夜逃 泰三(1)
はあ、失踪して1年がたつな
夜逃 泰三はタバコをふかしながら、自分の家族に起こった不幸を思い返していた
あんな家買わなきゃよかった、と思わない日はない
家族を養うのは男として当然の仕事だと思い、がんばって頭金を用意したあの家、あの家こそがそもそものけちのつきはじめだ
あそこに住みはじめて、すぐに体の調子が悪くなった シックハウス症候群だと 切ないよな
せっかく手に入れた、念願の家のせいでこんなことになるなんて
家族はバラバラだ
事業もそれまではかなりいい線いっていたのに
彼は農家の生まれであった 何不自由なく、田舎でのびのびと育ち、結婚し都会育ちの娘を見合いでもらうこととなった そして、結婚を期に事業を、街での商売へとシフトさせることにしたのだが、うまくいかない
田舎での常識が一切通用しないのだ
そして破綻、仕事、負債、街、家族、あの家、すべてから逃げ出した
そして今は清掃会社で働いている
ピカピカに掃除してやると、自分の精神まで浄化されるような気がして、さわやかな気持ちになるのだ
いつか、あの家を、あの忌まわしい家を、完璧に綺麗さっぱり・・・・
してしまうのが目標だ
掃除機をかける、チリひとつ落ちていない、うむ
今日も仕事は完璧だ、と満足げに岐路に就いた