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「職務怠慢悪役令嬢」と断罪されそうですが頭の悪いらしいわたくしに分かる様にご説明願えます?

作者: 七茶
掲載日:2026/04/27

「メリーベル!出て来い!職務怠慢悪役令嬢である貴様との婚約を破棄する!」





「職務怠慢悪役令嬢?」




私はその奇妙な肩書きを耳にして、思わず眉をひそめた。

この第一王子――いや、エドワード様は何を仰っているのだろう?


「……失礼ですが殿下、もう一度おっしゃっていただけますでしょうか?」


「職務怠慢悪役令嬢だと言ったんだ! 何度も言わせるな!」


彼は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

隣に立つアメリア嬢も、怯えるふりをしながらも勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

まるで打ち合わせ通りの舞台のように。


「申し訳ございません殿下。このメリーベル、理解力が乏しいようで……職務怠慢悪役令嬢?なる称号に心当たりが無いのですが……」


私の声は冷たいほど落ち着いていた。

殿下の望む対応がどういった対応なのかは分からないが、少なくとも私の対応はご希望にそぐわなかった様でまた声を張り上げる。


「そんな事も理解できないのか!貴様のような頭の悪い女と婚約してしまったことが私の最大の過ちだ!」


「殿下のおっしゃることが全く分かりません。頭の悪いらしいわたくしにも分かる様に職務怠慢悪役令嬢についてお教え願えますか?」


この婚約をお決めになったのはあなたでは無くて国王陛下ですけれどね。という言葉は口に出さないでおく。


「この物語の世界では悪役令嬢である貴様がちゃんとアメリアをいじめなければ我々のハッピーエンドが訪れない! 貴様が怠慢だったから俺たちに味方するはずの周囲が誰も味方にならないではないか!貴様の怠慢が原因で俺たちの真実の愛の華々しいストーリーが壊れてしまったんだ!」


なるほど。そういうことか。

全く何もしていないのにやけに殿下にもヒロインにも目の敵にされていて、アメリア嬢はともかくまさかとは思ってはいたが、殿下も転生者だったわけだ。

特に他の攻略対象らしき人を攻略していなさそうだったから違うかと思ったが、どうやら攻略出来なかっただけらしい。

それにしても、何事かと耳をそばだてていた観衆の目が一気に信じられないものを見る目になっているのにこの鼻息の荒いオウジサマは気付かないのだろうか。


「物語の世界?」


分かってはいたが、とぼけて聞き返す。

ここで私も転生者である事を明かす必要は全くない。


「とぼけるな!『王国の愛され聖女は逆境にもくじけず幸せを掴む』だ!」


そんなタイトルだったのか…ここへ来て次々新事実が判明するな、と半ば他人事の様に考えつつ表情に出す事なく受け流す。

まともに取り合って私まで同類の扱いを受けたくはない。


「先程から本当に何をおっしゃっているのか…」


「とにかく!」エドワード様が仕切り直すように声を張り上げた。


「貴様の職務怠慢で王族である俺と俺の寵愛する聖女で未来の王子妃に被害を与えたのだ!罪を認めて大人しく断罪されろ!」


「つまり殿下とアメリア嬢は共同でわたくしを陥れる計画をたてられたのですね。この学園で『虐められている可哀想な平民令嬢』と『それを見過ごせない正義の王子』という茶番劇を演じるために」


「違う!お前が!職務怠慢をして俺たちを陥れたんだ!」



この方は、これほど言葉の通じない方だったかしら?

転生者の記憶がいつ戻ったのかは定かではないが、学園入学前まではそれなりに関係を築けていたと思っていたのに気のせいだった様だ。

アメリア嬢が度々ヒロインという言葉を発言している事は耳にしていたから万が一に備えていろいろと準備はしていたものの…

思わずため息をつきそうになるのを抑え、殿下の隣に居るアメリア嬢へと視線を向けると、彼女はさも怯えているかの様にビクッと体を揺らして殿下の腕につかまっている。


「殿下、そもそもそこの方は聖女様なのですか?聖女が現れたというお話はお伺いしておりませんが…」


「アメリアを脅すな!悪女め!それも貴様がアメリアをいじめそれを庇った俺を治す事で発現するはずが貴様の怠慢のせいで発現しないではないか!国の宝となるはずの聖女の誕生を妨害するなど言語道断!」


殿下は腕につかまるアメリア嬢の手に自分の手を添えて、あたかも被害者の令嬢に寄りそう正義の王子の態でこちらを睨んでくる。

どちらの聖女のお話をしているかは不明だが、この国の聖女は治癒をする者ではなくて結界を張る者だし我が国に危険が及ぶと現れるとされる聖女様だが、今は特に問題も無く平和な治世で聖女が必要とされる状況でもない。


「…それもわたくしのせいなんですの?殿下。聖女様というものがどういうものか理解していらっしゃいます?」


「黙れ!」


「黙るのはあなたの方でしょう」


私はこれ以上付き合っていても埒が明かないと判断して、周囲にも聞き取れる様、少しだけ声を張る。


「まず第一に、この国において『いじめ』などという未熟な行為は法に触れることはなくとも重大な倫理違反です。この学園でもし本当にそのような行いがあれば即座に学園長の立ち会いの元学園裁判となります。」


アメリア嬢の指先が微かに動くのが見えた。


「第二に」私は続けた。「本気で『いじめ』を期待していたということは、あなた方はアメリア嬢を『犠牲者』にわたくしを『加害者』にするつもりで接近していたわけです。それはつまりわたくしのみならず彼女の人格も尊重していない最低の行為ではないですか?殿下は先程、物語とおっしゃった。それはわたくしも彼女もこの世界の舞台装置程度にしか思っていらっしゃらないと考えてよろしいですか?」


「それは……だって……」


「そして最後に」私は扇子を開いた。


「殿下、あなたは仮にも次期国王候補です。その地位を利用して真実の愛のハッピーエンドなどという個人的な欲望のために権力を濫用し、言いがかりで陛下の取り決めた婚約を破棄しわたくしを悪役として断罪するおつもりですか?」


その時だった。


「面白い議論だな」


背後から響いた低く重厚な声に全員が凍りついた。


振り返るとそこには我が国の国王陛下その人が立っていらした。護衛も少なく、ただ一人で威厳を放っていらっしゃる。


「父上……!」


「エドワードよ」陛下の瞳は氷のように冷たく感じられた。「この騒ぎはなんのつもりか」


「これは……ただの誤解でして……」


慌てて取り繕う殿下の姿には先程までの強気な様子は一切残っていない。

陛下が居ないうちに言いがかりを押し通すつもりだったのが一目瞭然だ。


「そうかな?」陛下は一歩前に出られた。


「報告書によれば、お前はこのところまともに王子としての責務も果たさずお前がひっつけておるアメリア・グレイ男爵令嬢と遊び呆け、あまつさえその遊びや貢物で婚約者との交流費を不正使用しているそうだな?ちなみにそこの小娘に対する報告書も上がっておる。国外からの不審な資金提供が複数回あったそうだ。しかも全て匿名で」


殿下と共にアメリア嬢の表情も明らかに歪んだ。

殿下は陛下の言葉に咄嗟にアメリア嬢を引き剝がそうとしたのか身じろぎするが、彼女はしっかり掴んで離そうとしない。


「さらに」陛下は懐から一枚の紙を取り出された。


「転送魔法を使った国外への情報流出も確認されている。その魔法陣の痕跡はすべてエドワード、お前の部屋で見つかっているぞ」


「そんな……嘘です!」


腕にアメリア嬢を引っ付けたまま悲痛な声を上げる殿下はすでにまともに取り繕える状態では無さそうだ。


「これも、お前の部屋で見つかったものだ」


陛下は紙片を掲げられた。


「『ヒロインルート確定方法』なる記録がある。これを読めばお前達の全ての悪事を押し付ける為の『悪役令嬢』なるものが必要だというのがよく分かる」


殿下は腕のアメリア嬢をそのままに膝から崩れ落ちた。

アメリア嬢はそんな殿下を支えるでもなく手を離し呆然と立ったままだ。


「そしてなにより」


陛下は私の方を向かれると僅かに口角をお上げになった。


「メリーベル・フォンテーヌよ。何故か知らぬが、我が国が警戒していた密輸組織の資金洗浄ルートを独自に調査し、証拠を集めていたな?」


その瞬間、私は小さく息を飲んだ。まさかバレていたとは。


「その組織とこの二人の動きが金の動きを含めて完全に一致している。偶然というには出来過ぎているな?」


会場中が息を呑む音さえ聞こえた気がした。

本来であれば陛下も揉み消したかったであろう第一王子の悪事が白日の下に晒されようとしている。


「父上!こんな馬鹿げた話を信じるのですか!?」


「馬鹿げているだと?お前達の行動との一致確認を行ったのは我が王家の影だ。愚か者が」


陛下の言葉にもはや言葉も出ないのか口を半開きのまま固まった殿下をよそに

私の隣へと足を進めた陛下は私の肩に優しく手を置かれた。


「メリーベルよ。よくぞ国家を救ってくれた。褒美は追って与えよう」


「恐れ多いことでございます」


私は深々と頭を下げた。まさか自分の身を守る為の調査が国の闇を暴く事になるとは夢にも思わなかった。


「さてエドワード」


再び向き直った陛下の目は再び厳しいものになっていた。


「そしてアメリア・グレイ。君たちは己の幼稚な妄想のために国民を危険に晒し、王家まで貶めようとした。覚悟しておくがいい」


二人は絶望の淵に立たされていた。

まさか自分たちが悪役令嬢を断罪しようとしていたのに逆に断罪される側になるとは想像もしていなかっただろう。

この世界が自分達の幸せの為だけの物語の舞台だと思っていたのだ。

職務怠慢悪役令嬢だなんて、悪役令嬢は役職名でも何でも無いのに。

私もこの会場の人々も、国王陛下さえ、舞台装置で意思を持った人間では無いとでも思っていたのだろうか。



「メリーベル」陛下は去り際に静かに仰った。


「君にはある提案がある。だが今はまだ時期尚早かな?」




私の頬がほんの少し熱を持つのを感じた。人生はまったく予想外の展開ばかりだ。



メリーベルの守備範囲は王子より国王陛下

そういうこと

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