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ハズレスキルで不遇の俺、初配信でバグ技が発覚。真似したいならどうぞ、出来るならな。

作者: 白凪しおり
掲載日:2026/07/28


西暦2099年。


突如としてダンジョンが現れてから五十年。


現在日本で確認されているダンジョンは、M県に存在する一箇所だけだった。


そこは見渡す限り断崖絶壁が続くV字の谷で、下を流れるエメラルドグリーンの激流が轟音を響かせている。


そのすぐ近くに異空間へと続く裂け目がぽっかりと開いており、左右に石灯篭が配置されている。


ダンジョンはその土地の文化や伝承を取り込むらしい。


そしてダンジョンの出現と同時に、"スキル"を持つ人間が現れ始めた。


政府は、スキルを持つ者を例外なくM県に集め、スキル保持者のための全寮制学校を設立した。


ピンポンパンポーン……


「ゴホゴホッ、んー、あーあーあー。ん?」


「おい、もうマイク入ってるぞ」


「あっ、ごめんごめんー!みっなさーん!今年で、ダンジョン出現から五十周年でーす♩」


校内放送から生徒会長のよく通る高い声が鳴り響く。


「わぁ!おめでたーい!てなわけでっ、今回イベントしちゃいまーーす⭐︎校長からの出血大サービスぅー」


ドゥルルルルッ


無駄にドラムロールが流れる。


「ダンジョンにて、採取や討伐する様子をライブ配信した生徒に!な、な、なんとぉ!もれなく全員にレベルアップの木の実プレゼント〜」


「詳しくは学内ギルドの掲示板確認しっ、てね〜!んじゃ!」


ガチャンッ……


それだけ早口で捲し立てると放送を乱暴に切った。


キーンとハウリングが鳴り響く。


浦戸崇人(うらとたかと)は、耳を摩りながら、すぐにスマホで校内ギルドの掲示板を確認する。


(……これか。優秀賞は無理でも、参加賞が絶対もらえるなら、初配信してみようかな。どーせ、誰も観ないだろうし)


翌日、教室ではイベントの話で持ちきりだった。


「聡彦達なら余裕だろ」


同級生の一人が賛辞を贈る。


話題の中心はいつもこの三人だ。


矢木聡彦(やきさとひこ)——クラスのリーダー的存在。スキルは残影の百烈。槍の連続攻撃。


都並仕代吏(つなみしだいり)——聡彦の取り巻き。スキルは寒月の一閃。溜めた力で硬いものでも一刀両断にする。


村貞優樹菜(むらさだゆきな)——聡彦の彼女であり、取り巻き。スキルは紅の殲滅。槍を風車のように回し、辺りを殲滅する。


浦戸は静かに横を通り過ぎようとした。


だが、矢木がヒョイッと顔を覗き込ませる。


後ろには都並と村貞が回り込んだ。


「浦戸くーん、君のイルジオン、あーなんだっけ??」


すかさず都並がメガネをクイっと上げながら答える。


「イルジオン•ドゥ•ジューですよ」


「何、その横文字」とくすくすと笑う村貞。


「そうそう、それで今回のイベント優秀賞もらえるんじゃなーい?」


「名前だけは立派なそのスキルの成果、大いに期待しております」


「採取だけでも精一杯だろっ!……南無〜」


そう言って矢木は両手を浦戸の目の前で擦り合わせた。


三人だけでなく、近くで見ていた同級生が口々に発言する。


「てかお前なんかに学内ギルドの恩恵は勿体ねぇよな」

「図体だけデカいだけで何にも貢献してないのに」

「何であんな不発スキルでここに通ってんの!?」

「スキル持ちは漏れなくここに集められるからな」

「祠に梛(なぎ)の葉供える動画だけアップするんじゃね?」

「"安全祈願!全ての祠、巡ってみた"動画、楽しみにしてるぞー」


これが四年生クラスの毎日の光景だ。


———


(流石にダンジョン潜ってるやつ多いな……)


浦戸は採取するために洞窟エリアの比較的浅い場所を彷徨っていた。


バシャッ……


その時、洞窟内に嫌な音が響いた。


咄嗟に息を止める浦戸。


頭からツノを生やした牛鬼が、水面から顔だけを覗かせている。


どうやら岸を歩く学生を狙っているようだ。


学生達は気付いていない。


牛鬼はニヤリと片側の口角を引き上げ、長い舌で水面に映る学生の影を、池の水ごと飲み込んだ。


影を奪われた学生達は次々と戦闘不能となり、ダンジョンの外に転送されていく。


満足したのか牛鬼は水中へ消えていった。


(や、やばかったぁ……隠密行動だけは得意でよかった)


———


矢木たち三人は、洞窟の中央に差し掛かっていた。


高級な防具をまとい、それぞれが武器を手に進む。


「ナマエ、オシエテ」


背後からボロボロの布を纏った人影が、暗闇で目を光らせて問いかけてくる。


矢木は鼻で笑い、振り返ることなく爆竹を背後に投げ捨てた。


「ギィヤアァアッ……」


人影は不快な悲鳴を上げ、一目散に逃げていった。


「ふふふっ。隠しん坊とか相手になんないわ」


「すぐ逃げ帰るならわざわざ出てこなければいいのに。しばらく寝込むでしょうね」


「あぁ、俺達が配信するのはもっと大物だ」


———


入り口付近の洞窟の奥。


袋小路になっているその場所は、光苔の群生地として有名だ。


トテトテトテトン——


スマホの着信音が鳴る。


画面には幼馴染・四紫金雪歩(ししきんゆきほ)の名前が表示されている。


迷わず通話にスワイプする浦戸。


「雪歩?どうしたの?」


「あ、崇人!ニュースでダンジョン五十周年記念で配信イベントをやるって見たの!」


「あー……うん。僕も今朝、校内放送で知った」


「みんな楽しみにしてるよ!崇人の配信、見られたらいいねって!」


「はははっ。まあ、ちょっと採取する程度の動画あげようかなと思ってるよ」


「うんうん!崇人の元気な姿見られたらそれだけで嬉しい!あっ、そろそろおじいちゃんと囲碁する時間だから、またね!」


「うん、雪歩の爺さんにもよろしく言っといて。じゃ」


通話を切ると、ギュッとスマホを握りしめた。


頑張ってとは言わずに、姿が見れたら嬉しいと言う雪歩の言葉に、安堵感と共に悔しさが溢れ出した。


目を瞑り、浦戸は今朝揶揄われた事を思い出していた。


瞼の裏が熱い。


「イルジオン•ドゥ•ジュー……か」


パァーッ、と光が浦戸の周りで蛍火のように舞った。


(あ、やべ。スキル発動したかったわけじゃないんだけど。MP、無駄に消費しちゃったな)


浦戸は念のため周りをキョロキョロと見回した。


予想通り、この辺りで配信をしている生徒はいない。


「えっと……ライブ配信は……これか」


浦戸は初めてのライブ配信に緊張した面持ちで、配信ボタンを押す。


急いでスマホを少し離れた場所に設置した。


———


「ウケる。浦戸、マジで採取してるわ」


「採取する手つきだけは、流石のものですね」


「光苔の群生地か……」


三人は洞窟の中央の開けた場所で、携帯食を片手に、浦戸の配信を視聴している。


「ねぇねぇ、聡彦。あたしイイモノ持ってるんだけど?」


「これはっ……優樹菜。お前って最高だぜ!」


矢木は右手で顔を覆い、肩を揺らした。


「じゃあ、高速移動するか」


村貞は軽く屈伸運動をしながら「はーい♩」とご機嫌な返事をした。


都並は手袋を装着し、頷く。


三人は同時に地面を強く蹴ると、電光石火の如く光苔の群生地へと向かった。


バシューーーン……!!


音がするや否や吹いてきた風に、浦戸は顔を上げる。


そこには、矢木•都並•村貞の姿があった。


撮影していたスマホは、三人が到着した時の衝撃で倒れてしまった。


「よう、浦戸!頑張ってるみたいだから、ご褒美やりに来てやったぞ」


「感謝してよね」


「良いライブ配信になることを願っていますよ」


矢木は、召喚の巻物を浦戸の目の前の地面に叩きつけた。

すぐさま「召喚!」と叫んで、再び二人を連れてその場から離れた。


ゴゴゴゴゴ……


白煙が洞窟の天井までいっぱいに充満する。


次の瞬間、突風が吹いたかと思うと白煙の中から天狗が姿を現した。


(矢木の奴、レイドボス召喚するなんて!?)


驚いたのも束の間、天狗は一度宙に浮いてから浦戸目掛けて下降してくる。


後ろは光苔の生えている壁しかない。


(避けないとっ!!)


天狗の動きをじっと観察し、サッと左に避けた勢いのまま、スマホを拾って駆け出す。


ふと後ろを振り返ると、天狗が壁にめり込んで動けなくなっているようだった。


(はぁ……命拾いした。コツコツレベル上げして来たのに戦闘不能のペナルティはきついからな。ただでさえ、レベル上がりにくいのに。)


スマホを握りしめながら、浦戸は息を整える。


一方、退避した三人は、浦戸の配信を肴にひと足先に打ち上げをしていた。


閲覧数がぐんぐん伸びている。


「ハッ、これも俺のおかげだな」


コメント欄も賑わってきた。


「バグ技か?」

「ちょ、これいいの!?」

「平和な採取動画があると聞いて来たんだがどうしてこうなった」

「レイドボスかな?」

「多分な。途中でスマホ倒れたから声しか聞こえなかった」

「画面酔いしそう」

「おーい、カメラ固定してくれー」


浦戸は「採取だけでも精一杯だろっ!……南無〜」という言葉を思い出していた。


(もしこのまま倒せたら……)


武器を持つ手に力が入る浦戸——。


浦戸はスマホを、天狗が画角に収まる位置に固定する。


「おっ!」

「来た!」

「やんのか!?」

「そのままハマってくれてればいいけどな」

「天狗なんて一人じゃ無理ゲーじゃね?」

「てかこれってOKなの?」

「勝手にハマってんだからいいだろ」

「おい運営」

「運営とかいないし、いんじゃね?」

「この人レベルは?」

「レベル12って書いてるぞ」


画面の左上にはTAKATO URATO Lv.12の文字が表示されている。


「浦戸の攻撃→装備の木の棒で叩く」

「やめれ」

「何時間かかるんだよww」

「木の棒縛りの配信なの?」

「草」

「天狗ちゃん可哀想」

「大身槍に見えるけどあれ長い木の棒なの?ww」


(時間はかかるかもしれないけど、とりあえず殴ってみよう)


浦戸は大身槍で天狗に一撃をお見舞いした。


ガキィン!!


手のひらに確かな手応えを感じた浦戸。


ビリビリと手のひらが痺れる。


今までにない反応に、浦戸はステータスを確認した。


「ステータスオープン」


【スキル使用を確認】

【蓄積経験値を解放しました】

【レベルアップしました】

Lv 13

Lv 14

Lv 15

……

Lv81

STR... INT… VIT……


(蓄積、経験値?なんかわかんないけど、これならいけるっ!)


そこからは浦戸の独壇場だった。


天狗の足元を槍ではらう。


頸を斜め上から叩き込む。


洞窟には、槍の鋭い金属音と風を切る音がしばらく鳴り響いていた。


天狗は断末魔をあげ地面に倒れ込む。


砂埃の中から一人現れた浦戸は、大身槍を手にスマホに向かって歩く。


コメント欄も沸いていた。


「は?」

「一人だよな」

「途中から来たんだけどこれ何時間前から配信してんの?」

「15分前」

「え、15時間?」

「15分」

「木の棒縛りって聞いたんだけど?」

「ちげーわ」

「こいつ、すげーやん」


配信を観ていた三人は、三者三様の反応をしていた。


矢木は額に青筋を浮かべて、飲み干した缶ジュースを握り潰している。


村貞は、リップを塗り直しながら「どーせ、卑怯な手使ったんでしょ〜?まぐれまぐれっ」とくすくす笑っている。


都並は「おそらく、光苔の壁がバグを誘引したのでしょう」と状況を解析していた。


「だよな?よしっ!俺たちも明日やるぞ」


「私と都並はレベル99だし、聡彦なんてレベル108だからね。余裕っしょ♩」


「ではレイドボスの巻物、調達しておきます」


「頼むぜ、都並!社会人ギルドの内定もらってるけどさ!ここで一発大物いっとけば、更に箔が付くってもんよ!」


———


あれから浦戸は、ドロップしたアイテムを握りしめたまま、寮へ向かってノンストップで走っていた。


(やった、やった!やったぞ!)


疲労感よりも高揚感の方が勝っていた。


(レベル上がったし、明日の朝も洞窟に潜ってみよう)


寮へ着くと、ちょうど夕食の時間だった。


同級生や後輩の笑い声が、いつもと違うように聞こえる。


(夕飯がこんなに美味しく感じたのはここへ来て初めてだ——)


そんな浦戸を遠巻きに、矢木たち三人は不敵な笑みを浮かべながら食事を終えた。


———


翌日。


光苔の群生地についた三人は、配信の準備をしていた。


「これでよしっと♩聡彦〜、あとは配信ボタン押すだけだけど始める?」


「おう、始めてくれ」


ピロンッ……


「今からレイドボス召喚しまーす」


カメラに向かってにっこり微笑む村貞。


「矢木君、お供させていただきますね」


爽やかな笑顔で召喚の巻物を矢木へ手渡す都並。


頷く矢木。


壁に向けて巻物を叩きつける。


「召喚っ!!」


ゴゴゴゴゴ……


天狗が白煙の中から現れる。


召喚された瞬間、天狗は光苔の群生地の壁にめり込んだ。


「やはり仮説は正しかったですね」


都並がメガネを指で持ち上げ、不敵に笑った。


にやりと口角を上げる矢木。


前髪を整える村貞。


しかし、天狗はぐるりと体を回転させ、三人の方向へ向き直り、葉団扇を大きく上下させた。


「「「……は?」」」


ビュウウウウ——


突風が三人を煽る。


「おい!都並!てめぇの仮説は絶対じゃなかったのかよ!?」


「……くっ」


「そんなことより、やばいって逃げようよ〜」


「チッ、こんなところで引き下がれるかよ」


コメント欄はお祭り騒ぎだ。


「昨日の浦戸の配信でレイドボス呼んだのこの人の声じゃない?」

「それってやばくない?」

「気のせいじゃない?」

「いや、2:06のとこ聞いてみ」

「イヤフォン付けて音最大にしろ」

「マジか」

「マジだ」


疑惑のコメントが止まらない——。


「ぼ、僕たちは矢木君に頼まれて仕方なく着いて来ただけなんだ。し、失礼するよ」


「あ、あたしもっ!矢木君からの頼みは断れないもんね。じゃ、じゃあね〜」


二人はカメラに一通り、説明を終えると脱兎の如く去っていった。


残されたのは矢木、ただ一人だった。


(あいつに出来たんだ、俺に出来ないはずがねぇ!!!)



矢木は槍を構え、天狗に向かって一直線に振り下ろす。


「うぉおお!残影の百烈!!!」


目にも見えぬ数多の槍が天狗に襲いかかる。


しかし、天狗の落雷攻撃が炸裂。


矢木はあっけなく地面に這いつくばった。


どさり。


スマホの画面いっぱいに矢木の顔が映る。


どうやら意識はないようだ。


矢木が転送された後にも、洞窟には天狗の高笑いだけが木霊していた。


———


ピチャン……ピチャン……


その頃、浦戸は洞窟内の水場を訪れていた。


牛鬼が水場で目をギョロギョロさせているが、今回も隠密行動でやり過ごすことにした。


(そういえばレベルも上がったし、あの不遇スキル使えるようになってたりして……?)


「イルジオン•ドゥ•ジュー、なーんてな」


そう唱えてから、いつのまにか水辺の岩陰に出て来ていた牛鬼をしばらく眺めていると、地面に刺さったまま身動きが取れなくなっていた。


「え?」


「どういうことだ……?」


(まさか、このスキルって……)


そこへもう一体、牛鬼が水場から上がって来た。


浦戸の視界に入ってからしばらく経過すると、もう一体の牛鬼も身動きが取れずその場で足掻いている。


(これなら安全にレベル上げが出来る!)


そう確信した浦戸は、レベル上げに没頭した。


レベルは面白いほど上がっていった。


卒業を目前に控えた頃には、浦戸のレベルは180になっていた。


———


異例のレベルに達した浦戸は在学中にギルドを立ち上げた。


授業以外は洞窟に篭りっきりだった浦戸は知らなかったが、例の浦戸のレイドボス召喚の声と矢木達のレイドボス召喚時の声を専門機関が検証したらしい。


わざと浦戸にレイドボス召喚を仕掛けたことが明るみとなった。


あれだけ叩いていた同級生たちが、親切にも浦戸に、次から次へと情報を提供している。


騒ぎは学校内だけでは収まらず、矢木たちの社会人ギルドの内定は取り消される運びとなった。


そんな噂を耳にした浦戸は、学校の中庭のベンチに頭を抱えて座っている矢木を見かけた。


ザリッ……


矢木の足元に黒いローファーが目に入る。


顔を上げるとそこには浦戸がいた。


「あ、あ、あ……」


矢木の言葉は声にならない。


「……大丈夫か?」


浦戸は矢木の顔を覗き込む。


「……え?」


しばらくの沈黙の後、矢木は、やっとの思いで言葉を形にした。


「優樹菜も都並も、みんな俺から去った。トカゲの尻尾切りってやつだな……笑わないのか?」


「笑わないよ。だって、反省、してるんでしょ?」


その言葉に矢木の瞳は潤んでいく。


「気にするな、あの時は俺の強さを知らなかったんだから。俺が同じ立場でもそうするよ。弱肉強食の世界だからな」


浦戸の唇は綺麗な弧を描いた。


「俺、ギルド創立したんだ。良かったら、どうかな?」


そう言いながら浦戸は、手を矢木に差し出す。


その反対の手は強く拳を握りしめている。


「……ありがとう、ありがとうありがとう。みんな裏切っていったのに、手を差し伸べてくれたのが、あんな理不尽な扱いをした君だけだなんて……」


矢木は、瞳からポロポロと大粒の涙をこぼし、ベンチから立ち上がり言葉を続けた。


「絶対に君を裏切らない、忠誠を誓うよ。いや、誓わせてください」


———


トテトテトテトン——


洞窟内でスマホの着信音が鳴り響く。


画面には、浦戸の幼馴染の雪歩の名前が表示されている。


「もしもし」


「あっ……崇人、卒業してからも配信続けてくれてるんだね。いつも、観てるよ」


「そうなんだ。俺、結構人気だろ?」


「そだね……でも、なんか変わっちゃったよね。笑い方もなんか前の方が好き、だったな」


ブォォォ、と地を這うような轟音と共に、洞窟の奥の暗闇から骨まで冷えるような風が吹いてきた。


「……変わってないよ、何も」


一呼吸おく。


「じゃあ俺、今から狩りだから」


そう言い終わるや否や通話を終了した。


「あ、浦戸さん。もう電話いいんですか?」


おずおずと矢木が後ろから声をかけてきた。


(俺の物語はまだ終わってない。)


浦戸は心の中で呟く。


「矢木、新しい経験値の稼ぎ方を見つけたんだ。是非、君にも手伝ってほしい」


背後に控える彼の方へと振り返り、静かに笑みを向ける。


洞窟の奥から吹きつけてくる風が、時折狭い岩の隙間を通り、泣き叫ぶ女のすすり泣きのような甲高い音をたてた。



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