9/15
夜逃 泰三(2)
ああ、懐かしいな
夜逃 泰三は、かつての自分の城を目の前にして、ノスタルジーを感じていた
右手にはガソリンの携行缶を持っている
正面玄関には鍵が取り付けられて、中には入れない 当然か
軽くため息をつき、ぐるりと家の周りを一周してみる
枯れた草が伸びている
ここにガソリンをかけて、火をつければたちまち家を燃やして、何もかも灰にしてしまえるだろう
思えば、こんなことになってしまったのも全部自分が悪いんだよな
できもしないのに、見え張って事業を拡大だなんて 今から考えたら、かなり無茶な計画だった
裏口の鍵を取り出すと、ものはためしと鍵を回してみる カチャリと錠が外れる音がした
中は空気がよどんでいる、カーテンを開けてみる、隣の家が見える 料理でもしているのだろう 主婦が忙しそうにしている