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Vaccine7 First Mission-2

 パンパンッ!!

 自分で自分の頬を叩く。よし、気合い十分!

 さてと、気合い入れたはいいけどどうしよう?

 イリーズと戦う装備…?

 まだ俺には整えるも何もないしなぁ、このままでいいか。

「ハルタ、ちょっと来い」

 俺が部署でうろうろさまよっていると、キルメさんのお呼びを食らった。

「キルメさん、何ですか?」

「お前…まさかそんな格好で現場へ行くわけではないよな?」

「え、なんかマズイですかね?」

 この間、朧月高校で榊川の暴走を俺が食い止めた時はこの普通の制服で問題無かった訳だし大丈夫だろうと思う。多少のケガはしたけどね。

「言っとくがな、覚醒遺伝子を持つ者の力の暴走時の攻撃力とイリーズと成った者の攻撃力はまるで違うぞ。前者は遺伝子の力と本人に人間の心が残っている為、多少抑えられているが後者は違う。VBBがその者の持つ脳の力を100%引き出す。並の者では即座に殺されてしまうだろう。因みにお前は並の者だ。心してかかれよ」

「え、俺って並なんですか!?こないだ榊川を助けたのに!?」

「普通はその榊川君のように暴走を起こした後、育成機関に送られてイリーズとの戦い方、及び能力の制御法を学ぶんだがお前はそれを行っていない。つまりお前は素人に毛が生えたようなもんだということだ」

「ま、まぁ確かに俺は何も知りませんね…」

 なんだかその話を聞く限りだと暴走を起こしてない俺は損してるみたいに聞こえるんだよなぁ。

「今回の作戦ではリンナとヤスナに同行するからまず安心だ。ケガをすることはない。だが万が一ということもあるだろうからな。これを着ていけ」

 そう言って手渡されたのは一着の白衣。

 ただの白衣にしか見えないけど…

「この白衣は実際にウチの研究員が着ている物なのだが、戦闘用にも使える。特別な繊維で作られていてな、多少の衝撃は吸収してくれるだろう」

「へー!すごいですね、ありがとうございます!」

 早速着てみるとピッタリだった。長いから下半身もカバー出来ているし、かなり実用的だ。

「お前用の戦闘服も次の出動に間に合うように準備しておくよ」

 戦闘服かぁ。キルメさんのあの如何わしい軍服もどきも戦闘服だったのかな?

「準備出来ました」

「私も終わったわ。じゃあ行きましょうか」

 ヤスナ先輩とリンナさんが着替えて戻ってきた。

 ヤスナ先輩は髪をツインテールに結い上げ、服はへそ出しの胸のみ隠したライトアーマーを装着。布を巻きつけただけのようなスカート。そして俺が着ている白衣のようだが、その白衣よりもより女性的なデザインであり、表面が滑らかである白いロングコートを着ているが、それはまるで天女が身につけているという天の羽衣のようだった。

 両手にはそのロングコートとは対照的な印象を持つゴツい手甲を嵌めている。何故か右が黒で左が金だ…なんか意味があるんだろうか?

 下半身も脚甲で武装している。

 リンナさんは初めて見た時のビキニアーマーの様な物を着ている。前回と違うのは…二の腕や太ももに何かを入れるためのポーチの様な物を付けているくらいだろうか。まるで何処ぞの"蛇"の潜入ミッションゲームのような印象を受ける。待たせたな、なんて言いそう。

「さっきからいやらしい目でジロジロ見てるけど何かな〜?おっぱいに顔埋めたくなっちゃった?」

 リンナさんがワザとらしそうにキャ〜なんて言いながら胸を隠す。

 その姿を見てヤスナ先輩は俺の方を睨んできた。やべえ、殺られる。

「は、はっ!?い、いえ…そういうワケじゃ……ないんですけど」

「あらら〜…アタシ達の体、魅力ないってさ〜ヤスナちゃん。悲しいね〜悲しいよ〜」

「なッ…天城……ッ」

 リンナさんがヤスナ先輩に抱きついてヤスナ先輩は更に俺を睨む目を鋭くする。

「え、ちょ、じゃあなんて言えばいいんですか…」

「ほら、準備出来たなら出発しろ。まぁ対策部隊の奴らが先に行ってるだろうから心配は無いと思うが」

「よし!ヤスナちゃん、ハルタ君。行きますか!」



 現場へは車で向かっている。前にキルメさんに学校まで送ってもらった車だ。運転はヤスナ先輩がしている。免許持ってるってことは18歳超えてたんだ。って事は高3か?

 後部座席には俺とリンナさんで座っている。

「ハルタ君、今回の任務では私とヤスナちゃんで片付けるから後ろで見ててね」

「お、俺も戦いますよ!」

「そんなに急ぐ必要は無いわ。イリーズとの戦闘はおろか、見るのも初めてなんでしょ?まだ君の戦闘を見たことは無いけど、この仕事、そんなに甘くないわ」

 ゴク……

 思わず生唾を飲み込んでしまった。さっきまでのおちゃらけたリンナさんとはまるで雰囲気が違う。これがプロというものなのだろうか?

 だからと言ってここで引き下がる俺じゃない!

「でも!戦闘だってしないといつまでも皆さんと同じ仕事は出来ませんよ!」

 リンナさんが『ん〜』といった顔で首を傾げている。

「わかったわ。敵は一体では無いし、雑魚相手でもしてもらおうかな」

「はい!ありがとうございます!」

 …『敵は一体では無い』?なんでそんな事わかるんだ?


「さて、ここが現場みたいね」

「工場…ですかね?」

 街田市の住宅街から離れた場所に現場はあった。

「リンナさん……隊員の気配がまるでしないのですが」

「うん、私も気になってた…とりあえず先に進みましょう」


 工場の中へ入っていく俺達。

「ウオオォォォオアァァァアアアア」

 な、なんだ!?この呻き声は!!

「早速お出ましのようね」

 アレがイリーズって奴か。

 見た感じは普通の人間なんだが、ゾンビ映画なんかに出てくる雑魚ゾンビみたいなゆっくりした足取りをしている。これなら俺にだって!!

「先手必勝!!だりゃぁぁぁぁ!!!」

 相手が攻撃体制に入る前に倒す!

 右手に紫に迸る電撃を発生させ、駆け出す。

「ちょ、天城!!止まりなさい!!」

 止めてくれるなよヤスナ先輩。一発かまして、アンタに認めてもらって、安泰なハーレム生活を掴み取ってやるんだっ!!

「紫電、一拳!!」

 右ストレートが見事、イリーズの顎に決まった……

「アレ?」

 おかしい。

 さっきまで目の前にイリーズが居たはずなのに今は走り出した時の距離ほど離れた場所に俺が居た。

「だから急ぐ必要は無いって言ったでしょ?」

 後ろから声がした。

 振り返るとリンナさんが俺の襟首を掴んで立っていた。

「あれ?ど、どうなって…」

「言ってなかったっけ?これがアタシの能力、テレポート。対象の物体を瞬間移動させる能力よ。まぁ制限は多少あるけどね」

「テレポート!?すげえ!カッコイイっ!」

「カ、カッコイイ?そう…かな、あはは」

 あれ、なんかリンナさんの顔が赤く…

「そんなことしてる場合ですか?任務に集中して下さいよ」

 ヤスナ先輩が俺達に促す。

「じゃあ早速イリーズをやっつけましょう!」

「いや、アレはイリーズじゃないよ」

「イリナイア……イリーズと化した人間が創り出した分身。主に偵察用や、初手攻撃用に使われるものね。今回、天城にはコイツらを相手してもらうからそのつもりで」

 リンナさんとヤスナ先輩が交互に説明してくれた。

「じゃあさっき俺のこと止めなくても良かったんじゃないですか!?」

「だーかーら説明を聞きなさいって」

「これだけは覚えておきなさい、天城。最も大事な事よ」

 ヤスナ先輩が神妙な面持ちで俺に言ってくる。

「奴らは”元”人間にして人肉食動物。狙うのは私達、VBB感染者よ」

「つ、つまりイリーズは俺らを食う…って事ですか?」

「そうよ。VBB感染者を食らうとイリーズは今の人型から一段階レベルアップし、本物の化物へと進化する。そうなるともう、なかなか楽には殺せないわ」

「殺すなら楽なうちに…ってこと!まぁ個体差があったり、喰らった能力者のウイルスランクが高かったりしたら進化しやすいとかあるんだけどね」

「細かい話は後にしてそろそろ制圧行動に移りましょう。入口は塞がれたみたいですし」

 ヤスナ先輩が両手に嵌めた手甲をキンキンッと打ち鳴らした。

「うわ!な、なんて数だ!」

 見た感じ30人はいるんじゃないか!?

「ハルタ君!コイツらは体に攻撃当てても効かないよ!殺すには…」

 シュンッ

 リンナさんが両手に二振りの大鎌をテレポートさせ、自分自身も一体のイリナイアの後方へとテレポートした。

 次の瞬間、イリナイアの両目から上の部分が切断され、吹き飛んだ。

 頭蓋骨による支えが無くなった眼球がボトボトと落下し、本体は膝から崩れ落ちるようにして倒れた。

 吹き飛んだ脳部は、既に空中で二振りの大鎌によってバラバラに切り刻まれていた。

 切り口からは人間のものよりも赤黒い鮮血がドロリドロリと流れ出している。

「体と脳を切り離す、もしくは脳を再起不能まで砕くしかないのよ。ハルタ君の能力なら焼いちゃうのが1番……ってアレ?顔色悪いよ?」

 血の色やその液体の状態から、どうやら人間ではないということはわかるのだが見た目は人間だ。あまりにもショックだったようでリンナさんに顔色のことを言われ袖で額を拭うと確かに脂汗が噴き出しており、手は震えていた。

「さすがに刺激が強かったみたいね……休んでる?」

「い、いえ…やれますよ。バカにしないでくだ……」

「ちょ、ちょっと!大丈夫!?」

 情けないながらも…嘔吐してしまった。

 しかし、出すものは出したので逆にスッキリとした気持ちになれた気がする。

「フラフラじゃない。私が送ってあげるから先に会社で休んでな?後でキルメには言い訳しといてあげるから」

「そ、そんな…女の人2人置いて男が1人で帰れるワケないでしょ。やりますよ、吐いてスッキリしましたし」

「そ、そう?」

 そうだ。少しでも俺が使える男だっていうところをヤスナ先輩に見せて解雇の危機を脱しなくては。

「つっても1人じゃキツイんでリンナさん、フォローしてもらえませんか?」

「おー、いいよ。じゃあ私が連続テレポートさせるからハルタ君は目の前に来た敵を殺っちゃって」

「じゃあそれで!」

「私はフリーで適当に相手してますんで、天城の事はリンナさんお願いします」

「OK♪」

 えぇえええぇぇぇぇええ!!!ヤスナ先輩見てくれないんかい!!

 アピールにならないじゃんよ…

 まぁヤスナ先輩より多くの敵を倒せば!!

「じゃあ行くよ!」

 リンナさんが右手を俺に向けると次の瞬間には俺はその場から数m離れた場所に転移していた。

 目の前にイリナイア!!

 右手に紫の電気を纏わせる。

 さっきリンナさんは俺の能力だと脳を焼いちゃうのが一番だって言ってたな。

 なら!出力最大で!!

「紫電一拳!!」

 後頭部に殴りかかった!

 イリナイアは吹っ飛んでいった!

 よし、いい感じに殺れた!

 奴らは人間じゃない、人間の皮を被った化物。殺らなきゃ、こっちが殺られる。

 そう思うと、さっきまでの感覚とうって変わって楽に屠れる気がした。

 振り返ってリンナさんに言った。

「リンナさん!俺いけます!早く次の転移を!!」

「待って!!そんな弱い攻撃じゃ……」

 何かが後ろで立った気配がした。

 …イリナイア!?そんな!けして手を抜いた攻撃じゃなかったのに…!!

 マズイ……ッ!喰われるッ!!


 ボッッ!!!!


 凄まじい破裂音がしたと同時に、さっき見たイリナイアと同じ色の液体が俺の視界を覆い、顔面全体に付着した。

「アンタ、ホントにそんな実力でこの世界に足を踏み入れるつもり?舐めてるなら退きなさい。能力者には警備員以外の仕事もあるわ。」

 目を開けるとそこに立っていたのはヤスナ先輩。ヤスナ先輩が助けてくれたみたいだ。

 周りを見渡すとさっきまでわらわらと建物内を闊歩していたイリナイア達はすべて首から上を失った状態で床に突っ伏していた。

 俺は吐きそうになっている口を押さえ、胃を落ち着かせた。

「ありがとう…ございます、助けてくれて」

「別に助けたつもりなんてないわ。たまたまアンタを喰おうとしてたイリナイアが最後の一体だったから始末したまでよ。勘違いしないで。…次は無いと思いなさい」

 ヤスナ先輩はそう言うと工場を出ていってしまった。

「……最初だからね、何事も経験だよ。さ、帰ろ!どうやらここからイリーズは去っちゃったみたい。私達じゃこれ以上探せないし」

「はい…」


 車に乗り込み、帰路につく。

 俺の初任務は撃破数"0体"という結果に終わった。

久しぶりの戦闘シーンでしたがいかがでしたでしょうか?

ご感想などありましたらぜひお聞かせください。

ありがとうございました!

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