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Vaccine8 You are Beginner

 何も・・・出来なかった。

 キルメさんは出発前に言っていた。イリーズは覚醒者の能力暴走の比ではないと。

 それを聞いても俺はどこか気を緩めていたのかもしれない。

 いや、今回俺達が戦ったのはイリーズの分身体でありイリーズ本体より能力の劣るイリナイアだ。イリーズよりも弱い敵にもまるで歯が立たなかった。

 ・・・バカか俺は!!

 何が『ヤスナ先輩に認めてもらう』だ!!

 撃破するも何も、助けてもらう始末。

 妄言も、大概にしろ・・・ッ!!


「怖い顔してるけど・・・大丈夫?着いたから降りて」

「あ・・・はい」

 いつの間にか会社に戻ってきていたみたいだ・・・。


 車を降りると、あたりはすでに暗くなっていた。

 夜の闇が俺の気持ちと相まって重く肩にのしかかってくるようだ。

 戻りたくない。

 張り切って出発しといて『一体も倒せませんでした』なんて言えるかよ。


 バシッッ!!


 背中に突如、強い痛みが走った。叩かれた?

 ヤスナ先輩が俺の横を通り過ぎていき、入り口へ消えていった。

 笑って・・・いた?

 なんでだ?

 てか強く叩きすぎでしょ、メッチャ痛い。

「さーさ!さっさと戻って報告ね~先に戻ってるから!」

 ヒュパッ

 リンナさんはテレポートで先に部署へ向かったようだ。


「ただいま・・・戻りました」

 部署の扉を開け、中へ入る。

 中には四神と田中さんが居た。

「おう!おかえり!怪我はなさそうだな?」

 キルメさんが俺に近づいてきて言う。

「・・・初出撃で無傷はなかなか。まぁ大した交戦がなかっただけだろうけど」

「いや、交戦はしたのよ~、でもまったく攻撃が通じなくて。イリナイアに後ろとられてヤスナちゃんに助けられてたわぁ~」

 ちょ、リンナさん!確かにその通りだけど人に言われると恥ずかしさ倍増だな・・・

「ホント、まったく話になりません。こんな奴と一緒に出撃していたらこっちの寿命が縮まります」

 やっぱりか、この人に認めてもらうのはキビしい・・・

「と、言いたいところですが、使えないのは当たり前ですね。訓練を受けていないワケですから。ですがコイツの戦闘に対する心構えについてだけは評価する所があります。自分から向かっていく姿勢は素晴らしい。あとは訓練による基礎技術、戦闘技術、創造脳力の向上。及び経験かと思われます」

 え、ヤスナ先輩・・・意外とちゃんと見ててくれた?

「ほぉ、他人にも自分にも厳しいヤスナちゃんが人を褒めるなんて珍しいですねぇ。」

 田中さんが笑いながら言う。

「べ、別に珍しいことなんて無いですよ。事実を述べたまでです」

「お、デレた?」「・・・ツンデレ乙」「あっはっは!ヤスナちゃんハルタ君にデレデレじゃん~!!マジウケr」

 ドゴッ

 鈍い音がした。言うまでもなくヤスナさんの鉄拳がリンナさんの顔にクリーーンヒット一発KO。

 ピョンと飛び起き、

「なんでアタシだけーーーっ!」

 プンプン頬を膨らませるリンナさん。

「ムカツクからですよ、言い方が」

 リンナさん、いい加減学習してくれ!

「もう、私がデレたとかそんなことはどうでもよくて!天城!!」

「は、はい!」

「これからは特訓漬けです。私がアンタを使えるように教育してあげるからそのつもりでいなさいよ」

 ヤスナさん直々に!?

「うっわ~・・・ヤスナのしごきはハンパじゃないよ、ハルタ君?」

「俺、強くなりたいです!ヤスナさん、お願いします!!」

「さっきまで元気無かったのが嘘みたいだなぁ、ハルタ!しごかれるのが嬉しいとは・・・リンナ方面の性癖か?」

「話ややこしくなるんでキルメさんは黙っててください!じゃあ明日から早速特訓開始します。あ、そうでした。天城は今日どこで寝るの?まだ部屋もらってないよね?」

「あ、そうですね。だから今日はキルメさんが『私の部屋で寝ろ』って言ってくれたのでそうさせてもらおうかなと」

「私の部屋に来なさい」

「「「「「え?」」」」」

 この部署内にいるヤスナ先輩以外の5人全員が疑問の声を上げた。この人からまさか『自分の部屋に来てほしい』だなんてお誘いの言葉が発せられる可能性が微塵も、いや微粒子レベルで存在するとも思っていなかったからだ。

「すいません、もっかいいいですか?」

「だから今日は・・・というかこれからは私の部屋で寝ていいということ。キルメさん朝起きるの遅いけど特訓は学校行く前だから朝早くからやる。だったら私が起こしてあげたほうが効率いいでしょ」

「え・・・はぁ、まぁそういうのもアリですかね」

 なんか筋がイマイチ通ってない感じがするけどここは納得しておこう。

「お、やっぱデレた?」「・・・爆発しろ」「ぶふぉwヤスナちゃんハルt

 グチャ!!

 何かが潰れる音がした。今度はヤスナ先輩の回し蹴りがリンナさんの顔に以下略。

 わかった、この人ドMなんだ、ご褒美なんだ・・・たぶん。

「ナ・・・ナイス、キッ・・・ガクッ」

 ぶっ倒れたリンナさんが親指を立ててたけど今逝きました。



 俺は今、ヤスナ先輩の部屋の前に来ている。

 ここに来るのは二回目だ。前回はリンナさんに半ば無理やり入れられた。

 だが今回は違う。ヤスナ先輩本人の了承を得ての侵入・・・じゃねえや、入室となる。

 この違いはものすごく大きい。亀とスッポンくらい違うのだ。

 だって女の子が『私の部屋に入ってもいいよ?』なんて許可してくれてるんだぞ!?

 素晴らしいよな・・・自分でも信じられん。

 男ならなんとなくわかってくれる!と思う!

(よ、よーし入るゾ~)

 ノックをしようとすると

「何やってんの?早く入ってよ、後ろつかえてるんだけど」

 ヤスナ先輩の声が後ろから聞こえ、俺を退けて部屋に入っていった。

 それに続いて俺も華の楽園へと足を踏み入れる。イマノミラレテタノカナ・・・


 小さなテーブルの前でカチコチになって正座してる俺。

「そんなにかしこまらなくてもいいと思うけど」

「い、いやぁ~・・・二回目とはいえ前回とは全くシチュエーションが違いますから・・・あはは」

「ふーん、そういうもん?あ、そうだ、今日の夕飯どうする?いつもは7時からみんなで食べるんだけど任務で出ちゃったでしょ?カグヤさんとキルメさんは先に食べたみたいだから私達だけで食べましょ。リンナさんも呼んでファミレスでも行こうよ」

「わかりました。じゃあ俺、リンナさんとこ行ってきます」

「よろしく、私先に下に降りてるから」

「はい、エントランスで合流しましょう」

 リンナさんの部屋へ向かった。

「リンナさーん?ヤスナ先輩が一緒に飯行きましょうって~!」

 ・・・返事がない。あの人のことだから飯の誘いにはスッとんでくるような気がしたんだけどな。

 部署に行って3人に聞いてみようか。


 コンコン

「失礼します、あのーリンナさんこちらに来てませんか?」

「んー?ふぃんふぁふぁふぁふぁっひへいふっへふふっへへへっはほ」

「だから口にもの入れたまま喋んなっつの。てかキルメさん飯食ったんじゃないんですか?間食したら太りますよ」

「んー、ゴックン。いいんだよ私は太らない体質だから」

「・・・リンナなら一人でご飯行った。たぶん牛丼」

「えー・・・女子力なっ・・・」

 そっかぁ、リンナさんいないのか。

 食事は多いほうが楽しいけど二人で行くしかないか。

「あ、そういえばさっき田中さんが言ってたけど飯だけは作ってくれるらしいぞ、ハルタに負担がかかりすぎるのと栄養管理は一朝一夕できるもんじゃないってさ。だから買い出しだけ飯ついでに行ってくれるか?これ買うメモと買い出し用のお財布な。飯代もここから出していいから」

「わぁっ・・・田中さんありがとうございます!了解です!」


 エントランスに戻るとヤスナ先輩がソファーに座って待っていた。

 さっきまで着ていた戦闘用装備ではなく、一般的な女子高生が着ているような可愛らしく、かつ少し大人っぽい服を着ている。

「やっときた。人一人呼ぶのに何分かかってんのよクビにするわよ?」

「勘弁してくださいよ・・・リンナさん先に飯行っちゃったみたいで」

「あ、そうなの?じゃあ二人で行くしかない・・・か。近くのファミレスでいいよね?」

「はい、そのあと買い出しも頼まれたんですけど大丈夫ですか?」

「うん、ファミレスからちょっと行ったとこにスーパーあったはずだからそこ寄りましょ」



 あぁ~・・・疲れたな、今日一日・・・あっという間だったな。

 今は風呂を済ませ、ヤスナ先輩の部屋に布団を敷かせてもらい、ゴロゴロしている。マジで精神の摩耗がハンパじゃない。

 ファミレスでは案の定、ヤスナ先輩から今日の反省、というかダメ出しを怒涛の勢いで食らい俺の心をポッキリと折られた。さっきは『しょうがないことだ』なんて言ってくれてたのになぁ・・・。

 それから買い出しにスーパーへ。

 キルメさんから渡されたメモを見るとその量に愕然。肉30kgってなんだよ、プロレス一家かあそこは。

 野菜など、その他もろもろ買ったのだがヤスナ先輩に重い荷物を持たせるわけにもいかないので野菜などの比較的軽いものを持ってもらった。これも一つのトレーニングか?

 

 ガチャ

 

 ドアが開く音。

 お、ヤスナ先輩が戻ってきたかな。風呂から上がったようだ・・・ってえぇ!!???

「あ・・・あわわわわわわわわわわわわわわわわ・・・・・・」

 デジャヴだ!!!扉のそばにはタオルを巻いただけの女の子が!!!

 濡れた髪や肩からはほのかに蒸気が立っている!

「なんっ・・・!?!?!?!?!?」

 ヤスナ先輩はパニック状態になっており、咄嗟に拳を振り上げた。

 この状況からして俺は何も悪くないよ!?不可抗力でしょ!!!

「殴るのはあんまりですよっ!!ヤスナ先輩がうっかりしてただけのことでしょ!?」

 手で顔をガードし、更に思いっきり目をつぶり『俺は裸を見てませんよ』アピールをする。

「うっ・・・!?」

 振りかぶっていた拳を止めた。

 お?よかった・・・必死の思いが通じたか。

「で、でも恥ずかしいものは恥ずかしい!!」

 ゴッ!!

「ぶべらっ!!!!」

 結局殴られるんかーい



「・・・きなさい。」

 ん?なんだ?声が聞こえる・・・

「早く起きなさい!もう5時よ!」

「ふぁ!?ふぁいっ!!」

 ゴチーーーン

 急に大きくなった声にびっくりして上半身を思いっきり起こすと、ちょうどヤスナ先輩が俺の顔の真上にいたらしく、おでこ同士をぶつけてしまった。何このやっすいラブコメみたいなシチュエーション。考えたの誰だよ。てか冷静に心の中でシチュエーションに対するツッコミ入れてるけどマジで尋常じゃなく痛い。

「大丈夫?」

「すんません、まさかそこに頭があるとは思わなくて・・・ヤスナ先輩こそ大丈夫ですか?」

 ん・・・段々思い出してきたけど昨日殴られて気絶しちまったみたいだな。

「私は大丈夫よ、今のは起こすために頭突きしたわけだし」

「いやわざとかよ!!!」

 ゴメンゴメンと軽く手を合わせて謝りつつ、顔が真面目モードに切り替わる。

「さ、遊びはここまでよ。顔洗って着替えてきなさい。私は先に格闘訓練室に行ってるから」

「了解!」

 ヤスナ先輩がドアから出ていくのを見ていると

「き、昨日はゴメン・・・」

 何かボソッと言ったのが聞こえた。

「え、なんですか?」

「なんでもない!!早く支度しろっ!!!」

 バンッ!

 うお、そんなに勢いよく閉めなくてもいいじゃん・・・

 っし!!いつまでもクヨクヨしてられないな!

 四神に負けないくらい強くなってみせるぜ!!!!

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