表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コンビニで始まった恋

コンビニから始めよう

作者: 大楠晴子

帰って風呂に入って寝よう。

もう、寝よう。


11月に入ったとたん風が冷たくなった。

吸い込まれるように、コンビニに入ると、

「いらっしゃいませー」 店員さんの明るい声が聞こえる。


一時と七時を聞き間違え、お客さんとの約束をすっぽかし、平謝り。課長に提出したはずの書類がなぜか、手元にあり、慌てて持っていって、長々と嫌味を言われ…。

自分の責任に間違いなく、誰のせいにもできない。


お弁当とビール、レジの手前でプリンを手に取り並ぶ。

仕事帰りの人たちだろうか、意外と込み合っている。


「お弁当は温めますか?お飲み物とプリンは別の袋にお入れしますね。864円になります」

店員さんの視線を感じて、会計をせねばならないことに気付く。


あれ?

あれれ??

カバンに財布が見当たらない。

ポケットにもない。

朝は確かに持って出かけ、昼にお茶を買って…。

うぅ、レジ袋に入れてそのままデスクだ。


こういう時はやっぱりいいです。か? 弁当はすでに温かいのに?お金を家に取りに戻る?取り置きしてもらう?

あぁ、どうしよう。


後ろに並んでいる人の苛立ちを背中に感じる。


その人は、ツイと前に出て、てに持ったペットボトルのお茶をカウンターにトンとおいた。

「これ、それと一緒で」


え?

状況が飲み込めないでいると、その人は素早く会計を済ませ、店を出ていく。

見ず知らずの人にご馳走になるわけにはいかない!

慌てて追いかけると、すでに車のドアに手をかけていた。


「すみません、助かりました。お金を返しますから!」


「いいよ。おごり」

いたずらっぽく笑って、行ってしまった。


右手にはお弁当のレジ袋を、左手にはプリンとビールのレジ袋を提げて、動けなかった。


かっこよすぎ…。


また会いたい。


今度会ったらお金を返して、ちゃんとお礼を言って、連絡先を交換したいなぁ。




そんなことがあってから、

仕事の行き帰りにコンビニに立ち寄る。


朝も早く起きてコンビニに行き、時間の許す限り店内をうろつく。

仕事が終わったら、すぐにコンビニに行き、時間の許す限り店内をうろつく。


会ったらなんて言おうか?

そのまま、ご飯に誘ってもいいかな?


なんとなく、すぐに会えると思っていた。

でも、そんなに上手くはいかなくて、なかなか会えない。


たまたま通りかかったお客さんなんだろうか?いつも、使うコンビニじゃないのか?

もう、会えないのか。

あれから、10日以上経ってしまった。

覚えてないかもなぁ。


もう、待つのをやめようか?

そう思いつつ、やっぱりコンビニに寄ってしまう。

もしかしたら、会えるかも。

家にいても落ち着かなく、もしかしたら、今コンビニにいるかもしれないと思うとゆっくり眠れない。


休みの日は、雑誌を読むふりをして待つ。

やっぱり今日も会えないのか。

ため息が出た。


「ブーー!!」

本の整理をしていた店員さんの水色のストライプの肩が小刻みに震えている。

「あんた、わかりやすい、ホントに」

明るい茶色の髪をかき、目に涙を浮かべ、くくっと喉を鳴らした。


「え…?」


「悪い悪いっ、あんた、この間の支払いしてくれた人を待ってるんだろ?ここんとこずっと来てるし、ガックリ肩を落として帰って行くし、もう、バレバレ。本当はこんなこと話したら叱られるけど、笑ったお詫び。多分、今日は来ない」


「えっ!!!本当?なんで?」


「朝、来たし。あのあとから、やっぱ覚えちゃうじゃん。なんか気になるし」


これはチャンスだ!

「店員さん、お願いがあります」

肩をむんずと掴み、顔を寄せる。


「あの人が来たら連絡ください!」


「ムリムリ〜、絶対に無理でしょ」


「わかりました。友達になってください。そして、時々、連絡ください!その時、たまたま、たまたま、あの人が来てるかもしれません!」


「あんた、マジ必死。ウケる。まぁ、連絡できるかわかんないし、連絡したからってあんたが間に合う保証なんてないしな、できたらしてやる」


「ヤッター」

これであの人に会えそうな気がする。


にやける顔とスキップしそうになる足をなんとかこらえて家に帰った。


ゆっくり眠れる。




A.M.2:14 <来たぞー>


眠い目を擦りベッドの中から、携帯を見て、飛び起きた。


え?!今!!


これは行かねば!!


急いでパジャマ代わりのスエットを脱ぎ捨て、ズボンをはいて、ロンTをきて、ジャケットをはおる。一応、鏡で全身チェック。よし、大丈夫。ショートブーツをはいて、ダッシュ。


息を切らせて、コンビニのドアを開けると「遅い。遅すぎる、もうとっくに行ったし、ピュっと来ないと無理でしょ。やっぱり」店員さんの半笑い。


「遅かったか…、でも教えてくれてありがとう。間に合わなかったけど、なんかうれしいし、また、頼みます」

会えたかもしれない、ほんの少し前にここにいた。なんだか、それだけでかなり進歩した気がする。


「あぁ、緊張した分どっときた。店員さんはまだ仕事ですか?お疲れ様です。もう帰ります」


「おう、じぁな。あの人が来てるとき、たまたま連絡したるわ」くくっと喉を鳴らす。


コンビニの前には、タバコを加えてしゃがみこむ少年。この人たちにもあの人が来たら、連絡してくれるよう頼んでみようか。それとも、ほんのすこしだけ、引き留めてくれるよう頼もうか。

そんな心の声が聞こえたのか、一人の少年と目が合い、彼はニタリと笑った。


くたびれて身体はだるいのに、それから、頭が冴えて眠れなかった。



いつ?

いつ連絡があるか、気が気じゃない。

2日間、連絡がなかった。

いてもたってもいられず、意味がないとわかっていながら、店員さんに連絡してみた。


<来ませんか?>


<俺も四六時中、働いてるわけじゃないんで>


<…すみません>


<来たら、たまたま連絡したる>


<ありがとうございます>


<おう>


それから、店員さんから三回も連絡をたまたま、もらったのに、仕事中でコンビニに駆けつけることすらできなかった。


毎日、早く帰りたい一心で仕事を片付ける。今日は思いの外早く,終われた。帰りにコンビニに寄ると、

店員さんがスルスルと近づいてきて、


「悪い。店長に目、つけられてよ。ケイタイをいじりすぎって。さっき来てたんだよ、あの人。チクショー、店長なんか気にしないで、メールすればよかった!」顔にシワを寄せ、悔しげだ。

ありがたいな、全然、関係ないのに、


「店員さん、ホントにいい人ですね」


「おい、なんだよ、急に。気持ち悪いだろ?ここまで首突っ込んだら、結末が気になるだろ。あんたの玉砕とか?」


「笑えないんですけど?」


店員さんは肩を震わせ、喉をくくっとならしていた。


もう、あきらめようか。

あれから、一月近く経ってしまった。

もう、覚えてないかもなぁ、やっぱ、気持ち悪いよな。


ぼんやりベッドに寝転んでいると、


<来たぞー!!!!>


携帯を握りしめ、ダッシュ。


今度こそ!

きっと明日、筋肉痛になるなぁと思いながら、コンビニまで走った。最高記録間違いなし。


コンビニのドアの前にたどり着き、

その扉の向こう側にあの人がいた。


やっと会えた。


息を切れて、声がかけれない。


「ハアハア、あの、ハアハア」

目の前のあの人はきょとんと立って、道を開けるように左に退いた。


「あの、あのとき。ハアハア、ありがとう。ハアハア、ホントに助かったし」


キョロキョロと回りを見渡し、話しかけられているのが、自分だとわかったようで、真っ直ぐに目があった。


息も整った。

「864円、弁当代返すし、お礼に食事、ご馳走させてください!」

右手を頬に当て、じっと考え混む。

「あっ、プリンとビールのね。思い出した。ウンウン。そんなの、全然いいよ」長い黒髪をサラサラと耳にかけ、にっこりと笑う。


「食事、まだだったら、よかったら今からでもいいですか?」

「今からって?私、今から仕事なんだ。せっかくだけど、ゴメンね」


「そりゃないだろー、確かに付きまとわれたみたいで気持ち悪いかもしれないけど、わかりきった嘘つくことないわ。ホントにこいつ、ちょっと頑張ってたからさ、飯食いに行くくらい、いいじゃね?」

店員さん、玉砕なんてわらってたのに。


「いや、食事だけじゃなく、きちんと連絡先の交換をしてあげてもいいと思う」

カウンターの奥から、ズイっと出てきた。


「え?店長???」


「今時、お礼を言いたいっていい子じゃないか。売り上げにはあんまり貢献してくれなったけどな」


「つきあっちまえよ〜」

タバコを吸いながら、少年がこっちを見てヤジを飛ばす。


「何?このアウェイな感じ??」彼女は目を丸くしている。


「ホントにお願いしますっ」

右手に握った携帯を差し出し、頭を下げる。


「だから、本当に仕事なんだって、私、病院で働いてるの、今から夜勤で、だから家に帰って仮眠とりたいし。それに、その格好でどこか行くのって、ちょっと不味くないかな?」


え?病院?夜勤??格好??

自分の姿をよくみると、短パンに草履、パーカーのトレーナー。冷たい風が足元をすり抜ける。

しかも、また財布を、持ってきてなかった。


彼女はクスクス笑って、鞄から携帯を取りだし、

「赤外線でいい?」


「はい!」


オオー、と周りから拍手がなり、店員さんは大きな口を開けて笑い、店長さんをバシバシ叩いてた。


「ありがとうございます!」




ひとまず、おしまいです。

一応、続編を予定してます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 大楠様こんにちは、佐倉睦希です。 私の周りのごく狭い範囲だけなのかも知れませんが、気になったことを一つ、男性は普通財布をカバンに入れないと思いますね。又、レジ袋にも入れませんね!?、ポ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ