苦手な食べ物ほど食べてみると意外に美味しかったりする。
朝、俺は何事もなく起きた。昨日の出来事が嘘みたいな、静かな朝でした。
「やっぱり昨日の事は夢だったんだなぁ。そりゃあそうだよな!こんなご時世に獣人なんているはずがーーーーーー」
などと独り言を言っていると、台所の方から物音が聞こえた。
「………、ど、泥棒か!?人が寝ているすきにぃ!取っ捕まえてやる!!」
俺は、意を決して台所に飛び込んだ。そして犯人らしき人物の体を拘束した。
「さあ、観念しろぉ!!ってあれ?この匂いは昨日嗅いだような…」
「もぉ、なにすんのよ!海翔!寝ぼけてるんじゃなぁい!」
この声も昨日聞いたような…それに、このナイスな感触も昨日触ったような……
「こらぁ!海翔!どこ触ってんのよぉ!!キャァァ!!!ーーーーーいい加減にせんかぁ!!!!」
『ガンッ!!』という鈍い音が俺の頭から響き渡るのを感じた。そしてそのまま俺の目の前が真っ暗になった。
「……と…!」
「…いと…!」
俺を呼ぶ声が聞こえる。凄く心地よい声だ。もう少し聞いていたいような…そんな声だ。
「海翔!ねぇ、海翔ってば!起きてよぉ!ねぇったら!」
目を開けるとそこには、スタイル抜群で顔も俺好みな女の子がいました。彼女は、俺が目を覚ましたのを確認すると、ホッとした表情を見せた。
「………あのさぁ」
俺の問い掛けに素早く応じてくれた。
「何なに?なんでも言って♪」
じゃあ、遠慮なく……
「貴女は、カナなんですか?」
「そうだよ?急にどうしちゃったの?……あ!もしかして、さっきので記憶飛んじゃった?」
「いや、記憶は飛んでない。ただ、昨日の事が夢なのかどうかを確認しただけだよ。そっかぁ、夢じゃなかったんだぁ。獣人って本当に居たんですね〜」
そう言って、俺はまた布団に入ろうとしていた。
「ちょっと!なんでまた寝るんですか!」
「止めないで下さい!これは絶対夢なんだ!!きっと神様のイタズラなんだ!絶対そうなんだぁ〜!!」
「海翔!!現実から逃げちゃ駄目!人はどんな事があろうとも逃げちゃ駄目なんだよ!!」
「現実か。そうだね…現実を見なきゃね。現に君が居るしね。わかった!もう逃げないよ!俺」
「うんうん。そのいきだ!頑張ってよ!」
そして俺は、また一つ現実を受け入れた。
「そいやー、カナって以外と柔らかかったなぁ(ポワワ〜ン)」
「うふふ♪海翔ぉ、やっぱり永眠行っとくかぁ♪」
「え、遠慮しときます…」
「そうだ!ねぇ海翔、お腹空いちゃったよぉ!なんか作って〜」
そう言って、カナは俺の肩に後ろから手を置いて、キッチンへ誘導する。
「俺も腹減ったしな。よーし、朝飯作るか!カナも手伝ってくれるよな?」
「あたしに手伝い頼むと泣くよ?いろんな意味で♪」
な、なんだ?この不気味な笑みは……
「ど、とうなるんだよ」
「それはそれは恐ろしい!言葉には出来ないような事がぁーーーー」
「って、ただ手伝いたくねぇだけだろうが!!手伝わない奴に朝食なんて存在しないぞぉ!!」
それはそうだ!働かざる者食うべからずとも言うからな。
「ち、バレたか。」
「バレバレだっての。世の中そんなに甘くない」
そんなこんなで、朝食が完成した。手伝うと言っても、自分のものを自分で作っただけである。
今朝の俺のメニュー
・白飯
・味噌汁
・スクランブルエッグ
以上
今朝のカナのメニュー・白飯
・豚の角煮(鬼の章)・コーンポタージュに見えるなにか
カナのメニューに疑問を抱きつつ、朝食を食べ始めた。
「なぁ、この『豚の角煮(鬼の章)』ってなんだ?なんで鬼なんだ?」
「食べてみる?」
「じゃあ遠慮なく……」
俺はカナの作った角煮を口に入れた。
「……ん!!!か、辛れぇぇぇぇ!!!」
「え?辛いかな?これが普通じゃない?」
お前の基準が気になるぜ。
「お前ってもしかして、辛いの好きだろ!んで、甘い物は苦手!!」
「すっご〜い!何で分かったの?」
「なんでも知ってるのさ」
フッフッフ、俺に弱点を知られたら、厄介ですぞ(笑)「あ!そうそう。俺昨日デザート作ったんだった!」
俺はわざとらしくカナの方を向いて言った。
「え!デザートぉ!!!私も食べた〜い♪」
よし!かかった!
「なんだ、お前も食うのか?しょうがないなぁ。そのかわり甘さ控え目だぞ?」
「良いよ!そっちの方が嬉しいし♪」
フッフッフッ!俺は甘い物が大好きなんだよ!この俺が甘さ控え目?笑止!!甘さ控え目を作る何てなぁ、フ〇テレビの中央にある玉が無くなるようなもんだ!
俺は、カナの前に昨日作ったデザートを置いた。
「うわぁ♪美味しそう♪♪いっただっきま〜す!」
『ぱくっ』という、何とも在り来たりな効果音と共に、カナが俺の作ったデザートを口に入れた。あぁ、俺の作ったデザートっていうのは、プリンの事です。そしてカナの動きが停まった。
「ん?どーした?具合わりぃのか?もしかして甘すぎたか?でも、これが普通じゃね?」
俺は笑いが顔に出ないように隠すのが精一杯だった。すると、カナがプルプル震え出した。
「お、おい。大丈夫か?」
少しやり過ぎたかもしれない。しょうがない、謝るか。
「なぁカナ、実はこのプリンな、甘さ控え目どころか甘さ倍増なんだよ。わるかーーーーー」
「お〜いし〜!海翔これ美味しいよ!海翔凄いね!こんな美味しい物作れるなんてさ♪♪」
俺はぼーぜんとした表情で彼女を見ていた。
「で、でもそれ甘さ倍増だぞ!市販の奴の2、3倍は甘いはずなのに!」
「私、こういう甘さだったらOKかも♪あぁ、美味しかった!海翔、またこのプリン作ってね?」
あまりにも美味しい美味しいと食べてくれたので、少し罪悪感があったんだけど、気付いてないなら、まぁ良いか。
「お、おう。任しとけ」
こうして、俺はカナの苦手を一つ克服させてしまった。仕返しは出来なかったけど、なんか嬉しかった。