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消えた恋人

作者: まみ

 さっきまで、ここにいた、はずなのに。俺の腕の中で、眠っていた、はずなのに。キスをしようとした瞬間、真理子はいきなり消えてしまった。あとかたもなく。物音一つ立てずに。どこに行った。一体、何が起こった。俺の頭がどうかしちまったのか。

 

 愕然としている俺の前に、ふいに中年の男が現れる。まるで、目に見えない扉が空間の中に存在しているように、彼は突然現れた。「彼女は預かりました。取り返したければ、私についてきてください」彼はそう言った。彼は自らを清水と名乗った。俺は真理子との甘い日常を取り返すため、彼に従った。


 清水は空間の切れ目から異世界に入っていった。「こ、ここは・・・」俺は驚いた。見たこともない世界。桃色の空。魚が空を飛び、鳥が湖を泳いでいた。物語の中みたいだ。「驚かれたでしょう。ここは裏の世界です。さあ、こちらへ。この世界を統治しているキモキモ王が、お待ちです」「変な名前!」


 キモキモ王は、本当にキモかった。ニオイも強烈だし、口からはヨダレを垂らし、ハァハァ言っていた。勿論、下半身は裸だった。「やっと会えたね、英司くん。さあ、ワシのことを抱いてくれ」キモキモ王はベッドに横たわり、俺を手招きした。「真理子を返せ!キモいんだよ!」俺は力の限り叫んだ。


 すると、キモキモ王は悲しい顔をし、すねてしまった。どうやら真理子をさらったのは、俺に抱かれたかったかららしい。キモイ王様だった。「わ、わかったよ・・・お前を抱けば、真理子は帰ってくるんだな?」俺は観念した。一度だけの過ち。長い人生、こういう経験も良いだろう。真理子のためだ。


 俺は人生で一番辛い経験をした。具体的な内容は、俺の脳が記憶するのを拒んだため全く覚えていないが、辛く苦しい出来事だったことだけは確かだ。キモキモ王は満足そうにベッドに寝そべっていた。心地よいけだるさ、ってやつだろう。とにかく、真理子は帰ってきた。清水が俺の部屋まで送ってくれた。


 後日談。俺は真理子に振られた。自分以外の人と体の関係になったことが許せないらしい。俺の人生、踏んだり蹴ったりだ。それともう一つ。俺はキモキモ王に会いたい。人間って辛い思い出が時の経過と共に良い思い出に変わっていくって、本当なんだな。とにかく今は、キモキモ王に会いたくてたまらない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公にすごく同情します。 そしてまた笑いが止まらない。
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