川:遡上する魔物
リベルデンはテーマーン北領に入るとその領都に暮らしている魔法使いを訪ねた。老ハギオイの杖を購入していた魔法使いだ。アザリアが初めて出会った魔法使いでもある。
「老ハギオイの杖を持っているか?」
いきなり問いかけるリベルデンに魔法使いはにこやかに応対した。
「老ハギオイの杖は5本に分かたれたようですよ。これがそのうちの一つです」
魔法使いが見せたのは短い杖だった。それはアザリアが老ハギオイの死後、常連客の魔法使いに形見の品として配ったものだった。
「分かたれた?いや、確かに園の樹だ」
短い杖を手に取りながらリベルデンは眉間にしわを寄せた。ハギオイが園の杖を分かつとは考えにくい。呪いを躱すためだろうか。
「何か伝言は?」
「杖に刻まれていた文言は、魔物対策の呪文です」
つまり、ハギオイはテーマーンに魔物が現れた時、この地では魔物対策が何もなされていないことを危惧して杖を5本に分けたということか。
「それでは、その杖を借りるわけにはいかないな」
困った。ハギオイの杖は絶対に必要になるだろう。相手は大祭司アベンだ。狡猾な上に魔力量が半端なく多い。バアル・ゼポンの大神殿は、今までの歴史の中で一番大きな魔法陣を形成している。それに対抗するには園の樹でできた杖が欲しい。
ハギオイが自慢の園の杖を預けるならこの人物だと当りをつけて来たのだが、これでは借りることが出来ない。
「老ハギオイは予備の杖を持っていたかもしれません。用心深い方でしたから」
魔法使いは、ハギオイの性格をよく知っていた。
「なるほど、小屋に行ってみるか」
「小屋にいかれるのでしたら、墓前にこの花を供えてください。魔除けの花です。戦いで荒らされたくないですからね」
手渡されたのは薄紫の小さな花が連なる蔓を持つ植物だった。
「供えて来よう。ハギオイは人気者だな」
「老ハギオイは我らが尊敬する伝説の魔法使いの友人ですからね」
「俺も偏屈爺の友人だぞ」
「そうでした」
「じゃあな。魔物には十分に気をつけろよ」
リベルデンは花を傷めないように抱えながら、ハギオイの墓のある山へ向かった。
ハギオイが園の住人と知り、この地の魔法使い達は、ハギオイの作り出す蔦の杖で魔法を学んでいたのだ。
大陸の南側には魔法文化が無い。芽生えてもすぐにバアル・ゼポンの工作員によって摘まれてしまう。だから、蔦の杖に刻まれた魔法で彼らは古代魔法を学んでいた。もちろん、たいしたことは学べない。それでも、いざという時には防衛になる。
バアル・ゼポンの支配欲はいずれ今のような事態を招くことが分かっていた。だからハギオイはこの地で静かに防衛手段を講じていたのだ。
魔法が使えない魔法使い。そういう体裁で魔法を学び続け、今ではテモテの魔導士学校の卒業レベルにはなっているだろう。
老ハギオイの墓は小高い山にあった。猫爪の剣が大地に立てられ墓の場所を示していた。この墓はアザリアが作ったものだろう。
草も生い茂り、遠目には見つけられなくなっている。
リベルデンは周囲の草を抜くと渡された花を植えた。花は魔法を掛けられていたのか、地面に植えた途端に勢いよく成長し、剣の周囲に蔓を伸ばし始めた。そして、小さな薄紫の花を大量に咲かせ始めた。まるで紫の炎のようにも見える。
「よう、老ハギオイ。逝くなんて聞いてないぞ。それも魔王の誕生の前だ。あんたが止めないとラハブが無茶をするぞ。杖を借りるからな」
せめて別れの一言、残せよ。
リベルデンは歴戦の戦士で軍師の老ハギオイの墓に一礼すると小屋へ向かった。
小屋は蔦に絡まれ入り口も開かなかったが、亡霊の狩人の侵入を拒むほどではなかった。
室内も蔦がひどかった。
明かりも入らず、暗く冷たい室内でリベルデンは瞳を閉じると、感覚を研ぎ澄ませ周囲の気配を探った。
しばらくじっとしていると僅かだが陽光のような温かさを見つけた。天井だ。蔦に足をかけて天井近くまで登ると天井の板の一つを外した。そこに杖はあった。
仄かに光る園の樹でできた杖だ。リベルデンの身長より少し長い。それを天井から取り出すと、床に降りる。
用心深いと言われるだけあって、予備を持っていたか。有難い。
杖を手に、外へ出ようとすると、扉にいきなり文字が浮かび上がった。
『杖を持っているのはリベルデンか?わしは眠るが後は任せたぞ。アザリアには会ったかな?彼女を守っているのはエクレシアだ。そして、エクレシアを守っているのはアザリアだ。カーファルならエクレシアを呼び出せるだろう』
文字は白く輝いてやがて消えた。
「爺ぃ」
リベルデンはボヤくように呟くと溜息をついた。
この文字を俺じゃないやつが読んだらどうすんだよ。しかも、アザリアに会う前だったら途方に暮れるぞ。もう少し魔王対策に役立つ情報を残してくれ。エクレシアを守っている?どういう意味だよ。エクレシアは【血の洗礼】によって死んだんだぞ。
ってか、全然、分かんねぇ。
文字じゃなくて、生きているうちに連絡よこせよ!
カーファルに何かさせたいなら、カーファルに伝言すべきだろ?
ツッコミどころ満載だな。
軍師のくせに最後に謎かけかよ。
…爺さん、絶対、楽しみながら逝ったんだろうな。
千人切りの老ハギオイの最後の弟子。
魔眼のアザリアか。
となると、トレスの実娘ってことはないな。何者だ?
爺ぃ、何か隠して逝ったなぁ。
リベルデンは小屋の外に出ると杖に語り掛けた。
「時間短縮だ。セモール山脈へ行くぞ」
一瞬にしてリベルデンの姿が消え、彼はセモール山脈に転移していた。
ハギオイは杖にいくつもの魔法陣を刻み、主要な場所へは転移できるように設定していた。杖に複数の魔法陣を刻むなどあり得ないことなのだが、魔力操作だけでなく様々な手法で杖を使っていた。だからこそ、誰にも会わずに逝くことが不思議なのだ。連絡方法は幾らでもあったはず。この地に魔物が入り込んでいた可能性はある。だから、迂闊に動くことなく、自分を囮にしていたのだろうか。
次の世代に譲る時だと判断したのかもしれない。
ダベルネの国境では魔力による防衛強化が行われていた。
満月の日、バアル・ゼポンとの境である大河が血の色に染まった。
ダベルネの北の砦は常にバアル・ゼポンを監視しているが、今までに見たことのない光景に監視員は絶句した。
北の砦といっても国土の小さいダベルネでは、それは一棟の物見の塔だ。
料理店<尾根の雲>よりも低いことに監視員は不満を持っているが、後から<尾根の雲>が建ったのだから仕方ない。より高さを求めようとしたところ、高くなくても見たいところを映し出す鏡の魔法陣が城に設置されたので、今の高さに留まっている。
とはいえ、全ての人間がその鏡を見られるわけではないので、今でも北の砦は重要な役割を担っている。
その夜は地鳴りがした。
閃光がバアル・ゼポンの南領ダーロームを照らした。次の瞬間、爆音と共に砂煙が上がった。
監視員の目の前で、難攻不落のバアル・ゼポンの一角、ダーロームの都市が燃え上がったのだ。
「嘘だろう?!」
何が起きている?
全身が震えた。
慌てて緊急事態を知らせる鐘を鳴らした。魔法の通信アイテムも使った。
「魔物を多数確認!」
「河を渡らせるな!」
衛兵たちが大河に沿って並んで迎撃態勢を整えるなか魔法使いも駆け付ける。桟橋に係留されていた船がいきなり砕け散って流されていった。
ダーロームから外へ出た魔物の仕業だ。河の北側は地獄に違いない。あのバアル・ゼポンが魔物を倒せないはずがない。つまり倒す気が無い。むしろ、魔物を量産しているということだ。本当にバアル・ゼポンは魔王を復活させようとしているのだ。
「下がっていろ!」
桟橋付近で魔物の上陸を防いでいた兵士たちの前に、魔法使いの長エリシャが現れて杖を振り上げた。
雷が岸に近づく魔物に降り注ぎ、上空で閃光が弾け川面を照らす。
大河に黒く犇めく魔物と何処から運ばれてきたのか引きちぎられた人肉が北から押し寄せてきていた。
「ひでぇ」
「絶対に国境を超えさせるな!」
ダーロームからは凄まじい咆哮が聞こえてきていた。
「赤い眼の魔物を倒せ!他は魔法陣で対処する!」
エリシャ以外の魔法使い達も現れて岸に防衛の魔法陣を新たに設置していく。それは魔物が触れると瞬時に反応し雷撃を放った。
「魔法国家ダベルネを舐めるなよ」
日頃から魔道具・魔装備が充実している国というだけあって危機管理は完璧だった。小国というのに大国バアル・ゼポンに滅ぼされず同じくらい長い歴史を持っているだけの事はある。魔物と魔法対策は伊達ではない。
バアル・ゼポンから発せられる禍々しい波動にダベルネの王は、最高レベルの警戒を行うよう指示していた。
ダベルネの王族は常に最前線で民を守る。
王は玉座から出陣へと動くこともあるが、今回、エリシャが王を諫め、大河に王族を近づけなかった。これはただの戦争ではない。全世界を震撼させる魔王の復活の儀式だ。その情報はテモテと共有していた。さらにセモール山脈がこのところ常に姿を見せて北を威嚇している。覇者たちもダベルネに警戒しろと告げていた。
王族が王都から出たら魔王とその眷属は喜んで襲ってくるだろう。それは避けたい。
生臭い風が北から流れてくると不気味な囁き声も運んできた。呪詛だろうか。川の流れが逆流を始めていた。
ダベルネの結界に北風が当たると金属音のような甲高い音が響き渡った。
「絶対に魔物を陸へ上げるな!」
何としてでも国を民を大地を守る!エリシャは杖を握りなおした。
同じ頃、東の大国テモテでも遠見の鏡を使って、リノスがダベルネの様子を窺っていた。
その周囲には王の騎手が2名、防衛担当の魔導士が2名ほど状況把握の為に待機し、報告のための騎士が駆け込んできていた。
「リノス様、バアル・ゼポンの方角で雷鳴が轟いています」
「バアル・ゼポンの様子はこの鏡では映せないわね。ダベルネは流石、防衛力があるわ。魔物の襲撃にも動揺が無い」
魔物の動向に緊張する周囲をよそにリノスの口調はいつもと変わらなかった。王の騎手は落ち着いているリノスに問いかけた。
「では、ダベルネへの援軍は?」
「援軍を出す余裕はないかもしれません。大河を埋め尽くす魔物など、千年を語り継ぐ古代詩にもない。国境だけでなく全ての川面を警戒しなさい」
リノスの周囲には一見ではわからないが何人もの魔導士の影が控えていた。そのうちの何人かが、リノスの言葉に一礼すると姿を消した。国中の川を警戒するなど、普通の兵士には無理だ。水魔法に秀でた者達が監視するしかない。
「リノス様、セモール山脈に紫の放電が生じたようです」
「覇者達が集っている証拠ですね。北の山岳地帯は彼らが守ってくれるでしょう」
「覇者達は、バアル・ゼポンの王都を目指していたのでは?」
「…覇者の数など把握していないから分かりませんけど、おそらく、王都には門番という者達が向かったのではないかしら?ダーロームの天を貫いた雷。おそらく、ここを訪れた戦士ラハブの仕業でしょう」
ラハブ。その名は有名だ。<霹靂の戦士>。あり得ない強さを誇る覇王軍の中でも伝説をいくつも残している強者だ。どうして剣士なのに雷鳴を轟かせるのかは謎なのだが、雷を呼ぶのだ。
千年も生きる古代人には謎が多い。分かっていることは桁外れに強いということだけだ。野心があればこの世などあっという間に手中に収めるだろう。それだけの強さがあると言われている。
だからこそ、かつて魔王を倒したのだ。
その力は今も健在だろうか。魔王はより強大な力を持って復活する可能性が高い。魔物を忘れたこの世の人間たちに戦う力がどれほどあるだろうか。
リノスは<遠見の鏡>をジッと見入った。バアル・ゼポンの王都は全く映さない。それと同じようにセモール山脈も映らない。
大祭司アベンは覇者の園についても研究し、対策を取ってきた。門を封じる手段があるなど誰も考えなかった。倒せないなら門が開かないようにすればよいとは…その逆転の発想に感心させられる。だが、そもそも、魔王を擁立して天下が取れると考えるなどどうかしている。
魔王は人の味方などしない。魔王を呼び出したアベンでさえ魔王にとっては餌でしかない。そんなことも分からないのだろうか。それとも、魔王を自在に操る術でも編み出したのだろうか。そんなものがあったとして、とても成功するとは思えない。
テモテは自国を守ることが精一杯になるだろう。バアル・ゼポンとの戦いは今に始まったことではないが、魔王の復活は最悪だ。覇者の園との縁がある国だからこそ、余裕をもって対峙できるが、逆に必ず狙われる。厳しい戦いになることには変わりない。
セモール山脈では、ラハブによってバアル・ゼポン周辺から追い出された<覇者の園>の住人たちが揃っていた。
「見ろよ。北の空が暗雲立ち込めて、楽しいことになってるぞ」
セモール山脈から見る北は黒い霞に覆われていた。ここ20年近く園への門が閉じていることには皆気づいていた。異変。何かが起きている。つまり戦うべき時が来る。それは分かっていた。
「魔物かぁ。魔王の誕生に立ち会えないのは残念だな」
「立ち会ったら喰われるぞ。魔力のない人間には太刀打ちできない」
「でもぉ、ラハブって魔力なんてなくない?」
「ラハブは雷を落とす。魔力はあるんじゃないか?」
剣士なのに剣が放電して雷を呼ぶのだ。それがラハブだ。古代人は凄まじい。そう考えると別の古代人のことも思い出す。
「リベルデンは魔法を使うよな?」
「老ハギオイなんて剣と杖を持ってるよ」
「千年も生きていれば、何でもありかぁ」
割と呑気に話していると、彼らの背後で咳払いがした。
一瞬にして全員の背筋が伸びた。
「伝説の覇王軍は魔力など無くても魔導士と対等に戦ったと伝わっている」
背後から現れた人物は重低音でそう告げると、高みの見物をする住人たちを睨みつけた。
土師長だ。
セモール山脈で一番怖いのが彼だ。園の住人は覇者レベルの強者のはずなのだが、何故かこの土師長には勝てない。彼はセモール山脈の霊気で守られているとさえ言われている。古代の霊気など数百年しか生きていない住人に勝てるはずないのだ。
呑気に喋っていた全員が冷や汗を流し、硬直していた。
土師長はセモール山脈に雷鳴のような怒鳴り声を轟かせた。
「有事に戦えないものなど覇者とは言わん!魔物を倒し、人々を守ってこその覇者だ!さっさと行け!」
怒鳴るなよっ。
全員慌てて山脈を飛び出し、山岳地帯に現れた魔物との戦いに突入した。魔物は山岳地帯に流れる川に沿って出現していた。驚くべきことに、どうやら魔物を運ぶ黒い水が川を遡ってきているようだ。
初めは少数だった魔物も、徐々に増え始め、黒い水が切れることは無くなった。
水が運ぶ魔物。魔物を運ぶ水。
これは海に面している陸地も危険なら、海に流れ込む川は全て魔物を呼び込むと考えられるかもしれない。
「土師長!園の住人を呼び出してくださいよ!」
あまりの魔物の数に、一人の住人が山脈に戻ってきて訴えた。
「泣き言を言うな!!」
土師長は戦士ではないので基本、戦わない。
セモール山脈には魔物は入ることはできない。山脈の外に出た者には容赦なく魔物が襲い掛かる。それでも、そこに戦がある以上、戦いたくなるのが覇者の園の住人である。戻って訴えたものの、ため息一つで剣を担いで山岳地帯に戻っていった。
「あの人たち、大丈夫でしょうか?」
土師の少年が若干心配そうに長を見ると、長は鼻を鳴らした。
「よく見てみろ。甘えたことを抜かしながらも、実は暴れられて嬉しいのだ」
そう言われて、長が示す水晶柱を見ると戦場となっている山の中の渓流が映し出されていた。呆れたことにどの剣士も楽しそうに魔物と戦っている。存分に暴れていい場所は園の中だけだ。こちら側にいると弱い者いじめになるので、暴れられない。人を守るための戦場なら遠慮なく戦える。
「楽しそうですね…。」
大声を上げて切りかかる者。笑いながら槍を振り回す者。日頃の特訓の成果を試す者。様々だが、誰も気後れしていない。圧倒的に魔物の方が多いというのに負けていない。むしろ喜んで攻め込んでいる。
「とはいえ、長期戦になると不利だな」
園の住人といっても人間だ。不老不死と言われているが、不死ではない。普通の人より持久力も精神力もあるだろうが、ずっと戦い続けると疲れもする。疲れは隙を生む。怪我をすれば痛いだろうし、毒があれば死に至る。持久戦では魔物の方が有利だろう。魔物は途切れることなく川から湧いて出てきている。
「どうするんですか?」
「どうもしない。我々は墓守だ」
土師長は腕組して戦場を見守った。
少年は、祈る思いで水晶柱に手を合わせた。
「援軍、来ますよね」
少年がそう呟いた時、背後で呆れるような声がした。
「どいつが援軍なんて寝言をぬかしているんだ?」
「え?」
少年は驚いて飛び跳ねるように後ろを振り返った。そこには赤毛の狩人が杖を担いで立っていた。
土師長は目礼して水晶柱を示した。
「え?あの?」
「彼はリベルデン。門番の一人だ」
戸惑う少年土師に長が赤毛の狩人の名を告げた。
リベルデンは、その会話を無視して水晶に映る山の戦場を見て首を横に振った。
「おいおい、あの程度の雑魚で喜んでるってアホなのか?」
水晶には川から這い上がろうとする魔物と戦う園の住人たちの姿が映し出されていた。皆、いきいきと戦っている。思う存分暴れていいのは開放感があるのだろう。
「あの…。」
少年は、助けに行く気配のないリベルデンに恐る恐る声を掛けた。しかし、リベルデンは水晶を杖で突いて文句を言った。
「ひでぇな。あんなの瞬殺だろ。瞬殺!」
次の瞬間、少年の前からリベルデンは消えていた。
何処へ?
「見ろ。あれが<亡霊の狩人>リベルデン。古代人の戦いだ」
長が水晶を示すと、いつの間にかリベルデンは、山岳地帯の渓流の一つにいた。赤い眼の魔物が一番多く出現した川だ。
川の周囲には5人の覇者が暴れていた。初めは楽勝だと思った。しかし、赤い眼の魔物は切られても直ぐに再生して襲い掛かってくる。切りが無い。
「お前達!雑魚はこうやって殲滅するんだ!」
突然現れたリベルデンは、左肩に杖を担いだまま、右手で剣を抜き放ち、川面に向けて一振りした。
一閃。
剣の煌めきは何を切ったのか。
その場にいた全員が、あっけにとられた。
川面の空気が切り裂かれ、その波動は赤い眼の魔物をことごとく小間切れにした。空に飛び散った魔物の血が蒸発するように霧散していった。
「触手だけ切ってどうする。切るなら全部同時に切り刻め!」
同じ覇者でもこの力量差は何ともしがたい。相手は千年生きる狩人だ。
「んなもん、できるか!」
「やれ!魔王が目覚めたらもっと湧くぞ!」
文句を言う住人にそれだけ言うとリベルデンは、次の川に向かって駆け出した。
一瞬で姿が見えなくなった。亡霊といわれるだけの事はある。
「えー、全部切りかぁ」
「やるか?」
「やってやる!」
「くっそぉ」
負けず嫌いでなければ園には暮らせない。
新たに川を上ってきた魔物に向かって一斉に襲い掛かっていった。




