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Vaccine11 And one step steps forward

「すいません!!遅くなりました!イリーズは―――」

 大きな爆発音のあった外へ出るとそこにいたのは田中さんとリンナさん。

 そして・・・誰かと刃を交えているキルメさんだった。

 イリーズじゃなかった・・・気張って出てきたのに残念だ。

 しかしあの人は一体、何者だ?

「田中社長。そちらの方はどういった要件でこちらにいらっしゃるのでしょう?」

 キルメさんと対峙している女の人が口を開く。

 明るめの茶色でボブの髪型は、どちらかというと物腰柔らかで優しそうな人、という印象をもたらす。

「え、えーと彼はだね・・・」

 ん?俺の事か?

「貴様とゴチャゴチャ話している暇はない!お引き取り願おうか!!」

「仕事ですので・・・」

 ガギィ!!とお互いの刀と刀がぶつかり合う音。

 空気の震えがここまで伝わってくる。

 ただならない緊張感だ。

 しかし・・・キルメさんがいつもよりピリピリしているような?

「ハルタ君!ちょっと!」

「う、うわっ!」

 リンナさんが瞬間移動(テレポート)で俺を社内に転送させる。

「ったた・・・リンナさん、一体あの人は誰なんです?」

「少し厄介な人でね・・・彼女は『厚生労働省労働基準局VBB対策課』の職員さんで、まぁ、結構ウチの会社はお世話になってる人かな・・・アハハ」

「そ、そんな人が、今日は何の用事で?」

「んー・・・言いづらいけど、ハルタ君のせいっぽいかな」

 ―――え?




 外に出るとまだ二人は鍔迫(つばぜ)り合いを続けていた。

 俺が社内から出てきたのを見ると、女の人はキルメさんを刀で吹っ飛ばし、会社の壁に叩きつけられた。

「キルメさん!?」

 信じられない。

 四神の中でも重量級(言ったら殺されそう)と思われるキルメさんを吹っ飛ばすほどの力を持っているようには見えないのだが・・・。

「すみません。こちらも仕事なのでお手数かけたくはないのです。・・・では、あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 問いかけは耳に入ってこない。

 キルメさんがやられた事。

 そして今、目の前にいる女の人はキルメさんより強い事。

 怒りと悔しさと、そして闘争心が湧き出てきた。

 この人と戦うのはそれだけで十分な理由になる。

「・・・すみません。聞こえていなかったのならもう一度だけ言います。あなたのお名前を伺ってもよろしいですか」

「俺は『田中製薬警備部所属 天城ハルタ』!アンタこそ名乗ってもらおうじゃねえか」

「え、私ですか?『厚生労働省労働基準局VBB対策課 鹿ヶ谷(ししがたに)テル』と申します」

「テルさん・・・か。悪いけど今日は俺に用があって来たらしいな。ならなぜキルメさんと戦うんだ?」

 テルさんはえっ、と言わんばかりの表情を浮かべた。

「いや、それは――」

「問答無用!」

 バチィ!

 テルさんが答えるよりも先に俺が一閃を飛ばす。

 テルさんはそれを難なく避ける。

「問答無用と言われましても・・・」

「まだまだァ!」

 俺はテルさんに向けて一気に駆け出した。

「田中さん、どうしてあなたの周りにはこう、血の気の多い人が集まるのでしょうか?」

「さぁ・・・『類は友を呼ぶ』というやつですかね」

 ハァ、と溜息を一つつくと俺に向き直る。

「なら、武力行使でお話を聞いてもらうしかありませんね」

 納刀していた刀を素早く抜くと同時にビリっとした殺気を放ってきた。

 ――来る!!

 ドンッ!!

 何か動きが見えたから咄嗟に左腕でガード。

 鈍い痛みが残る。

「ぐっ・・・」

「ほう、私の攻撃を防御しきりますか」

 どうやら刀の柄で殴られたようだ。

 そうだ。忘れてた。相手は刀使い。

 対して俺は素手?

 いや、さすがにそれは分が悪いだろ。

「田中さん、アレ使ってもいいですか」

「ふむ・・・まぁ、初実戦ということでやってみるのも悪くないかな。許可しましょう」

「あざっす!」

 俺は腰に装着していた()()()()()を取り出した。

「これでお互いにエモノがある。ここにヤスナ先輩がいないのは残念だけど、俺の成長具合を見せてやるぜ!」

「ハルタ君いつの間に武器の修行を!?」

 リンナさんが驚いた顔でこちらを見ている。

「ヤスナ先輩との修行と並行して田中さんにも修行つけてもらってたんですよ!」

「ハァ・・・田中社長。わかってるんですか?届け出も無しにこのような事をしていいとでも?いくらあなたでもやって許される事と許されない事があるのですよ。始末書の山を覚悟しておいて下さい」

「アハハ」

 始末書?一体何の話だ?おそらく関係のない話だろう。

「よし!じゃあ行くぜ!」

 銃を二つ平行に構え、右左と交互に撃ち出す。

 的は絞った。修行通り上手く行けば当たる――はずだ。

「そんな単調な攻撃で、私を倒せるとでも?」

 ギギンッ!!

 鉄と鉄のぶつかる音。

 テルさんの足元に真っ二つになった銃弾が転がっている。

 秒速400m近い速さで撃ちだされる弾に刀を当てるだなんて、どんな視力してんだ・・・!

 まぁ、そうなるよな。キルメさんをぶっ飛ばすほどの実力者だ。ほぼ素人に近い俺の銃なんかに当たって倒れられちゃ、張合いがない。ただでさえ俺はイリーズと戦えると思って来たんだからよ。

「終わりですか?ならこちらから参りますよ」

 俺がニヤニヤしているとテルさんから挑発が飛んでくる。

 それはマズイ・・・接近戦に持ち込まれたら確実に斬られる!

「まだだっ!!」

 ダダダッ!!

 俺は焦って乱射した。

「何度やっても同じことです」

 ――ように見せかけた。

 さっきと同じように弾を切っていくテルさんだが、俺が最後に放った弾を切ると、握っていた刀を落とした。

 その両腕は痙攣しているようだ。

「!?何を・・・」

「わからないか?俺は電撃使い。撃ち出す弾に雷の魔脳力を乗せたのさ。そしてそれを切ったアンタは感電するって算段さ」

 名付けて『雷撃の一矢(アロー・エレクトロ)』だ!

「なるほど。考えましたね。ですが、いささか魔力(ちから)が弱いようですね」

 テルさんの腕の痙攣はすでに止まっている。

「もちろんこれで終わりなんかじゃないさ」

 俺は弾同士を直線で結ぶと大きな長方形になるように撃ち出す。

 そしてそれぞれの弾からそれぞれの弾へ電撃を流す!

 これが巨大な電気の膜!『電撃の壁(クリフ・エレクトロ)』!

「くっ!動けな・・・!」

 バジジジジジジ!!!

 大きく感電する音が聞こえた。

 煙が晴れるとスーツのところどころが破れた姿でテルさんが立っていた。

 クソッ、アレを食らってもまだ立てるのか!?

 次の攻撃を・・・!

「わかりました。もう結構です。天城ハルタ君」

 ――はい?


「ええ!?!?調査に来ただけ!?!?」

「はい、こちらに戦闘の意志は全くありません・・・ありませんでした。どちらかといえば私はあなた方、警備員労働者の味方で、田中社長のような経営者へ指導を行っている立場であります。最近、イリーズ殲滅任務で田中製薬への依頼があり、一緒に現場を訪れたVBB対策部隊員から『田中製薬の警備員が増えている。しかしそのような報告は受けていないし、知らされていない』という通報があったので参りました。」

 今は部署の応接室の中でみんなでお茶を飲みながら話している。

「じゃあなんで俺が外に出てきた時、キルメさんと戦ってたんですか?」

「そ、それは私がただ単にこの女が嫌いなんだ・・・!」

 うわなにその子供みたいな理由。

「そうですか、私は嫌いじゃないんですけどね。しかしハルタ君の最後の技の時、私の両足に結界を張って動けないようにしたのは、同じ刀の道に生きるものとして軽蔑します」

「ハッ。戦略というものがわからんのか」

 完全に負けてるよこの人~。

 戦士としても人間としても~。

 というか俺の力だけで勝ったわけじゃなかったのか・・・

 まだまだ技に改良の余地アリ、だな。

「というか田中さん。いつの間にハルタ君を修行つけていたんです?全然気が付かなかった~」

 リンナさんが問いかける。

「いや~、夜にみんなが寝静まった頃にですね。ハルタ君が皆さんをびっくりさせたいというものですから。彼が今習得するにふさわしい武器は刀剣類よりも銃火器の方がよいかと思いましてね。幸い私の専門ですから、教えるのもいいかと。まさかここまで早いお披露目になるとは思いませんでしたが」

「はい、そうなんですよ!田中さんめっちゃ射撃うまいんでビックリしました。どんな銃も扱えるし尊敬ですわ~」

 アハハと苦笑いする田中さんの横でキルメさんが俺を睨みつける。

「バカ者!!田中さんは現役時代は――」

「まぁまぁ、その話はまた今度で良いよ、キルメさん。それよりテルちゃん、ハルタ君のA.V.B.B.A.sへの入会手続きとE.R.O.Sの受験申請を頼みたいんだけど」

 ぶほっっ!!

 俺は飲んでいた紅茶を勢いよく吹き出した。

「ちょ、AVババアズのエロス!?何言ってんですか急に!?そんなの聞いた限りじゃ卑猥な事しか想像できないんですけど!!」

 アハハ、と笑う田中さんに爆笑しているリンナさんにハァ、とため息をつくキルメさん、そして真顔のテルさん。

「・・・|A.V.B.B.A.sアッバズというのはAnti Virus Brain Breaker Associationの頭文字をとったもので、VBBに対抗する為の組織連盟の事です。ここに所属していないとあらゆるVBB関連法の法的拘束力や法的加護が受けられないので警備員としての活動することが出来ません。E.R.O.S(エロス)はExterminate Rank Obedient Systemの頭文字をとったもので、簡単に言えば各々の強さを示すランク分けを行うというものです。ちなみにハルタ君の今の状態ですと連盟非認証者、かつレベル0ですので、本来ならVBB対策法に則り逮捕は免れられない状況なんですよ」

 え、ちょ、情報量が多くて頭が処理しきれない!・・・つまり?

「じゃあ早く活動できるように・・・色々やってくださいよ!」

「だから今それをお願いしたのね・・・」

 あ、すいません・・・。

「ただいま帰りました~!」

 ――ん?廊下から聞こえるこの声は?

「アレッ、ヤスナじゃん。どうしたの?まだお昼だけど」

 部署の扉から顔を出すリンナさん。

 どうやらヤスナ先輩が帰ってきたようだ・・・ってアレ?何か忘れてる気が・・・。

「どうしたのって、学校終わって帰って来たんですよ。今日から期末試験なので、帰りが早いんです・・・あれ?ハルタ、アンタ帰り早いのね、てかスーツなんて着ちゃってどうしたの?・・・アレ?テルさんじゃないですか、お久しぶりです」

「き、き、き、期末ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!?????」

 うっわ、全然知らなかった、修行に夢中で・・・

「え?もしかして今日学校行ってないの!?」

「どうやら申し訳ないことをしたようですね、ハルタ君。これは私が来たことが主な理由ですね。ここは私の権力を行使して君の落第をなんとか食い止めてあげますので気にしないで大丈夫です」

 サラッとものすごいことをおっしゃるな、テルさん。

「どんな権力持ってんだよ!って普段ならツッコんでますが、今回はお言葉に甘えまして全力で土下座してお願いします!!」






 防衛省防衛政策局VBB対策総括部にて。

「大蓮寺総長、連盟への入会認定書が届いております」

「おう、悪いな。さて、今度はどんな魔脳力者が発現した?・・・・・・これは」

 大蓮寺と呼ばれた男が目を見開く。

「・・・俺に黙ってコレは、流石に『四大守護人』と謳われたあなたでも。というかなんで気付かなかったかな、あの時(・・・)

 そしてグシャりと紙を握りつぶす。


「出張の準備だ、日帰りだがな。場所は 猫川市(・・・)田中製薬(・・・・)だ」


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