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地下の行く末


「あれ? ですが、不妊を癒すために呪いをかけたのですよね? その犯人がコーネン元侯爵であるのなら、コーネン元侯爵には子が産まれているのでは?」

「コーネン侯爵が儀式に関わっていたが、おそらくその治癒対象は奥方だったのだろう。記録を見る限り対象は女性のようだったからな。“妻”と記述があった。しかし、本当に原因を持っていたのは――」

「あ……」

 

 奥様のせいにして、ご自分は不妊ではない、と思っていたのか。

 それはそれで失礼な話だ。

 奥様に不妊の原因はなかった。

 むしろ奥様の不妊が“治っているはず”のに子ができなかったから……原因が自分自身であると、理解してしまったのか。

 

「不幸なことですね」

「迷惑な話だ。なにより貴族人口の減少を謀ったのは、立派な国家反逆だろう。その上に魔物の誕生を目論んだのだ。もはや擁護のしようもない」

「まったくです」

「は、はあ……」

 

 僕の印象とは、やはりまったく異なる二人の感想。

 僕ってやっぱり世間とは感覚がずれているんだなぁ。

 

「では、私は次の仕事があるのでここで。本日は無事のご婚約おめでとうございます」

「感謝する。ではさっさとお帰りいただこう」

「ぜひたくさんお子を――」

「帰ってくれ」

 

 バタン、と扉を閉めるヘルムート様。

 貴族の人口減少はそんなに深刻なのだろうか?

 チラリと見上げると、だいぶお疲れの表情で眉間を揉み解しておられる。

 そこから執事もメイドも誰もなにも口を開かないので、なんだか変な空気になった。

 

「えっと……ヘルムート様、あの……僕はまずなにをしたらいいでしょうか?」

 

 婚約した、ということで改めてこの家の管理について考えたいと思う。

 奴隷呪の首輪で思考能力は低下しているが、どうせ貴族の妻としては新人に違いないので執事や侍女長に今までの管理のやり方を聞いていかなければならない。

 眉間から手を放したヘルムート様が少しだけ困ったように僕を見下ろす。

 じい、っとしばらくただ見つめられて、首を傾げる。

 なんだろう……?

 

「ひとまず、経理と本宅、離れそれぞれの管理から始めてほしい。離れの地下についてはまだ当局の調査が終わっていないので、ひと段落着いたら地下の取り壊しについて――」

「ええ……!? 地下を取り壊すのですか……!?」

「それは……あんな危険な場所、閉鎖しても悪用されてしまうとわかったのだから、取り壊すしかあるまい……?」

「もったいないです……! ヒューズ・ロッセの作品のファンにとって、あの地下室は物語の中のものが具現化した最高の施設ですよ……!? それを取り壊すなんて……」

 

 もったいなさすぎる!

 なにか有効活用すべきだ。

 僕のように、ヒューズ・ロッセ作品を愛する人にあの仕掛け部屋の感動を味わってほしいくらい……。

 

「あ! 公開したらいいのではないでしょうか!」 

「こ、公開? なにをだ?」

「安全性を確保したうえで、保全のための料金を入場料という形で徴収し、ヒューズ・ロッセ作品ファンのためにファンが集う場にするのはどうでしょう? 幸い離れは談話室や遊戯室、バーなどもございますからファンの皆様が作品について話し合う場にもってこいだと思うのです。僕もジェーンさんとヒューズ・ロッセの作品について話をしたのが本当に楽しかったので、きっと同じ考えの方はいるのではないでしょうか? 取り壊す費用ももったいないですし、それよりは有効活用すべきかと」

 

 未だかつて自分でもこんなにたくさん話したことはない。

 ヘルムート様もだいぶ変な顔をされていたが、すぐに顎に手を当てて考え込む。

 

「悪くない。取り壊し、埋め立てる費用は決して安くはないし、仕掛けを取り外すなど普通ではかからない費用がかかる。逆に客を招いて保全に、か。しかし、管理が難しいのではないか?」

「そのあたりは仕掛けを作った業者か、職人の方を頼ればよいのではないでしょうか? 仕掛けの規模を考えても、自分ですべて作ったとは思えませんし」

「確かに。その業者や職人の連絡先は?」

「調べればすぐにでもわかるかと」


 執事さんが頭を下げて、僕に見える角度でウインクしてくださった。

 もしかして、本宅の執事さんも地下を取り壊すのは反対だったのかな?


「ではその方向で進めて構わない。だが、カミル、その計画は奴隷呪の首輪が外れてから実行してほしい。間もなく奴隷呪の首輪を外す呪文がわかるとは思うが」

「あ、そうですよね……。はい、わかりました」

「それともう一つ。発情期のことだが――」

「あー……」


 半年前、僕が飲まされた呪いの媚薬は発情期を誘発するものだった。

 オメガの発情期を無理やり発動させたせいか、僕の発情期は長く薬で止めていたのも手伝い完全に発情期不順になってしまったらしい。

 しかし、さすがに半年もないのはおかしいので、お医者様には「そろそろくるのではないだろうか」と言われている。

 一応、治療のためのお薬も毎日飲んでいるし。

 けれど今回の件でヘルムート様は以前よりもお忙しい。

 今日お邸に帰られたのもかなり無理をしてのことだろう。

 それになにより、僕とヘルムート様は……契約結婚。

 子作りに関してもどうなさるおつもりなのか……。

 ここで聞くのも少々憚れる。


「発情期が来たらすぐに知らせてほしい。婚約者になったのだから」

「ええと……。……はい」



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