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密偵の末路と魔王の目覚め

アベンによってテモテの国境付近まで転移された3人は、その事実に愕然としていた。

こんなことが出来る魔導士がいるなど聞いたことが無い。しかも、呪文は聞き取れないくらい小さく短いものだった。

「あのさぁ、もしかして、アベンってリノス様より凄い魔法を使うってことか?」

金髪をかき上げながら呟く仲間に対し、エラは舌打ちした。

「不敬よ。シホン」

宮廷魔導士長のリノスは世界のあらゆる場所を見聞きできるとさえ言われているのだ。悪口は厳禁だ。

もっとも密偵を放つくらいだから実際にはあらゆる場所を見聞きできるわけではないだろう。

それにしても、どういう仕掛けなのか。杖の一振りで3人を同時に移動させるとは。噂以上にアベンは凄まじい魔力を有しているということだ。


3人が立つその場所は、巨大な砦の前だった。

夜も更けているが、月明かりと砦の篝火のお陰で周辺を見渡すことができた。振り返るとすぐ近くを川が流れている。川幅はそう広くないが、おそらく北の山岳地帯から東の海まで続いているのだろう。

外壁の上部にはテモテ最北領の領主の紋章が彫られていた。壁周辺には明らかに結界が張られ、風に飛ばされた木の葉さえ弾いている。


「満月か」

「淘汰が起きたはずなのに、静かね。淘汰はバアル・ゼポンの国内だけなのかしら?」

「いや、違うな」

(あお)い眼を凝らして川の下流を見ると、黒く蠢くものが水の流れに逆らい近づいてくるのが分かる。


「レゾンは淘汰についてどう考えているの?」

「逆らう者を魔物の餌にして、魔王による人の支配を行うってところかな。見ろ」

レゾンが下流を示すとエラもシホンも息を飲んだ。

「あれ、すごく、嫌な予感がするじゃない…」

気が付くと、3人とも奪われたはずの杖をしっかりと手に握っていた。アベンは敢えて杖まで渡した。その意図は?

シホンはいつもの癖で金髪をかき上げた。

レゾンは淘汰の前に囚われたが、シホンとエラは淘汰を神殿の中から目撃していた。

大量の魔物の出現。容赦のない殺戮。魔龍。あんな化け物が現れたら勝てるはずがない。

シホンは砦を見上げた。そして、川面を見張るために姿を見せた衛兵に向けて中へ入れてくれるよう合図した。仲間の合図を無視することは無いだろう。そう思ったのだが、結界は解かれず、砦の兵も動かなかった。

「俺達が見えないのか?」

「違う。緊急発令だろう。淘汰から国を守るため、何人も通さない」

「まじか」

魔物が来る。そう思うだけで焦ってくる。シホンは苛立ち、杖を大地に突き立てた。

「クソっ!アベンの言ったとおりになる。テモテは俺達を見殺しにするつもりかよ」

「密偵の任務を受けた時から死を覚悟している。我々は戦うだけだ」

「死を覚悟だって?お前が捕まったことで俺たちの事までバレたんじゃないのか?まさか取引してないよな?」

「アベンの魔力を見ただろう?バレないわけがない。ただ…拷問された時の記憶がない。気づいたら死にかけていた」

「拷問の記憶か。確かに俺にもないな」

シホンは眉間に皺を寄せた。囚われた時、殴られ切り付けられた。牢に入れられたことまでは覚えている。しかし、気づいたら白い妙な光の檻の中に転がっていた。

シホンは首を振った。おそらく自分は牢で気絶したのだろう。

兎に角、バアル・ゼポンを出られたのだ。助かったのだ。

それなのに、国に入れない。

そんなバカなことがあるか。

「リノス様がアベンの強さを承知で俺達に今回の任務を命じたとしたらそもそも助ける気はないってことかよ」

「拒否権はあった。受けたのはお前自身だ」

「あの場で断われるわけないだろう!」

苛立ってシホンは頭を掻きむしった。

密命は複数人の魔導士が集まった場で、挙手で決まった。任務に自ら志望したのだ。危険な任務の時はいつもだ。エラは誰よりも早く挙手した。レゾンはそれに続いた。シホンはレゾンに張り合ったというのが正しかった。

挙手したからといって辞退することもできる。しかし、誰も辞退しなかった。


二人の会話を耳に入れながらエラは冷静に川下を睨んでいた。

「来るよ」

尋常ではない黒い波が川下から迫ってきていた。

シホンは舌打ちした。

「北領には逃げ遅れた領民のための救済処置がある。ここで戦っていても殺られるだけだ。近くに宿場町があったはずだ。宿場町へ行くぞ」

3人はバアル・ゼポンへ侵入できるくらいには優れた魔法を扱える。アベンのような転移魔法は使えないが走る速度を速めることはできる。

3人は外壁に沿って宿場町へ向けて駆け出した。逃げるとなったら3人とも素早かった。


辿り着いた宿場町は既にもぬけの殻だった。

「っち」

シホンは再び舌打ちして、宿場町の看板の一つを蹴りつけた。

「確か、北の領地には緊急時の隠し門があったはずよ」

「何処だ?」

エラの呟きにシホンが喰いつくように問い詰めた。機密だから正確な位置は分からない。

「…森の中だったはず」

「それなら、この宿場町から遠くない。領主の狩場でもある<結実の森>のことだろう」

レゾンはそう言って二人と共に森の中にあるという隠し門へ急いだ。

<結実の森>は広い。

「おいおい。森の中にも小川が流れているのかよ。さっきの川に繋がっていたら魔物が来るぞ」

森の中を駆けながらシホンは一段と焦りを見せた。

細い小川が確かに南へ向けて続いていた。そのことにエラもレゾンも頷きながら走り続けた。

魔物の大群に襲われたら魔導士は弱い。一つの魔法で全てを撃退できなければ接近戦になり太刀打ちできない。包囲されたら終わりだ。


隠し門は、裏門とも呼ばれていて平常時は入るどころか見つけることも困難だ。しかし、緊急時には領民を保護するために開かれる。今は緊急時なのだから領民のために開くはず。

開いていれば、探索の魔法で探せるだろうという考えだった。

ところが、森の奥に進むと魔法を使うまでもなく、大勢の人の気配がした。

王の騎手達が領民たちを誘導しているのだ。

「急げ!魔物が迫っているぞ!」

王の騎手のルシヤの声が夜の森に響き渡っていた。

領民たちは取る物も取り敢えず必死の形相で門へ到達したところのようだ。


間違いない。

隠し門だ。

それは大樹の幹の中に開かれていた。


そこで、レゾンは立ち止まって、シホンとエラを呼び止めた。

「俺達は一度、拘束された。呪いが掛けられていないか調べよう」

「そうね。それが規則だわ」

荒い息をつきながらも、密偵としてのルールを思い出すとレゾンとエラは自分が呪いを纏っていないかを調べるため魔法を唱え始めた。

シホンも焦りながらも詠唱しかけて、森を流れる小川の音が変わったことに気づき、杖を川の方へ向けた。

妖しい魔物の気配が杖に伝わってくるとシホンの中に恐怖が沸き上がってきた。


「悠長に規則に従っている場合じゃないぞ。魔物が来る!」

<呪い>を調べるには一定の時間がかかる。そんなことを始めたら魔物に襲われてしまう。

シホンは詠唱中の二人を無視して王の騎手達に向かって叫んだ。

「魔物が来るぞ!急げ!俺達はダーロームから戻ったところだ」

シホンの声に王の騎手のルシヤが振り返って、目を凝らし小川の方角を見た。

「魔導士なら魔物を防いでくれ!領民を入れたら門を閉ざす」

「馬鹿言うな!俺は情報を持ち帰ったんだ!先に入れろ!」

シホンはそう言うなり、領民の列に割り込もうと走り出していた。

シホンは、自分が異様なほど焦燥感に駆られていることを自覚できなかった。何としても結界の内側へ入れと得体のしれない何かに急き立てられていた。

「どけ!」

シホンは一番近くの領民の肩を掴もうと腕を伸ばした。

そんなシホンの腕をシルワノが掴み上げ、いきなり投げ飛ばして大地に叩きつけた。

「たわけ者が!領民が先に決まっておろう!日頃、国を豊かにするために働くものを、いざという時に守れずして何が魔導士か!」

シルワノの怒鳴り声は無関係の領民まで震え上がらせる迫力があった。

ルシヤは驚き足を止めそうになる領民を急かして門へと向かわせた。大樹とはいえ門は小さく一人ずつしか通ることが出来ないため時間的余裕がなかった。


シホンは大地に倒れながら杖を握り締めて、目を瞬いた。いったい自分は何をしているのか。

倒れたまま小川の方角を見るとざわざわと草木をかき分ける音が拡がっている。

「い、嫌だ」

大地から起き上がることもできず、シホンは小川の方を見たまま首を振り、杖を振り回した。

「しっかりせい!」

シルワノが叱りつけた瞬間、シホンは跳ねるように立ち上がり、いきなり口から黒煙を吐き出して咆哮を上げた。

「呪いか?!」

呪いというよりも、シホンを突然現れた魔物が喰らったという方が正しいかもしれない。


シルワノは驚愕しながらも素早く剣を抜いた。

自身の呪いを調べていたレゾンもエラも詠唱を止めて、魔物と化したシホンに向けて杖を構えた。

エラはシホンの呪いを祓おうと浄化魔法を唱え始めた。

レゾンは仲間でも魔物となれば討つしかないことを学んでいた。だから躊躇うことなく炎魔法を詠唱し始めていた。それでも間に合わないかもしれない。

シホンは助けを求めることもなく一瞬で魔物に取り込まれ、目の前のシルワノに襲い掛かった。

シルワノはその年齢からは想像できない身のこなしで攻撃を躱した。


「恨むなよ」

シルワノの剣は魔物と化したシホンを一刀両断していた。

その剣に迷いは一切なく、冷静そのもので、歴戦の騎士の威容が彼を取り巻いていた。


シルワノは次に二人の魔導士を睨みつけた。

エラは、ビクりと肩を震わせて、唱えていた浄化魔法を自分自身に放ってみせた。

その瞬間、エラの衣類に付着していた黒い滲みが急激に巨大化して浄化魔法を弾き飛ばし、エラを包み込んだ。

「エラ!」

エラの泣き叫ぶ声よりも魔物の咆哮の方が大きく、レゾンはシホンを倒すために唱えていた炎魔法でエラを魔物ごと焼き尽くした。その威力は高くエラは一瞬で灰となって消えた。

しかし、二人までが魔物となったということは、レゾン自身も同じということだ。


レゾンはシルワノに一礼した。

「国と家族をお守りください。無念です」

レゾンは自分自身を焼き尽くすために炎魔法を唱え始めた。

その時には、小川の方角から黒い波が押し寄せるように大量の魔物が目前に迫っていた。

人の気配につられたのか魔物たちは水中から上がり明らかに門を目指して突進して来たのだ。

シルワノはレゾンに頷きつつも、門を気にかけて檄を飛ばした。

「ルシヤ!急げ!」

「あと、5名です!」

「魔物を通すなよ!」

シルワノは領民を逃がすため、魔物の前に自ら切り込んで行った。


シルワノが切り裂く魔物よりも飛びかかってくる魔物の方が多かった。それでも、少しでも時間を稼ぐ必要があった。

倒れるまで剣を振るうまでだ。

「伏せてください!」

レゾンはそう怒鳴ると自分自身にではなく、魔物の群れに炎魔法を放った。炎は凄まじい勢いで魔物を灰にした。

シルワノの周囲に魔物がいなくなるとレゾンはシルワノと迫ってくる魔物の間に走り込み、シルワノを振り返ることなく杖を剣のように振り回して魔物の中へ突入した。

どうせ魔物に喰われるなら、その前に倒せるだけ魔物を倒す。レゾンは自分が黒い煙に包まれようとも魔物に戦いを挑み続けた。


シルワノの目の前で、レゾンはエラ達同様、魔物に変貌し始めていた。

それなのに、レゾンは魔物を狩るように戦い続けた。

やがてレゾンは黒い獣のような姿になり、杖が爪のように変化して大量の魔物を引き裂いて霧散させていく。


シルワノは目を見開いて驚愕した。

魔物を狩り続けるレゾンの姿が黒い獣から、人のような姿に戻り始めたのだ。筋肉が盛り上がり、服が破れ、身体が一回り大きくなり、()()は、咆哮を上げた。


レゾン自身も戸惑っていた。だが、自我がある以上、倒すのは魔物だ。

全身に力が漲っている。

レゾンは素手で魔物に掴みかかり投げ飛ばし始めた。

シルワノに襲い掛かる魔物の首もレゾンは引きちぎった。


「ここは自分が堰き止めます。早く中へ!」

それはレゾンの声だった。

「感謝する。家族の事はわしが責任を持つ」

シルワノはそう告げると、魔物を切り倒しながらルシヤのもとへ走り、最後の領民が通ると、ルシヤと共に中に入り門を閉ざした。

「3人は…?」

「皆、魔物化する呪いを掛けられていたのだろう…残念だ」

「レゾンは…どうなるのでしょうか」

レゾンだけは自我があり、魔物と戦っていた。

ルシヤの疑問にシルワノは静かに首を横に振った。

「どうなるかなど分からん。ただ、あれはもう人ではない」

レゾンの瞳は赤く染まっていた。あれは魔物の眼だ。黒い獣と同じ瞳だった。

バアル・ゼポンはなんと残酷なことをするのか。

シルワノは拳を握り締めた。



バアル・ゼポン ― 王都 大神殿 地下(深部)


バアル・ゼポンの王都は少し時間が狂っている。だから淘汰の時間もズレがある。しかし、それが正しくもある。

魔王という異なる世界に眠る者を起こすのだから様々な狂いが生じる。

その全てを計算して魔王を復活させようとするアベンの魔法は紛れもなくこの世界最強といえる。

だからこそ、3人を杖一振りで別の場所へ転移させることもできる。そんな魔導士は他にいない。



「どこへ?」

アザリアは3人が突然消えたことに驚きを隠せなかった。

アザリアは魔法をよく知らない。いきなり人が消えるところを初めて目にしたのだ。

「彼らの国へ送ったのだ。だが、彼らは自国の結界によって逃げ場を失い淘汰に巻き込まれるであろう。生き残るには()が多い者達だ」

欲深い者は神に気に入られることは無い。このアザリアという賞金稼ぎは、呪いの影響を受けていない。賞金稼ぎだというのに呪われるような私欲が無いのだろう。不思議な存在だ。


「彼らは死ぬのか?」

「さて、それは神が決めることだ。一人は魔人になるかもしれない」

「魔人?」

「神に選ばれた戦士だ」


魔人。

それは覇者とは違うのだろうか。

覇者よりも強いのだろうか。

リベルデンもアクロンも黒竜はこの世で最強というようなことを言っていた。覇者という存在が強いと認める人間を倒すには覇者以上の強さが欲しい。

「私はその魔人とやら程の力が得られるのか?」

「魔人以上の力が与えられるだろう」

アベンの答えにアザリアは目を見開いた。魔人の力がどれほどかは知らないが、より強い力なら素晴らしいことだ。打倒、黒竜が現実的になってきた。


アザリアは台座の上から身を乗り出してアベンに訴えた。

「黒竜の姿を見たことはあるか?顔を知りたい」

アザリアは黒竜の容姿について黒髪で黒い装束という噂しか知らない。おそらくそんな服装の人物は幾らでもいる事だろう。

アベンはその問いに少し首を傾げた。

アベンは王都門を潜った者の情報を思い浮かべ、杖を少し揺らした。すると杖の先端が白い輝きを発し、丸い球体が浮かび上がった。

「傭兵黒竜は北の王都門を潜った。この男だ」


北?東のケデムではなかったということだ。

そんなことは、もうどうでもいいか。

アザリアの瞳は杖の先端に浮かぶ球体に釘付けだった。

闇の中でさえ際立つ漆黒の長い髪。細身だが剣を握り、隙のない動きで門を潜る姿からは相当な鍛錬を積んでいることが伝わってくる。表情は冷徹な印象で感情は読み取れない。黒い瞳が全てを見透かしているようだ。


格が違う。

アザリアは身震いした。

正面から倒すことは不可能だろう。分かっていたが、金貨1000枚と金貨20枚の差は確実にある。

「これが、傭兵黒竜…」

アザリアは剣の柄を握り締めていた。

絶対に倒してみせる。


アザリアの闘争心に反応したのか、アベンの杖が稲妻を帯びるように金色の光を走らせた。

アベンの意志ではなく杖が反応する様にアベンは瞠目した。

光は天井にあたり、周囲の壁面へ広がり、黒く波打つ水の中へ入っていった。

黒い液体が音を立てるように沸き立ち、飛沫が黄金の光を放ち始めた。


「神よ」

アベンが思わずそう呟くと窓も扉もないのに風が下から上へと吹き上げた。その風によりアベンのフードが後ろに落ち、アベンの白い髪を揺らした。


アザリアは空間に黄金の輝きが満ちる様に驚嘆しながらも、台座から移動しようとは思わず、下の様子を見下ろしていた。

アベンのフードが外れると、その素顔に息を飲んだ。

白髪の老人。

その一言ではアベンの素顔は語れない。

確かに生きた年数を示すように皺の刻まれた老人の顔をしているが、堀の深い目鼻立ちには若い頃の美貌の名残があり、老いても人を魅了する力があった。

そして、そのトパーズの瞳は、周囲の黄金色を映すように濃く鮮やかに輝き始めていた。


アベンは、ふいにアザリアを見上げた。

目が合った瞬間、アザリアは息を呑んだ。アベンの瞳は眩いくらいに煌めき、吸い込まれるような得体のしれない底なしの魔力を放っていた。


「そなたが神を呼んだようだ」


何?何のことだ?

戸惑うアザリアにアベンは狡猾な笑みを浮かべ、杖の先端を黒い水の中へ沈めた。


次の瞬間、黒炎が巻き上がり、凄まじい風が全てを破壊する勢いで駆け抜けた。

アザリアは空間全体が破壊され、吹き飛ばされたと錯覚した。

自分自身も弾け飛んだと死を覚悟したくらいだ。

だが、実際には台座も壁も天井も崩れてはいなかった。

今のは何?


しかし、疑問を口にする前に、周囲はいきなり暗転した。

光も風も水の跳ねる音もしない。

無音。

アザリアは台座の上に座っていた。手で表面を探ってみる。台座はちゃんとある。

じっと息を潜めて周囲を警戒するが、アベンの気配は近くにない。


何が起きた?

何が起きている?

暗闇は一切の光を拒んでいるようだ。台座をゆっくりと探り、階段があることを手探りで確認した。


神を呼んだ?

誰が?


不意に、背筋に悪寒が走った。

全身が強張り凍り付く。鳥肌が立ち、今まで感じたことのないような恐怖が沸き上がる。言いようのない絶望感に魂が警鐘を鳴らしている。


()()に、なにか、ある。

何かが闇の中に、()()()


()()


何も見えない闇の中で、台座の硬さだけを頼りにアザリアは正気を保とうとした。

危険。

それだけは分かる。

張り詰めた空気の中、全身を緊張させ息を潜める。

どれくらいの時が経ったのか。

いきなり、その言葉は届いた。


『望みは?』


頭の中に響くその重低音に戦慄する。魂を締め付けるような(おと)だ。

この世の音ではない。

早く答えなくては魂を切り裂かれる。そんな焦りが生まれた。

アザリアは、なんとか声を絞り出そうと台座に付く手に力を入れた。

頼むから声…出ろ。


()()()の仇を討つこと」

やっと出たその声はまるで自分の声ではなかった。


『望みは叶う』



頭上で鳥が羽ばたく音がした。


「宴が始まるぞ!北の宴だ!」

あの黒い鳥の声だ。

その声を聞きながらアザリアの意識は急速に失われていった。


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