Vaccine1 Can't Escape
ウーウーウーウー。
パトカーのサイレンの音がすぐ近くで聞こえる。
「くそッ、もう追ってきやがった!」
さっきからなるべく姿を見られないようにビルとビルの間を縫って暗がりに入りながら逃げているのにも関わらず、まるで俺の姿が浮き彫りになっているかのように簡単に見つけられてしまう。
「発信機かなんか付いているのか?」
俺は着ていたブレザーを脱いで、背中や袖、肩を調べてみたが何も無かった。
「少年を発見!拘束しろ!!」
「あんたらさっきからなんなんだ!俺は何も悪いことしてないだろ!?」
拘束だと?無実の俺をなぜ捕まえようとするんだ?
なぜこんなにも追われているのかというのは約10分ほど前の出来事。
たまたま入ったコンビニで強盗事件が起こっていた。
もちろん一般市民であり、喧嘩なんて怖くて出来ない俺はただ怯えて、床に座らされ、既に人質に取られて犯人の腕の中の、大きめのサバイバルナイフを突きつけられている10歳くらいの女の子を見ている事しか出来なかった。
(助けて!)
女の子の目は俺にそう訴えてくるかのような目だった。
(そうだ…俺にはこの力があるじゃないか。
俺はあの日から密かに練習していた、遂にこの力を使う時が来たんだ。)
ゆっくりと息を吐き、立ち上がった。
「オイ、お前!床に座ってろ!殺されたいのか!?」
犯人の大きな怒鳴り声が店内に轟く。
待ってろ。今俺が全員解放してやる!
右手を強く握りしめ、左手は開いたまま前へ突き出す構えをする。拳に力が溜まっていくのがわかる。
大丈夫だ、失敗はしない。
俺はこういう日の為に練習してきたんだ!
「はぁぁぁぁ!!!」相手を突く様に一気に拳を開きながら前へ突き出すと指先から強盗の持っていた包丁へと紫色の電撃が発せられ強盗の体全体に回った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?腕が!!!焦げっ…あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
強盗は予想だにしなかった出来事に激痛の悲鳴を上げながら混乱していた。
「ヒィっ!ば、化物!!くるなぁ!!」
人質として一緒に囚われていた会社員と思われるスーツの男が俺に言った。
「何言ってんだ?俺はあんたらを助けようとして…」
ウーウーウーウー。
パトカーのサイレンだ!やっと助けが来た!
「お、おいィ!助けてくれぇ!!」
強盗がそんなことを言いながら飛び出して行った。
自首か?まぁ穏便に済んでよかったな。
「そこの制服を着た少年。出てきなさい。」
…え?
直感的に嫌な感じがした。
俺を呼んだ警官の声、周りを取り囲む複数の警官達…どうにも
「強盗を退治してくれてありがとう!署長から感謝状が贈られるだろう!」
なんて雰囲気じゃないよな。
逃げるが勝ち!
取り囲まれてるって言っても逃げ道はある。
俺はコンビニの関係者入口の扉を開け、事務所の中へ入っていった。
確か裏口があったはずだ。そこから逃げれる!
「逃げるぞ!追え!」
まぁ、追ってくるよな…。だがこの近辺は小さい頃から走り回って遊んでた庭みたいなもんだ。いくら警察といえど高校生で地の利のある俺には勝てまい。
案の定、裏口までは警察に押さえられていなかったのですんなり出れた。
(まずはマンション街!それからビルの合間を抜けて巻く!!)
といったところだ。ハイ、回想終わり。
なんて言ってるうちに前と後ろの道を押さえられた!?クソ狭い道に逃げ込んだのは失敗だったか?しかもこの音はヘリ?どんだけ厳戒態勢を敷いてるんだよ!!あー…警察に力使ったらマズイかな、マズイよなぁ…コームシッコーボーガイで逮捕だなコレ。漢字わからん!
(やらずに捕まるより、やって捕まる!)
よくわからん格言(?)を呟いた後、俺はさっき強盗を撃退した構えをする。
そして放つ!狙いは空中のヘリ!
「オォォォォォォォォォ落ちろォ!!!」
指先から紫色の電撃を放ち、ヘリを捕らえた瞬間、
「ふんッ!!!」
突き出した右手を右に凪いだ。するとヘリは繋がった電撃につられコントロールを失い、そのままビルにぶつかりガラスや部品を撒き散らしながら墜落。
---ガガガガガガガガガガガガッッッッッ!!!!!!
道を塞いでいた警官達を巻き込みながら爆発を起こした。
思ったよりイメージ通りに事が運んだな…よし、今のうちにズラかるぜ!
「現在目標は…はい………部隊……します……我々も………」
ん?後ろの道を塞いでた警官が無線で連絡してるな。増援か?もうなんでも来い!どうせ殺されるに決まってる!
挟まれた路地を抜け、別の路地に入った瞬間、俺は今まで感じた事の無い、いや、普通の人間なら感じられないよな。だが、鈍い俺でも分かる、それほどに強い殺気を感じた。みるみる嫌な汗が全身から吹き出してくる。
コツーン…コツーン…
前から足音が聞こえてくる。段々近づいてくるに連れて殺気が2倍、3倍と膨れ上がっていくようでその場から動けなくなっていた。
……いや、コレは殺気のせいなんかじゃない!?どんなに力入れて腕を動かそうとしても動かないし足もビクともしない!どうなってる!?
「オイ…さっきから口うるさいハエどもを叩いてるのは貴様か?おかげで目覚めてしまったよ。どうしてくれる?」
目の前に現れたのは俺より年上の女…だがなんなんだ?軍服みたいなデザインの服を着てるが随分と自分好みにカスタマイズしているようで、ジャケットはヘソを出しているスタイル。スカート…ではないな、黒いレザーのホットパンツ。もうほとんどビキニみたいな丈の短さだ。さらに太ももの半分位まで隠れている長いレザーのブーツ。右手には…日本刀!?コスプレというやつだろうか?それにしてもなんて扇情的な恰好をしてるんだこの女は…
「今の状況わかっているのか?さっきから人の体を舐め回すように見ているが。どうやらその目玉くり抜かれたいみたいだな」
「な、舐め回すようには見てないぞ!!そんな事よりお前は誰だ?俺に何をした!?」
いや、コスプレなんかじゃない。この女は紛れもない本物だ。
だが俺には奥の手がある。別に構えなきゃ能力が使えないわけじゃない。必要なのはイメージ…この女を倒す!右手は開くみたいだ。指先から電撃を出す!
……出ない?なんで!?さっきまでは調子良かったのに!!ヘリまで落としたんだぞ?
「ん?あぁ、お前は私の結界に封じ込めてある。貴様の能力がなんだかは知らないが、そう安々とは使わせないぞ?」
「け、結界?お前頭でも打って…」
違う。この女も俺みたいに能力を持っている?能力を持っているのは俺だけじゃ無かったのか!?
「くッ…結界がッ…なんだって言うんだ!ウォォォォォ!!!!」
無理やり電撃を出してみようとしたが…
「な!?私の結界内で能力を発現させただと?」
かなり体力を消耗してしまった。しかし右手に僅かな電気が出る程度だった。すると急に気が遠くなるような感覚に襲われた。
「焦らせるなよ…アンチVBBフィールド内で満足に能力を発現させる事は修行を積んだ者でも難しい。ましてや私が創り出した結界だ。SSランク能力者でも厳しいのに能力を発現させただけでもお前は評価に値するレベルだ。」
ぶ、ぶい…?えすえすらんく?何言って…あ、頭が…クラクラして……
「おい、そこで何をして…せ、青龍様!?どうしてここに…な、目標の少年がなぜここに!?青龍様が捕らえておられたのですか?お手を煩わせて申し訳ありません!!」
マズイ!!さっきの警官に見つかった!しかも…この女も警察関係者なのか!?なんだよとっくに詰んでたんじゃねえか……。
「先ほど応援を要請したところなので暫くすれば来るかと…それまでお待ちください」「いや、コイツはウチの会社で引き取らせてもらう」
「い、いや、さすがにそれは…大蓮寺総長がお許しにならないのでは…」
「私がやったといばなんとかなるだろう。何か問題があるのか?」
「い、いえッ!!何もございません!」
青龍というのがこの女の名前か…?今、俺を引き取るとか言ってたが、一体何を…?
それにこの警官の怯えよう…相当力のある人みたいだが………くッ…ダメだ…意識が持たな…
「では貴様を連行する。眠れ」
そう言われながら女が持っていた刀で首を殴られた俺はそこで、完全に意識を失ってしまった。