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魔物を孕む


「っ……!」

「よろしい」

 

 ごく、と嚥下してしまった。

 抗えなかった。

 口の端から液が垂れる。

 喉から迫り上がるような苦味と熱。

 目の前がぼやけてきて、咳き込む。

 

「っ……!?」

 

 膝を掴まれ、持ち上げられらる。

 あれ、僕いつの間にか着替えさせられて……あ、気絶していたからか。

 いや、あれ? 息がものすごく、上がる。

 体が熱くて、お腹の下の方が……変。

 お尻が濡れて、熱くて、なにが……どうして――!

 

「はっ、はぁ、は……ぁっ」

 

 体中から汗が噴き出す。

 なんだ? おかしい。

 いったいなにをしようとしているんだ、この人たちは。

 僕を――僕とモルゾドール様をどうやって殺すつもりなんだ……!

 このまま、体の中が焼けるような痛みで、殺される?

 

「んっ……!?」

「はあ……はあ……はあ……はあっ……」

「モ……っ、モルゾドール様……!?」

 

 気がつくと侯爵様ではなく、モルゾドール様が僕の足を無理やり開かせていた。

 よだれが垂れて、僕の纏う黒い布に落ちてくる。

 どう見ても正気ではなくなっているし、息が荒いし、首輪で見えづらいけれど太ももにあてがわれているこの熱の塊は、まさか……。

 視線を上に戻すとモルゾドール様の目が完全になにも見ていない。

 というより、意識が、ない?

 

「我らが神よ。贄を捧げましょう。この者たちを父、母として、この欺瞞(ぎまん)に塗れた現世をどうか正常に正したまえ……! 弱者の呪いを! 虐げられてきた者たちの怒りを! 晴らしたまえ! 我らの長年の呪いを! 成就したまえ! 我らが神よ!」

 

 なんだ、なにをしようとしているんだ、この人は。

 僕が“母”? モルゾドール様が“父”?

 ありえない、モルゾドール様は根っからの女好き。

 側室だった頃でさえ、半径二メートル以内に近づいてきたこともないのに……。

 

「ぶる、ぶるぁぁ……! ぶるぅうううおああああ!」

「ひっ……」

 

 突然モルゾドール様が吼える。

 本当に、そうとしか表現できない。

 舌を垂らし、頰を舐めてくる。

 人生でこれほど“不快感”とはこういうことなのか、と思ったことはない。

 入り口の近くに立つ侯爵様と司祭はなにやら呪文を唱えながらランプと赤い蝋燭を片手に僕らの周りを二周、三周、と回っていく。

 それから司祭が蝋燭の蝋を垂らし、床に魔法陣のようなものを描いていった。

 その間も荒い息遣いのモルゾドール様が僕の頰や首筋を舐め回す。

 不快なのに、不愉快なのに、下半身がどんどん熱くなる。

 ほしい、と思ってしまう。

 まるで発情期の時のような興奮状態。

 その間も太ももの内側に擦りつけられる濡れて硬く熱いモノ。

 間違いなく、犯されるんだ。

 犯して殺されるんだ、僕は。

 自分の殺され方を悟り、先程のモルゾドール様のように歯の奥が恐怖で震えて鳴り始めた。

 嫌だ、と思っている。

 モルゾドール様に犯して殺されるのは嫌だ。

 それならせめてヘルムート様なら……なんて、頭の片隅で思ってしまう。

 この人は嫌で、ヘルムート様ならいいの?

 僕は、いったいなにを考えているんだ……。

 

「宿れ、神よ。悪魔よ。魔物の子をこの者の胎に。この贄の胎から産まれ、世界を正常な姿に正すのだ!」

 

 魔物……!?

 僕をモルゾドール様と“交尾”させ、魔物の子供を産ませるということ?

 そんなことができるの?

 ……いや、それをするための、儀式か……!

 でも、本当にこんな儀式でそんなことできるの!?

 

「ツァァァァァァア!」

「なんだ!?」

 

 扉が突然開き、帽子を被った人間が大量に入ってきた。

 その制服に見覚えがある。

 あれは……あの制服は……!

 

「全員確保しろ」

 

 あの声は――あの、左目を眼帯で覆った、あの人は――。

 

「があああっ!」

「くそ、こいつ!」

「牢から誘拐されたモルゾドール・フェグル! なぜここに!」

「暴れるな! 大人しくしろ!」

「うわああぁっ!」

「なんだこいつは、まるで獣じゃないか……!」

「ぐるぅいあああああああ!」

 

 口を大きく開け、涎を撒き散らしながら五人、六人と増えていく局員たちを千切っては投げ千切っては投げ、時に噛みつき雄叫びを上げる。

 もう、本当に人ではなくなってしまった。

 そう感じるほどの姿。

 そのままヘルムート様へ向かって飛びかかるモルゾドール様。

 

「ヘルムート様……!」

 

 僕が叫ぶとヘルムート様が剣を抜いた。

 僕の視界にはそれしかわからず、次の瞬間モルゾドール様の首から血が飛び散る。

 

「負傷者の手当てをしろ。カミル、大丈夫か?」

「はあ……はあ……ヘルムート様……」

「呪いの秘薬を飲まされているな。それなのにあまり効果が出ていないようだ。この子、確かお前のところから誘拐された、例のオメガだな?」

「ああ。無事に見つかってよかった」

 

 頰に触れる手袋。

 それなのに、手袋越しなのに、ヘルムート様の温もりを感じて安堵する自分がいた。

 さっき、モルゾドール様に舐められた時と全然違う。

 

「く、クソ! 離せ! 私を誰だと思っている!」

「お、おのれ! オルディ・ナイトめ、なにをしている!? 外の警備は!?」

「犯罪組織『血染めの黒騎士』のことでしたら、とうに逃げおおせておりますよ、コーネン侯爵。警備費用をそこの司祭殿がケチったりしなければ、逃げずにいたかもしれませんがね」

「っ!?」

「う……」

 

 ヘルムート様が答えると、侯爵様が司祭を睨む。

 捕えられた二人は数人の局員に囲まれ、拘束されて連れ出されていった。

 僕は――。



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