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婚約


 それから半年後。

 正式に婚約の手続きが完了し、来年に入籍、ということになった。

 理由としては僕の奴隷呪の首輪がまだ外れていないから。

 奴隷商から首輪の製造者にはすでに辿り着いているらしいが、そこから首輪の外し方を聞き出すのは別の話。

 奴隷呪の首輪は製造者ごとに外すための呪文があるらしいので。

 だから、ヘルムート様曰く「時間の問題」らしい。

 つまり、首輪を外す目処が立ったので婚約を交わすことにした、ということ。

 僕にとって、時間をかけて婚約を交わすなんて生まれて初めての経験で、いったいなにをするのか何回聞いても「本当にそれを僕が?」という感じだ。


「カミル様、書簡が届きました。どうぞ応接間の方へ」

「は、はい。今行きます」


 と言っても、邪教に狙われた経験から僕はやはりお屋敷からは出ない。

 お休みを取られたヘルムート様が正装で待っており、立会人として公証人が談話室に来ていた。

 本来であれば小宮殿の一室で王に婚姻を約束する誓いの儀式を行うのだが、僕はまだ奴隷呪の首輪をしているためそのような場には到底出られない。

 王の御前に、奴隷呪の首輪をつけたまま出るなんて許されないからだ。

 なので、公証人を呼んでヘルムート様の本宅、談話室で簡易的に行われる。

 正式にこの人の婚約者となるのだ、僕は。

 なんだか今も夢のようで信じられないけれど。


「それではこちらの書類にサインを。……文字は書けるのですよね?」

「カミルはアンバーズ子爵家の次男として育てられている。以前も言ったが別に彼は奴隷ではない。ただ奴隷呪の首輪をつけられた貴族の次男。それだけだ。今の発言は彼を陥れるためのものにも聞こえるが?」

「申し訳ない。そのような意図はないのですよ。ただ時折貴族であっても文字が書けぬ読めぬ者が混じっておりましてね。教育の行き届かない貴族が増えてのことです」

「それは……また、嘆かわしい話だな」


 公証人の方がそう言いながら、僕の方にインクとペン、書面を差し出す。

 婚約の届の紙だという。

 これで婚約を成立させ、お互いの戸籍を一つにする手続きを進める。

 貴族の婚姻とは、家同士の繋がり。

 しかし僕にはもう実家がない。

 アンバーズ子爵家は当主、次期当主が当局に捕えられてお取り潰しが決まった。

 母は母の実家に戻ったそうだが、父と兄は同居に未だ拘束されておりコーネン元侯爵やフェグル元伯爵とどのような罪を犯してきたのか捜査が進められている。

 姉は――コーネン侯爵家に側室として嫁いだという姉は行方不明になっていた。

 嫁いですぐに奴隷商に売られており、すでに国外に連れて行かれていたという。

 彼女の足取りは今、ヘルムート様の部下が懸命に追ってくれている。

 女性で、貴族なので奴隷の中では優遇されてはいるだろう、とのことだが他国で元貴族女性の奴隷の人気は極めて高いため、おそらく買い手はもうついているだろうとも言われた。

 姉は悪いことなどしていないのに、なんという仕打ち。

 父と兄が姉を僕のように売り出したということに衝撃を受けたが、僕にはどうすることもできない。

 ただ、ヘルムート様とその部下の方々に「姉をどうかよろしくお願いします」と頼むことしか。

 もしも姉が無事に見つかり、帰ってきたら僕が出迎えてあげられたらとは思う。

 ヘルムート様のお邸にはそうして元奴隷だった人たちが、メイドや使用人として働いている。

 この邸で働き、常識や礼節、文字の読み書きを学んで独り立ちしていく人もいるから、僕のこれからの役目はこの邸で奴隷に落とされ傷ついた人たちを自立できるように見守ること。

 この人の――ヘルムート様の妻になるというのは、そういうことなのだ。

 僕なんかが、と今も思うけれど、三年近く奴隷呪の首輪で奴隷と同じ生活をしてきた僕にしかできないことだとも思う。

 書類にサインをして差し出すと、僕の名前の横にヘルムート様が名前を書かれた。

 これで、婚約は成立。

 僕は国に、この人の婚約者として認められる。


「はい。確かに。これで婚約は成立です。カミルさんは今後、家名を名乗っていただいて構いません」

「家名……というのは、えっと……」

「カウフマン様の家名ですよ。それと、コーネン元侯爵家のお家がお取り潰しとなり、侯爵家の席が一つ空いたのでカウフマン伯爵には陞爵(しょうしゃく)のお話がきているそうですね。お受けになるのでしょう?」


 えっ、と驚いてヘルムート様の方を見る。

 この国では侯爵家は四つと決まっているとは、聞いたことがあるけれど……。


「我が家では王家へ養子を出すことは叶わない。謹んで辞退する旨はお伝え済みだ。なによりあなたにそんなことを言われる筋合いはない」

「はあ……相変わらず腹芸のできない方だ。オメガ男性を正妻に据えるのに、その言い訳は通用しないでしょう。陛下も『逃げられると思うな』と仰せでしたのに」


 むぐ、と口ごもり、ヘルムート様が思い切り片目を泳がせる。

 急に僕の方にも話が来て、目を白黒させてしまう。

 公証人の方曰く、検査こそ受けていないがヘルムート様がアルファなのは明確。

 そこにコーネン侯爵の失脚、男のオメガである僕の嫁入りの話が重なり、国王陛下はヘルムート様を侯爵に陞爵させることを即決させたという。

 元々ヘルムート様個人の長い国への貢献度と、カウフマン家の文学的な貢献、そしてヘルムート様の継母にあたるレーンズ様の長年の根回しがその可能性を育ててきていた。

 ヘルムート様としてはレーンズ様の働きかけが一番気に食わないのだろうけれど、陞爵は一代だけの貢献度で出る話ではない。

 他の貴族の妨害もほぼなく、国王陛下自身が即断したというのならやはりヘルムート様とカウフマン家の長年の献身によるところが大きいのだろう。



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