疎遠になった幼馴染が死んだので泣きながら眠って起きたら、過去に戻っていた
「由香利が死んだ!?」
1年前、突然行方不明になった幼馴染が発見されたが死んだという連絡だった。
なんかヤバい薬を注射たれたらしく、急性中毒だったそうだ。
この1年、どっかのマンションに閉じ込められて客を取らされていたとか。
通夜は、親族だけで行うってことで、最後に顔を見ることもできなかった。
隣の家で、同い年で、保育園から一緒なんて、絵に描いたような幼馴染。
どっちの家も共働きだったから、早く迎えに行けた側が2人とも連れて帰ってくることになってて、お互いに相手の家で夕飯食ったりもしてた。
兄妹みたいな感覚で、小学校の頃は一緒に夏休みの宿題やったりして。
高校行っても、由香利は俺の部屋に入り浸ってた。
いずれこのまま恋人同士に…なんて思ってたんだ。
でも、由香利がサッカー部の奴と付き合いだして、成績が落ちて大学も俺とは違うところに行って、高校卒業と同時に付き合いも途絶えた。
大学でおかしなサークル連中と付き合いがあるらしいって噂は聞いてたけど。
ずっと一緒にいたい、いられるって思ってたのに、なんでこんなことになったんだ。
高2の時、由香利が告白されたって相談してきた時、突き放してなければ、俺が由香利と付き合えた未来もあったかもしれなかったのに。
頭ん中ぐちゃぐちゃで、普段は飲まないビールを飲んで寝た。
これが夢ならよかったのに、なんて思って。
なぜかすっきり目が覚めた。
あんだけ飲んだんだから、二日酔いくらいなってそうなもんなのに。
…あれ? ここ、実家じゃね? 俺、アパートにいたよな。
ヤバい、講義! 今、何時だ!?
枕元のスマホを見る。8時半か。セーフ。
って、7月7日!? 今は10月だろ!?
いくらなんでも9か月も寝てるわけが…2022年!?
3年前じゃないか!
え、なんだ、これ!?
「お~い、起きてる~?」
ノックと一緒に、懐かしい声が聞こえた。
まさか由香利!? 生きてる?
慌ててドアを開けると、Tシャツ短パン姿の由香利が立っていた。
「なんで…」
思わず出た声に、由香利の
「一緒に試験勉強する約束だよね?
なに? まだ寝てたの?」
と呆れた声が返ってきた。
由香利が生きてる?
「す、すぐ着替えるから!」
混乱したまま言うと、由香利は
「はいはい、早くしてよ」
なんて言って、ドアを閉めた。
着替えながら考える。
着替えも、高校時代──3年前──と同じようにタンスの中にある。
確かにこんなシャツ持ってたよなって部屋着に着替えた。
そういや、いつも一緒に試験勉強してたな。
なんだろう、由香利が死んだのが納得できなくて夢見てんのかな。
「まぁだぁ?」
廊下から声が掛かる。
とにかく、部屋に入れる。
「お待たせ。何からやる?」
「数学やろうって、昨日言ったよね?」
高校時代そうしてたみたいに、テーブルを出してテキストとノートを広げる。
夢とは思えないくらい、あの頃のままだ。
「範囲、どこだっけ?」
「わぁ、全然やる気ない奴がいるよ」
「いや、ごめん」
懐かしいやりとり。まるで由香利が生きてるみたいだ。
夢じゃなくて、過去に戻れたんだったらいいのに。
「む~~~~~」
「どした?」
「ここ、わかんない」
「ん~、どれどれ、あ~、これは、ほら、こっちを移項して…」
「あ。できた!
なに、結人、やる気なかったくせにすごいじゃん!」
「ふふん、それほどでも」
受験から1年半経ってるけど、けっこう覚えてるもんだな。
昼飯食って、午後は英語やって。なんか思い出しそうなんだけど、思い出せない。
休憩でコーヒー飲んでる時、由香利がなんか神妙な顔をした。
「結人さ……好きな子っている?」
「なんだ突然」
「サッカー部のさ、尾沢くんっているじゃない?
告られてさ。
どうしたらいいと思う?」
これだ! 思い出した!
たしかこの頃、由香利はサッカー部の尾沢に告られて迷ってたんだ。
それで俺に相談してきたんだっけ。
で、俺がヤキモチやいて冷たく突き放したせいで尾沢と付き合うようになって、俺とは疎遠になったんだ。
その後、由香利は髪染めたりして雰囲気変わって…。
これって、やり直しのチャンスなんじゃないか!?!
夢でもいい、由香利を助けられるチャンスなら!
「断れ、そんな奴!」
きっぱり言ったら、由香利は驚いたように目を見開いた。
「なんで? 尾沢くんチャラいから?」
「誰でもダメだ」
「え?」
「俺にしとけ」
「は?」
「そんな奴断って、俺と付き合えよ。
お前がほかの奴と付き合うとこなんて見たくない、俺は由香利じゃなきゃダメなんだ」
そうだ、大学で何人か付き合ってみたけど、しっくりこなくてすぐ別れた。
俺は、由香利が好きだったから。
由香利は真っ赤になった。
「それ、まるで告白…」
「まるでじゃねえよ、告ってんだよ。
俺は由香利が好きだ。
お前じゃなきゃダメなんだ」
「え、なに、それ、結人じゃないみたい」
両手で口を押さえて、由香利が呟く。
「由香利がいてくれないと、俺は不幸になる。
ずっと傍にいてくれ」
「うん、わかった!」
ちょっと涙ぐんで、ゆかりが飛びついてきた。
そのままキスして、ちょっと勢いで色々しそうになったけど、なんとか我慢した。
夢なら覚めないでほしい。
3年後。
「ねえ結人、今日ってなんかの日だったっけ?」
「別に? 強いて言えば、俺が由香利と付き合いたいってすごく思った日だよ」
「何それ?」
「何年も前の話だって」
「ん〜? 付き合いだしたのって、夏だったよね?」
「だから、付き合いたいと思った日だって。
告るよりも前だよ」
「え〜、そんな前からあたしのこと好きだったんだ♡」
「そうだよ、恥ずいな」
俺は由香利と同じ大学に通っている。
というか、一緒に住んでいる。
どうやら俺は本当に過去に戻ったようで、何度眠っても起きても未来(というか前の世界?)には戻らず、由香利は俺と付き合ったままだ。
そのお陰というか、由香利は元の世界と違って黒髪のままだし、大学も前と違うから、妙なサークルに引っ張り込まれることもなかった。
今日は、前の世界での由香利の命日だ。
無事にこの日を超えられた。
もう大丈夫だろう。
そんなわけで、今日はちょっと贅沢にファミレスじゃないレストランで外食にしてみたわけだ。
過去に戻ったのがどういう理屈かはわからないけど、とにかく由香利は助けられた。
「なに? この後、なんか貰えたりすんの?」
由香利が期待の籠った目で見つめてくる。
左手をテーブルに載せて。
「それは、就職できてからかな」
「ふぅん? 予約とか、しないの?」
「とっくにしてたつもりだったけど?」
「あれぇ? そうだっけ?」
「忘れたんなら、また後でな」
もう絶対に離さないから。