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彼を取り戻すまで(1)


 時は少し遡り、アンバーズ子爵家に強制捜査に入ったヘルムートは、飛び込んできた部下の報告に目を見開いた。

 カミルの兄、ロックが局員の隙をついて逃走したという。

 後を追ったが、黒いマントの男たちに守られながら馬に乗って逃げ去られてしまった。

 しかし、なんの成果もないわけではない。

 黒いマントの男たちの姿は、局員たちの中では有名。

 犯罪組織『血染めの黒騎士』。

 金次第でどんな犯罪にも手を貸す、各国で手を焼く組織である。

 アンバレザ教と縁深く、アンバレザ教がなにか儀式と称した事件を起こすと必ずこの犯罪組織の影がある。

 そもそも、アンバレザ教がなぜ犯罪組織をそれほど雇うことができるのか。

 その資金源はどこなのか。

 金の流れを辿ると、だいたいが高位貴族による“裏稼業”――奴隷の売買という表に出せない金から出ている。

 今回ヨアギャレット西国は奴隷が禁止されているので、余計に儲かるらしい。

 つまり今回、コーネン侯爵の名前が出た時点で出資者だとわかった。

 元々怪しい動きをしていた人物名簿のうちの一人ではあったが、すぐに侯爵逮捕に向けて動き出した。

 高位貴族の逮捕は王の許可が必要。

 証拠も十分。

 コーネン侯爵の逮捕に時間はかからないと思われた。

 しかし、逆に追い詰めているのがロックの逃走によりコーネン侯爵にバレたのだろう。

 侯爵の動きもまた、非常に早かった。

 即座にヘルムートの屋敷に犯罪組織『血染めの黒騎士』を派遣し、儀式に必要な生贄を確保させたのだ。

 今回の儀式のために必要な生贄――カミルと、そして牢に捕えていたモルゾドーレ・フェグル。

 先に誘拐されたのはモルゾドーレ・フェグル。

 その騒動に乗じて、カミルが屋敷から誘拐された。

 あれほど厳重に守られていたというのに、まさか元暗部騎士のディレザまで倒されるとはさすがに予想外。

 そもそも、あの屋敷は対侵入者用の仕掛けも多く、二階へ行くのは謎解きと鍵が必要。

 それなのにどうやって、と帰宅して愕然とした。

 二階の強化ガラスが外から割られているではないか。

 これでは家の中の仕掛けも謎ときも必要ない。

 どうやって強化ガラスを割ったのか。

 そのあたりは犯罪組織ならではの技術でも使われたのだろう。

 

「カミル様をお守りする命を果たすことができず、申し訳ございません」

「いや、お前の命が無事だっただけでも損失は少ない。カミルについては居場所に心当たりがある。ジェーンとエレナは?」

「ジェーンは咄嗟にカミル様が見つけた玄関にあった地下への入り口に逃げ込み、無事だったそうです。エレナも軽傷でした」

 

 それならなにも問題はないだろう、と一息吐き出したが、一つ聞き捨てならないことを言っていた。

 顔を上げてベッドから上半身のみ起こしていたディレザに「地下室の入り口?」と聞き返す。

 カミルが見つけて、たまたま近くにいたジェーンも見ていた入り口が玄関ホールにあったという。

 飛び込んできた犯罪組織の人間から逃れるために、本当に咄嗟に仕掛けを使ったらしい。

 階段に隠れていたため、地下室に進んだわけではないがもしもカミルが玄関の地下室へ入り口を見つけていなければジェーンは殺されていただろう。

 それを聞いて、ヘルムートは決断した。


「コーネン侯爵の本宅はうちの離れの真上の道にある。まさかとは思うが」

「例の――地下通路ですか」

「調べてみる価値はある。別働隊はユーインに任せて私は地下通路を調べてみるとしよう。一番安全なルートならば、ありえる」


 貴族街は広い。

 王都の約半分の面積は貴族たちの庭つき、離れのお屋敷だ。

 その中でコーネン侯爵の屋敷はヘルムートの屋敷の離れの上の道にある。

 いわゆるご近所さんだが、コーネン侯爵家の方が当然ながら広い。

 祖父の代からカウフマン伯爵家の地下はどんどん開発されていたため、近所の屋敷の地下にまで及びそうであった。

 ある時、よその屋敷の地下に到達したことがあり、慌てて補修して埋め立てたという。

 地下室が危険で、行方不明者が出ている――という話は事実。

 しかし一部で、その地下室からどこかの貴族の家の地下通路に繋がってそこから出た疑惑がずっとあった。

 ただカウフマン家の使用人が調べに入り、誰も帰ってこなかったのは間違いようもない事実。

 危険であることに変わりはない。

 まして貴族同士の屋敷の話。

 あまり触れずにいた方がお互い痛い腹を探られることもない。

 だが今回はそうも言っていられない。

 それになにより、もしも|カウフマン家の地下を無断使用されているのであれば《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》徹底的に決着をつけなければならないだろう。


「お供いたします」

「ディレザ、お前は体を万全に戻すことを最優先にしろ。カミルが戻った時、お前が弱い姿を見せたら気を遣うだろう」

「あ……。はい」


 頭を下げるディレザを置いて部屋を出る。

 自分で思っている以上に、心が焦っていた。

 胸のざわつきを必死に抑え、はあ、と無理やり息を吐き出して意識して冷静を保つ。

 やることは多い。

 ただ自分が思っていた以上に、カミルが拐かされたことに動揺していた。

 今、彼の身にどれほど危険が迫っているのか。


「っ……」


 歯を食いしばり、視線を上げる。


(すぐに、迎えにいく。カミル)



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