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ミニスカ・アルゴリズム ~マナカの情報技術試験と幼馴染ハルの脆弱性~  作者: 滝川 海老郎


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第5章1 中間テスト1ミラーリングフレンド

 今日もテレビではAIのニュースが飛び交っていた。


「AIの普及によりホワイトカラーの仕事の三割は失業する可能性」

「生成AI企業の時価総額三兆ドルに達する見込みで……」

「世界の投資マインドはAI企業へ集中しており」

「仕事環境ではAIの使いこなしが話題に」


 そんなニュースをチラ見しては、今日もハルと登校して学校に着いた。


「世の中AIだらけだ。プログラマは未来の資格次第だな」

「うん……」


 ハルが不安顔をするものの、俺たちは勉強第一だとテキストに顔を落とす。

 こんなふうにハルが暗い顔をするのは珍しい。

 いつもなら「マナちゃん、大丈夫だよ」と言ってくれるはずだった。

 今の時代、なんでもAIが使われだしているところだった。

 しかしAIにも良し悪しがあり、何にでも所構わず使用すればいいというわけではない。

 事実と異なることを提示してくることもある。

 特にコンピューターのプログラムはセキュリティーにかかわる部分は慎重にならざるを得ない。

 人間が見て確認するしかないのだ。

 それなのに、その肝心の理解できる技術者が足りないとニュースになっていた。

 俺たちの出番ではあるが、複雑な思いもある。

 教室に入るとナカチュウが絡んでくる。


「おーい、マナカ。文化祭の巫女服の写真、イイネが五百超えてるぞ」

「消せ。ネットに上げたのかよ」

「顔は隠してるって」

「それってどれだ?」

「これ」

「おい、俺とハルのツーショットじゃねーか」

「いいだろ、たまには」

「まあ、誰かは分からないし、悪くはないが」

「ほら」


 カイがニヤニヤしながら迫ってくる。

 なんだってんだ。

 カイのスマホ画面には、俺とハルがツーショットでセルフィーを撮ってるのをさらに撮っている写真が表示されていた。

 ハルは赤く照らされて幻想的でさえあって、とても美しい。


「見るなよ……」

「いやいや、これマジで神絵だろ。ハルちゃんのこの表情、完全に惚れてる顔じゃん」

「黙れ」


 俺は顔を赤くして席に座った。

 ハルは隣でうつむいて同じように耳まで顔を赤くしている。

 ――あの夜のダンス以来、なんか空気がおかしい。手をつないだ感触が、まだ掌に残ってる。

「いつも隣にいてくれてありがとう」って言った時の、ハルの笑顔が頭から離れない。

 でも俺は相変わらず「女の子よりもプログラミング言語」と言っている自分がいる。

 ……卑怯だよな。


 その日の放課後。

 中間テスト一週間前ということで、俺は教室に残り、勉強を重ねていた。

 今取り組んでいるのは故障率の問題だった。


 例えば十分の一で故障する機械を直列でつなぐと故障率は故障しない率の掛け算の逆数の関係になり、1-(0.9*0.9)=1-0.81=0.19。並列でつなぐと0.1*0.1=0.01が故障率だ。

 直列というのはどちらか一個壊れた時点でアウトという意味。

 並列というのは冗長性のある構成で両方同時に壊れない限りは稼働する場合をいう。

 ただしこれはあくまで論理的な確率にすぎず、さまざまな要因で冗長構成にしていても、同時に壊れたり、両方を制御しているコントローラーが壊れて全滅したりすることもある。

 諸行無常。


 俺は普段ほとんど運用を担当していないので、あまり理解が深いわけではない。

 稼働率九十九パーセントでも、一年は三百六十日だと三日くらい落ちていてもおかしくない計算だったりする。

 実際に、世界中で使われているインフラのサービスでも年に何回か障害のニュースがあったりするので、世の中は怖いのだった。


 MTBF/MTTRの問題もある。それぞれ平均故障間隔、平均復旧時間のことだ。

 故障率は率だから割合だが、どれくらいの頻度かはそれだけだと分からない。

 故障間隔が長いほうが優秀だとされる。


「バックアップは大事」

「だな」

「マナちゃんのバックアップは私にお任せ!」

「おう」

「二人で冗長構成して、稼働率も抜群!」

「なるほど」


 そういってくっついてくるハル。

 最近、前よりもスキンシップが多いような気がする。

 もちろん、小学生の頃はところかまわずペタペタしてきていたが、いつからか女の子のたしなみを覚えて、おとなしくなっていた、はずなんだけどな。

 特に中学の頃は、身体的には疎遠だったくらいだ。

 また、近頃ぐいぐいくる。

 まったくこれだからミニスカ・アルゴリズムはどういう構造をしているか分からん。


 応用問題は、簡単な例よりも構造が複雑で、頭が回らない。

 昔、父親が生きていた頃はこういう問題もブイブイ解けていたはずだったんだけどな。

 ハルのことがチラついて頭が回らないのだろうか。

 参考書をめくる手が震えてきた。


「くそっ」

「マナちゃん?」


 振り返るとハルが心配そうに顔を寄せてきていた。

 俺はそれを見て、顔を赤くして、なんだか気まで動転してくる。

 なんだろう、こんなに意識なんて今までしなかったのに。

 緊張と不安感とそれから恋心だろうか。


「マナちゃん、なんだか暗い顔、してるよ?」

「そ、そうか?」

「うん。不安かもしれないけど、一緒にがんばろ」

「おう」

「勉強よろぴっぴ、だよ」

「任せてくだ……さい」


 ハルに言われてふと考える。

 俺は順調に勉強していると思い込んでいたが、それが逆に焦りにつながっていたようだった。

 自覚して見て、なるほどと思った。

 数学が得意だと言っても、すべてできるわけではない。

 応用問題は基本よりも難しいせいで、冷静に分析してしっかり取り組まなければ。


 一度、自動販売機にハルと一緒に行って、缶コーヒーの甘いのを買ってくる。

 ごくごくとコーヒーを飲むと、頭が再び活性化してくる気がした。


「よし、もうひと頑張りだ」

「その調子。私もいるんだから、二人でやろうね」

「そうだな。ありがとうハル」

「にひひひー……マナちゃん」


 気が付くと、ハルの顔がずっと近い。

 俺はそれにビビり、さっと身を引く。

 参考書を再び開いて、テキストの意味をじっと考える。

 今度はすっと問題文の意味を理解できていた。


「ここ、こっちは掛け算だから」

「そっか、なるほど」


 ハルのアドバイスで具体的になり、問題をさらっと解いてしまった。


「よし、この調子だ」


 HDDの助長構成にRAIDというのがある。RAID0はただの容量拡張。RAID1はミラーリングといって、一台壊れたときにもう片方がバックアップとして機能する。RAID10は両方を一度に持つもので基本的には四台のHDDを使う。

 RAID5は三台以上を使って、パリティという仕組みで一部分がなくなっても全体の数値を復活できる機能がある。

 例えば三台の合計ビットが奇数になるようにする。

  ABC

  000

  011

  101

  110

 三台中一台が壊れても残りの二台から一台分のデータを復活できる。

 ただし、これも完全ではなくて、やっぱりコントローラーや一台壊れたのがきっかけで、高負荷になり二台目も壊れたりすることはある。


 このようなパリティをもう少し汎用化したのがハミングコードだ。こちらはもう少し広い範囲の数値を扱う。

 このパリティの仕組みは、メモリーにもありECCと呼ばれている。

 CD-ROMやQRコード、無線ランなどにもこのようなデータの冗長性が採用されていて、一部分が正常に読めなくても修正できる場合がある。

 QRコードの中央にマークがあってもコードが大丈夫なのもこの仕組みらしい。


 助長性がなくエラーの検出だけをする仕組みもある。

 チェックサムは各データを足していくことで誤りを検出する。

 チェックディジットはIDやバーコードの末尾一桁を誤り検出符号とするもの。

 CRCやMD5、SHAといったハッシュ関数などもチェックサム同様に利用されることがある。


 まあなんにせよ、エラー検出とかバックアップ補正とかそういうのはいたるところに実装されているので、用語も多い。


「マナちゃん、頭がパンクしそう」

「バックアップを起動だ」

「私、頭が一個しかないから、予備はないよぉ」

「確かに」


 そういって頭をくっつけてくる。


「ハルの予備は俺の頭だもんな。任せろバリバリバリ」

「ふふ、ちょっと元気出た」

「だろ」

「たまには女の子もいいでしょ」

「女の子を理由にサボるなんて卑怯だ。勉強するぞ勉強」

「もうっ」


 俺たちは勉強を続けた。


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