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カミルの知らない世間


「他の伯爵家との兼ね合いもあるのだ。確実という話でもないだろう。ともかくこの話は終わりだ」

「やれやれ。カミル様、どうぞ元気な赤子をたくさん産んでくださいませ。四大侯爵家は王家に妻なり夫なりを嫁がせるためのお家でございます。アルファであるとされるヘルムート様と、オメガ男性であるあなたからならば確実にアルファの世継ぎがお生まれになることでしょう。それは王家として非常に望ましい」

「あ……」

 

 ヘルムート様の眉間に皺が寄る。

 ヨアギャレット西国の王族は、四大侯爵家から婚約者――結婚相手を選ぶ。

 また万が一王家から世継ぎがいなくなった場合は四大侯爵家から選挙で次期王が選ばれるなど、非常に重要度が高い。

 正直それほど国として重要度の高い四大侯爵家の一角に数えられるコーネン元侯爵が、奴隷の売買や邪教と繋がっていたというのは国家反逆に等しいものだ。

 まあ、だから捕まったんだろうけれど。

 王家としてもそのくらいの速度で処理しなければ、他の貴族への影響が大きくなると思われたのだろう。

 ……というか、今更ながら侯爵の身分で奴隷商や犯罪組織や邪教と一緒に魔物を僕に産ませようとしていたコーネン侯爵、いったいなにが理由でそんなことをしていたのだろう?

 地位もお金もあっただろうに。

 あ、でも確かコーネン侯爵は『種なし』と噂されていた。

 正妻の他にも側室を僕の姉含め五人も娶っていたらしいのに、結局一人も子に恵まれなかったとか。

 侯爵家のもっとも重要な役割は王家に嫁がせる女児または男児を用意すること。

 子が一人も産まれないということは、侯爵家の役割を果たせない。

 いや、それ以前に家の維持すら……。

 けれど別に貴族であれば、親類から養子をとることもできる。

 それをせず、自分の血の繋がった子にこだわっていたのだろうか?

 

「あまり変な話をしないでもらおう」

「致し方ないでしょう、あなた方の結婚の時期は第一王子殿下の結婚の時期と重なりそうですからね。第一王子殿下はアルファ。カミル様とヘルムート様の子にオメガが生まれましたら殿下の子の伴侶として、第一候補になることでしょう」

 

 にこにこと機嫌よさそうにそう話す公証人の方に、ヘルムート様の表情はますます険しくなる。

 しかし、これが“世論”というやつなのだろう。

 ヘルムート様に望まれるのは、王族の伴侶となる子ども。

 でもそれは他の侯爵家も考えていることなのでは……?

 

「他の侯爵家のお家にもオメガがいらっしゃるのではないのですか?」

「いえ、現在侯爵家や伯爵家にオメガの側室はいらっしゃりませんよ。もしかしたらご存じないかもしれませんが、オメガの人口はアルファよりも少ないのです。数年前にアンバレザ教という邪教が大規模な呪いの儀式を行い、オメガだけでなく女児も産まれづらくなっていますしね」

「え……の、呪いですか……!?」

「ええ。ヨアギャレット西国全土にかけられた大規模な呪いだそうです。私も詳しわけではございませんが、不妊を癒すために国全土の女性の胎の生殖能力を大幅に下げる呪いだとか。おかげで国全体の出生率が年々下がっているのですよ」

「そ、そんな……」

 

 そんな話初めて聞いたけれど、家に引きこもって社交などとは無縁だったから知らなくても当然なのかも。

 でも、実際元フェグル伯爵の正妻や愛人にも子はいなかった。

 僕がいた約一年半の間に、孕んだり産まれたりもなかったし。

 思えばあれほどお盛んだったのに、正妻と数人いた愛人にも子が産まれなかったのは確かに奇妙だ。

 子なし貴族であるなら世継ぎ問題もあるから避妊もしないだろう。

 とはいえヘルムート様が「呪いは解けている」と顰めっ面のままおっしゃる。

 ただまだ残滓が漂っており、特に貴族街の貴族には影響があるらしい。

 つまりここ数年貴族の出生が減っている。

 ないわけではない。

 でも産まれるのは男児が多く、オメガはもちろん女児も産まれづらいとか。

 平民から養子を取る貴族もちらほらと増えてきた。

 そういえば読み書きができない貴族が増えてる、という話もさっきしていたけれど……もしかしてそれも関係しているのだろうか?


「しかし、不妊を癒すため、なのですよね? それなのに他者を不妊にするなんて」

「私も信じ難い話ですが、あの邪教は『なにかを捧げて益を得る』儀式をよくやっていたそうで。他者の『妊娠する力』を奪い、自らが妊娠をできるようにした、ということのようですね」

「その不妊だった者の調査も進んでいたが、第一容疑者として上がっていたのがコーネン元侯爵だった。目はつけていたが、なかなか尻尾を出さなかったが今回堂々と自ら儀式に参加していたから現行犯として逮捕ができた。……もっともなぜ、魔物を現世に生み出そうとしていたのかはまだわからないが」

「実におぞましい話です。侯爵様は長い不妊でおかしくなってしまっていたのでしょうかね」

「さあな」


 公証人の方が首を横に振る。

 長い間の、不妊。

 望んでも子ができないのは……それほどに追い詰められてしまうものなのだろうか。

 しかし子がほしいのなら、なぜあの儀式でコーネン侯爵はご自分で父になろうとしなかったのだろう?

 モルゾドール様にやらせて、自分は見ているだけだったのだろう?

 魔物の父になるのは嫌だった?

 それとも、不妊に悩んでいたから自信がなかった?

 でもそれを言ったら、モルゾドール様にも子はおられなかったのに?



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