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ミニスカ・アルゴリズム ~マナカの情報技術試験と幼馴染ハルの脆弱性~  作者: 滝川 海老郎


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第12章1 オフラインのクリスマス

 俺、工藤マナカは合格の感情と、ハルの気持ちをかみしめていた。

 そんなパソコン実習室に、最近いつのまにか来なくなっていた、キョウカがふらりとやってきた。


「やあ、マナカ君」

「キョウカ先輩、お久しぶりです」

「はろはろ」

「はい、はろはろです」

「ところでさ、合格おめでとう。やったね。本当に受かると思わなかったけど」

「そんな酷いですよ、俺の評価。でも、ありがとうございます」

「ハルちゃんたちは残念だったけど、まだ高校一年生だよ。普通に来年でもいいから」

「そうですよね。ハルたちにも言っておきます」

「頼んだよ。あとブラックのコーヒーも、よろぴっぴ~♪」

「それはもう言わないんじゃなかったんですか?」

「いいじゃない、いけず」

「はいはい、ブラック買ってきますね。アイスです? ホットです?」

「あ、アイス!」

「分かりました」


 先輩はサーバールームに入っていき、俺は百円自動販売機に向かう。

 それにしても値段がどんどん上がっていくこの国の自動販売機の平均価格を見ていると、よくここの自動販売機はまだ百円でやっているよな。

 これこそが一番目の七不思議で、なるほどと思った。

 当たり付き以前の問題で百円なのが奇跡的だよな。


 冬でも甘いアイスコーヒーとブラックのアイスを購入して、俺は戻る。

 こういう時くらい当たってくれてもいいと思うが、この前試験で全部の運を使ってしまった気がするからな。

 ハルの運を分けてもらわないと、俺の生活は危ういかもしれない。

 そんなことを考えながら、三階のパソコン室まで階段を上がっていく。

 あ、前をハルが階段を上っていく。

 それにしてもミニスカはけしからん長さだよな。

 風でふわっと動く瞬間に、さっと手でうまいこと隠している。

 ただ、その指先が震えていて、もしかしたら恥ずかしいのかもしれない。

 計算尽くされていて、問題ないのだろうけど、俺のほうまで、何とも言えない気持ちになった。

 俺だけならまだしも、周りにはまだ、他の人もいるのにな。

 そうとも知らず、ハルは普通に階段を上っていく。うむ。


 この後、ハルにコーヒー私の分はないのか、ずるいと言われるのが俺たちだ。

 このときはちょっと理不尽な気がしたが、幼馴染なんてこんなものなのだろう。



 クリスマスイブの夜。

 今年は失敗しないように、仕事を入れていない。

 すでに終わらせていて、再来月くらいにはお金が振り込まれる予定だ。

 やっぱり仕事を完遂した後はいい気分だ。

 それに今年は試験にも合格したので、気持ちは上々だった。

 ハルは落ちてしまったけど、一緒に次は頑張るって約束したもんな。


 さて俺の家にハルが来ていた。

 母親は今日も夜勤でいない。ご苦労様としか言いようがない。

 患者はイベントとか関係なくくるので、どうしようもない。


 二人でいつものテーブルに座り、テレビを見ていたところ、いきなりライトとテレビが消え真っ暗になった。


「きゃっ」

「なんだ、停電か?」


 俺たちは真っ暗闇に閉じ込められてしまう。


「マナちゃん、怖くて……一緒にいて!」

「ああ、すぐ隣にいる」

「うん……」


 さっと椅子を近づけて、体を密着させてくる。

 こんな時だったけれど、ハルのいつもの甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

 その匂いに充てられて、なんだか興奮してくる。

 体温も上昇してドキドキが止まらなかった。

 体の重みが少しかかってきていて、それが心地よい。

 やったことがないから分からないが、ぬいぐるみでも抱いている気分に近いのかもしれないと思う。


「暖房もとまっちゃったね」

「だな、寒くなるかもしれない」

「そうだね」


 スマホは持ち歩いている。

 幸い、画面や背面ライトがあるので、照らすことができる。

 昔の人は停電になったらどうやって生活していたのだろう。

 不思議だが、今考えても何も浮かばない。そういえば、懐中電灯とかあるといえばあるな。


「充電どれくらい?」

「けっこうある、大丈夫」

「私も。よかった」

「うむ」


 二人で電池残量を確認し合う。スマホの明かりは生命線だ。

 普段と違い窓の外も暗く、街灯も消えているのが分かるので、これは家固有の停電ではない。

 何か事故とかが起きたのだろう。


 しばらくして、スマホでニュースをチェックする。


「これだわ。トラックが電柱にぶつかったんだって。この辺一帯全部、停電してるよ」

「なるほど、ハル、サンキュ」

「うん」


 これじゃあ待っててもしょうがないなと、判断をする。

 今やれることは、やってしまおう。

 冷蔵庫に行き、中からクリスマスケーキを取り出してくる。


「ほら、クリスマスケーキ。暗いけど食べるか?」

「うん」


 二人でケーキを分け合う。

 チョコレートケーキとイチゴのショートケーキだ。

 それぞれワンピースずつしかない。

 どちらも半分こにして、二人で両方を食べる。


「半分こだね」

「ああ、半分こだ」

「いひひ」

「どうした」

「いっつも、半分こだと思って」

「まあな、俺たちはいつもそうだ」

「知ってる? 世の中の幼馴染っていっても、普通はこんなふうにしないんだよ」

「そうなのか。知らなかった」

「うん」


 情報技術試験の振り返り、楽しかったこと。悲しかったこと。いろいろあった。

 俺が故障率の確率の問題を間違えたときのことだ。

 楽しかったのは、一緒に勉強したこと。花火を見たこと。観覧車にビキニまで。

 未来のことも話す。IT社長やおばあさんになっても一緒かな、とか。


「それだけじゃないな」

「うん。いっぱい、いろんなことしたね。今年は」

「ああ。中学の時は、距離置いてたからな」

「うん。今思えば、隠して付き合って、放課後限定カップルとかすればよかった」

「そんなことできるのか」

「ううん。我慢できないと思う。学校でも一緒にいたいもん」

「だよな。ハルは裏表のない、いい子だからな」

「えへへ」


 ハルとケーキも半分こだ。

 お供には、シャンメリーを開ける。

 シュワシュワの炭酸にマスカット味のジュースがケーキに花を添える。

 去年はシャンメリーもただの陳列商品の一つだったが、今年はこうして家で飲む機会ができた。

 一緒に飲む相手がいるから。

 一人では飲もうとは思わなかっただろう。もちろんケーキも。


「去年のクリスマスも酷い目に遭ったね」

「ああ、俺のパソコンがクラッシュして、仕事が徹夜だったな」

「あんなのないよねえ、普通」

「だな。まあバックアップは大事だ」

「そうだよ。ちゃんとバックアップ取ってよ。人生もね」

「おう、俺のバックアップ、ハル。頼んだぞ」

「うん。私たちRAID1だもんね。一緒に共有メモリー保存しようね」

「そうだな」


 夜は停電のまま更けていった。

 まだ事故と停電からは復活しないのだろうか。

 外は異様な静けさに包まれていて、不気味だ。

 俺でもちょっと怖いと思う。


「怖くないか?」

「平気。マナちゃんとくっついてるもん」

「そうか」


 ハルが身じろぎする僅かな動きさえ、くっついてる場所からダイレクトに伝わってくる。

 その感覚が柔らかくて、とてもドキドキしてくる。

 小さいころは、ここまで心拍数が上がるとは思っていなかった。

 あのころとはもう違う、大人になった二人。

 ハルは女の子らしくなり、俺は声が低くなって、背もこの間、ハルを抜かしたばかりだ。

 ほんの僅かだが、俺のほうが背が高い。

 その優越感は、何を意味するのか、自分自身でもよく分からない。

 幼馴染。ある意味、異性の最大のライバルであり、運命共同体でもあり、そして愛する人。

 普通は恋人というのだろうけど、俺たちはまだキスもしていない。

 どちらかというと、まだ幼馴染だろう。


 ソファーに掛けてある毛布をテーブルに持ってきて、二人で羽織る。


「あったかいね、マナちゃん」

「ああ、毛布だからな」

「違うよ。マナちゃんが温かいの。私の暖房器」

「おい」

「ふふふ」

「じゃあ、このまま、少し寝るか」

「おやすみ、マナちゃん」

「おやすみ」


 俺たちはテーブルに突っ伏して眠る。

 いろいろなことが頭の中をよぎっていく。

 ハルがはじめて俺の家にきて、挨拶した日。

 いじめられそうな俺をかばってハルが言い負かした日。

 相合傘のマークを黒板に書かれて消したこと。

 疎遠になってもコンピューター部に通ってくるハル。

 一緒に情報科を受けると宣言したこと。

 試験を受け、合格し抱き合ったときのハルの匂い。

 それは今もほとんど一緒で、心地いい。

 ふと気が付いたのだが、なぜか、自分の部屋のベッドに向かうと思わなかった。

 ハルに確認しようと思ったが、目をつぶって動かない。

 でも、寝てるようにも見えなかった。

 俺もハルも、寝られないのだ。

 ドキドキしている。こんな状況で眠れるとも思えなかった。

 甘酸っぱい時間だけが過ぎていく。

 すぐ隣にハルが密着したまま、時間がまるで止まったように。

 明らかに毛布とは違う温かい温度がハルを直接感じているようで不思議な感覚でもある。

 すべてが止まって見える世界で、俺だけが動いているように錯覚する。

 でも、よくよくハルを見ると、息をしている。


   ◇


 マナカを隣で直接感じている。

 こんなこと、今までも少しはあったけれど、ずっとこの状態だなんて心臓が止まりそう。

 大切な幼馴染。

 家が新しくなって不安いっぱいであいさつに来た日から、マナカは不器用ながらも笑顔で迎えてくれた。

 すぐに仲良くなってずっと一緒にいる掛け替えのない大切な人になった。

 それはいつの間にかで、いつからかも分からないけれど。

 体が密着して少し恥ずかしい。

 今声を出したら、震えてしまいそうだ。

 手も背中も肩も温かくてぽかぽかしている。

 私専用の暖房器の性能は思ったよりもずっと本物で、熱いくらいだった。

 でもこの熱の正体は、私の中から出てくるものかもしれない。

 そうだとするとマナカにも私のこの熱が伝わっているんだ。

 そう思うだけで恥ずかしくなってきて、顔まで熱くなってくる。

 冬でほんとうなら寒いはずなのに、とても不思議な気分だった。

 マナカも私と同じような気持ちなのかもしれない。

 全然動かないけど、寝ちゃったのかな。でもイビキとかも聞こえてないし、寝てないのかも。

 そっと目をつぶったまま、気配だけを探り続ける。

 なんだか先に目を開けたら、恥ずかしいから……。


   ◇


 永遠とも思える時間が過ぎ、外が気が付いたら明るくなってきた。

 停電が復活したのだろうか。

 それならライトがつくはずである。


 気が付いたら、パチリとハルが目を開け、こっちを見ている。


「どうした?」


 俺はそっと小さい声で問う。


「なんでもない。ただ眠れなくて」

「俺も。まあそうだよな」

「だよね」


 結局、俺たちはテーブルに突っ伏したまま、朝までの時間を過ごした。

 二人で笑いだすと、笑いが止まらない。

 おかしいのだ。この状況が。


「去年みたいに、ベッドで寝ちゃえばよかったのにね」

「だよな。途中で思ったんだけど、ハルがピクリともしないから、邪魔しちゃ悪いと思って」

「なんだ、起きてたなら言ってくれればいいのに」

「別にハルが提案してくれてもいいんだぞ」

「いやよ。そんなはしたない」

「はしたない???」


 俺が反芻すると、ハルが真っ赤になってイヤイヤと首を振る。

 はしたない、の五文字が頭の中をぐるぐる回って、意味を理解するまでに時間を要した。


「そういう意味じゃない!」

「そうだけど、そうじゃないじゃん」

「まあ、そうかもしれん」

「でしょ。マナカ君」

「はいっ……」

「あははは。はぁ、笑った笑った」

「あのな」

「またまた、ドキドキしちゃったね♡」


 俺たちは結局、一睡もせず、朝を迎えた。

 まるで夜中は誰も使わない社内システムの二十四時間稼働のサーバーマシンのようだと思ったのだった。

 世の中にも無停電電源装置が欲しいものだ。

 それから、もっとハイスペックな家庭用の蓄電システムとかね。

 そのあと、すぐに電気は復旧して事なきを得たのだった。


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