亡霊の狩人
「北の山脈越えをするなら、この携行食は必須だよ。栄養価も高く万病に効く」
王都に近い市場だけあって賑わっているが、携行食を探すアザリアに商人が小さな魔法文字の書かれた小袋を宣伝してきた。
アザリアは魔法文字が書かれた小袋が売られているところを初めて目にした。
アザリアにとって人生は仇討ちだった。
欲しい情報は黒竜の所在と倒し方。
その他はどうでもよかった。
しかし、老ハギオイに師事したことで世界共通文字と魔法書を読む知識を身につけた。
だからその小袋の文字が読めた。
それは、栄養食でも万病に効く薬でもなかった。
睡眠薬だ。
こんなものを食べたら山の中で命を落とすことになる。
この商人は知っていて売っているのだろうか?
この文字が読めていない?
まじまじと無言で小袋を見つめるアザリアに商人は首を傾げた。
「買う?買わない?銀貨1枚だよ?」
「買っても使い道がない」
「いやいや、旅人には便利だろう?一粒で一日分の効果がある」
商人は必死になって小袋をアザリアに押し付けた。
アザリアは商人とは別の視線を感じて市の外を見た。
フードで顔を隠したきな臭い男が二人、立ってこちらの様子を窺っている。
商人は脅されて魔眼のアザリアに睡眠薬を売りつけるよう言われたのかもしれない。
「この文字は読めるのか?」
アザリアは商人に問いかけた。
「文字?こんなものは飾りですよ。旅のお守りです」
商人は慌てて小袋の文字を叩いて、笑い声をあげた。
冷や汗をかいているところを見ると読める可能性もあるが、読めるものがこんなバレバレの嘘をつくだろうか。
「おい!魔法文字は読めた方が良いぞ。それは<眠りを誘う>と書いてある」
アザリアと商人のやり取りに、横から呆れたように男が口を挟んできた。
アザリアが振り返ると、いきなり現れた赤毛の男は商人に顔を近づけ獰猛な笑みを浮かべていた。
「嘘つきは命も短いぞ」
笑顔で脅すというしぐさは善良な旅人とは思えなかった。
商人は真っ蒼になっていた。
「すっすみません。文字が読めなくて…仕入れたときは栄養満点って」
「嘘つけ。テモテの商人が仕入れに失敗するか。あいつらに脅されたか?」
男が目線を市場の外の二人組に向けると二人組は慌てて逃げていった。
「お、逃げた。三下だな。このリベルデン様の威容に恐れをなしたな」
大声で笑う赤毛の男にアザリアは呆れるような視線とともに舌打ちした。
「賞金首かもしれないから逃がすつもりはなかった」
喧嘩を売られたのは自分なのに横から偉そうに。
リベルデンと名乗った男は、意外にも文句を言う不服気なアザリアを見て肩をすくませた。
「気にするな。どうせ、またあんたを襲いに来る。金貨20枚は魅力的だ」
「お前は誰だ?」
さっき、名前を口にしていたような気もするが、アザリアは外見から自分を特定しただろう男に対して警戒の色を示した。
「俺を知らないってことは田舎者だな。俺は<亡霊の狩人>だ」
リベルデンが二つ名を告げると商人が驚愕して飛び上がった。
「失礼しました!<亡霊の狩人>様!エラ山の決戦では2師団を滅ぼしたと聞きました」
商人の声は上擦り、表情は尊敬というよりは恐怖に近かった。
「エラ山?あれは大したことなかったぞ」
リベルデンは大きく伸びをして全く自分を知らないアザリアに笑いかけてから、商人に注文した。
「ちゃんとした携行食を二人分だ」
「は、はい。こちらです」
今度は怪しい魔法文字は無かった。
「あいつらは二度と来ないから安心しろ。山で遭難する予定だ」
「ありがとうございます」
「礼は魔眼のアザリアに言った方がいいね。俺は何もしない。賞金稼ぎではないからな」
リベルデンは二人分の代金を支払うとアザリアに一つを投げた。
「やる。賞金首を逃がした詫びだ」
「いいのか?ありがとう」
「北に行くのか?」
「…そのつもりだ」
応えたアザリアの声は、何故そんなことを聞く?そういわんばかりの口調だ。
リベルデンは商人に背を向けて歩き出すとアザリアについて来いと手招きした。
「今の奴らも北に行く。北は大量の兵を募集している。すぐに戦場になるぞ」
「傭兵を募集しているのは戦争のためという噂は聞いた」
「賞金稼ぎに戦場は向かないよ」
「探している仇が北にいるかもしれない」
仇?
「その龍の文様に関係しているのか?」
リベルデンはアザリアの剣の柄に視線を投げた。
アザリアはその問いに眉をひそめた。
「この柄の文様について何か知っているのか?」
「俺の知っている女剣士と同じ文様だ」
「もしかして、傭兵黒竜から剣を叩き落して負かしたっていう剣士のことか?」
アザリアの驚嘆に対し、リベルデンは立ち止った。
そして、少し思案気に首を傾げ、空を見上げてから咳払いした。
「誰に聞いたか知らないが、ちょっと違うような?黒竜が仇なのか?」
黒竜と口にした時のアザリアの殺意は本物だった。
アザリアは、何かを知っているらしいリベルデンを訝しげに見つめた。
「傭兵黒竜は仇だ」
「黒竜は、多分、この世で最強だ。仇を討つ以前に殺られるぞ」
「黒竜に会ったことがあるのか?」
「何度か剣の手合わせをしたことがある。あれは、化け物だな」
黒竜と手合わせ?
アザリアは目をむいた。
「どんな剣を使う?」
「どんなとかっていうレベルじゃない。黒竜の命を狙う者は多い。あいつ一人で国が亡びるからな。逆にあいつを味方につければ天下を取ることができる」
「最強といえども人間だ。弱点が必ずある」
どんな手を使ってでも倒そうというアザリアにとって最強だろうと躊躇うことはない。
討つだけだ。
リベルデンは頭をかいた。
「あの、な。黒竜を人間扱いしない方が良いぞ。あれは化け物だから」
「私だって魔眼だ」
「なるほど、そうか。魔眼と赤い龍…」
リベルデンは頭の中で何かが閃くのを感じた。
「その剣は誰に貰ったんだ?」
それを聞いて何が得られるのか。
アザリアは無言でリベルデンを睨みつけた。
この男は何者だろうか。
あの小袋の文字を読み、二人の男を怯えさせ、商人は驚愕していた。
亡霊の狩人?
聞いたことのない二つ名だ。
人と交流しないアザリアも賞金窓口等、色々なところで二つ名のある者の噂は耳にする。
しかし、この男の名は知らない。
見かけは確かに狩人のように剣を下げ、弓矢を背負っているし、革でできた茶色の胸当ても狩人らしい雰囲気を醸し出している。
無言でいると、いきなり狩人は剣を抜き放って切りかかってきた。
とっさにアザリアも剣を抜いて受け止めた。
強烈な一撃だったが、彼はそのまま剣を収めて笑みをこぼした。
「いい動きだ。標準的な賞金首なら楽勝だろうね。しかし、今の反応では黒竜に対し剣を抜く前に殺られる」
アザリアは深呼吸した。
黒竜とのレベル差は自覚しているからそう言われても冷静でいられる。
「正攻法が無理なら、他の手段を探す」
「なるほど。それでも、あいつは難しいだろう。ただ、その赤い龍が何とかしてくれるかもしれないな」
「この文様と黒竜にはどんなつながりがあるんだ?」
「黒竜は実力を自覚しているから他人の強さなど認めない。奴が強さを認めた最初の剣士が赤い龍の剣の持ち主だったってこと」
「黒竜と手合わせしたと言っていたが、強さを認められたのか?」
……。
「俺?黒竜に?いやぁ?そもそも…俺の方が教えた側だ」
「え?」
「なぜ俺が亡霊の狩人と呼ばれていると思う?」
「多くを殺したからとか?」
「まぁそれもあるけど、長い年月を戦場で過ごしているからだ。あの世から再来した亡霊だ」
それはどういう意味だろうか。
あの世?
「千年前の覇王と魔王の戦いに参戦していたって言ったら信じるか?」
アザリアは魔眼を大きく見開いてリベルデンを凝視した。
外見は30後半か40代だ。
千年?
覇王?
「まさか、覇王門をくぐった?」
リベルデンは苦笑して首を横に振った。
「覇王とともに戦ったんだ。覇王門は当時まだ無かった。わかるか?」
分かるかって?
伝説の覇王門のない時代?
覇王とともに戦う?
…亡霊。
なるほど、この世の人間ではない。
「生きているのか?」
「このとおり」
リベルデンは手を広げて存在をアピールした。
千年も?
「トレスは…覇王門を第3の門まで通ったと言っていた」
ついアザリアはトレスの事を呟いてしまった。
そのセリフにリベルデンは片眉を上げてから、腕組みした。
「なるほど、あんたはトレスの残党か。傭兵黒竜は盗賊トレスの仇か」
「知っているのか?」
トレスが黒竜に殺されたことを。
「血の渓谷は有名な事件だ。黒竜はじめ傭兵団を雇った国はもう滅んだから仇は黒竜のみってことか?」
そういわれると、雇い主を仇と思ったことはない。
当時、子どもだったためか、国とか国王よりも実際に手を下した黒竜しか眼中になかった。
「黒竜さえいなければトレスは死ななかったと思う」
「そうかもしれないが、人間はいずれ死ぬ。トレスも相当数、殺してきている。恨みつらみはお互い様だろう。トレスは殺して奪う盗賊だった。それがトレスの商売だった。賞金稼ぎのあんたが、仇討ちというのはおかしくないか?その剣をあんたに渡した人物は何も言わなかったのか?」
言われていることはわかる。
しかし、怒りと哀しみは仇を討てと騒ぎ続けている。
リベルデンという亡霊は千年も生きる人間だという。
覇王門以前から生きている?
そんな話をする奴に「人間はいずれ死ぬ」とか説教されたくないものだ。
トレスは覇王門を見つけた。
幻ではないということだ。
永遠の命の伝説は本当だということか。
しかし、
それがなんだというのか。
覇王門など関係ない。
トレスの仇を討つ。
それがすべてだ。
「この剣をくれた人物は「必ず勝てると信じ続けると約束しておくれ」そう言い残した。黒竜に勝てと」
必ず勝てると信じること。
努力を続けること。
迷わないこと。
リベルデンはアザリアの話を聞くと長い溜息をついた。
勝てると信じたとして勝てるとは限らない。
というか、絶対に勝てない。つまり命を落とす。
それをわかっているのに止めていない。
むしろ、黒竜を挑発するような赤い龍の剣を渡している。
黒竜に何かを伝えようとしている?
この女剣士は赤い龍の意味も分かっていない。
何も伝えずに、それでも確実に、黒竜に会わせたいと思った…?
「では、北のバアル・ゼポンに行くしかないな。黒竜はそこに必ず現れる」
「?!」
「強い奴らが集まってくる。バアル・ゼポンの王都に辿り着くのも命懸けだ。それでも黒竜に会いたいならどんな手段を取ってもバアル・ゼポンに入ることだ。王都に黒竜は姿を見せる」
「良い情報をありがとう」
黒竜が必ず現れる。
バアル・ゼポンの王都に。
旅をして、ここまで来た甲斐があった。
もうすぐ、仇を討てる。
不敵に笑みを浮かべるアザリアに、リベルデンは呆れるように肩をすぼめた。
「まぁがんばれ」
軽く言って、リベルデンはテモテの王都の方角へあっさり去っていった。
黒竜に教えたとか言っていたが、何故かアザリアにガンバレと言う。
謎の男だった。
リベルデンの強さは感じた。
それ以上に強いという黒竜を倒すにはやはり正攻法は無理だ。
何か策を練らなくては。
リベルデンはアザリアと別れてから、独り言を漏らした。
「あの剣捌き……師は老ハギオイだよなぁ」
一人旅が長いと独り言が増える。
壁に耳あり障子に目あり…独り言は推奨しない。
でも、呟きたくなる。
「エクレシアの赤い龍と血の洗礼。そして魔眼。赤いもの尽くしだな。おっさんに会いに行くか」
リベルデンがテモテの王都近くまで来たとき、微かな笛の音を耳にした。
懐かしい笛の音だ。
リベルデンは笑みをこぼすと笛の音の方へ歩みを進め、検問も通ることなく門の一つを潜り、
目的の人物を見つけた。
「ハーリール!それに、ハシーディム!」
笛を吹きながら王都の川べりで、ハーリールはハシーディムの魔装具を強化していた。
そこに、いきなり声をかけられムッとする。
「なんで、私たちの姿が見えるわけ?」
「なんで見えないんだ?笛の音が聞こえたぞ」
歩み寄ったリベルデンはニヤニヤとそう言って、川べりに座っている二人を見下ろした。
「これだから古式魔法な奴は嫌い」
ハーリールの魔法を簡単に暴いてしまうのは古代人くらいだ。
古代人。
まだ国というものが無かった時代に覇王とともに駆けた覇者たちだ。
「リベルデンって魔法、使えたっけ?」
ハシーディムが首をひねるとハーリールがハシーディムを小突いた。
「リベルデンはハギオイと一緒で長生きしすぎて何にでも手を出す節操なし」
「節操ナシはハシーディムだろう?俺は妻亡き後も妻一筋だ」
「妻一筋とか、逆にヤバいだろう。何年生きているんだよ」
ハシーディムはリベルデンの純愛の方を異常視した。
リベルデンは爽やか系のくせに純愛の分からないハシーディムを睨みつけたが切りかかることはなかった。
「どうして、テモテの王都にいるんだ?」
覇者なら北を目指しているとリベルデンは考えていたので、この二人が王都にいるのは意外だった。
応えたのはハーリールだ。
「寄り道。テモテの王都は歴史も古いし警備も厳重。北への対策魔法を編むならここの方が安全なの」
ハーリールの防御魔法はこの世の人々が使う魔法とは少し毛色が違う。
目立って敵に目を付けられないようにするには、この地の防衛魔法に紛れるのが一番だ。
なるほど。
「ところで、老ハギオイはまだテーマーンか?」
リベルデンは旅を楽しむ系の園の住人であるハーリールに問いかけた。
一つ所に留まる者より旅好きな方が情報を多く持っている。
ハーリールは、顔をしかめるとハシーディムを見た。
ハシーディムは一瞬、黙祷した。
「ハギオイのおっさん、他界した」
「いつ?!」
老ハギオイが死んだ?
殺しても死なないことで有名なクソ爺だったぞ。
「2年くらい前なのかなぁ?ハギオイから杖を定期購入していたテーマーンの魔法使いにも聞いたんだけど、いつ死んだとか正確な話は出なかった。でも、死んだのは間違いない。猫爪の剣の墓があった」
「墓に行ったのか?」
「ああ」
「老ハギオイの杖は?杖があっただろう?」
「杖なら小屋に大量にあったよ。蔦が絡まっていたけどね」
リベルデンは舌打ちした。
「これだから、剣しか使えない奴は!」
<老ハギオイの杖>は園の木でできている。
蔦から作った杖ではない。
老ハギオイは武器職人でもあったから、手の込んだものがいろいろある。
「それより、【血の洗礼】って知ってた?」
リベルデンとハシーディムが喧嘩をする前に話題を変えようと、
ハーリールは自慢げに秘密を漏らすようにリベルデンを見上げた。
「そんなことは、18年前から知っている」
あっさり、冷ややかに言い切るリベルデンの姿に二人は驚嘆した。
18年前から?
どうして、知っている?
「俺は第5の門番だぞ。門番は【血の洗礼】が発動したらもれなくこの世で洗礼の対象となった敵を殲滅することになっている」
「そ、そうなんだ」
ハーリール達は初耳だった。門番しか知らないことに違いない。
「え、でもさ。もう18年だ。門番は何していたんだ?ハギオイに至っては魔眼のアザリアを育てていたみたいだし?」
今頃気づいたことを誤魔化すように、ハシーディムは、門番に文句を言った。嘲るような口調だったが、リベルデンは苛立つこともなく鼻を鳴らした。
魔眼のアザリアを育てていた?やはり予想どおりだ。
内心ではそんな感想を抱きながらもリベルデンは、【血の洗礼】についての現状を述べた。
「洗礼の対象が見つからないんだ。というか、対象が逃げ切ったという方が正しいかな」
「【血の洗礼】を躱されたとでも言うつもり?」
絶対の呪詛を躱せるものなどいないとハーリールは言いたそうだ。
リベルデンは思案気に首を傾げた。
「躱されたというと、エクレシアが怒りそうかな。一度は確かに効果を発揮している。だからこそ門は閉じて、敵の侵入を防いでいる。何があったのかは、エクレシアにしか分からないだろうね」
「彼女は自分の命を燃やしたのよ。死んでいるということ」
悲しむというより、事実を単調に語るハーリールは、多くの死を見過ぎたのかもしれない。
「魔眼のアザリアに会ったよ」
突然、リベルデンは話題を変えた。
ハシーディムが俺も会ったと手で訴えてきたが、リベルデンは無視した。
「老ハギオイと同じ構えをする。何やら老ハギオイの策略を感じる。とりあえず、彼女にはバアル・ゼポンを目指せば黒竜に会えると伝えておいた。黒竜に殺されないように守ってやってくれ」
「そんなの無理でしょ。大体、何故、魔眼のアザリアを嗾けたのよ」
「それが老ハギオイの願いだからさ。老ハギオイは軍師だ。北の戦いに布石として魔眼のアザリアが必要だったんじゃないかな」
それだけ言うと、リベルデンは手を振った。
「じゃあ、俺は誰かさんが持ってきてくれなかった老ハギオイの杖を取りに行ってくる」
「時間があまりないわよ」
「馬でも手に入れるから何とかなるさ。バアル・ゼポンで会おう!」
リベルデンは瞬く間に去っていった。
その素早さにハシーディムは苦笑した。
「ところで、老ハギオイの杖って何だよ?まったく。老ハギオイに杖?剣士なのに?趣味の杖作りじゃなかったのか?」
「千年も生きていると何でも屋になるのよ。リベルデンだって、あらゆる武器を使いこなすわよ」
風貌から森で生活する狩人以外に見えないので、つい忘れてしまうが、リベルデンは覇王の従者だっただけに苛烈というか凄絶というか激烈というか壮絶?とにかく、とんでもなく腕が立つ。
狩るのは動物ではない。
魔物だ。
「門番たちは【血の洗礼】を知っていて、18年も何も手を打てなかったってことか?」
「どうなのかしら。私たちが知らないだけで門番はトレスの周囲や呪いの動きを探っていたはずよ」
何がどうなっているのか。
全体を見ているのは誰だろう?
こっちは、今だからこそ、北のバアル・ゼポンの仕業だと思えるというだけだ。
門番は18年前からバアル・ゼポンと気づいていたのだろうか?
「せめて緊急時の情報共有ってないのかな?」
素朴な疑問をハシーディムは口にした。
園の住人にチームワークは無理だ。自分自身も情報共有が下手だ。
そんなルールも園にはない。
分かっていることだ。
しかし、情報共有されていたら18年も悩まずに済んだような気がする。
【血の洗礼】ってことくらい教えてくれてもよかったんじゃないか?
そう言いたかったが、リベルデンの姿はもう見えない。
流石<亡霊>だ。
「リベルデンが18年も手を焼いているなら、残りの門番にも期待できないわね。何しろ、一番抜け目のない老ハギオイが命を落としたのだから」
他の門番達は生きているだろうか。