第13章 卒業式と桜見パーティー(完)
三月、あの名浜キョウカ先輩が卒業した。
ちょっと信じられないが事実である。
もう前から学校にはほとんど姿を現さなかったので、最近目にしていなかったが、卒業式では華々しく、卒業生代表の挨拶をして立派に務めを果たした。
あの先輩、やる気がないとか言いながら、学年首席の成績優秀者だったらしい。
卒業後は京都大学理数科へ進学し、アルゴリズム問題などを解くのを勉強するそうだ。
ちなみに我が高校から京都大学へ進学するのは偏差値中くらいであるからして、前代未聞の話で、校長先生は鼻が高いのだそうだ。
その星宮剛子校長も卒業証書を渡して、校長先生の話をして立派に役割を果たした。
元大手製造業の民間企業出身の女性校長として有名で、その手腕は相当のものだという噂がある。
最近白髪が増えてきたのが悩みらしいけれど今は全部染めていた。
いつもダークグレーのパンツスーツを着てピシッとして隙がないのが特徴だろうか。
今日も大好きな干し芋の話もちらっと織り交ぜ、ユーモアにして話す手法は、なるほど知恵ものなのだろう。
男子優勢で女子が少ないため、感動の泣きまくる女子がいっぱいいるという風にはならないものの、男子であってもそれなりに思うところがあるのか神妙な顔をしていた。
いつもは荒っぽい工業高校であっても、人の子なのだ。
「じゃあね、ばいばい」
「ばいばいです。先輩」
こうしてキョウカ先輩は卒業していった。
今思えば、太陽みたいでもあるし、嵐みたいな人でもあったな。
一人で北風と太陽ができそうだ。
俺たちはさながら道を行く旅人だろうか。
どちらのキョウカ先輩が俺たちのコートを脱がすか、見ものだな。
ちょっとノスタルジーに浸りながら、見送るのであった。
と思っていたのだけど……。
三月末の桜見パーティーは盛大に行われた。
主催は森河先生と名浜キョウカ先輩だ。
卒業していなくなったと思ったのに、ちゃっかり帰ってきている。
桜公園に陣取った一行は、みんなで舞い散る桜の花吹雪の下で、会話を楽しんでいた。
陽気は春の太陽の下、ぽかぽかと暖かく過ごしやすい。
またしてもハルの超運でも効いているのかと思うくらいだ。
先生も酒は一滴も飲まず、生徒たちの間を行ったり来たりしていた。
「どんどん食べて、はじめます!」
「いただきましょ」
「「「いただきます」」」
みんなでジュースを飲み、料理を食べる。
どちらもキョウカ先輩が森河先生をパシリに使って用意したという。
唐揚げ、卵焼き、フライドポテト、イカリング、エビフライ、エビチリまである。
惣菜はキョウカ先生お手製だそうで、そういう器用なこともできるのか、と今更ながらに知って感心した。
ちょっと先輩の評価を上方修正する。
人間って意外なこともあるものだ。
いつもは「まあいっか」「めんどっちい」が口癖なのに。
パーティーとか好きそうだもんな。ニコニコ笑顔で準備する姿が容易に浮かぶ。
「今日は無礼講だからな、がっはっは」
森河先生はいつもこうで、この笑い方がデフォルトだ。
俺たちをさんざん水曜日にマラソンで鍛えているだけはある。
パソコン部なのに無駄に体力がついて、二人三脚で優勝したのもマラソンのおかげかもしれない。
感謝こそすれ恨むこともないが、ちょっとは手加減して欲しかったとは思う。
俺たちはマラソン部でも陸上部でもないんですよと何回言ったことか、懐かしい限りだ。
ちなみにもちろん来年以降も続く予定である。
「今度……お世話になる、レイ、です」
「レイちゃんは、私の三つ下の後輩なんだわ。みんな、よろぴっぴ~♪」
「……よろぴっぴ、です」
「「「おおおおお」」」
新しい子を紹介していた。
俺たちの一個下、新一年生の予定の星宮レイという名前らしい。
レイは零という字で、英語でいえばゼロだ。
珍しい名前だけど、たぶん澪、ミオでないのがポイントなのだろう。
よく間違えられそうだ。
「いいねいいね。レイちゃんね。数学っぽくていい名前だ」
「ありがと」
「うんうん、楽しんでってね」
「んっ」
無口な子なのだろう。表情もデフォルトからあまり変わらない。
楽しくないわけではないのだろうが、少し心配な気がする。
その子の自由とは言え、かわいい子には笑っていてほしい。
もちろん本人の意思は尊重しなければならないので、俺は心のTODOに書くにとどめる。
俺の従妹に工藤ヒマリという小六の子がいる。
父親の兄一家の一人娘だ。
元気っこで、かけっこが大好き、日に焼けた健康そうな肌が特徴的だ。
このレイちゃんとは正反対の雰囲気をしている。
どちらもかわいらしいところは同じなのに不思議だ。
こっちではツヨシ先輩とヤマト先輩がまた泣いていた。
先輩たちもなにやってるんだか。
新三年生としての自覚はあまりないのだろうか。
まあ楽しくやっているように見える分には問題ないか。
俺はあまり強く言えないんだよな。
先輩というだけでなく、これでも世話になっている自覚もある。
キョウカ先輩は普段からニコニコ顔だが、あれで寂しがり屋なのだ。
俺たちも勉強しているときは相手をしてあげられないので、ツヨシ先輩とヤマト先輩たちがキョウカ先輩の周りの世話をしていると助かったところが大きい。
「うおおお、これで本当に最後なんですね。キョウカ先輩」
「先輩うおぉおおお」
うるさい二人である。
長身がっちりのツヨシ先輩と長身細身のヤマト先輩が並ぶといつも暑苦しい。
まあ、これでもパソコン部の部長と副部長だ。
これからはキョウカ先輩がいなくなるけど、しっかりやっていけるのだろうか。
キョウカ先輩も心配だが、この二人はさらに心配だ。
「さあハルちゃんも飲んで飲んで」
「キョウカ先輩、飲んでます」
「もうほら、ぐびっと」
「お酒じゃあるまいし、そんな飲ませてどうするんですか」
「それもそうか、あはは」
キョウカ先輩はハイテンションで笑っている。
完全に壊れているけど、これ、本当は寂しいんだろうな。
その裏返しなんだ。でも普通に戻ったら泣いちゃうかもしれないし、どうしたものか。
「マナカ先輩、よろしく、です」
「はい、いい子だ。よろしく、工藤マナカです」
「はい」
レイちゃんはいい子そうでよかった。
キョウカ先輩よりさらに小さい。完全体のロリっ子だった。
白い髪のロングヘアーが揺れてかわいらしい。
「甘酒好きなの?」
「甘いの、すき」
「そうかそうか、いい子だなぁ」
「んっ」
俺もすでにデレデレだった。
かわいい子には旅をさせろなんて、とんでもない。
ここでずっと一緒にいたいに決まっている。
レイちゃんは、無自覚小悪魔系かもしれない。
俺はすでにはまりそうだ。
「まあいいか~ハルちゃんいなかったら本気でマナカ君狙ったのに」
「全然、よくないっす」
「よくないですよ、キョウカ先輩ぃ。ちょっとぉ」
「ハル、大丈夫だ、この人テンションおかしいだけだから」
「でもぉ」
ハルに絡んでるキョウカ先輩が爆弾を落としていく。
やめて、そういうの。本当に。今から大学生でしょ。
「マナカ君~。最後にこういうイベント、何かIT用語で例えてよ?」
「大喜利ですか? そうですね」
「うんうん」
「イースターエッグとかどうですか?」
「卵? いや、知ってるよ。なるほどねぇ」
イースターエッグとは、ソフトウェアにある隠し要素で、スタッフロールなどを表示する機能のことだ。
少し前の時代にはよく見られたが、近年ではあまり見かけない。
ちょっと寂しい気もするが、その遊び心や派手な演出は花見パーティーに似ているように思う。
「マナカ君、イースターエッグか。なるほど、いいね。がっはっは」
「先生まで、一緒になって」
「いいじゃないか。来年もみんな、よろしく頼む」
いきなり真面目顔になって頭を下げる森河先生。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
来年も楽しいパソコン部にできるといいけど、どうなることやら。
上級試験に向けて、勉強を頑張らないとと再び決意する俺であった。
二年生も頑張って行きまっしょい。よろぴっぴ。
(了)
これにて、完結です。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
もし、機会がありましたら、2年生編へと続きますが、今のところ未定です。
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