序章「終わりの始まり」
最終章・終焉夢想です。
お楽しみいただければ幸いです。
――『夢』に抱かれ、君を『想』う。
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天界にある高天原。
いつもならそこは大変にぎやかである。
しかし半年以上前から主神であるアマテラスが突如姿を消した為に寂しくなっていたのだった。
人気はなく、大きな屋敷はしん、と静まり返っている。
しかし屋敷の奥から誰かが歩いてきた。
窓の類は全て障子によって閉じられているので光は入らず、照明の類は一切ここには存在していないのでシルエットでしかわからない。
その影は2つ存在している。
1人は細身ながらも引き締まった肉体の男。
もう1人も細身だがこちらはどちらかというと筋肉によってというより普通に痩せているような印象だ。
若干女性的でもある。
2人の足音は堅く、それは広大な屋敷に反響していく。
「ったくやっと俺達が動き出す時が来たか」
「まぁ暴れすぎるなよ。一般人もあそこには多く存在している」
「わーってるよ兄貴。俺もそれくらい理解してるぜ?」
「フン、どうだかな」
2人の声はどこまでも響いていく。
「で、どんだけ集まったんだ?」
引き締まった方――スサノオが尋ねる。
「ギリシャ組、北欧組、ケルト組、エジプト組、メソポタミア組の主神が集まった」
それに答えるのはツクヨミだ。
彼はタブレット端末で何かしている。
神も随分と人間の文化に染み込んできたよな、とスサノオは改めて思った。
実際最近は技術を司る神が下界を参考にして同じようなものを幾つも製造している。
「つぅ事はゼウスとオーディンとフリンとホルスとギルガメシュか。 傑物揃いの豪華メンバーだなオイ」
天空を司り、鍛冶に長けたサイクロプスが制作した雷霆によってクロノス率いるティターン族を打ち破ったゼウス。
神々の黄昏に備えて、知識と戦士を求め、最後はフリズスキャルヴに座り、グングニルを携え世界の傍観者として暗躍したオーディン。因みに最後はフェンリルに喰われて死んだがどうして生きているのかは誰も知らない。本人も覚えていないというので実は別の老人なのではないかと言われているが真相は謎。
常人が及ばぬ力を持ち、故郷のアルスターの為に大軍の進撃を防いだ半神の王であるクー・フリン。
オシリスの息子であり、父の仇でもあるセトを打ち破り、エジプトを統べる王となったホルス。
暴君として悪名高かったが親友エンキドゥと出会って改心し、怪物フンババを倒して英雄となった半神ギルガメシュ。
スサノオ自身も元々はマザコンなロクデナシであり、散々大暴れしていたが紆余曲折あって人々を苦しめていたヤマタノオロチを倒してちゃっかり英雄になっている。
「でも兄貴は特にそういう話は聞かないよな」
「……有名無実な神とでも言いたいのかお前は?」
「あ、そういえば唯一あったじゃん有名な話。姉貴に兄貴が『下界に居る保食神のトコに行け』って言われた事があんだろ? で、実際に兄貴がそこに行ったらその神が口から食いモン吐いてたってだけで兄貴ソイツ殺したじゃん。すげー勘違い」
「……それは言うな。それを知った時の姉上といったら岩戸程ではないがとんでもない怒りだったな。絶縁を告げられたのはあの時しかない」
そうして2人は外に出る。
扉を開けると肌を刺すような冷気が流れ込んできた。
「うお、寒ぃ。もう冬か」
「ここ最近ずっと中に篭って居たからな。気が付かなかった」
広い庭園は雪によって更に広く感じる。
いつもならこの風景を暫く眺めていたくなるのだがそこには異物ともいえるような邪魔な存在が残念ながら居た。
「オイコラ、ジジイ。魔術使ってこの寒さどうにかしろやゴルァ! オリンポス寒いわ儂のムスコも元気にならないわ散々なんだよクソが!」
「あん? なんか言ったかジジイ。つうかてめぇ天候操れるだろうが自分でやれやゴミが!」
「こんなもんの為にいちいち力使うのも面倒なんだよ! つうかテメエが儂に貸したディスクエロゲじゃねえじゃん! ドロドロしたストーリーのホモゲじゃねえか!」
「馬鹿め、騙される方が悪いんだよ! 野郎のナニでも見てるが良いわ!」
「あまりにイラついたから抜いたよ! なんか気持ちよかったよ!」
「ごめん、新しい扉を開けさせて!」
滂沱の涙を流すゼウスをオーディンが抱き締める。
スサノオはこいつ等の頭大丈夫かな、と思ったが黙っておく。