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ルナ離宮を発つ朝、執務室にノルベルトが静かに入室してきた。


「殿下、出立の前に一つお伝えを」


「なんだ?」


「本日、カティア様は十四歳のお誕生日をお迎えです」


私は一瞬だけ瞬きし――ああ、と小さく声を漏らした。


「……そうだったな。すっかり失念していた」


外交日程の準備に追われているうちに、肝心のその日を忘れていた自分に苦笑する。


「イレーネと相談し、密かにささやかな祝いの席をご用意しております。本日帰宅後、改めて正式な祝いの宴も設ける予定です」


「助かる。ありがとう、ノルベルト」


私はふと、かつて用意した贈り物のことを思い出す。


外交出立の準備をしていた頃だ。

「いつか妃を迎え入れる日が来たら」と選んだ宝飾品。十四歳という年齢が、正式に婚姻が可能となる節目であることを、当時の私は少しだけ意識していた。


(――まさか、こうして現実になるとは)


だが、法律上可能とはいえ、王族同士で十四歳当日に婚約する例は滅多にない。あくまで政略や両家の準備を整えてからの慣習が強い。


その日――当城すると、私の想定よりも遥かに早く噂は広まっていた。


王太子である兄上に出迎えられ、軽く頭を下げたところで、すぐさま皮肉混じりの言葉が飛んできた。


「……ユーリ。さすがはお前だな。誕生日当日に既成事実を作るとは、随分と手際が良い」


思わず顔が引き攣った。


(……そこまで話が歪んで伝わっているのか)


だが、ここで否定するのは愚策だ。貴族社会では『寵愛されている妃』であることの方が、むしろ立場を強くする。


私は微笑を崩さぬまま、柔らかく応じた。


「兄上。お察しの通り――私にとって大切な相手です。まずは外交任務を果たした後、改めて諸事整えます」


「……まるで新婚旅行にしか聞こえんぞ?」


兄上は目を細めたが、すぐに柔らかな笑みに戻る。


「まあ、カティアは十分に聡明で、堂々とお前の隣に立てる器量の持ち主だ。後は好きにすると良い。――とはいえ、カティアはまだ幼い。無体なことはするなよ」


私はその最後の一言に、微かに苦笑を漏らした。


(……心配性な兄上らしい)


だが他の王族たちの目は、これからますます厄介になることだろう。


(……それでも構わない。カティアを守り抜くと決めた以上、些細な雑音など意にも介さぬ)


私は静かに背筋を伸ばし、次なる外交の旅路へと心を定めた。

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