表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミニスカ・アルゴリズム ~マナカの情報技術試験と幼馴染ハルの脆弱性~  作者: 滝川 海老郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/27

第10章2 試験の日&アンブレラ

 そうして、ついに試験当日になった。

 今日はいわゆる秋晴れの日だ。

 太平洋側では秋冬は圧倒的に晴れの日が多い。

 まだ完全には寒くなっていないが、夏に比べれば十分寒い。

 晴れはハルのおかげだと思って拝んでおこう。

 なにせ運だけはいいからな。


「はい、マナちゃん。お守り」

「おおう」

「私のとお揃いだからね」

「ありがと」


 お守りか。いつの間にか買ったのだろう。

 例の明日田神社の合格祈願だ。

 地元の神様はご利益ありそうだ。

 それに運にステータスを全振りしてるハルのお守りだから効き目がありそうだ。

 ちらっとハルのステータス表を考えてニヤリとする。

 どんなスキルとか持ってるんだろうか。

 俺はプログラミング、レベル10くらいかな。

 ハルはレベル7くらいだろうか。もうちょっと相手をしてやればよかったかな。


 試験会場では一緒に予約した人物たちはバラバラに配置される。

 単なる偶然かもしれないが、これは不正防止の役割もあると思われる。

 受験番号を見て自分の試験の座席を確認した。

 昔はマークシートの鉛筆書きだったそうだが、今ではコンピューター試験に変わっている。

 ここのどこかにナカチュウとミウもいるのだろう。


「じゃあ、ハル、後で」

「うん! ガンバ、だよ」

「だな。ハルもガンバ」

「うん……じゃあね」


 ハルは後ろ髪を引かれるような思いで去っていく顔をしていた。

 まだ不安なのかもしれない。

 俺は初級ITテストに合格しているが、ハルは違う。

 俺と一緒に受けると言って、初心者が先に受ける定番の初級ITテストを飛ばして、上位の情報技術試験を受ける決断をしたんだ。

 それはハルの決意であり、俺と一緒にいたい表れなので、俺は尊重している。


 時間になり試験を開始する。

 見たことある用語がずらりと並ぶ。

 一般人では聞いたこともないような言葉も多い。

 特に英語は見ても意味を類推できないので非常にきつい。

 中には経済用語とか俺たちの専門分野からちょっと離れた用語とかも出てくるので油断ならない。

 それからセキュリティの問題は毎年必ず出るので、集中して勉強した。

 暗号関連の用語や理解は非常に専門的で難しいので、覚えるのにも苦労したものだ。

 楕円曲線暗号とかも出てくる。頭がオーバーヒートしそうだが、実装しろみたいな無茶な問題ではない。

 概念だけ知ってれば解ける。できる、俺ならできるぞ。


 まったく知らない問題がいきなり出てきた。

 焦って心拍数が上がりドキドキが止まらない。


「大丈夫だ、マナカ。一問くらい落としても他で受かる」


 自分に言い聞かせる。

 全問正解するのが理想だが、それはそれで、別に合格には関係がない。

 土台、全問正解なんて無理に決まっている。

 この試験、比較的難しいというのが世間の評判だ。

 実際に運転免許の試験のほうがいくらか簡単だし合格率も高い。

 車の免許より難しいのだから、当たり前なのだ。

 よし、少し落ち着いてきた。

 このまま仮回答しておいて、次の問題に移動しよう。

 理解できない問題に時間を使っても仕方がない。


 全体を見れば解ける問題のほうが多い。

 知らない問題はショックではあるが、それが今の実力だ。

 最新の情報とかも試験に反映されることがあるし、分野によっては単純にプログラムの問題だけではなく、周辺の話題なども拾われることがある。

 特に会社関連の法律問題などが出ると、知らなかったりする。

 あとは監査とかが出ることもある。


 こうして怒涛の午前中が過ぎていく。

 選択問題とは言え、単語だけでなく、内容を理解していないと解けない問題が多い。

 これが英単語テストなどと違う点で、簡単ではない理由だったりする。



 いつだかハルにご飯を用意したこともある。

 ということで俺たちはこういうことになった。


『今日は私がお昼用意するね、マナちゃんの分も。頑張ってもらわなきゃ』


 ハルのことだ朝から張り切ったのか知らないが、サンドイッチに鳥の唐揚げにおかず。

 なかなか豪華だが、ハルの顔が思い浮かぶ。

 そしてランチに紙切れが一枚、入っていた。


『マナちゃんがんばれ♡』


 シンプルだがきわめて攻撃力の高い総合火力を秘めている。

 俺はその一文字一文字に集中砲火され、炎上した。

 まるでDDoS攻撃のように、俺は「応答なし」にならざるを得ない。

 DDos攻撃とは分散DoS攻撃といい、色々な異なる場所から大量のアクセスをさせてサーバーを高負荷にする攻撃のことだ。

 まさに俺の心臓は過去未来すべてのハルの意思からの攻撃に晒され、高負荷状態により沈黙したというわけ。

 しばらくしてリブートで復帰した俺はハルの思いを胸に午後の試験を待った。



 午前に続き、午後の試験に挑戦する。

 プログラムのコードは体になじみがある。

 順を追ってステップ・バイ・ステップで何をしているか読み解いていく。

 ある程度のマイナーなアルゴリズム問題などは、その説明が載っているので国語の問題ともいえる。

 内容は計算式だったりするという意味では数学の問題ともいえる。

 しかしコードを書くのがメインなので、やはりこれが情報技術の問題だった。

 分かっている人からすれば、今ある知識さえあれば、読めば分かる問題なのだけど、これが実は難しいという。

 読解力や周辺の情報をすべて頭に入れて、問題を解く必要があるので、いわゆる今流行の考える力そのものを問われる。

 プログラマが知的労働者というのも納得ではある。


 実技経験の少ないテキスト勉強中心の学生は、この午後試験に弱いというのがもっぱらの評判だ。

 そりゃコード書いたことない人に解けるとは思わない。

 頭の中に、いつもニコニコ笑顔のキョウカ先輩が浮かんでくる。

 あの人なら一瞬で理解してあっという間に解くのだろう。こういうの超得意そう。

 しかし彼女は資格試験には興味があまりないらしく「そもそも朝起きるのがやだあ」と言って憚らない。

 先輩はゼロ次試験、不合格である。

 まったくもったいない話だ。


 さてキョウカ先輩の笑顔で元気をもらい、ハルのメッセージで勇気をもらった。

 ついでにミウの笑顔も思い出しておこうか。

 頑張りどころだ、問題を解こう。

 俺は処理の流れを追い続けて、ついに問題の解答へと移り、埋めていく作業をする。

 まあ、だいたいできたのではないでしょうか。

 手ごたえは十分だった。

 俺の今の限界は出したと思う。あとは天の神様のいう通りである。

 あつかんべつこん、べべべのべ、っと。

 この子供歌、地域で全然違うらしいね。



 試験終了後。

 ハルを見つけて近寄り、ハイタッチを交わす。

 まるで受験合格を祝ったあの日のように。

 合格発表はまだだが、俺には確かな手ごたえがあった。


「ハル、絶対大丈夫だよ」

「ううん、マナちゃんこそ!」


 その先にはナカチュウとミウも待っていて、全員でいったん合流して電車に乗り、家の近くまで帰る。

 しかし駅前に到着してそれぞれに分かれるところで……。


「雨、降ってきたね」

「ああ、俺、傘持ってないや」

「一緒に傘差そう、ね。マナちゃん」

「ああ、でもいいのか? 折り畳みだろ」

「うん。ギュッてくっつけば大丈夫」

「そっか」


 折り畳み傘はサイズが小さく、二人はいるには限界までくっつかなければならない。

 肩を寄せ合い傘の下に入る二人。


「本当は女の子も好きでしょ?」


 いつかも言ったその言葉が俺にのしかかる。

 肩がくっつき温かさが伝わってくる。

 それが外の気温との差で余計に強調された。


「好きだよ、ハル。資格より君が大事かも」

「きゅっきゃっ! やっと!」


 そこからは数秒だったのか数十秒なのか無言の時間だった。

 二人で歩きはじめる。

 今日は学校ではなく電車を利用したので歩きだったのだ。

 駅まで自転車だと後で予定が変わると面倒なのでこういう選択をした。

 それがまさか相合傘で告白するだなんて。

 俺も変わったのか。そうだな、試験は終わったのだし、もうどうにでもなれ。

 そういう気分だった。

 正直言えば午後の問題がスラスラ解けて、まだ興奮していた。

 勢いだったとはいえ、恥ずかしい限りだ。


 ハルを見ると目が潤んでいる。

 まつ毛が長い。パチリと瞬きするのが見える。

 頬は赤く染まっていて、かわいらしい。

 特に目の中は綺麗で本当に吸い込まれそうだ。

 こちらを向いて、顔が近づいてくる。

 そっとハルが目をつぶったその時――。


「なにしてるのかなぁ、ハルちゃんたち」

「お、お取込み中じゃね」

「おお、ついにか?」


 気が付いたらナカチュウとミウが急接近してきていた。

 存在を忘れかかっていたが、普通に同じ電車に乗ってきたので一緒に降りたはずだ。

 そりゃ横から見られてたわけだ。

 うかつだった。

 ここは俺たちのDM、ダイレクトメッセージのスペースではなかったのだ。

 まるでSNSの公開チャットであった。

 頭に血が上るのがはっきり分かりテンパって、俺はその後のことを何も覚えていない。

 ガッデム。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ