↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

転生鷹匠、戦乱の異世界で最強の相棒と成り上がる

作者: 鳥助
掲載日:2026/05/15

こちらの作品は長編用に書いたものを短編にまとめたものです。

それでもよろしければご覧いただけると幸いです

 小さい頃、図書館で見つけた一冊の本。そこに載っていた鷹の写真に、私は心を奪われた。


 鋭い瞳。空を裂くように広がる翼。誰にも縛られず、大空を駆けるその姿が、どうしようもなく格好良かった。


 それから私は、鷹のことばかり調べるようになった。そこで知ったのが、鷹匠という職業だった。


 鷹と共に生きる人たち。相棒として空を駆け、信頼を結び、共に狩りをする存在。


 私も、なりたい。


 その想いだけを抱えて、高校卒業と同時に現役鷹匠へ弟子入りを志願した。


 そして、そこで出会った。私の人生を変えた、一羽の大鷹。


 セキ。


 まだ若かったセキは、本当に手がかかった。気性が荒くて、自我も強くて、全然言うことを聞かない。気に入らないことがあればすぐ飛んでいくし、鋭い爪で引っかかれることだって何度もあった。


 それでも私は、そんなセキに夢中だった。


 鋭くて、美しくて、誇り高い。だけど、ただ荒々しいだけじゃない。こちらをじっと見つめる瞳は賢くて、どこか優しさすら感じた。


 この子と一緒に飛びたい。この子の相棒になりたい。


 そう願って、私はセキを担当したいと頭を下げた。そこからは、毎日が必死だった。


 朝早く起きて世話をして、体調を確認して、訓練して。失敗して、逃げられて、落ち込んで。それでも諦めきれなくて、また向き合った。


 少しずつ。本当に少しずつだけど、セキは変わっていった。


 呼べば戻ってくるようになった。手に乗ってくれるようになった。私を見る目も、ほんの少し柔らかくなった気がした。


 嬉しかった。信頼してもらいたくて、認めてもらいたくて、私は夢中で努力した。


 そして気づけば、私たちは誰より息の合ったコンビになっていた。


 風を切る音。手に伝わる重み。空から真っ直ぐ戻ってくる姿。全部が大好きだった。セキといる時間は、私にとって何より大切な宝物だった。


 辛いことがあっても、セキがいるだけで頑張れた。あの子が隣にいてくれるだけで、毎日が幸せだった。


 ……だけど。そんな時間は、永遠じゃなかった。


 二十年近く一緒にいたある日、セキは静かに息を引き取った。


 分かっていた。鷹の方が先に逝くことなんて、最初から分かっていたはずなのに。受け入れられなかった。


 世界から色が消えたみたいだった。私は鷹匠を辞めた。


 私の相棒は、セキだけだったから。誰にも代わりなんて出来なかった。


 ……だから。もう、いいかなって思った。セキのいない世界にいる意味が、分からなかった。


 会いたい。また、あの子を抱きしめたい。また、一緒に空を見たい。


 その想いだけを抱えて、私は走るトラックの前へ飛び出した。


 ◇


「あれ……ここは?」


 気がづくと、白い空間にいた。他には何もない。ここは一体……。


「目が覚めましたか?」


 その声にビックリして振り向くと、美しい女性が立っていた。


「あなたは?」


「女神と名乗っておきましょうか。あなたに感謝を伝えたくてここに呼んだんです」


「感謝?」


「昔、川に流された子ウサギを大鷹のセキで助けてくれましたね。あの子は神界から抜け出した部下だったんです。力の制御が出来ずに為すすべないところを助けてくれました」


 そういえば、そんなことが昔あったような気がする。そんな何年も前のことでわざわざ感謝をしてくるなんて、部下思いの人なんだ。


「その感謝の印に、特別な能力を授けて異世界に転生させてあげましょう」


「能力を持って、転生?」


 まさか、これってラノベにあった展開? 能力を持って転生するのは面白そうだけど、そんなことが出来るなら――。


「私のことはどうでもいいの! セキとずっと一緒にいられるようにならない? 私、まだセキと一緒にいたいの!」


「本当にそれで宜しいのですか?」


「出来れば、誰にも負けないくらい強く! セキがどんなことがあっても死なないように!」


「……分かりました。それがあなたの望みなら、そうさせてもらいましょう」


 本当に……話を聞いてくれた? じゃあ、転生後はセキと一緒に?


「さぁ、異世界に送りましょう。第二の人生、セキと常に共にあらんことを」


 女神が微笑むと、私の意識がなくなった。


 ◇


 ふわりと、意識が浮かび上がってくる。


 ぼんやりとした感覚のまま目を開けると、視界に映ったのは見覚えのない天井だった。


 ……ここ、どこ?


 そう思いながら体を動かそうとして、違和感に気づく。思うように力が入らない。ゆっくりと手を持ち上げる。


 そこにあったのは、丸くて小さな手だった。短い指。ぷにぷにとした柔らかな肌。どう見ても、大人の手じゃない。


 そこで、ようやく理解する。私……転生したんだ。だから赤ちゃんなんだ。


 その時、不意に影が差した。


 何かが、上からゆっくりと降りてくる。視線を向けた瞬間――私は息を呑んだ。


 そこにいたのは、一羽の大鷹だった。鋭い鉤爪。力強く湾曲した嘴。濃い茶色の羽毛は艶やかで、陽の光を受けて美しく輝いている。


 そして何より、その瞳。金色に近い鋭い双眸が、じっとこちらを見つめていた。


 一瞬見ただけで分かる。忘れるはずがない。あの誇り高くて、真っ直ぐな目を、私は何千回も見てきた。


 セキだ。セキがいる!


 ずっと、ずっと会いたいと願っていた相棒が、今、目の前にいた。胸の奥から込み上げてくる感情に押し潰されそうになる。


 私は震える小さな手を、必死に伸ばした。すると、セキはゆっくりと頭を近づけてくる。


 そして、ふわりと柔らかな羽毛が、私の頬を優しく撫でた。昔と変わらない仕草だった。


「……ずっと、会いたかった」


 低く、落ち着いた声。その瞬間、思考が止まった。えっ、喋った?


 いや、それよりも。そんなことよりも。


 私だって。私だって、ずっと――。


 涙が溢れて止まらなかった。私は小さな両手で、夢中になってセキの羽毛を掴む。


 指先に伝わる感触。温もり。柔らかな羽毛の下に感じる、確かな命。全部、覚えている。


 何度も撫でた。何度も抱きしめた。世界で一番、大好きだった相棒。もう二度と会えないと思っていた。置いていかれたと思っていた。


 なのに、セキはまた私の前に現れてくれた。ぽろぽろと涙を零す私を見て、セキは優しく目を細める。その瞳は、昔と何も変わっていなかった。


 ああ。私はまた、この子と生きていけるんだ。また一緒に空を見て、また一緒に飛べるんだ。


 胸を満たしていた喪失感が、少しずつ温かいものへ変わっていく。まるで、止まっていた時間が動き出すみたいに。


 今度こそ、最後まで一緒にいよう。


 ◇


「いっけー! セキ!」


 森から出てきた猪を指さすと、空を飛んでいた大鷹が急降下してきた。すぐに猪に鉤爪を突き立てると、軽々と持ち上げて空へと飛んでいく。


 そして、高い空から猪を落とす。衝撃で猪は一瞬で絶命した。それを見届けた大鷹が私の前に舞い降りる。


「仕留めたよ。偉い?」


「偉い、偉い! セキは良い子だね!」


 ピョンって跳ねて近づいてきたので、その体を抱きしめた。頭を撫でると、やわらかい羽毛がとても心地いい。


「じゃあ、孤児院に持って帰ろうか。セキ、お願いできる?」


「分かった。じゃあ、先に行ってくるね」


 そう言うと、セキは猪を掴んで空を飛んで行ってしまった。私は駆け足で孤児院へと戻っていく。


 この異世界に転生して六年が経った。普通の家で生まれた私は、赤ちゃんの頃に孤児院に捨てられた。


 私が卵を持って生まれてきたのが原因らしい。その卵からセキが生まれ、一日で大人の大鷹に成長した。


 それを気味悪がったのだろう、両親はあっさりと私たちを孤児院に捨てたのだ。


 だけど、そんなことはどうでもいい。死に別れたセキとまた一緒にいられるのだから。生きていられるのだったら、どこだって構わない。


 厳しい生活の中だけど、セキと一緒にいられる日常が何よりも楽しかった。


 ◇


「あっ、ロネが帰ってきたよ!」


「ロネー、おかえりー! セキが猪を持ってきたぞ!」


「今日も大量だね!」


 町外れの孤児院に帰ると、私の帰りを待ってくれた子供たちが出迎えてくれた。


「ただいま! セキと猪は?」


「中庭で解体してるよ。セキはおこぼれが欲しくて、そっちに行っているみたい」


「分かった!」


 話を聞き、急いで中庭に走っていく。すると、中庭では院長が猪を解体しているところだった。


「はい、セキ。食べていいですよ」


「やったー!」


 猪から取り除いた内臓をセキの前に出すと、セキは嬉しそうに啄んだ。


「あっ、セキだけ先に食べてずるいんだー!」


「ふふっ。ロネ、おかえりなさい。つい、先にセキに与えてしまいますね」


「私が取ってきた獲物なんだから、先に私が食べるのが当たり前」


「もう……私が追い立てたから捕まえられたのに」


 全く、セキは食いしん坊なんだから。そうしている間にも、院長は手際よく猪を捌いていく。そして、肉の一部を紙で包むと、私に差し出してきた。


「では、ロネ。この肉を売ってきてくれませんか?」


「うん、任せて! 何か買ってくる物はある?」


「今日は大丈夫です。糧を得られて、二人には感謝をしないといけませんね」


「えへへ。じゃあ、セキ、行こう?」


「……院長、内臓残しておいてね」


「分かってますって。いってらっしゃい」


 肉をセキの背中に括りつけ、私はすぐに孤児院から飛び出していった。


 ◇


「おじさーん! お肉持ってきたよー!」


 お店に入り、声を張り上げる。視線を向けると、カウンターにはおじさんと背の高い女性が話しているのが見えた。


「おっ! 噂をすればなんとやら! ロネ、待っていたぞ!」


「どういうこと?」


「丁度、この傭兵さんが肉を買いに来たんだよ。だから、この人に肉を売ってくれねぇか?」


 おじさんがその人を指さすと、振り向いた。赤い髪を一本に結いあげ、精巧な顔つきをしている。体つきはがっちりとしていて、腰には大きな剣をぶら下げていた。


 その傭兵の女性がにこやかに笑った。


「やぁ、お嬢ちゃん。もし、よければ私に肉を売ってくれないか? この肉屋よりも高く買わせてもらうよ」


「えっ、本当!? だったら、売る!」


 肉屋のおじさんよりも高く買い取ってくれるんだったら、絶対に売る! 一ペルでも高い方に売る!


 そうして、セキの背中に括りつけた肉を取り外して、手渡した。


「……大鷹の背に肉?」


「私の相棒のセキだよ。とっても強くて頼りになるんだ」


「こ、こんなに大きな肉を背負ってここまで来たのか……。君の相棒はとても強いんだな」


 そうそう、セキはとっても強くて賢くてカッコいいんだ!


 お姉さんはお肉を受け取ると、中身を確認して、満足げに頷いた。


「とても良い肉だ。高く買い取らせてもらおう」


 そう言って、私の手に一枚の硬貨を握らせてきた。見てみると、それは大銀貨だった。


「じゅ、十万ペル!? い、いいの!?」


「それぐらいの価値はあると見た。だから、受け取ってくれ」


「こんなに高く買い取ってくれるんだったら、今度からお姉さんに売る! というか、今からでも新しい肉を狩りに行ってくるよ!」


 いつもよりも三割増しだ。これは肉を売りつけて、お金を稼ぐチャンスだ。


 張り切る私を見て、その女性は笑った。


「逞しい子だな。だけど、しばらくは町の外に出ない方がいいぞ」


「どうして?」


「私たちスペクトル傭兵団は領主に雇われてやってきた。他郡で大規模な賊の集団『ブルーギル』が討伐されたそうなのだが、かなりの数を討ち漏らして、各地に散らばったらしい。青頭巾を被った集団でな、その賊の集団がこの地方に向かっていったという情報が入った。だから、今は外に出るのは危ない」


 賊の集団が、この町に?


「本当に安全になるまでは、孤児院に籠っていなさい」


「……分かった! お姉さん、教えてくれてありがとう!」


 セキが強いと言っても、流石に大人数の賊は相手には出来ない。ここは、お姉さんの忠告通りに孤児院に籠っていよう。


 私はそこでお別れを言うと、孤児院に走って戻っていった。


 ◇


 孤児院に戻った私はお姉さんから聞いた話を院長に話した。院長は私の外出は禁止して、孤児院の中にいるようにと強い口調で言ってきた。


 他の子供たちに私が出ていかないように見張るように、という徹底ぶりだ。こうなってしまえば、私はセキと外に狩りに行くことが出来ない。


 その夜、私はベッドの中で呻いた。


「うぅ、町の外に出れなくなるなんて……。獲物を捕らえないと、孤児院の食料事情が悪くなる」


「それは困った。早く、賊が見つかるといいけど……」


「……はっ! だったら、私たちで見つければいいんだよ! あの能力を使って」


「なるほど、それがあったね」


 転生してセキには特別な力が宿った。喋る能力、何でも見通せる目、通常よりも強い力、尋常ではない速さ、そして私と感覚を共有する能力。


「じゃあ、ちょっと見てくるよ」


 セキが動き出すと、私はそっと窓を開けた。セキがそこから飛び立つと私はベッドに潜り込む。そして、感覚共有でセキと繋がる。


 すると、セキの視界が頭に浮かぶ。夜空を飛んでいる光景が見えてきた。


『久しぶりの夜の散歩は気分がいいね、星空が綺麗だよ』


『ロネを掴んで飛んだこともあったよね。そして、院長に怒られた』


『あの時の院長は怖かったね……。次は絶対にバレないようにしなくっちゃ』


 セキの視界の景色が見え、離れていても会話が出来る。これが、私たちの特別な能力だ。


『セキ、夜だから火を焚いている可能性がある。地上で火の気配を探して』


『了解』


 指示を出すと、セキの速度が上がった。まるで、走る車のように速い。流れていく景色を眺めていると、地上に明かりが見えてきた。


『へぇ、こんな森の中に灯りがねぇ。セキ、下りて確認』


『了解』


 めちゃくちゃ怪しい。セキに指示を出すと、ゆっくりと舞い降りていく。木の枝に降り立ち、灯りの中心を見る。


 火を囲むように粗暴な男たちが談笑しながら話し合っていた。


『町に着くのは三日後か。くっくっくっ、楽しみだな。早く、なぶり殺しにしてやりてぇ』


『俺は女を犯してやりてぇよ。逃亡生活でご無沙汰だったからなぁ……』


『おいおい、あんまり酷くするなよ。町を占領すると、奴隷としても売り払えるんだからな』


 聞こえてくるのは、下卑た話題。こんな賊が町を襲ってくると思ったら、背筋が震えた。絶対にこの賊を町に近づけさせたらだめだ。


『セキ、人数を数えて』


『了解』


 まずは、敵の様子を窺う。どれくらいいるか知らなければ、対策を取りようがない。


『数は468』


『結構、数が多いね』


 スペクトル傭兵団がどれくらいの数がいるのか知らないけれど、この数は対応出来るんだろうか? もし、対応出来なかった場合、何か他の対策を考える必要がある。


『セキはそのまま賊の様子を監視して。明日の朝にスペクトル傭兵団の人に話してくる』


『だけど、私たちの話を信じてくれないと思う』


『あー……その問題があったか』


 確かに、こんな孤児の話を信じてくれそうもない。セキの能力を伝えても、信じてもらえるかどうか……。


 そうだ、何か証拠になるものを手に入れれば信じてくれるんじゃない。あのお姉さん、青頭巾を被った賊の集団って言っていた。だから、青頭巾を手に入れれば私の話を信じてくれるかもしれない。


『セキ、青頭巾を一つ取って、戻ってきて』


『了解』


 すると、セキが飛び立ち、眠り込んでいる賊に近づいた。そして、そっと青頭巾を取り外すと、空へと舞い上がった。


『任務完了。帰るね』


『うん、お願い。私は先に寝てるね、お休みー……』


『ロネ、ずるい!』


 セキの抗議の声が聞こえてくるが、眠気には勝てない。私はそのまま意識を手放して、寝入った。


 ◇


 翌日、朝食を食べた後、すぐにスペクトル傭兵団に会いに行った。場所を知らなかったので、肉屋のおじさんに居場所を教えてもらい、その場所に向かった。


 その場所は村の外れ。近づいていくと、無数の天幕が張られていて、傭兵と思われる人々が朝の時間を過ごしていた。その中に昨日見た赤髪のお姉さんがいた。


「あっ、お姉さん!」


「ん? あれ、ロネじゃないか。どうしたんだ?」


「これを見て!」


「こ、これは!?」


 出会って早々に昨日セキに取ってきてもらった青頭巾を見せた。それを見たお姉さんは顔色を変える。


「これを、どこで!?」


「セキにブルーギルを探してもらって、取ってきてもらったんだ」


「えっ? そ、そんな事が?」


 正直に話すとお姉さんは戸惑った様子だった。だけど、その慌てぶりに周りの傭兵たちが近づいてきて、青頭巾を見て驚愕している。


「それは、まさしくブルーギルの頭巾!」


「ど、どうして!?」


「お、おい! これをどこで!」


「なんだ! 騒がしい!」


 慌てる傭兵たちの声をかき消すような大声が聞こえてきた。視線を向けると、二メートルはあるであろう大柄で髭面なおじさんがこちらに近づいてきた。


「団長! 見てください! ブルーギルの頭巾だ!」


「……ほう、本物みてぇだな。どうしたんだ?」


「えっと、この少女の大鷹が取ってきたみたいなんです」


「……おい、本当か?」


 ギロリと鋭い目がこちらに向く。その圧に体が震えるが、私は頷いて見せた。


「本当だよ。私が命令して、取ってきてもらったの。それだけじゃない。賊の集団の居場所も数も分かっているよ」


「どうして、そんな事が分かるんだ?」


「私、大鷹のセキと感覚が繋がっているの。だから、セキの見た物、聞いたもの、嗅いだものが分かる」


「……にわかには信じられねぇ。証明出来るか?」


 その言葉に私は後ろを向いて、耳を塞いだ。


「セキに見せた物を言い当てらて、小声も聞こえるよ」


「……これはどうだ」


「団長の右手」


「――――」


「お前は何歳だ、かな」


「ほう……」


 周りが凄くざわめいた。本当に言い当てられると思っていなかったらしい。


 振り返ると、団長は難しい顔をして考え込んでいた。緊張して待っていると、団長と目が合った。そして、ニッと歯を見せて笑う。


「面白れぇ。ちょっと、協力してくれねぇか?」


 ◇


 天幕の中に案内され、テーブルの前に座らされた。そのテーブルにはこの周辺が詳細に書かれている地図があった。


「さて、俺はロネの話を信じることにする。で、そのセキっていう大鷹が見た現状を教えてくれねぇか?」


 髭を撫でながら、こちらを鋭い眼光で見てくる。相変わらず圧が強いけれど、嫌な感じはしない。


「賊の数は468」


「どうして、それが分かった」


「セキが数えてくれたから」


「……その大鷹、数えられるのか?」


「もちろん、楽勝だよ」


「うわっ、喋った!」


 セキが胸を張って喋ると、団長が仰け反るように驚いた。そして、疑わしい目でセキを睨みつける。


「魔物じゃねぇよな?」


「大丈夫。私と一緒に生まれてきたから」


「な、なんじゃそら……逆に大丈夫なのか?」


 正直に話すと、今度は悩まし気に頭を抱えた。なんだか、表情がころころ変わって面白い。


「今はそれどころじゃないな。それで、賊はどこにいた?」


「ここの東の森。三日後に町に到着するって言っていた」


「三日後? 妙だな……この場所から町までは四十キロくらい。二日で来れる」


「一日は偵察するんじゃない?」


「……そういうことか。お前、頭いいんだな」


 団長が褒めてくれた! なんだか嬉しい。もっと、助言したら褒めてくれるかな?


「しかし、468人か……。俺たちは196人。倍以上の差があるな。さて、どうやって叩くのがいいか」


「だったら、奇襲がいいんじゃない。もう、通ってくる道が分かるんだから」


 そう言って、私は地図に指を差す。


「ここに一本の森道が通ってた。ブルーギルはここを通ってくるよ。だから、途中に潜伏して奇襲をするのがいい」


「……」


「でも、ただの奇襲じゃない。集団を分断して、戦力を二分にする。まず先に、後方を三分の二の戦力で叩き、前方の賊をそのまま道を進ませて逃げさせる。でも、逃げると面倒。だから、道に穴罠を作る。穴罠に嵌らせ、残りの三分の一で穴罠に入らなかった賊を引き付けておく。多分、その間に後方も片付いているだろうし、前方の援護に入って殲滅すればいいんじゃない?」


 戦力が足りないなら、策を実行するしかない。人数が足りない場合、奇襲が有効的だ。混乱していればこちらの人数を冷静に見る余裕は無くなるから、兵力差をごまかせる。


 団長を見てみると、険しい顔をして地図を見つめていた。


「……いけそうだな。ロネ、お前頭がいいんだな」


「えへへ、そうかな?」


「あっ、調子に乗ってる」


「もう……セキ、うるさい」


 また、褒められて嬉しい。いつもとは違う人に褒められると、心がふわふわしてとてもいい気分だ。


「なんだか、上手くいけそうな気がした。この作戦でいく」


「私も手伝う! 町を守るため、孤児院のみんなを守るために、力を貸したい!」


「戦場で何が出来るんだ? 遊びじゃねぇんだぞ」


「セキで偵察は出来るよ。討ち漏らした賊の追跡とか」


「たしかに、討ち漏らしたら追うのが大変だな……。分かった、連れて行こう。だが、安全な後方にいてもらう」


 そうそう、討ち漏らすのが一番危険なんだ。ほっとくと、いつ、どこの町や村が襲われるか分からない。だから、絶対に殲滅しないといけない。


 団長は立ち上がると、天幕の外に出ていった。そして、声が聞こえる。


「お前ら、仕事の時間だ!」


 ◇


 団長は私の策を使って、ブルーギルの討伐を行うことを団員たちに伝えた。団員たちは始め不安そうな顔をしていたけれど、策の内容を聞くと、誰もが納得した顔になった。


 なんとか団員たちの賛同を得て、策を実行することになった。ブルーギルが通る森道に到着すると、早速、穴罠を掘り始める。


「あっ、穴罠に被せる蓋はそれなりに頑丈にしてね」


「ん? どうしてだ?」


「あまり弱くしちゃうと、少しの人数しか捕まえられないから。大量に捕まえるためには、穴罠の上にたくさんの人を乗せた後で蓋が崩れるようにしなくちゃ」


 そう話すと、団長も団員も感心したように頷いた。


「でも、欠点が一つ。たくさんの人が穴罠に入ると、穴を脱出されちゃうんだよね」


「あー。人が重なって梯子の役目になるからか」


「うん、そうされると折角の穴罠が無駄になる。だから、穴罠の底に杭を設置して。そうしたら、落ちた時に足が怪我をして、人を支えるのが無理になるよ」


 にっこりと答えると、団員たちは顔を引きつらせた。


「ロ、ロネ……お前、可愛い顔してえげつないことを考えるな」


「えっ、だって逃げられたら困るじゃん。あの賊は生かしておいたらダメだと思う」


 だって、あの賊たち……町の人を皆殺しにするとか、女を犯すとか、奴隷にするとか言っていた。そんなことを言う賊に生きる価値なんてない。


◇


 一通り指示を出した後、私はセキを空に飛ばせて地形を確認した。奇襲に適した場所を見つけるためだ。


 奇襲に適した場所、それは道幅が狭く、曲がり角があるところ。道幅が狭いと、賊が広がれずに縦長になる。密集が薄れたところで奇襲すると、簡単に前後を分断出来る。


 それに、曲がり角。曲がり角を利用することで、前と後ろが見えなくなる。その状況で奇襲されたら、規模がはっきりと見えないし、分断されたことも分からない。


 お互いにこう思う……「前が奇襲された」「後ろが奇襲された」と。そうすると、賊は前と後ろに向かって逃げる。倍以上いた賊が奇襲で減らされ、分断される。討伐しやすくなる。


 だから、理想の立地が必要だ。


『ロネ、見つけたよ』


 その言葉に目を閉じて、セキの視界を見る。すると、細くなっている曲がり角を見つけた。


『うん、奇襲場所はそこで決定』


 理想の立地だ、これならばきっと奇襲も上手くいくはず。私は早速団長に話し、その場所に案内した。


「ほう……なるほど。この場所なら奇襲に持って来いだ。良く見つけたな、二人とも偉いぞ」


「えへへ」


「私も褒められた!」


 団長が私とセキの頭を撫でて褒めてくれた。やっぱり、褒められるのはいい!


「よし、穴罠が完成次第、潜伏する」


「だったら、私たちが賊の居場所を監視するよ。セキ、また飛んでくれる?」


「もちろん、飛ぶよ! 全然疲れないし、たくさん飛べて嬉しい」


 そう言って、セキは嬉しそうに空に飛んでいった。


 ◇


 森道に、下卑た笑い声が響いていた。


 薄汚れた服に粗末な革鎧。錆の浮いた剣や斧を腰に下げた男たちが、長い列を作って森の中を進んでいる。


 ブルーギル。他郡から流れ着いてきた賊の集団。


「明後日には町か。あぁ……早く殺してぇなぁ……」


 男の一人が、舌なめずりするように笑う。


「面倒な偵察なんざやめて、今夜そのまま襲っちまうか?」


「いいな、それ。女は早い者勝ちだぞ?」


「ガキがいたら俺に回せよ。泣くまで遊んでやる」


 げらげらと笑い声が広がる。そこに罪悪感など欠片もない。まるで酒場で今日の夕飯でも話すような気軽さで、人を殺し、奪い、蹂躙する話をしている。


 誰も止めない。誰も咎めない。それが当たり前だからだ。


 弱い者から奪う。抵抗する者は殺す。気に入った女は犯し、子供は売り払う。ブルーギルとは、そういう集団だった。


 警戒心もなしに森道を進むと、細い曲がり角が見えてきた。すると、ブルーギルの隊列は自然と縦長に伸びていく。


 前の様子も、後ろの様子も見えない。だが、賊たちはそんなことを気にしない。どうせ何もない、と高を括っていた。


 そして、隊列の中程が曲がり角へ差しかかった、その時だった。


「――《爆ぜろ》!!」


 轟音。森の静寂を引き裂くように、真紅の爆炎が炸裂した。


「がぁぁぁぁっ!?」


「ぎゃあああっ!!」


「あぁぁぁっ!」


 火炎が賊たちを呑み込み、衝撃で人間が吹き飛ぶ。肉の焼ける臭いと悲鳴が一瞬で森に広がった。


 それだけでは終わらない。直後――。


 ヒュッ!! ヒュヒュヒュヒュッ!!


 空気を裂く音と共に、森の両側から無数の矢が降り注いだ。


「うわぁぁぁっ!? 奇襲だぁ!!」


「ど、どこからだ!?!?」


「ぎっ――!」


 喉を射抜かれた男が血を噴き出して倒れる。別の男は肩に矢を受け、悲鳴を上げながら地面を転げ回った。


「に、逃げろ!!」


 その瞬間、賊たちは完全に混乱した。何が起きたのか分からない。敵がどこにいるのかも分からない。ただ突然、爆炎と矢が降ってきた。


 前方にいた賊たちは、後ろが襲われたのだと思い込み、慌てて前へ走り出す。


「前に抜けろ!! 囲まれるぞ!!」


 一方、後方の賊たちは前が壊滅したと思い込み、恐怖に駆られて後退を始めていた。


「前がやられた!! 逃げろ!!」


 押し合い、怒号を上げ、隊列は瞬く間に崩壊していく。そして、両者が離れた時、声が轟く。


「突撃ぃぃぃっ!!」


 森の奥から、怒声が轟いた。次の瞬間、潜伏していたスペクトル傭兵団が一斉に飛び出す。


 剣を抜き放ち、槍を振り上げ、獣のような勢いで賊たちへ襲い掛かった。


「ぎゃああっ!?」


「な、なんでここに傭兵がっ――」


「くそっ! どうしてこうなった!」


 混乱しきった賊たちは、まともな陣形すら作れない。逃げ惑う者。武器を落とす者。仲間を押し退ける者。


 その隙にスペクトル傭兵団が確実にトドメを刺していく。悲鳴が辺りに響き、後方にいた賊たちはその数を急激に減らしていった。


 そして、その混乱の中、前方へ逃げ込んだ賊たちは気づいていなかった。自分たちが、さらに最悪の罠へ向かっていることに。


 前方へ逃げ出した賊たちは、我先にと森道を駆けていた。


「急げ! 後ろがやられてる!」


「囲まれるぞ!!」


 恐怖に駆られ、誰も周囲を見ていない。足元など気にする余裕もなかった。


 そして――ミシッ。嫌な音が響いた。


「……あ?」


 次の瞬間――バキバキバキッ!! 地面が崩れ落ちた。


「ぎゃあああぁぁっ!?」


「うわぁぁぁっ!!」


「何ッ!?」


 三十数人の賊たちが、一斉に穴へと飲み込まれる。


 直後。


 ブシュッ!!


「がぁぁぁぁぁっ!!?」


 穴の底から絶叫が響き渡った。鋭い杭が、落下した賊たちの足や腹を容赦なく貫いていた。


「足がぁぁぁっ!!」


「抜けねぇ!! 痛ぇぇぇぇ!!」


「た、助けろぉぉぉ!!」


 血が飛び散り、狭い穴の中で男たちが折り重なる。負傷した者が他の者を押し潰し、さらに悲鳴が増えていく。その光景を見た後方の賊たちが、顔を青ざめさせた。


「穴罠だ!!」


「ど、どうしてこんなところに!?」


「はめられたのか!?」


 完全に動揺した、その瞬間だった。


 ヒュッ――!!


「ッ!?」


 再び森から矢が飛来した。


「ぐぁっ!?」


「ぎっ――!!」


「うわぁぁっ!?」


 喉を射抜かれた男が倒れる。脚に矢を受けた男が悲鳴を上げて転がった。


「隠れろ!! 木の陰に――」


「どこから撃ってやがる!?」


 混乱した賊たちは互いにぶつかり合い、隊列は完全に崩壊していた。逃げようにも穴罠が道を塞ぎ、立ち止まれば矢が飛んでくる。


 そして、矢雨が止んだ。一瞬の静寂。


 その直後――。


「突撃ぃぃぃぃっ!!」


 森を揺らす怒号が轟いた。次の瞬間、左右の森から武装した傭兵たちが雪崩れ込む。スペクトル傭兵団だった。


「殺せぇぇぇ!!」


「一人も逃がすな!!」


「殲滅だぁ!」


 賊に向かって剣が振り下ろされ、槍が賊の胸を貫いた。


「ぎゃぁぁっ!!」


「ま、待て! 降参――」


「うるせぇ!!」


 混乱しきった賊たちは、まともに抵抗すら出来ない。武器を構える前に斬られ、逃げようとして射抜かれ、仲間同士で押し合いながら次々と倒れていく。


 もはや戦いではなかった。一方的な蹂躙だった。


「ひぃぃっ! もう駄目だ!」


「に、逃げろ!」


「勝てるわけねぇ!」


 すると、その集団から数人の賊が森の中に飛び込んでいった。必死に足を動かして、逃げる。闇雲に逃げれば、きっと後を追ってこれまい。そう思っていた。


 だけど、その森には――大鷹が目を光らせていたのを知らなかった。


「いたぞ!」


「な、なんで場所が分かるんだ!?」


 逃げ出した数人の賊の後ろに、すぐにスペクトル傭兵団が迫っていく。賊たちは困惑した。なんで、自分たちの居場所が分かってしまうのだと。


 その時、賊の足元に風が吹いた。茶色い風が。その風で足元を取られ、盛大に転んだ。


 すると、あっという間にスペクトル傭兵団に囲まれ、その体に刃が突き刺さった。


 もう、ブルーギルの残党は一人も残っていなかった。


 ◇


 森に響いていた悲鳴は、もう聞こえなかった。そうすると、激しく鳴っていた鼓動が次第に収まっていくのが分かった。


 馬の上で、大きく息をして心を整える。すると、後ろに座っていた赤髪のお姉さんが私の肩に手を置いた。


「大丈夫? 怖くなかった?」


「……うん。ちょっとだけ、怖かった」


「ふふっ、本当にちょっとだけ?」


 お姉さんのやわらかい声が私の気持ちを静めてくれた。


 でも、本当にこれで賊を倒せたの? もし、生き残りがいたら、町が襲われちゃう。言いようもない不安が襲ってきて、セキとコンタクトを取る。


『セキ、怪我はない?』


『うん、こっちは大丈夫。ロネが言った通りに誘導したし、妨害もしたよ』


『もし、他に賊が残っていたら困るから、ちょっと森の中を見回ってくれない?』


『了解』


 セキは森の中を飛び、周辺の確認に行ってくれた。それだけで、少しだけ心の重みが軽くなった。


「本当に賊は倒されたのかな……」


「声が聞こえないし、大丈夫だと思うよ」


「……ちょっと見てくることって出来る?」


「えっ? それは、ちょっと……。子供には刺激が強いからやめておいた方がいいと思う」


「この目で確認したいの。お願い」


 切実な目を向けて訴えると、お姉さんは困った顔をした後、表情を引き締めて頷いた。


「分かった。でも、無理はしないでね」


 そう言って、お姉さんは馬の腹を蹴って進ませた。森道が近づいてくると、鼓動が煩く鳴る。緊張で馬のたてがみをギュッと握りしめた。


 木々をすり抜け、森道に出た。そこに広がっていたのは、地獄だった。


 あれほど騒がしかった森は、不気味なほど静まり返っている。森道には、無数の死体が転がっていた。


 賊たちは様々な姿で倒れている。剣を握ったままの者。矢が突き刺さったまま動かない者。爆炎で焼け焦げ、原形すら崩れている者。


 赤黒い血が地面を濡らし、鉄のような臭いが鼻を刺した。


「……っ」


 息が詰まる。思わず喉がひくつき、私は口元を押さえた。


 これが、戦場。これが、人が死ぬということ。


 さっきまで笑っていた人間が、今は誰一人として動いていない。息の音すら聞こえない。その光景を見た瞬間、理解してしまった。


 私の策で、この人たちは死んだ。


 穴罠を作らせたのも。分断を提案したのも。逃げ道を潰したのも。全部、私だ。胸の奥が、ずしりと重くなる。


 でも、不思議と罪悪感はなかった。


 だって、この人たちは町を襲おうとしていた。人を殺し、女を犯し、子供を売ろうとしていた。放っておけば、孤児院のみんなだって危なかった。


 だから、これは当然の報いだ。私は間違っていない。そこまで考えて、ようやく気づく。


 ……ああ、そうか。私が震えていたのは、人を殺したことへの後悔じゃない。初めて見る本物の戦場。その張り詰めた空気と、生と死が隣り合う緊迫感に呑まれていたんだ。


 それを理解すると、少しだけ冷静になれた。


「……ロネ?」


 お姉さんが心配そうに声をかけてくる。私はゆっくりと息を吐いて、小さく首を横に振った。


「大丈夫。ちゃんと、分かったから」


 そう答えた瞬間だった。


「おーい! こっちは制圧完了だ!」


 前方から、団長の声が響いてきた。どうやら、本当に終わったらしい。


 返り血で鎧を赤く染めながらも、その表情には余裕がある。周囲の団員たちも興奮した様子で笑っていた。


「ロネ!」


 団長は馬の前まで来ると、ひょいっと私の体を軽々と抱え上げた。


「わっ!?」


 そのまま地面へ下ろされる。そして次の瞬間――。


 ぐしゃぐしゃぐしゃっ!!


「うわっ!?」


 大きな手で、思いっきり頭を撫で回された。


「ロネ! お前のお陰で、こっちの被害はゼロだ!」


 団長は豪快に笑いながら、さらに頭を撫でる。


「圧倒的勝利だ! まったく、とんでもない子供だな!」


「えへへ……」


 褒められた。しかも、こんなに真っ直ぐに。胸の奥が、じわっと熱くなる。


 すると、後ろにいた団員たちも次々に声を上げた。


「奇襲も穴罠も完璧だった!」


「賊ども、最後まで混乱してやがったぜ!」


「まさか子供に作戦負けするとは思ってなかっただろうな!」


 そういって、盛大に私を褒めてくれた。こ、こんなに一度に褒められるのは初めてだ!


 すると、空からセキが戻ってきた。私の前に下りると、団員たちはセキに向かって声をかける。


「大鷹も凄かったぞ! 逃げた奴を全部見つけやがった!」


「それだけじゃねぇ。逃げる奴らを倒しやがった! お陰で、追う手間が省けたぜ!」


「セキも偉い!」


「えっ!? わ、私……褒められてる!?」


 空から戻ってきたセキは驚いた後に自信気に胸を張る。その姿に団員たちが笑いながら、頭や羽を撫でた。


「ははっ、賢すぎるだろこの鷹!」


「下手な斥候よりよっぽど優秀だ!」


「それに喋るとか、意味わかんねー!」


 口々に飛んでくる称賛の言葉。その言葉を聞いているうちに、胸の中にじわじわと実感が湧いてきた。


 勝ったんだ、私たちが。私が考えた策で、セキと一緒にこの町を守れた。孤児院のみんなを守れた。


 ただ怖かっただけじゃない。ただ戦場を見て震えていただけじゃない。ちゃんと、自分の手で勝利を掴み取ったんだ。


 その実感が、どうしようもなく嬉しかった。


「……えへへ」


 気づけば、自然と笑みが零れていた。すると団長が、そんな私を見下ろしてニヤリと笑う。


「自分の功績を誇れ。今回は間違いなく、お前が一番の功労者だぜ」


 そう言われた瞬間、胸がふわっと軽くなった。


 前世でも、鷹匠として褒められたことはあった。だけど、こんな風に頼られて勝ち取った成果を称えられるのは、初めてだった。


 隣ではセキも嬉しそうに体を揺らしている。


「ロネ、いっぱい褒められてるね!」


「うん……嬉しい」


 私はそっとセキの羽に触れた。この子と一緒だから、ここまで出来た。そう思うと、胸の奥が温かく満たされていった。


 ◇


「うわーん! 草むしり、終わらないよー!」


「もう……ロネのせいだ。ロネがちゃんと了解を取らなかったから、私もこんな目に……」


 泣きながら孤児院周辺の草むしりをしていると、隣で一緒に草むしりをしてくれるセキがジト目で睨んできた。


 スペクトル傭兵団についていき、ブルーギルを討伐した。それはいい。だけど、そこについていく了解を院長に取っていなかった。


 だって、絶対に反対されると思ったから。友達に院長に伝えておいてって言って、私は数日、孤児院に戻らなかった。


 戻ると、院長の雷が落ちた。凄い、怒ってた。そして、反省をさせるために、私たちに草むしりをさせ、セキはしばらく空を飛ぶのを禁止された。


「あー……空飛びたい、空飛びたい! もう、地上を歩くのは嫌ー!」


 セキが地面に寝転がり、じたばたともがく。私だって、草むしりばかりで嫌になってきた。


「はぁ……いつになったら許されるんだろう」


「何してんだ?」


 突然の声に体がビックリする。振り向くと、そこには団長が立っていた。


「あっ、団長! 久しぶり!」


「よっ! ロネとセキは草むしりしてんのか?」


「そうそう、院長に怒られてさー……」


「ロネが全面的に悪いんだよ! 了解を取らないからこうなった!」


「あはは! そりゃあ、災難だったな!」


 もう、笑いごとじゃないのに……。でも、どうしてここに団長がいるんだろう?


「なぁ、院長を紹介してくれねぇか? ちと、話したいことがあってな」


「そうなの? 分かった、着いてきて」


 団長が院長に? 不思議に思いながら立ち上がり、孤児院の中に入って行った。すると、食堂で子供たちと一緒に掃除をしている院長を見つける。


「院長! スペクトル傭兵団の団長が院長に話しがあるって」


「えっ!? あの、スペクトル傭兵団の方がですか? ……分かりました、部屋に通しましょう」


 院長は慌てた様子で掃除の手を止めて、部屋の奥へと移動した。その後を追って一緒に行くと、院長室に通された。


「どうぞ、あまりおもてなしは出来ませんが」


「すまない。そうだ、ロネも一緒にいてくれ」


「ん? 分かった」


 どうして、私も? そう思って、院長の隣の席に座った。


 団長は椅子に深く腰掛けると、軽く頭を下げた。


「改めて名乗っておくか。俺はスペクトル傭兵団団長、ロイドだ」


「こ、これはご丁寧に……。私はこの孤児院を預かっております、エミリアと申します」


 短いやり取りを終えると、団長はふっと表情を和らげた。


「まずは謝罪だ。ロネを勝手に連れ出しちまった」


 その言葉に、私はビクッと肩を揺らす。だ、団長が謝ってる……!


 だけど、院長はすぐに首を横に振った。


「いえ、悪いのはロネです。勝手について行ったのでしょう?」


「うっ……」


 痛いところを突かれて言葉に詰まる。


「本来なら、子供を戦場へ連れて行くなんてあり得ねぇ。だから、俺にも責任はある」


「ですが、それを言うなら、ロネを止めきれなかった私にも責任があります」


 院長も真剣な顔で答える。なんだか、お互いに謝り合いが始まってしまった。


「あ、あの……?」


「ロネは黙ってて」


「はい……」


 院長の笑顔が怖い。私は素直に口を閉じた。そんな私を見て、団長が豪快に笑う。


「ははっ! まぁ、結果から言えば助かった。正直、ロネがいなかったら被害は洒落になってなかっただろうな」


「……え?」


 院長が目を丸くする。すると団長は、腕を組みながら話し始めた。


「ブルーギルは468人。対して、俺たちは196人。普通にぶつかってたら、勝てても大損害だった」


「そ、そんな大規模な賊だったのですか……!?」


「しかもロネは、その賊どもの位置をセキで特定した」


「えっ……?」


「それだけじゃねぇ。地形を利用した奇襲、隊列分断、穴罠による逃走阻止まで提案しやがった」


「…………えぇ?」


 院長の口がぽかんと開く。さらに団長は楽しそうに続けた。


「お陰で賊どもは最後まで混乱したままよ。前後を分断されて、逃げた先には穴罠。しかも、セキが逃走した連中まで追跡した」


「せ、セキまで……?」


「結果、討ち漏らしゼロ。こっちの被害もほぼなしだ」


 そこまで聞いた瞬間、院長がゆっくりと私の方を向いた。


「ロネ……?」


「え、えへへ……」


 なんだか照れる。でも、院長の顔は褒めるというより、信じられないものを見る顔だった。


「六歳児がやることではありません……」


「俺もそう思う」


 団長が真顔で頷く。ひどい。褒められてるのか分からない。


 そんなことを思っていると、団長は腰に下げていた革袋を机の上に置いた。どしり、と重たい音が響く。


「……これは?」


「今回の討伐で領主から特別報酬が出た。大規模賊団をほぼ完璧に討伐したからな」


 そう言って、団長は袋を軽く押した。中で硬貨同士がぶつかり、重い金属音が鳴る。


「本来なら傭兵団で分配する金だ。だが、今回の最大功労者は間違いなくロネだと思ってる」


「えっ……?」


「だから、これはロネに渡すべきだと判断した」


 院長が恐る恐る袋を開ける。次の瞬間、その目が大きく見開かれた。


「……だ、大銀貨!?」


 しかも、一枚や二枚じゃない。袋の中にはそれ以上の硬貨が詰まっていた。


「えっ、こ、こんなに!?」


 思わず立ち上がる。こんなの、今まで見たこともない大金だ。団長はニヤリと笑った。


「お前が手繰り寄せた勝利の報酬だ。胸張って受け取りな」


 団長の言葉に、私は呆然と袋を見つめた。こんな大金、本当に貰っていいの?


 頭がくらくらしていると、不意に団長がふっと真面目な顔になる。さっきまでの豪快な笑みが消え、鋭い眼光がこちらへ向けられた。


「……それと、もう一つ話がある」


 部屋の空気が少し変わった。


「ロネとセキの能力は凄まじい。索敵能力。遠距離偵察。離れた場所の状況を見通せる感覚共有。そして、ロネ自身の知略」


 団長は一つ一つ確かめるように言葉を並べていく。


「正直、傭兵団でもここまでの人材はそういねぇ」


「そ、そうなの?」


 思わず声が漏れる。そこまで言われると思っていなかった。


「ロネ、お前はまだ六歳だ。だが、今回の戦いじゃ俺たち大人より冷静だった。地形を利用し、敵を誘導し、戦力差を覆した」


 団長の視線が真っ直ぐ私を射抜く。


「その才能を埋もれさせるのは惜しい。スペクトル傭兵団に入団しないか?」


「……えっ?」


 頭が真っ白になった。隣を見ると、院長も完全に固まっている。


「にゅ、入団……?」


「もちろん、今すぐじゃねぇ」


 流石に驚いたのか、団長は苦笑しながら頭を掻いた。


「そんな警戒すんな。六歳児を今すぐ戦場に連れ回そうって話じゃない」


「び、びっくりしますよ……」


 院長が胸を押さえながら呟く。団長は「あー悪い悪い」と笑った後、改めて口を開いた。


「実はな、スペクトル傭兵団はしばらくこの町に駐留することになった」


「駐留?」


「ああ。ブルーギルみてぇな賊が各地で暴れてる。それに、最近は魔物の動きも活発だ。領主から正式に依頼を受けて、この辺りの警備と討伐を任されることになった」


 つまり、数年はこの町にいるってこと?


「だから、答えは今じゃなくていい。数年かけて考えてくれればいい」


 団長はそう言うと、私を真っ直ぐ見つめた。


「ロネ。お前には才能がある。しかも、その才能はただ強いってだけじゃねぇ。人を動かし、状況を読み、勝ちを掴む才能だ」


 そこで一度言葉を切る。


「この戦乱の世を変えられる逸材かもしれねぇ」


 その言葉に、胸がどくりと鳴った。戦乱の世を変える。そんな大きなこと、考えたこともなかった。


 私はただ、孤児院のみんなを守りたかっただけだ。セキと一緒にいたかっただけだ。


 だけど、団長の目は本気だった。


 冗談でも、お世辞でもない。本当に、そう思って言っている目だった。気づけば、私は小さく唾を飲み込んでいた。

お読みいただきありがとうございます。

もし、「面白い」「続きが読みたい」と思われましたら、ブクマ&評価で応援してくださると嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ストーリーと設定は、面白いのですが。気になったことがありまして、申し訳ありません。 もし連載されるようなら、トラックの下りは変えた方がよろしいと思います。 本人は良いかもしれませんが。たとえ自殺でも、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。