Vaccine2 Unknown Disease
『ん…ここは…?』
『ここは貴方の脳内の世界。能力を想像、創造する世界。』
『だ、誰だお前は!?』
『いずれ分かるわ。というより、もうわかっているんじゃない?』
『何言ってる…?お前のような人は見たことが無いが。』
『そうね…、私は貴方。貴方は私。とでも言っておきましょうか。さぁ、今はここにいるよりもやる事があるのではなくて?』
『やる事…?うっ!』
目を開けると白い天井が見えた。冷たく青白い蛍光灯の光が部屋を照らす事務所のような場所だ。そして俺は黒い革張りのソファーに横たわっていた。体には少し小さめのタオルケットがかけられていた。
(なんだ…?今の夢は…よくわからないが重大な何かがある気がする。それと…ここはどこだ…?)
起き上がろうとすると首に激痛が走り、力が抜けてしまい、再びソファーに横たわった。
その痛みで昨日の出来事を思い出した。
警官に追いかけられて、変な女に襲われて…なんて日だ!!え、てか今何時だ!?
「おや、目を覚まされましたかな。キルメさん、来てもらえますか。」
この声の主…には覚えがないな。看護士さんか?いや、しかしここは病院ではないようだし。
「やぁ。目覚めたか、天城ハルタ君。」
「あ、アンタは…青龍…なのか?なんで俺の名前を?」
「君の荷物を調べさせてもらった。名前はその時に生徒証で確認させてもらった。目覚めたばかりだ。とりあえず顔でも洗ってきたらどうだ?」
「アンタ昨日の雰囲気だいぶ違うな…。顔洗いたいのは山々なんだが、アンタに殴られた首が痛くて起きられないんだが?」
昨日、この人と面を合わせた時はその鋭すぎる眼閃で人を切り殺せるのではないかと言わんばかりの迫力だった。しかし今はまるで”友達のお姉ちゃん”といったような柔らかい雰囲気を醸し出している。あのエロいコスプレ服も着てないし!
「え、私殴ったかな…?田中さん、お願い出来ます?」
「お安い御用ですよ、キルメさん。では。」
思いっきり刀で殴ったくせに何とぼけてんのこの人。
そして田中と呼ばれた男はそう言うと、俺の首に手を乗せた。
「さぁ、もう大丈夫ですよ〜。」
「んなバカな…ん、アレ!?痛くない!何で?田中さん、すごいですね…何したんですか!!」
「ただ能力を使っただけですよ。貴方やキルメさんと同じようにね。」
「田中さんは白魔導師に憧れてたらしいんだ。今のは比較的弱目の回復魔法だな。」
「えっ…白魔導師ってなんだ?」
「「…えっ??」」
「ハルタ君、君はファンタスティック・ファンタジアとかその辺のRPGをやったことがないの?」
「え、えーっ…と、あんまりRPG好きになれなくて。回復って基本回復薬じゃないんですか?ポーション?とか。」
「あ〜君はアクション派なんだな。確かにアクションもいいよな。燃える!」
うわ、すっごい笑顔。ホント昨日とは大違いだ。
「私は断然RPG派ですね。オススメはドラグーンクロニクルです。ドラクロと言えば聞いたことがあるのではないですか?」
「あぁ、聞いたことはありますけどやっぱりやったことはないですね。なんか疲れそうじゃないですか、RPGって。それに攻撃力とかで全てが決まっちゃうのあんまり好きじゃないんですよね。やっぱりプレイする側の能力に8割ぐらい重きが置かれる方が良くないですか?例えばそうだなぁ、クリーチャーハンティングってゲームあるじゃないですか。アレは確かに武器や防具を素材集めて作ったりするけどいくら強い武器持っててもプレイヤーが下手じゃクリア出来ませんよね、そういったゲームのほうが好きなんです。」
「まぁそれもわかるけど…すごい饒舌だな。そんなにゲーム好きなのか?」
「えっまぁ…ってそんなゲームの話題より現状を説明して下さいよ!あとここはどこで今何時ですか!?」
うっかりしてた。ついついゲームの話になるとベラベラ喋っちゃって周りが見えなくなるのは俺の悪い癖かも。
「寧ろ現状を説明して欲しいのは私達の方だ。君に関してわからない事も多いしな。」
「どういうことですか?」
「まぁ一つ一つ質問して答えてもらおうかな。」
それから俺は青龍改め、キルメさんと田中さんに質問攻めにされた。まぁ田中さんはニコニコして横に座ってるだけだけど。あやふやにされてたけど結局ここどこで今何時なんだよ。
「え、君脱走兵じゃないの!?」
「どこを脱走するんですか。俺は今すぐこの場所から脱走したいよ。」
「じゃ、じゃあ君は能力の使い方をどこで覚えたんですか?」
「どこで?というか初めは少ししか能力が発現しなかったんですけど、公園とかで練習してたらある程度 スムーズに出来るようになりましたね。」
「ど、独学で…?」
なんかすごいビックリされてる?そんなにすごいことなのかな。いや、まぁ確かに周りでこんな事出来る人見たこと無いし、珍しい能力なのか?でもキルメさんも能力使ってたしな…。
「ひと通り質問させてもらって色々わかりました。どうやら君は例外で前例無しのイレギュラーみたいだね。」
「質問されっぱなしで俺は何にもわからないんですけど…?」
「じゃあ一から説明した方がいいかな。」
私も君も、田中さんも能力が使える。なぜ能力が使えるのかって言うとこれはあるウイルスが感染して起きる病気による副作用だ。VBB、The virus of brain breaker《脳の破壊者》というウイルスが脳を侵食する。人間の脳は約10%しか使われていないという説があるのを知っているか?まぁ、それをデマと言う人もいるが。
VBBはまず、この使われていない残り90%を侵食、支配する。この時にその人がどのような能力を使うのかが決まる。自分の深層心理で最も欲している能力が備わる。田中さんは白魔道士になりたかったという事で、回復系の能力が身についたというわけだ。またウイルス本体にも侵食力の強弱によるランク付けがあり、能力の出力に関係する。その後、記憶や身体を動かす機能がある脳の部位まで侵食をする。この時、人によって異なる2つの変化がある。
普通の人はそのまま脳を支配され、暴走。その後、人外の化物へ変化します。我々はこの化物を”イリーズ”と呼んでいる。イリーズを駆逐するのが我々の仕事だ。その個体にも階級ごとに様々な能力の差があるのだが、まぁ今は割愛する。
そして私達のような普通じゃない人は、今VBBを言わば従えている状態にある。先天的ものですが体に元々覚醒遺伝子というものが存在し、VBBによる脳の侵食を食い止めていてくれているんだ。ただ能力を司る脳の部位は侵されているから力を行使することは出来るというわけだ。
それでも普通はイリーズにならずとも暴走は起きるから、VBB事件対策連合本部部隊に連れて行かれて色々な訓練をさせられるのんだが、、、どうやらハルタ君の話を聞く限り暴走が起きていないようだな。しかも能力を自分のものにしてしまっているようだし…。田中さん、一度詳しく検査を受けさせた方が良いかもしれませんね。
「ってちゃんと聞いているのか!?」
そう言ってキルメさんは俺の耳を引っ張った?いででででででで!!ちゃんと聞いてますって。失敬だな…ふぁぁ~。
「要するに、俺もキルメさんも病気で、俺はなんかすごいってことですよね!」
「最初と最後しか聞いてないじゃないか、、、。あ、ちなみにこの病気は治らない。ウイルスに効くワクチンが開発されてないんだ。」
「ええ…ええ~~!?それって不治の病って事ですか!?」
「そういうことになるな。でも私もハルタ君も覚醒遺伝子を持っているわけだから実害は無い、寧ろ能力が使える分お得だろ?」
「そんなポジティブな…ちょっと情報処理が追いついてないです、驚くことも多いので。」
まさかこの能力が病気だったなんてな……なんか力を使うのが怖くなってきたぞ。ホントに大丈夫なのか?それに昨日会ったばかりの人の話をすんなり受け入れるってのもなかなかキツイものがある。信用していいのだろうか?
「とりあえず君は暫くこの会社で預からせてもらう。あ、もちろん家には帰っていいぞ。学校もあるだろうからな。その後の塾…というかバイト感覚で来い。」
「わかりました。学校の後ですね……って今日!!学校!!行ってない!!!」
「いや、学校よりこっちの話の方が大切だろう。今から行けば昼には間に合う。送って行こうか?」
「え、いいんですか?出来ればお願いします。」
「じゃあ外の車に乗れ。私の運転ですぐに出るぞ。」
外にあったのは田中製薬と書かれたシルバーのホンダのフィットだ。ちなみに天城家もホンダ車を愛用している。
「ここって田中製薬だったんですか。俺の家から結構近いな。てことはキルメさんは技術者ですか?それとも営業ウーマン?」
「私はここの警備員だ。あと3人同僚がいるぞ。ちなみに君に手伝ってもらう仕事も警備員だ。昨日私と交戦したのはここのすぐ裏だぞ。」
逃げてるうちにだいぶ俺の家に近づいて来てたんだな…ということはここは猫川か。
それにしても警備員だったのかこの人…こんな人が警備してたら絶対侵入できないだろ。それに絶対1人で十分だろうに…。
「その3人は今日はいないんですか?紹介して下さいよ。」
「まぁ明日には帰って来るだろうからその時に私も含めて、改めて自己紹介しよう。ちなみに全員女だ。ハーレムだぞ、エロゲー好きのお前には夢見るイベントが現実となるわけだ。よかったな。」
「あ、あれぇ!?!?ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ僕エロゲーするなんて一言でも言いましたっけ!?!?!?!?」
「そんなに動揺するという事は図星なんだな、この変態。」
「うわ、一杯喰わされたよ…。てか、エロゲーしただけで変態呼ばわりとか全国のエロゲーマーに謝ってください。」
そんなアホみたいな会話をしながら俺たちは車に乗り込み、今いる猫川市から、俺の学校のある九王女市へ移動を開始した。