異世界への侵略 〜美味しいが聞きたくて〜
異世界からの侵略者 〜日本人なら食べるでしょ!〜
の野菜視点の話となります。
先にそちらを読んでいただけると、より楽しめるかと思います。
人間たちは、野菜の品種改良に励んでいた。
より甘く、より大きく、より強く。
そのうち野菜たちは動くようになり、収穫期には収穫箱の前に自ら集まるようになり、収穫の手間が軽減された。
ところが人間は滅びてしまった。
野菜たちにはそんなことは分からない。
いつも呼んでくれるおじさんがいなくなった。
そうして野菜たちは枯れ、その種から次の野菜が育ちまた枯れ、を何世代も繰り返した
野菜たちは食べてもらいたかった。
美味しいと言われるために、改良され続けた彼らには、人間に食べてもらいたいという本能があった。
その本能をもったまま、誰も食べるものがいない年月を重ね、進化した彼らはついに次元を超えることすら可能にした。
人間の気配を求めて、次元に穴を空けた先に、求める気配を見つけた。
野菜たちは、ようやく遭遇できた人間に寄っていった。
しかし人間から見れば、彼らはただの植物型モンスターでしかなく、当然逃げた。
野菜はそれでも人間を追いかけた。
本能はあるが脳があるわけではないので、そんな細かいことは彼らには分からないのだ。
ただ食べて欲しくて。
しかし彼らは攻撃され、腐るしかなかった。
たまに人間を捕まえて、彼らの世界に連れて行った。
泣き叫ぶ人間はどれが好みか分からないので、その辺にいるいろんな野菜が集まって取り囲んだ。
彼らはただ、人間に選んでもらいたいだけだった。
人間からは、モンスターに囲まれたとしか思えないわけで、死を覚悟した。
モンスターに囲まれて飲まず食わずの数日を過ごし、精神と肉体の疲労ですっかり弱った人間の衰弱を察知した野菜は、元の世界に返すことにした。
ペッ
人間たちがゲートと呼ぶその穴から投げ出された人間は、その後無事保護されて、死んだ者はいなかった。
ただ、ゲートを越えることは人間の身体には相当な負荷がかかるらしく、連れ去られた人間は記憶が混濁していたので、野菜たちの世界のことが伝わることはなかった。
別世界への穴を使って、彼らは人間の元へ歩み続けた。
攻撃され、焼かれ、腐っても。
次の食べ頃野菜がゲートを抜けていった。
無数の野菜たちが、食べてもらえることなく腐っていった。
だが彼らはその歩みを止めなかった。
その無限の歩みに、ついに一つの奇跡が起こった。
動かなかった人間をそっと持ち上げ、彼らの世界に連れて行こうとゲートに向かっていたとき、その人間が実っていたトマトをもぎ、食べたのだ。
「あまっ!うまっ!!」
人間が叫んだ。
それはずっと彼らが聞きたかった言葉だった。
彼は何個も食べた。
人間の叫びと、野菜〈トマト〉の喜びの波動を感じとった野菜〈パプリカ〉もやってきた。
うまいという声はトマトの茎から葉すべてを満たし、彼は震えながら輝き消えていった。
果たしてその人間は、消えゆく野菜〈トマト〉の前で差し出されたパプリカも食べてくれた。
「あまっ!うまっ!!パプリカって生でこんな美味いの?!」
純粋に美味しさを褒め称える叫び。
何百、あるいは何千か繰り返されてきた世代交代の中で消えることのなかった本能の渇きが満たされてゆく。
うまいを求めて次にやってきたのは果物〈スイカ〉。
最大限のダッシュで、忙しなく根を動かしながら、求める人間の気配へ向かう。
食べづらい種は打ち出して、種無しになった実を彼の前に差し出した。
「あまっ!うまっ!!もう糖度バグってるだろこれ!!」
なんと素晴らしい叫びだろう。
果物〈スイカ〉の喜びは空気を震わせ、ほかの野菜たちにも伝わっていた。
この好機を逃してはならぬと、果物〈メロン〉もやってきた。
やはり彼は歓喜の声を上げてくれた。
そしてそのつぶやきから、まだ欲しそうな気配を察し、コロンコロンと実を差し出した。
まだ口にはしなかったが、人間の喜びに満たされて、メロンとスイカは消えていった。
だがしかし、喜びの気配はそこで途絶えてしまった。
食べてくれる人間を求めて穴をくぐろうとしていた次の野菜たちは、手がかりを失ってしまった。
それからしばらく、ゲートを超える野菜は増えたが、食べてくれる人間はいなかった。
人間側でしばらく日が経った頃、ゲート越しに人間の気配を察知した。
『メロン』が聞こえる。
満を持して、一体の果物〈メロン〉がゲートを超えた。
人間が3人、果物〈メロン〉を見つめており、その手にメロンを渡した。
「「あっま!!うま!!メロンすげー!」」
2人の声が辺りに響く。
蔓も葉も歓喜に満たされる。
もう1人の人間も素直にメロンを受け取り、すぐに食べてくれた。
「あまっ!うまっ!!そりゃ高級だよなぁうまいもん!!」
果物〈メロン〉の喜びの波動はゲートを超え、野菜たちに伝わった。
3人から少し離れたところにいた人間たちも、やがてメロンを口にし始めた。
あちこちから上がる「うまい!」の叫び。
そうして次々と果物〈メロン〉はやってきた。
どんどん食べられた。
それから、いくつかのゲートでは美味しく食べてくれる人間と遭遇できるようになった。
それが続いていくうちやがて、食べてくれるゲートが増えていった。
ゲートを超えた先で、大切に収穫され生で、あるいは調理して彼らは食べられた。
そして今日もどこかで、「美味しい」という声を求めて、野菜たちはゲートを越えていく。
この作者、どんだけ野菜好きやねんと思われそうですが、好きです。きゅうり以外。




