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Xenoverse  作者: 葉月はつか
phase three : phototaxis
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第82話  Garden where a white pretty flower blooms

 アルヴァルディの皆やメリエル達のお蔭で立ち直ることが出来た鳴鳥。彼女ならもう大丈夫だろうと安心したメリエル達は、翌日に朝食を終えた後にスティングの運転する車で学園へと戻った。まだ彼女達と一緒に居たい気もする鳴鳥だが、このアルヴァルディは連合軍所属の船であって、いくら軍学校に在籍しているとはいえ易々と招き入れてよいものでもなく、彼女達にも学業がある。現在は先の実地訓練の際に巻き込まれて遭難した事により、負傷した者や精神的に参ったものが居てまともな授業が行われていない上に、マギイストやエルンストの事もあって学園全体が休校状態に、卒業間近の者達は部隊編成に組み込まれるなど、慌ただしくて学園は機能を果たしていない。それでも学生の身分ではフラフラとしている訳にはいかないのだろう。メリエル達も別れを惜しみつつ、アルヴァルディを去った。


「いい、なっちん。あの男が帰ってきたら、必ずアタシ達を呼ぶんだよ」

「メ、メリエル?まさか…」

「勿論。ナトリを泣かせたことを後悔させてあげるわ」

「マ、マイアまで…」

「当然ですわ!ナトリの手を煩わせる事はありませんわよ。わたくし達が罰を下すのですから」

「レーヌも…!お願いだから、手荒な真似は止してね」


 別れ際に物騒な事を言うメリエル達。彼女達に詰め寄られるジルベルトの姿を思い浮かべて困ったように笑う鳴鳥だが、皆がここまで想っていてくれる気持ちは嬉しい。程々にと言いつつも感謝の気持ちを伝え、そして約束をする。それは今度何かあったら必ず相談すると、もう一人で抱え込んだりしないというものであった。




第82話  Garden where a white pretty flower blooms




 メリエル達が去り、台風が去ったかのように穏やかな様子のアルヴァルディ。鳴鳥はここ数日間、皆へと心配をかけた事を改めて謝る。申し訳なさそうに顔を伏せさせていた鳴鳥だが、彼女が気に病む事は何一つないのだと、皆は口々に言った。鳴鳥が元気を取り戻しているならばそれで良いと、皆の気持ちが嬉しくて涙ぐみそうになった鳴鳥だが、ぐっとこらえて今為さねばならない事をと話を進めた。


「あの…久城センパイ、ヘニング団長と連絡を取りたいのですが…」

「セリアさんとの話の事だよね。それじゃ、この後にでも連絡を入れようか」


 鳴鳥が落ち込んでいて迷惑を掛けたのはアルヴァルディの皆だけでなく、ヘニングにも負担が掛かっていた。彼にはセリアが鳴鳥との対話の場を望んでいたのを待っていて貰っていた為、非常に申し訳無い気持ちで一杯の鳴鳥であった。

 昼食後に特務部のヘニングの元へと通信を繋いだ久城と鳴鳥。真っ先にこの間の非礼を詫びる鳴鳥であったが、ヘニングも皆と同じように鳴鳥が立ち直ってくれたのならばそれで良いと、咎めることは無かった。彼からはセリアへと連絡を入れた後に折り返し日時と場所を知らせると言われ、通信はそこで終わった。

 ヘニングから知らされた日時。その日鳴鳥は星団連合軍の軍服を身に纏い、キッチリと身なりを整えてから目的地に向かうための車に乗り込む。運転手はアランが務め、車は連合本部ではなく、ガルレシアの首都リヒト・ヴォールの中央区。軍関係者でも普段は立ち入ることが出来ない場所、広大な土地にそびえ立つ居城。アストリアの王が居を構える王城がセリアとの対話の場を設けられた場所であった。

 この宇宙の中心とも言えるアストリアの城だけあって、荘厳であって美しさは言葉にし難い程である。巨大な水晶を思わせる城。本来ならば王が居る筈のそこには王が不在で、城から離れた塔に王は軟禁状態で暮らしていた。

 鳴鳥達は案内人を務める者の先導に従い、城ではなく王が住まう塔へと向かう。

 街の喧騒から離れた厳かな雰囲気に飲まれた鳴鳥は、車の運転だけでなく付き添いも兼ねたアランと共に庭園を歩く。落ち着きがなさそうに、常に視線を彷徨わせる鳴鳥とは違い、流石にアランは落ち着いていて、と言うよりも落ち着き過ぎていて勝手知ったる場所のように戸惑うことなく歩いていた。

 塔の最上階。そこには分厚い扉があって、来客に反応し、自動的に扉が開く。

 城の周りにも立派な庭園があったが、塔の最上階にも先程とは引けを取らない程の美しい庭園が広がっている。緑溢れる庭には白く可憐な花が多く咲き誇り、天井からは陽の光が差し込む美しい一室であった。その部屋の主たるアストリアの王、ディノスは大柄な体躯に似合わないようなティーカップを持って茶を楽しんでいたようだが、来客に気が付き立ち上がる。


「おう、よく来たなお嬢ちゃん」

「え、あ、えっと…ほ、本日はお招きに預かり真に光栄でありまして―――」

「ああ、肩っ苦しい挨拶はナシだ、無し。ミリアムとセリアの嬢ちゃんは今席を外していてな。も少ししたら来るだろうから、それまで待っててくれ」


 そう言いながらディノスは緊張で固まった鳴鳥の肩を抱き、席に着かせる。セリアとの話に彼が同席するとは聞いていなかった鳴鳥は何がなんだかよく分からないようで混乱していたようだが、ディノスが茶を淹れようとしたのに気が付き慌てて止めに入る。気さくそうな態度に、厳つい顔であるが笑みを浮かべていて、とても親しみやすいのだが、彼はこの星の本来の代表者であって、そのような者に茶を淹れさせるわけにはいかない。客人をもてなすのは当然だと言うディノスを何とか言いくるめ、鳴鳥は三人分の茶を淹れた。


「おお、嬢ちゃんの淹れたお茶、中々じゃねぇか。ミリアムといい勝負だ」

「お、お褒めに預かり、光栄でございます」

「あー…だから、そんなに畏まらなくったっていいっての。なぁ、アラン」

「ええ。ナトリさん、この方にはそこまで構えなくても良いですよ」

「え…!?」


 ニコニコと笑みを讃えるアラン。彼はディノスの前ででも平然としており、呑気に紅茶を味わっている。肝が据わっている…と言うよりも、ディノスの態度から、どうやら二人が旧知の仲であるかのような様子であった。


「あの…お二人はお知合い、なのですか?」

「ええ、まぁ」

「と、言うよりかなぁ」

「…?」


 へらへらと笑うディノスに、困ったように笑うアラン。ティーカップをソーサーに置いたアランはディノスに目配せをした後、何故二人が旧知の中であったのかを明かす。実は…とアランが切り出した内容。それは驚くような事で鳴鳥は何度も目を瞬かせた。


「お二人が…親子…ですか?!え、えっと、という事はアランさんは王子さまって事に―――」

「それは無いです。僕の存在はごく限られた人にしか明かされていませんから」

「そう…なんですか…」

「正確に言うとアランは俺とミリアムの遺伝子で作られた者で、普段は俺の目になって貰っていたんだ」


 ディノスとミリアムの関係は、あの議会での彼の様子からなんとなくは分かっていた。それでも二人の間に子どもがいるとは、しかもそれがアランだったとは思いもよらなかった。混乱しかけた鳴鳥であったが、アランとディノス、二人の髪の色は似ていて、アランの優しげな顔立ちはミリアムとよく似ている気がしないでもない。

 アランが以前、鳴鳥に話したいと思っていた内容。それがこの事らしく、彼は隔離されて自由に動くことが出来ないディノスの代わりに外の世界を見ていて、そしてもう一つの役目を請け負っていた。


観測装置オブザーベイションシステムの代役…ですか?…という事は、まさか―――」

「そうです。僕は船長の、ジルベルトさんの行動を監視してきました」


 ARKHED(アルケード)の契約者には観測装置オブザーベイションシステムというエルンストが作り出したホムンクルスがその行動を監視する為に傍にいる。本来ならば、ジルベルトの傍にもその役目を担った者が居たはずなのだが、訳あってアランが代役をしていたらしい。

 驚くような事ばかりで頭の整理が追い付かない鳴鳥であったが、ふと申し訳なさそうに表情を曇らせたアランの姿が視界に入り、現実に引き戻される。


「騙す様な形で申し訳ありませんでした」

「い、いえ…。私の事は良いんです。それよりもジルベルトさんはこの事を…」

「既に話してあります。まぁ、船長は僕の事など全く気に掛けていないで…と言うよりも、それどころではなかったようですから、アッサリと流されてしまいました」

「そ、そうですか…」


 ここ最近のジルベルトの様子から察するに、アランが正体を明かした時の様子が見て取れる。何か思いつめていたジルベルトであったが、例えそうでなくても、彼ならばアランを責めたりはしないだろうと鳴鳥は思っており、アランもまた、ジルベルトの事を信じていたようで明かす事に躊躇いは無かったそうだ。


「役目は終えた形となりましたが、一応僕は特務部所属のいち軍人ですので、今後ともよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ。アランさんにはいつもお世話になっているようで…。これからもご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」


 互いに謝りあって、今後ともと挨拶を交わす。それは妙な気分なのだが、常に気を遣う二人にとっては当たり前の様な事である。

 アランの話を終えてから程なくして、今日ここを訪れた理由である人物。セリアがミリアムと共に室内を訪れた。


「ごめんなさい、お待たせして」

「い、いえ。お待たせしたのはむしろ私の方ですので…。返答が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」

「ううん、良いのよ。大体の事情はヘニングさんから聞いているから」


 セリアが先に席に着き、ミリアムが茶を淹れようとしたが、そこはやはり彼女の手を煩わせる訳にはいかないと鳴鳥は名乗り出て、皆の分を用意する。忙しくしていた後の紅茶はホッと一息つくらしく、セリアとミリアムは肩の力を抜いてリラックスした様子であった。


「それにしても驚きました」

「私の言った通りだったでしょう?」

「そうですね」


 一息ついた所でミリアムは改めて感心したと、鳴鳥を見ながら頷く。そしてセリアは少しばかり得意げに、ミリアムへと笑みを向けた。二人が何を言っているのか、全く思い当たらない鳴鳥は首を傾げていて、そんな彼女にミリアムはセリアと何を話していたのかと明かす。


「ナトリさん。ディノスの枷は存じているのですよね」

「あ、は、はい…。って、あれ、そういえば―――」


 ディノスのARKHED(アルケード)契約時に架せられた枷は周囲に居る者達の感情を操作するもので、主に憎しみや妬ましく思う気持ちなど、暗い感情を増幅させる厄介なものであり、彼が戦場に出れば戦況は悪化し、平和な土地に争いを招いてしまうのであった。今ではその力が肥大化し過ぎてしまった為、この塔で軟禁生活を送っていたのだが、マギイスト人のセリアや観測装置オブザーベイションシステムのミリアムや彼女と同等の存在であるアランはともかく、鳴鳥はごく普通の人であって、本来ならディノスに近づいた途端、精神に異常をきたす筈であった。それがどういう事か、鳴鳥は全くもって普通に接し、今の今まで何ともなく居られたのであった。

 枷の影響を受けないとなると、鳴鳥が思いつくのは一つの事で、喜ぶようにその可能性を口にしたが、ミリアムは残念そうに首を横に振った。


「も、もしかして、ディノス陛下の枷も…」

「残念ながら、そうではないのです」

「そ、そうでしたか…。だとしたら、何故、私は…」

「それはね、貴女が他の人とは違うという証拠なの」


 鳴鳥の問いに答えたのはセリアであった。彼女から他の者とは違うと言われた鳴鳥。自分が特別な力を持っているなど、思いもよらずに戸惑い、実感が湧かない。今まで皆に助けられてばかりで、自分の無力さを何度も思い知っていただけに、セリアの言葉はにわかには信じ難く、自分では無意識のうちに懐疑的な表情を浮かべてしまっていた。


「マギイストから逃れてきて、この果てのない宇宙で、私はどうにかエルンストや賢者達を止める為の手立てを探してきたの」


 たった一人で見知らぬ土地で、肉体を失っていてもなお、エルンスト達の暴挙を止める為に彷徨っていたセリア。彼女はアストリアから離れた果ての果て、辺境の宙域にて強い力に惹かれて、その星に降り立った。

 意志の力で動くARKHED(アルケード)。魂だけの存在となり、機体と同化していたセリア。彼女の存在だけでも充分にARKHED(アルケード)はその力を振るうことが出来たが、搭乗者が居れば、更なる力を得る事が叶った。


「私は、貴女の力に惹かれて貴女の母星に降り立ったの」


 それは鳴鳥にとってこの宇宙を巡る事となった始まりの切っ掛けであり、偶然と必然が重なり合った出会いであった。






 アストリアから遠く離れた宙域を航行する商船…に見せかけた星団連合所属の船、真紅のボディに黒いラインが入ったその船はエアヴェルメンという名で、ジルベルトが降り立った新たな配属先であった。

 ハンガーに機体を収め終わり、機体から降りた頃にはこの船の船員だろう者たちがわらわらと集まってきており、ARKHED(アルケード)を物珍しそうに見ていた。

 人波を割って進み出たのは40代そこそこの男で、もみあげから顎までびっしりと髭を生やし、色付きグラスを掛けた彼は陽気な声を上げてジルベルトを迎え入れた。


「ようこそ、掃き溜めに中の掃き溜めに!」

「…本日付より第13部隊に配属となりました、ジルベルト・ジャンディーニと申します」

「おいおいなんだぁ、その肩っ苦しい挨拶はよぉ。今からお前も俺達と同じ釜の飯を食う仲になるんだから、遠慮はナシだぜ」

「…はぁ」


 いきなり肩を抱き、馴れ馴れしくする男、ドナート・ダビット。彼はこの船の船長で、ジルベルトの上官となる。

 歓迎されず、過去の過ちから忌避の目で見られたりすることは慣れており、覚悟もしていたジルベルトだったが、逆に熱烈な歓迎を受け、暑苦しい男に絡まれてしまい、とある人物を思い起こしてウンザリとしていた。

 あからさまに嫌そうな顔をしているジルベルトに気づいていないのか、はたまた気が付かないフリなのか。ドナートはジルベルトの肩を抱いたまま、早速歓迎の祝杯を上げるぞと言いながら引きずるようにしてジルベルトを連行しようとする。どうしたものかと、一応上官に着任早々逆らうのは良くないと思い諦めきって大人しくしていたジルベルトだが、ラウンジに向かって歩いていた彼らの前に一人の女性が立ちはだかる。


「もう、船長!新入りが困っているじゃないの」

「んあ?そんなことは無いぞ。なぁジル、そうだろう?」

「…はぁ」

「ほらやっぱり、嫌そうな顔をしているじゃない。全く…。船長じゃ話にならないから、あたしがこの船を案内するわ」


 馴れ馴れしいドナートからジルベルトを解放したのは、この船の船員であり、ARKS(アークス)操縦者であるカリナ・カランカであった。健康的な褐色肌にサッパリとした青髪のショートカット、出るとこは出ていて引っ込むところは引っ込んでいるスタイルに、露出の多い服装で少々目のやり場に困る所だが、ドナートの対応に困っているジルベルトを助けるなど、気が利く女性のようだ。

 気をよくしていたドナートは割入ってきたカリナに対しムスッとしたように不機嫌さを露わにしていたが、彼女に逆らう事は出来ないのだろう。それならば任せると言いつつも、ニヤニヤしながら探りを入れてきた。


「そう言って物陰に連れ込んでしっぽりと決めるんじゃないのか」

「は…?」

「やだもう!来て早々はいくらなんでも無いわよ」

「ほう。なら夜には歓迎も兼て一発やるのか?」

「それは相手次第だけどね」


 カリナとドナートのやり取りにゲラゲラと笑う粗野な男達。何やら下品な会話での洗礼であるが、ジルベルトは動じるようなタマではない。カリナ達の会話はアッサリとスルーして案内を頼むと言い、話を終わらせた。

 色気に惑わされる事も無く、誘いに乗ることは無いジルベルト。一見して愛想のないようだが、カリナは大そう気に入ったらしく、腕を絡めて引く。


「それじゃ、行きましょう」

「お、おい…っ」


 ジルベルトが戸惑いながら声を掛けても気には留めず、カリナはズンズンと歩みを進める。意識などしないと思っていたジルベルトだが、腕を組まれ、柔らかな感触を押し付けられてしまえば意識せざるを得ない。暫く歩いた先でジルベルトは立ち止まり、腕を軽く払って拒否の姿勢を表すが、カリナは全く動じる様子を見せなかった。それどころか彼女は何処か見透かしたかのように上目遣いでニッと笑みを浮かべて探りを入れてくる。


「あ、もしかして、彼女が居るとか?」

「…彼女」


 そう言われてジルベルトは今でも愛しく想う者の姿を思い浮かべる。それでもここに来るにあたって彼女に対しては何も説明できず、更には自分の欲望を満たす行為をした上で置いてきてしまった。そのような彼女を恋人であると言えるのか、返答を考えあぐねていると、カリナは全てを悟ったように肩を落として苦笑する。


「まぁ、ここに来たからには当分その彼女と会えない訳だし、その間は仲良くしましょう」

「…仲良く、って。俺はそういった事に興味は無い」

「そうなの?そういう事、好きそうな感じだと思ったのに。残念だわ」


 簡単に諦めてくれたようであったが、ニヤリと笑うカリナはその気になればいつでも歓迎だと言い寄ってくる。いい加減ウンザリだと、相手をするのが面倒になってきたジルベルトはキッパリと必要ないという意思表示をするが、カリナは相も変わらずあっけらかんとしていた。


「浮気だなんて思わなくていいのよ。初回はタダだけど、二回目からはキッチリとお代を頂くし。あ、でも、あなたはあたしの好みだから、二回目以降も安くしてあげるわよ」

「…お前、まさかこの船で自分を売っているのか?」

「そうよ。だって刑期短縮の為にはお金を稼がなきゃだし」

「…」


 さも当然の事のように言ってのけるカリナ。彼女もまた、特務部所属という事で前科者であって、ジルベルトと同様に刑期があり、金を稼いで収める事により刑期を短縮することが出来るようだ。いくら金の為とはいえ、自分の身体を大事にしない彼女の考えは褒められたものでは無いが、生活の為にその身を犠牲にする者はいくら技術が発達した世の中でも存在する。彼女の生き方を否定はしないが、自分には必要ないのだと、ジルベルトはハッキリと断った。


「もしかして、あたしみたいな誰とでも寝ちゃう女はお嫌い?」

「いや、嫌いではない」


 豊満なボディにあどけなさが残る顔立ち。ジルベルトの好みから外れている訳ではなく、過去にそういった店に行った事が無いわけでもない。けれども今はそういう気分にはなれず、まだ身体が憶えている感触を上書きしたくなくて、カリナの誘いは断った。


「ふーん。…まさか、あっちの気があるって訳じゃないでしょうね」

「…勘弁してくれ」

「そうなんだ。ま、気が変わったらいつでも言ってね」


 船長のドナートといい、今現在船内を案内して回るカリナといい、アクの強い者達の部隊へと配属されたジルベルト。着任早々洗礼とも言える歓迎を受ける彼だが、ドナート達に振り回されている場合ではない。ジルベルトはこの辺境宙域を航行する船に乗船した理由を改めて胸に刻み付けた。






 たった一人で別次元の世界、マギイストの者達と戦う事を決めたセリア。彼女は鳴鳥の持つ力に惹かれて地球に降り立ったという。彼女に言われて鳴鳥が思い起こすのは真っ白な世界で聞いた声で、よくよく振り返ればあの時に聞いた声は今対面している彼女の声に似ていた気がする。


「やっと見つけることが出来た。けれども貴女はあの時、危機的状況にあって、私は貴女を救い出すのに精いっぱいだった」


 セリアが鳴鳥と接触を図ったと同時に、地球は忽然と姿を消すように消滅した。それは怒りの感情に囚われていた久城がARKHED(アルケード)の力を振るった結果だった。

 鳴鳥が助かったのはセリアの力によるものであり、その後フェルスボウデンに転移したのは不安定な状況下で力を行使した結果であった。転移のポイントがずれたセリアのARKHED(アルケード)と鳴鳥。直ぐにでも回収に向かおうとしたセリアだが、星を一つ消し去る程の力を防いだ上に転移の力を行使し、ARKHED(アルケード)の力は限界を超えていた。直ぐにでも力を回復するには精神結晶(ゼーレクリスタル)の力を使うしかなく、運よく巨大な結晶をレーダーで捕捉し、力を得ようとしたが、そこで現地の者達に存在を知られてしまい、更には鳴鳥がジルベルトと接触をしてしまった事により、回収に向かうのが困難に陥った。その後、何の因果か再び鳴鳥はセリアのARKHED(アルケード)と再び会い見え、その力を得ることになるが、彼女の隣にはジルベルトが居て、彼にも監視の目があり、派手な行動は起こせずにいたそうだ。


「その時はまだ、ミリアム達はエルンストに忠誠を誓っていたから。私はただ動向を見守る事しか出来なかった」


 地球からフェルスボウデンへと転移した時。何が起こっていたのかは理解できた鳴鳥だが、何故自分が選ばれたのか、それは未だに理解できない。強い力とセリアは言ったが、鳴鳥は終始ARKHED(アルケード)の力に振り回されていて、軍人であるジルベルトに敵わないのは当然として、同じ地球人で、これまで機械兵器に搭乗した事のない筈である久城にもとても追いつけない。鳴鳥が疑問を抱いていて、彼女が問おうとする前に、セリアは柔らかな笑みを浮かべてその力が何であったのかを明かす。


「貴女は他の誰よりも強い意志の力を秘めている。それは真っ直ぐでいて、淀みが無くて、闇に落ちた者を救い出す様な光を放っていて…。こちらの世界では認識できる者が稀なのだけれど、マギイストでは相手の精神力を見極めることが出来るの。そしてあなたの力はこれまで見たことも無い程に凄い力を秘めているわ」

「そんな…私にそんな力があるなんて、信じられないです」

「それも無理は無いわね…。だけど、これまでの出来事で身に覚えがあるんじゃないかしら。…そう、例えば、精神結晶(ゼーレクリスタル)を使った時に、力が暴発するとか」

「そ、それは…確かに。あったかも知れません」


 それは任務中、水浴びをした後に髪を乾かす為、ジルベルトから熱風を起こす為の精神結晶(ゼーレクリスタル)が填め込まれた指輪を借りた時、思うようにコントロール出来ずに危うく火傷を負いかけたのだった。思い返せばその事だけでなく、スティングから贈られた餞別の品であるナイフにも精神結晶(ゼーレクリスタル)が填め込まれていて、藪を刈ろうとした鳴鳥は大木を真っ二つにしてしまったのだった。

 思い当たる節が無いわけではないが、どれも失敗した時のように思えて、いまいち実感が湧かない。口から洩れるのは自分を卑下する言葉ばかりであった。


「そ、それでも、私は何時も皆さんの足を引っ張ってばかりでいて…。ARKHED(アルケード)はちゃんと乗りこなせていなくて…」

「それはあの機体が意志で動く物だから。ARKHED(アルケード)に搭乗する場面はほとんどが戦場で、誰かと対峙する時であるから。ナトリさん。貴女は強い力を持っていても、優し過ぎるから。だからARKHED(アルケード)に搭乗した時には力を発揮できずにいるようね」

「あ…」


 テレンティアと戦う事となり、ジルベルトに訓練に付き合って貰った際、彼にも指摘された。鳴鳥は敵の事を意識しすぎていると。シミュレータでは克服して、その後何度か戦場も経験して、完全に乗りきったつもりでいたが、やはりまだ心のどこかに躊躇う気持ちが残っていたようだ。


「貴女が本気の力を出せれば、エルンストだけでなく、マギイストの賢者達をも退けられるかもしれない。無関係だった貴女を巻き込んでいて、戦う事を望んでいない貴女に戦う事を強いるなんて酷な話だと分かってはいるわ。だけど今は貴女の力が頼りなの。虫の良すぎる話だけれど、力を貸してはくれないかしら」


 ミリアムとディノスの危機的状況を救ったセリアが、自分よりも遥かにARKHED(アルケード)を乗りこなせている彼女が、自分に助力を求めている。己の力が未だ信じられずにいる鳴鳥にとって、セリアの言葉はどう答えて良いか分からず、直ぐには返答できずにいた。この世界を守る為ならば、自分が力になれるのならば、勿論協力はしたいと思う反面、また足を引っ張るような真似をしてしまうのではという恐れがあって踏み出せずにいる。

 鳴鳥が思い悩んでいる様子に、セリアはふっと微笑み、直ぐに答えを出す必要が無いと言うが、それは気休めだと、本当はすぐにでも答えを望んでいるのだと分かる。エルンストがいつ襲撃を仕掛けてくるか分からない状態で、悠長に事を構えている場合でないのは鳴鳥も十二分に分かっていた。それでも返答は出来ずにいた所、セリアは鳴鳥へと小型通信機を貸して欲しいと言われ、言われた通りに手渡すと、セリアが持つ端末と繋げて操作をした。


「これで貴女の端末から何時でもARKHED(アルケード)を呼び出せるようにしておいたから。もしもの時は、遠慮なく使ってくれて構わないわ」

「そ、そんな…!私では何も―――」


 何も出来はしない。そう言った筈だが、セリアは鳴鳥の力を信じているようで、終始期待の眼差しを向けていた。






 セリアの話が終わり、暫くの間、他愛も無い話と共にティータイムを過ごした鳴鳥。一時間程経った頃、セリアとミリアムは再び職務に戻るとの事で、鳴鳥とアランはアルヴァルディに戻る事となった。

 車に乗り、少し走らせたところで鳴鳥の緊張はようやく解け、そして溜息を吐くと共に先程セリアに言われた事を思い出し、また気持ちを沈ませた。視線を落としつつ未だ考えあぐねている鳴鳥の様子に、アランは穏やかな笑みを浮かべて問いかけてくる。


「決して悪い話ではないように思いますが…。やはりまだ覚悟はできませんか」

「…はい。やっぱりどう考えても、私には相応しくないとしか思えなくて…」

「ですが、セリアさんがあそこまで言うのですから、もっとご自身の力を信じてみても良いのではないですか」

「そう…ですけど。まだ実感が湧かなくて…」


 アランもセリアと同様に直ぐに答えを出す必要は無いと言ったが、やはりうだうだと考えている暇は無い。明日にでもエルンストの襲撃が仕掛けられるかもしれないと思うと、早く答えを出さないと、と焦りは募る。こんな時にと思い浮かぶのはジルベルトの姿で、彼ならばどう言ってくれただろうかと、鳴鳥はぼんやりと流れる景色を見つめながら考えを巡らせた。




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