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Vaccine9 The darkness that each has

 クソッ!!なんで当たらねえ!?

「はぁああああああああ!!!」

 ビッビビッッ・・・バリイイイイイイイイイイイイ!!!!!

 まるでガラスが幾重にも立て続けに割れるような音がここ5階、格闘訓練室から鳴り響く。

「ちょっとちょっとアンタ!ロクに魔脳力の制御もできないのに適当な大技出すんじゃないわよ!」

「あ・・・すいません、ムキになっちゃってつい・・・」

 今は格闘訓練の最中だ。魔脳力を使って相手を倒しても意味がない。

 ヤスナ先輩との特訓を始めてから今日で1ヶ月が経つ。

 いまだに俺の拳はヤスナ先輩の体はおろか、服にさえかすりもしない有り様だ。

 確かに魔脳力の制御、及び脳力の底上げも重要な課題だ。しかし俺はこのヤスナ先輩との格闘訓練に様々な修行の中でも重きを置いている。

 というのも訓練を始めてから少し実戦に連れて行ってもらえる機会があった。

 しかし俺の行動といえば、遠くから電撃を放つだけだった。

 大した脳力も無いからイリーズはもちろん、イリナイアにさえ傷を負わせることもままならない。

 そんな俺が任務に連れて行ってもらっても足手まといになっているのは百も承知なわけで・・・

 だが脳力というものはそう簡単に上がるものではない。

 体力、筋力、精神力。その三つの要素が混ざり合ってその力を形成している。

 つまり基礎練習が大事なわけだ。絶大な力を持っている四神の四人の住むこの田中製薬に訓練所があるのもつまり普段から修行を行っているということだ。

 1人で行う各種筋トレや精神統一、瞑想といった修行より、より実戦的だとして2人で行う格闘訓練を特に重要視しているわけだが・・・けして日によってヤスナ先輩が胸元が緩いタンクトップ着てきたりほとんど下着のようなピッチリとしたショートパンツを履いてきたりして眼福だなんてニヤけてるわけじゃないからな!?そんな邪な気持ちを持ってたら集中できない!!

 リンナさんは「まだまだこれからよ~」と優しい言葉をかけてくれているが、キルメさんは「精進あるのみ」の一言。カグヤさんに至ってはなぜかダブルピースをしてくる。・・・彼女なりの激なのだろうか、全く読めない人である。

 一方ヤスナ先輩はというと何も言わず、何のアクションもせずに俺の特訓に付き合ってくれている。

 しっかし無言ていうのが怖いよな・・・実ははらわたが煮えくり返るほど苛立っているのかもしれない・・・。いっそ口に出してくれた方がマシだ。

 以前『私が面倒を見る』と言ってくれた以上、付き合わねばと思っているのだろうか、普段から真面目な人だし、それもあり得ない話じゃないよな。

「全く、ホントにわかってんのかしら・・・まあいいわ。とりあえず・・・」

「休憩ですね!やったーーー!!」

「うん、私はね。わ・た・しは。アンタは腕立て100回。片手腕立て各100回ね。それが終わったら全員分の食事の準備・・・っと、私はいつも通り朝は学校で食べるからお弁当と別におにぎり4つよろしくね。中身は鮭は絶対入れてよね、間違っても梅干しなんて入れるんじゃないわよ」

「あ、あんまりだ・・・!!!あんまりだーー!!!!・・・・・・ふぁい」

 ムリ。死んじゃう。

 そう呟いて床にガクッと倒れこんだ。


「みなさーん朝ごはん出来ましたよ~」

「・・・待ってました」

「うむ、腹が減っては戦はできんからな」

 読んでいた新聞をソファー前のテーブルにパサりと置いてカグラさんが食卓に着き、朝の一修行を終え、シャワーを浴びてさっぱりした顔のキルメさあああああああああああああああ!!!!!!!

「ちょおおおおおおおおおおおおおおおっと!!!!シャワー浴びるのは勝手ですけど浴び終わったらちゃんと服を着ろと何度も!!」

「私は気にしないが?」

「だから俺が気にするんだよッ!!ここは無法地帯か!?・・・あれ、リンナさんは?」

「・・・まだ寝てるね、昨日結構飲んでたみたいだし」

 まぁいつもの事だね、とカグヤさんが呆れた顔を見せる。

「ったくしょうがないな、俺起こしてくるんでお二方は先に食べててください」

「「モグモグ」」

 既に食っとる。


 コンコンとノックする。

 正直女の人として見てないけど体は成人女性そのものなので・・・やはり刺激が強いワケで、たまにあまり健全ではない光景がドアを開けると広がっているので確認としてノックは必須のものとなっている。

 コンコン。・・・ゴンゴン。・・・ドンドン!

「朝忙しいんだから一回で起きてくださいよ!!」

 たまらずドアを蹴破るように勢いよく開けて中へ侵入する。

 案の定布団が盛り上がっている。

 ・・・ホントダメな大人だなぁ。これでも起きないか・・・。なら押してダメなら引いてみろ作戦で!

「リンナさん。朝です。二日酔いですか?胃に優しいものにしたんで食べれると思いますから起きてくだ」

 ぬっと布団の中から手が伸びてきて俺の腕をつかみ、中へ引き込まれた。

「ちょ!リンナさん寝ぼけてるんですか、それともまだ酔ってるんですか!?」

「んん~・・両方かな~~あぁー起きたくないハルタ君抱き心地良い~」

 全く反応できないほどの素早い行動だった。これも日々の鍛錬の結果なのか・・・って何感心してるんだ俺!?

「いい加減にしてくださいよ!てか苦しいし!む、胸も当たってるし!学校行かなきゃいけないんですからこんなことしてる暇・・・」

「こんなことってひどーい!・・・ね、学校なんて退屈なとこ行かないでさ、このまま私とここで楽しいことしようよ?」

 そう言ってさらに強く抱きしめてくるリンナさん。た、確かに魅力的なお誘いだけど断らなきゃ・・・!

 てか胸に顔がうずまっちまって息ができない・・・!マジでっ・・・苦しい!!

 あ・・・なんか酸素足りなくてボーッとしてきた・・・今日はこのまま学校行かなくていいかも・・・

 と思っていると

「ゴズッ」という骨と骨がぶつかり合う鈍い音と「ぎゃんっ!」という聞きなれた、なんとも情けない悲鳴が聞こえ、俺は拘束されていた肉の枷から解き放たれる。

「・・・助かりました、キルメさん」

「まぁこんなことだろうとは思ったがな。あまりにも遅いんで私が来た。ハルタ、学校の時間は大丈夫か?残りの家事はこのバカにやらせるからお前は準備でき次第登校していいぞ」

「うわ、もうこんな時間か・・・すいません、じゃあ頼みます」



 行ってきまーす!とリビングに向かって声をかけつつエレベータに乗り込む。

 一階の玄関の守衛さんはこの時間には既に勤務を始めているので挨拶をし、駅に向かって歩き出す。

 もうこの生活には慣れ始めていた。初めはどうなることかと思っていたが人間、やれば意外となんとかなってしまうものなのだ。

 特訓のおかげで早寝早起きの生活リズムとなり、授業中に眠りの世界へ旅立つこともめっきり減った。

 また筋力もアップし体育で目立つ活躍をすることも珍しくなくなった。

 これだけで驚かれちゃ困る!記憶力、理解力もアップしたんだ!数学の少し難解な公式も一発で理解できるし、前よりも英単語がスッと頭に入ってくる!

 これも特訓のおかげだ特訓万々歳だな!!さらにやる気が出るってもんよ!!

 ということで俺は今サイコーに学校が楽しいんだ!今朝はリンナさんに誘惑されて少し堕ちかけたけど、なんてことはないな。

 よーし今日も一日頑張るんば~

 ・・・ん?あれ、横尾さんじゃないか?この時間に歩いてるなんて珍しいな・・・

「おーい横尾さー・・・ん!?」

 な!?横尾さんが女の子と歩いてるだとおおおおおおおおおおおおおっ!?

 あの万年無精ひげの見るからに高校生とは思えない風貌の彼女いない歴=年齢感丸出しの男性ホルモン(悪い方に作用してる)の塊のような男に女っ気があるだとおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?

 お、女の子だよな!?スカート履いてるけど女装男子、男の娘だなんてオチはないよな・・・?

 と言いつつそっちを期待してる俺がいるわけだけどさっ

 ・・・マ、マジか。そ、そっか~ついに横尾さんに彼女が・・・

 嘘だと言ってくれMy GOD!!!

 先越されたんですケド!!っべー俺が色々大変な事に巻き込まれている時に周りは青春してるのか・・・

 なんか帰りたくなってきたわ・・・いや、いいんだ!!俺の青春はあそこなんだ!

 今朝だってヤスナ先輩と一緒に特訓したんじゃないか!!確かにメチャクチャ厳しい先輩ではあるけど一般的な目で見れば女子高生で、顔も結構どころかかなり可愛いと思うぞ!?

 あくまで一般的な意見だけどな!

 さてさて・・・横尾さんの彼女のお顔はどんなかな??

 見るだけなら何の問題もないよな、声かけるのはまずいだろうけど

 銀髪ショートで・・・背は大体横尾さんとの身長差から察するに俺より少し小さいくらいか?

 あと重要なのは胸だ。俺は大きいおっぱいが好きです。いや、もちろん小さいおっぱいにも魅力はあるとは思うけどやっぱ大きいに越したことはないよな、夢が詰まってんだよ。って誰かが言ってたな。

 ・・・ちっぱいか、よーし。

 そして・・・おお、なんて引き締まった四肢なんだ。良いパンチやキックを繰り出せそうな・・・

 顔見たいんだけどこっち向いてくれないかな~

 おっ!ちょっと見えたぞ。少し猫っぽい目をしてるな。そしてぷりっとした赤い血色のいい唇だ。

 ん、なんかあの唇を見てると日々のヤスナ先輩の言葉の暴力が思い出されるんだが・・・ 

 って、あれ?????


「ただいま~」

「あ、お帰りなさいヤスナ先輩。夕飯できてますよ」

「さーんきゅ。荷物置いたらすぐに行くわ」

 タッタッタッタッと軽快な足取りで自室へ向かう。

「・・・ふむ。確かにここの所ヤスナの様子がおかしいとは思っていたが・・・まさかコレとはな」

 キルメさんが驚いた顔で言う。

「そうねぇ~あの堅物のヤスナに・・・相手の好みを疑うわ」

 と言って左手でOKサインを作り、その輪に右人差し指を出し入れし始めたリンナさんそれアウトな。

 まだそこまでいってないだろうとは思うよ!?

「・・・というか俺はそもそもヤスナ先輩と同じ学校っていうのを知らされていなかったんですがなんか理由あったんですか?」

「理由は知らんがヤスナに口止めはされていたな」

「えっ!?なんでですか?」

「だから理由は聞いてない」

 え、えぇ~~・・・・・・

 俺、もしかして避けられてたのかな・・・

「あーなんだか今日は一段と疲れた気がするわ~・・・あれ?みなさんどうしたんです?黙っちゃって」

 ヤスナ先輩が着替えを終えてリビングにやってくる。

「い、いただきましょう!いただきまーす」

 少しどよっとした空気を不信に思ってるな・・・

 かといって率直に話を切り込むこともできないし・・・

 俺もヤスナ先輩も思春期真っ只中。

 彼氏彼女、青春フルパワーなど言ってられない状況とはいえ、学校に行けば周りは一般人なのだから目や耳に入るのは当たり前。

 興味を持つのもおかしい話ではない。

 しかしこれはとてもデリケートな問題だ。

 やっとできた彼氏と朝、仲睦まじく登校していた様子を俺みたいな輩に発見され、まして事情を詳しく聞かれてみろ。そんなの俺だってキレるだろう。

 それがヤスナ先輩ならなおさら何をされるかわかったもんじゃない。

「も~誰も聞かないの?・・・ねえヤスナ!今朝・・・」

「リンナさんっ!!!」

 痺れを切らしたリンナさんがヤスナ先輩に彼のことを聞こうとするのを大声を出して制止する。

「それ以上は、いけない」

「わ、わかったわよ・・・ちぇーっ」

「・・・ハルタおかわり」

 この状況下でモクモクとご飯を召し上がってるカグヤさんはやはり大物か。

 ちなみに今日の夕食は回鍋肉とサラダ、ご飯とみそ汁。

 サラダにはオニオンチップスを擦りかけてある。簡単だけどオニオンがいいアクセントになっててうまいんだ。みそ汁の具はもやしと油揚げ。これはただ単純に俺が一番好きな具をチョイスしただけだ。



「・・・・・・・グッ!!!」

 鳩尾へ強烈なパンチが繰り出されたがすんでのところで軌道を変えられた。

 しかし完全には反らせず、脇腹へ食らってしまう。

「何?もう音をあげるわけ?今日は一段と気合が入ってないみたいだけど」

「ま、まだやれます!!」

 素早く起き上がり、ヤスナ先輩に飛びかかるように強く地面を蹴り、突進を開始する。

 そう。ヤスナ先輩の言う通り、俺は全く集中出来てなかった。

 昨日はほとんど眠れなかった。

 布団の中でずっと昨日の朝の事を考えてた・・・

 なんだろ、横尾さんに彼女がいたことよりも・・・ヤスナ先輩に彼氏がいたことにショックを受けてるような?

 そんなバカな。

 ヤスナ先輩は確かにいい人だけどそういう気持ちは抱かないぞ。

 でも、二人が歩いている、あの時のヤスナ先輩は楽しそうだった。

 あの笑顔を思い出すと、少し、胸が痛むのは確かだ。

 そしてその痛みは、今ヤスナ先輩に殴られた脇腹の痛みに比べるとずっと重く心にくる。

 そしてその痛みは、俺の心を支配しているような感じがした。


「あ、あああああああ痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!」

 すみません嘘です!!!!!!!!やっぱり脇腹の方が痛い!!!!!!!!!!!

「ちょっと動かないでくださいね、すぐに治してあげますから」

 特訓の後、学校で一日過ごし、しばらくしても殴られた脇腹が痛み続けたから田中さんに診てもらったところまさかの肋骨が折れていたということが判明した。

 人体というのは不思議なもので、ケガをしたと知った瞬間に痛みを感じるのだ。

「それにしても折れるほど強く殴らなくてもいいじゃないか、ヤスナちゃん」

「すいません!田中さんの御手を煩わせてしまって・・・脳力を使わせてしまうことになるとは」

「でも田中さんがいてくれるおかげで特訓もガッツリできますね!骨が折れても、腕が飛んでも、足がもげても元通りだし!」

「バカ言わないで。田中さんにむやみに脳力(ちから)を使わせるわけにはいかないの」

 ハハハと笑う田中さんの後ろからヤスナ先輩が鋭く言う。

 しかし田中さんは 大丈夫だから とヤスナ先輩を落ち着かせようとする。

「ですが、田中さん!」

「私はどちらにしろ長くはないよ」

 田中さんが言う。その言葉の意味はけして明るいものではないにもかかわらず、本人の目はどこか強く、燃えるような希望に溢れているようだった。

「それに・・・何のために"彼"が君たちを私のところに寄越したんだと思う?」

 ・・・"彼"?誰のことを話してるんだ?

「・・・ッ!あんな人、私は何とも思ってないです!未練もありません!私達の・・・私のお父さんは田中さんだけなんですだから・・・そんなこと言わないで・・・」

 突然泣き出し、そのまま床へ座り込んでしまう。

「ヤ、ヤスナ先輩!俺には何の話かよくわかんないですけど、とりあえず落ち着きましょ?ね?」

 するとヤスナ先輩はキッとこちらを睨みつけ、バタン!と扉を閉めて部署を出て行ってしまう。

 しばらく続いた沈黙を破ったのは田中さんだった。

「すまないね、騒がしくしてしまって。骨に響いたかい?」

「いえ、それは大丈夫ですケド・・・」

 田中さんがおっしゃった"彼"とは一体誰ですか?

 と、聞こうとしたのだが、なんだかあまり踏み込んではいけない話題のような気がしたので俺はそれ以上話すことをやめた。

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