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彼を取り戻すまで(4)


「も、申し訳ございません。あの、あの……」

「ほらほら、アンバーズさん、落ち着いて。なにも取って食おうというわけではないんだからさぁ」

「そ、そ、そ、そう、だよな。え、ええとっ……」

「カミル――誘拐されたオメガ男性と、モルゾドール・フェグルの居場所を知っているそうだな?」

「は、はい! 父がコーネン侯爵と話しているのを、聞きました! 確か、貴族街の墓地の管理人小屋の地下に造られたアンバレザ教の神殿のような場所に連れて行かれる、と!」

「貴族街の墓地の地下?」

「は、はい。あのあたりはコーネン侯爵管理の地なので」

 

 貴族街にある共同墓地。

 訪れる人間は葬式の時くらい。

 その管理人室など、侯爵の雇った人間が葬式の時にやってきて墓の清掃や供えられ枯れた花の回収以外に仕事などないに等しいのだ。

 アンバレザ教の儀式の中には死者の朽ちた肉体を踏みにじるものもある。

 そう思うと、アンバレザ教の儀式を行うのにこれほど適した場所もなかった。

 定期的な調査は行っていたはずなのに、管理人室の地下室を発見できていなかったとは。

 これは――相当に巧妙に隠されている。

 

「その地下室への入口は? 隠されているのだろう? 我々は定期的に貴族街、平民街の墓地は調査している。それでも発見に至らなかったということは隠されているのだろう?」

「え、あ、う……も、も、申し訳ありません。場所は聞いたのですが、入口までは……」

「それでは意味がないな」

 

 交渉はここまで――という空気を出して、目を伏せる。

 恐らくロック・アンバーズが隠された入口の場所を知らないのは本当だろう。

 しかし、もう一人の方は絶対に知っている。

 

「そ、そんな……! 出頭すれば助けていただけるって……!?」

「我々に必要な情報はこの国を守るために必要な情報だ。それを提供できないと言われては、そちらの要求に応じることはできない。取引とはそういうものだろう? 肝心なところがわからないのであれば、不十分だ」

「そんな!」

 

 ゆっくりと視線をロック・アンバーズから、ペストマスクの男に向ける。

 依頼人が必要な情報を知らないなら、依頼人の依頼を果たすために血染めの黒騎士構成員はどう動く?

 金の分だけ働くという、それだけは矜持を持っている様子の犯罪者は。

 

「はあ。わかりました、わかりました。こっちの負けです。地下室への入口は本棚の下にあります。本棚を動かし、下の木の床を剥がせば階段があるのでそれを下ってください。儀式用の部屋は四つあり、そのどれかで儀式が行われます。どの部屋かまでは自分たちで調べられますよね?」

「いいだろう。だが、その情報の真偽が確定するまでは監視下に置かせてもらう」

「はあ」

 

 面倒くさそうにため息を吐き出すペストマスクの男。

 震えるロック・アンバーズが「どうしよう、大丈夫だよね? オルディ」とすがるようにペストマスクの男を見上げた。


(オルディ――オルディ・ナイト)


 東西を担当する『血染め黒騎士』の首魁の名だ。

 もしその名を本物とするのなら、なかなかの大物が出てきた。

『血染め黒騎士』は地域ごとに首魁と部下のグループになっている。

 その首魁を束ねる『父』と呼ばれる統治者が存在すると言われているが、それも曖昧な情報。

 長い時間をかけて情報を集めても、まだそんな程度なのだから闇が深い。

 だがその名――オルディ・ナイトは重要広域指名手配犯の名。

 現在の重要広域指名手配犯の中ではトップクラスの“現場派”と名高い“超危険人物”。

 隣国では五十人の公安局員に囲まれたが、全員殺して逃走したという逸話まである。


「ヘルムート様、オルディ・ナイトというのは……」

「控えろ。この人数差を活かせる場所ではない」

「っ……は、はい。しかし」

「どのみち他の班と合流して情報の真偽を確かめねばならない。何人のアンバレザ教徒が集まっているのかも不明のままだ。制圧はこちらも人員が必要となる、軍にも応援を」

「はっ!」

「全員貴族街の墓地へ急げ! オーファ、ライドルブ、ロック・アンバーズを私の屋敷にご案内しろ。本宅の客間を使って構わん。情報の真偽がわかるまで、丁重に扱うように」

「「はっ!」」


 ロック・アンバーズを取り逃がした二人に、汚名を注ぐチャンスを与えておく。

 名前を呼ばれた二人は目を一瞬輝かせ、すぐに燃えたぎるようなやる気に満ちた表情になる。

 ペストマスクの男、本物かはわからないが『オルディ・ナイト』だとしたらあの二人だけでは絶対に押さえきれない。

 しかし、依頼人の依頼を無事に見届けるまでは側にいるようだ。

 それまではおとなしくしているつもりなのだろう。

 だが部下には「軍に応援を」と伝えてある。

 もしやつが本物の『オルディ・ナイト』だとしたら、軍を動かさなければ捕えるところまでいかないと判断した。

 少なくともヘルムートの部隊だけでは何人犠牲が出るかわからない。

 ひとまず罪もないカミルを、彼だけは無傷で助け出したかった。

 ひたすらに押さえつけていた焦りが、どうしてもそこだけを優先させた。

 しかし、頭の片隅に『果たしてカミルへの結納金だけで、これほど危険な依頼をオルディ・ナイトが受けるのか?』という疑問もある。


(よくよく観察する必要があるな。地下室も、この男たちも)




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