入れる必要がある。
外部受験はしないので、その分マシではあるのだろうが、希望の学部に入るためには必要な努力だ。
これだけでも、抱えていることの大変さが解ってもらえるだろう?
そして、これに更に、自分で作ったキャラのせいで持ち込まれる、”自称友人”達からのくだら無い相談にも乗ってやるのだから、身体が一つじゃ足り無いくらいだ。
そのせいで、3年生になってから沙織とマトモにデートもできて無い。最後にデートしたのは……確か、3月の終わりだったと思う。今日は5月22日なので、2ヶ月もマトモにデートをしていないのだ。
学校で一緒に昼食を摂ることはあるが、それも毎日じゃない。昼休みと放課後は、生徒会の都合で潰れる事が多いのだ。
しかし、今日は特別な日なので、何としても時間を確保した。
学校が終わってからデートするつもりで、必死に用事を片付けた。
「放課後にカフェテラスで待っている」とメールを入れ、待ち時間の間の少しの間を惜しんで書類確認していた俺に、沙織は冒頭のセリフを投げつけた訳だ。
最初に思ったのは、「何言ってんだ?」ってな疑問だったが、意味が脳みそに浸透して来ると、ジワリと怒りがこみ上げてくる。無表情となり、書類から顔も上げずに「あ?」なんて普段は出さない様な低い声が出る。
「ご、ごんやぐばぎじでぐだざい!」
超震えた声で、もう一度言われた。
震えすぎて、何言ってるか解んねえし。
俺の怒りもMAXに達する。何とか作り出した時間。楽しみにしていた気分を、ぶち壊されたんだからな!
本気か?
もし本気だって言うなら、今から俺の部屋に連れ帰って無理やりにでも抱く。ガキを孕むまで抱き潰して籍にぶち込んでやる!!
そう思って鋭い視線を沙織の顔に向けると、瞬きしただけで溢れそうな位、瞳に一杯涙を溜めてプルプル震えてやがった。
その表情は、不安を感じている時のものだーー
あ、また何か嵌められたんだな?
沙織の顔を見たら、察してしまった。
俺の側で”自称友人”達がニヤニヤしているのに気付く。そして、最近俺にまとわりついて来ていた1年の女が、そいつらの近くで同じ様な顔をしてやがる。
こいつらが、原因か。
ふむ、どうしてやろうかな?
俺の様子を見ていた、付き合いの深い数少ない”悪友”達は、少し離れた所で「あちゃ〜」とか言いながら額に手を当てている。
「ふっ……、うぇ〜………ヒック…」
俺が、素晴らしき制裁に思いを馳せていると、とうとう沙織が泣き出してしまった。
これはいかん。
まず、沙織を泣き止ませるのが先決と思った俺は、沙織に一言言ってやった。
「だが、断る!!」
俺の言葉に、沙織はビックリして泣き止んだ。
ヨシヨシ。こんな所で、泣き顔なんて見せるんじゃない!変な虫が付いたらどうするんだ!!
「おいで。」
沙織が誰のものなのかを周知しておくため、沙織専用の笑顔を向け、手を差し伸べる。
いつも通り、無意識にフラフラと近付いてきた沙織を捕まえ、膝の上で横抱きに抱えてしまう。
こうすれば、沙織は逃げられないんだ。
子供の頃かの習慣、癖みたいなもんか?
喧嘩をしたら、いつもこうやって仲直りするんだよ、俺たち。
今回は喧嘩ではないが、沙織の中ではそれに似た何かが起こっていた様だしな。
「なんで、婚約破棄なんて言い出したんだ?」
「ウック…私の事、邪魔だって……。ッ私がいるせいで…メッ、迷惑かけてるって……。」
「誰かに言われたのか?」
「…うん……。それに、タカ君には好きな人が出来たって、おっ教えられた…」
理由を聞くと、しゃくり上げながら教えてくれる。
マトモに会えないくらい俺が忙しくしてた所を、馬鹿どもにつけこまれたようだ。
「最近、木曽路さんと一緒に、いる所よく見かけたから、だから…」
木曽路?…ああ、さっきの成金女ね…
要するに成金女が俺に惚れてて、”自称友人”達がその架け橋になってやった訳か。
沙織にチクチクと不安を煽るような事を言い続けて、俺たちを仲違いさせようと……
ふうん、そういう事ねぇ…。
怒りがふつふつと高まっていく。
俺の笑顔に怒りが滲んできた事が、付き合いの長い沙織には解ったようで、怯えて先が続けられ無くなって、黙ってしまった。
沙織を脅えさせるつもりはないので、
「そんな訳ないだろう?もし、そうだったとしたら、今日デートに誘う訳がないじゃないか。今日が何の日か解ってるよな?」
”めっ”っと怒ってやれば、小さな声で「私の、誕生日…」と呟いて、俯いてしまった。
忘れてたな、コレは…
まあ、それだけ不安な日々を過ごしてたって事か。可哀想に…。
ここは男の沽券に掛けて、愛情をしっかり伝える必要があるだろう。
幸い今日は金曜日だ!
沙織の親には後で連絡しとけば、何も言われないだろう。
「孫はいつ頃?」とか聞いてくる位だしな。
なら、早速電話だ。
「あ、俺。…うん。最上階、今日から3日押えて。じゃ。」
親父秘書の林さんに電話をし、用件だけ伝えてさっさと話を終わらせる。
キョトンとしている沙織にニッコリ笑いかけると、釣られて沙織もへにょっと笑う。
その顔、可愛いじゃないか…
「沙織、今から誕生日のお祝いをしに行こう。プレゼントは、今渡すか?」
「はい!プレゼントは何時でも良いです!」
立ち上がり、「行こう。」と声をかけて手を握ってやると、沙織は嬉しそうに笑ってついてくる。
周囲がザワザワしているが、あえて2人の世界は崩さない。崩すつもりもない。
「今回の事、誰が何をしたのか調べといて。」
カフェテリアを出る前にすれ違いざま、悪友の一人に小声で依頼しておく。
「了〜解。」と気の抜けた返事の後に、「沙織ちゃん、壊すなよ?」と言う余計な一言があったが、沙織には聞こえなかった様なので、良しとする。
あいつは優秀だから、きっと週明けまでには、すべての情報が揃ってるだろう。
ご機嫌な沙織を海堂家の車に乗せ、目的地へ出発させる。
車の中でプレゼントを渡すと、とろける様な笑顔で喜んでくれた。
プレゼントは、プラチナで出来たオープンハートのネックレスだ。オープンハートの中に小さめのピンクダイヤが輝く中々可愛らしいデザインのヤツだ。
沙織には俺がいるって一目でわかる様に、目印(首輪)をしっかりつけておく必要がある。
俺の執着がどれだけの物なのか、しっかり解らせる。
そのためにも今日から3日間、タップリ愛情を感じさせてやる。2度とあんな事言い出さないようにな!!
何も知らない沙織は、何処に連れて行ってもらえるのかと嬉しそうに笑っていた。
週明け。
一緒に登校した、ヨレヨレした沙織とツヤッツヤの俺を見て、悪友が苦笑いしながら書類を渡してくれた。
沙織と別れた後に教室で書類を見ると、情報と共に制裁を加えた事とその内容が書かれてあった。俺にやらせると、家ごと潰しかねないと思ったんだろうな。
その判断は決して間違いではないので、「まあ、今回はこれで良いか」と納得しておく。俺の機嫌が良くて助かったな…
昼休み、沙織と昼食を摂る約束をしているので、カフェテリアに向かう俺に、木曽路とやらが「せぇ〜んぱぁ〜い」とか気持ち悪い声を出しながら走り寄ってきた。
そのまま腕に絡みついてきたので、冷たく振り払っておく。
「あんまり調子に乗ってると、家ごと潰すぞ?」
顔は笑顔のままで、低く言ってやると固まってしまった。丁度良いのでその場に取り残しておこう。
俺は、浮かれ気分で足取りも軽くカフェテリアに向かった。
カフェテリアに到着すると、沙織は先に席についていて、俺を見つけると嬉しそうな笑顔を向けてきた。
沙織は今日も絶好調に可愛いな。
俺も、惜しげもなく沙織専用スマイルを表情に乗せ、彼女の待つテーブルへと急いだ。
「金曜日、ここで俺に言った事覚えてる?俺、ショックだったなぁ〜。」
海堂家で用意した1つの重箱を2人で突きながら、意地悪を言うと沙織の箸が止まった。
情けない顔で俺を見るその姿が、可愛くてたまらない。ついつい苛めたくなってしまう。
「今、かなり忙しいけど沙織のためにもっと時間を作るから。これからは、2日に一度は俺の愛を証明するよ。楽しみにしてて?」
止まってしまった手を握って笑顔で言ってやると、色々思い出したのだろう。真っ赤になってオロオロし始めた。
「けけけけけけ結構ですぅ〜っ!タカ君の気持ちは充分解りました!もう、2度と!絶対に疑ったりしませんからー!!」
必死の涙目で主張する姿が可愛かったので、取り敢えずテーブル越しにキスをしておいた。
お兄ちゃんの話もあります。この話の2年後ぐらいですね。