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脱出に向けた謎解き


 でもそれならもしかして小説の中の通りに中から出られる出口がある、かも。

 小説の通りに反映するかどうかは注文主次第だから、あまり期待してはいけないよね。

 でも……ヘルムート様の顔が、浮かぶ。

 無性にあの人に会いたいと思ってしまう。

 なぜだろう、帰りたい。

 別にあの人のもとが、僕の家なわけでもないのに。

 僕に“家”が……帰る場所があるわけでもないのに。


「っぅ」


 首を横に振る。

 そのせいで少しズレた眼鏡を元の位置に戻す。

 ……そうだ、眼鏡……!

 僕、眼鏡のお代をまだお返ししてない……!

 眼鏡のお代分働きに帰らなければ。

 ダメ元で試してみよう……!


「そうと決まれば……確か――」


 記憶を頼りに思い出す。

 なにぶん実家で読んだものの中でも少し古い。

 それでも助手が主役だから、他の作品よりは記憶に残っている。

 部屋の隅にある四つの花瓶は、壁にそれぞれ飾ってある四枚の絵画裏に隠された鍵穴のヒント。

 唯一水が入っていた花瓶の中身を風呂場に捨てる。

 中に入っていた水は、重りの役割。

 重りを捨てたことで花瓶の底の――二重底が開けられるようになる。

 そこに入っているのは紙。

 まさか本当にあるとは思わなかった。

 ちゃんと紙が入ってる。再現度高いな……!


「東に鶏」


 顔を上げてそれらしい絵画を探す。

 あった、鶏に餌を与える女たちの絵。

 ってことは、この絵画がある場所が東ということ?

 とりあえずその絵画の裏側を確認すると、鍵ではなく窪みがあった。

 その窪みは縦長で、端になにやらさらに深い窪みがある。

 目を凝らして見ると、ネジ穴?

 もしかしてこの穴の中にノブのようなものを差し込んで開けるのだろうか?

 絵画を一応元に戻し、改めて部屋の中を見回す。

 他におかしなところは……あ、シンプルに引き出しの中を確認してみるのはどうだろう?

 まさかここまで似せておきながら、まったく違うものが出てくるとは思わなかった。

 いや、全部真似したら知っている人間が脱走してしまうのだから、当たり前と言われれば当たり前なのだろうけれど。

 それとも僕が忘れているだけで、こういう仕掛けだっただろうか?

 とりあえずすべての引き出しを開けてみると、コインが一枚出てきた。

 コイン……キャビネットの引き出しの中に……。


「あっ」


 これは、クロイドシリーズ短編集に出てきた『死人の宝物』の密室トリック!

 コインを重ねてゆっくりと檻のつけ根を弱らせ、人一人通れる隙間を作った話。

 そのコインがしまってあったのがキャビネット。

『死人の宝物』がそのコインであり、『死人の宝物』のコインは何十枚と詰まっていたけれど、ここにあったのは一枚だけ。

 金銭的な価値もない、配合の適当な銅のあまりで作られた薄汚い賭けゲーム用の薄っぺらいコイン。

 でも。この部屋には鉄格子なんてないし……。


「あ……っ、た……」


 部屋を見回してから、開けっ放しの浴室への入り口を振り返る。

 腕一本、ギリギリ通るかわからない通気口があるのだ。

 そこにはネジの弛んだ蓋がしてある。

 まさか、ここまで仕掛けてある?

 だとしたら考えた人はすごいな。

 感心しつつ、コインの縁を弛んだ頭の窪みに入れて、回す。

 きりり、きりり、と鈍い音を立てて蓋が外れる。


「これは……!」


 ノブ! 縦長い、掴んで開くタイプ。

 これをさっきの、絵画の裏の窪みに入れるのかな……?

 ノブを持ち上げると、急にヘルムート様の顔が浮かんできた。

 胸が、痛い。

 会いたい。声が聞きたい。

 僕の中から顔も声も消えてしまう前に会いたい。

 ここに来る時のように、奴隷呪の首輪を使われたら自分の意思など無関係にぼうっとしてしまう。

 考えて、自分で決めることは怖い。

 それが本当に正しいことなのか、それでいいのか、自分で決めるのが不安で不安で他人に全部決めてもらえる方がよかったと思っていたけれど……。

 今は、ヘルムート様に会いたい。

 どうしても、どうしても。

 ……もしも生贄として死ぬのなら、最期に、絶対、会いたい。

 だからやっぱり――行こう。

 ノブを胸に抱き、さっきの絵画のところに戻る。

 絵画を外し、丁寧にテーブルに乗せてから窪みにノブを嵌め込む。

 右に回したりするとカチ、と音がして固定できた。

 息を吐く。

 ここから出たら、まずは場所の確認。

 馬車でここまで来たけれど、道は舗装されていた。

 揺れが少なかったから、それは間違いない。

 距離も三十分程度……僕の足なら一時間以上は確実だけれど、歩いて道なりにいけば人のいるところに出ると思う。

 とにかく、人がいる場所にさえ出られれば……!


「行くぞ……」


 もう一度呼吸を整えて、精一杯扉を引っ張る。

 開かない。

 押すのかな、と思って今度は押し込んでみると――開いた!

 お、押し戸だったのか、ちょっと恥ずかしいし鍵がかかっているのかと思って胸が冷えた。よかった。

 ヘルムート様に、会いに行くんだ。

 大丈夫、ちゃんと眼鏡のお代は返すから……!


「っ!」


 ドアの外は――誰もいない。

 見張りなし!

 薄暗い赤い絨毯の敷かれた長い廊下。

 でも階段が目の前!

 他にも部屋があるらしいけれど、ここから出るのを優先しよう。

 階段を上っていくが、壁が立ち塞がっている。

 あ……隠し扉……!

 いや、まだ諦めるのは早いよね。

 もしかしたら隠し地下通路とか、あるかもしれないし――!



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