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ヘルエスタ王国物語  作者: 十月 十陽
新生編(プロット)
38/75

ヘルエスタ王国物語(38)




 気持ちのいい朝だった。

 ほどよく冷たい風が頬を撫で、小鳥たちの詩が耳に心地いい。

「今日も問題なし、か」

 そう呟いて、戍亥は警戒の色を薄くのばす。ローレンたちからリゼを狙う暗殺者の情報を聞いてからというもの常に張り詰めた状態で日々を過ごしてた。

 彼女にとって、今日は三日ぶりに背伸びができる休日。

 街に出る用事はあるものの、そこまで心配する必要はないだろう。

 戍亥は小野町亭の屋根から飛び降りると、ベランダから中に入り、眠っているリゼとアンジュを起こさないよう忍び足で部屋の前まで近づいた。

 突然、ドアが開く。

「とこちゃん。おはよー」

 眠そうな目を擦りながら、パジャマ姿のリゼが挨拶してきた。

「ん。おはよ。顔洗ってきな」

「はーい」

 戍亥に言われるがまま、リゼは廊下の奥にある洗面所へと消えていく。

 たったこれだけの小さなやり取りが戍亥にとっては貴重で、幸せなものだった。

 少し前。

 彼女が王様をやっていた頃には今のような会話は考えられない。当時、ヘルエスタ城の門番をしていた戍亥に許されたのは、リゼが壊れていくのを黙って見ていること。

 本当に。

 それだけだった。

「おい、ケルベロスの娘」

 背後から小野町亭に住み憑いている神様、フミの声が掛かる。

「暗殺者の調べがついたん?」

「その件は問題なかろう。小野町亭を中心に網を広げたが、それらしい人物は引っ掛からなかった。そんなことよりも、じゃ」

 フミはめんどくさそうな表情を浮かべて、

「食堂の人手が足りておらん。手伝ってほしい、と凛月の奴が喚いておる」

「フミ様が手伝えばええんちゃうの?」

「妾は今日まで不眠不休で働いたのじゃぞ? 疲れた、寝る」

 人間臭い神様の言い訳に、戍亥はつい笑ってしまう。

「ほな、手伝いますか」

「任せたぞ」

 フミの願いを聞き届けて、戍亥は食堂に向かおうと階段を下りる。

 食堂ではすでに桜凛月と小野町春香の二人が忙しなく動き回り、朝の準備で息を切らしているところだった。

「戍亥さん。おはようございます」

「おはようさん。ウチは何を手伝えばいい?」

 え? と小野町から素っとん狂な声が上がる。

 彼女は戍亥に手伝わせることに多少の申し訳なさを感じているようだった。しかし、戍亥がフミ様からお願いされた旨を伝えると、

「分かりました。それじゃあまずは……テーブル拭きをお願いします。厨房は私と凛月でやりますから」

「了解」

 戍亥は早速テーブル拭きに取り掛かった。後からリゼも加わって、四人で朝食の準備を進めていく。

 今日は舞元も七瀬もいない珍しい日。

 必然、やることも多い。

 すべてが片付いたところでようやく、イスに座ることができた。

「リゼ様、戍亥さん、お疲れさまでした。凛月もありがとね」

 小野町から三人へ、労いの言葉が贈られる。

「う、腕が上がらない」

「鍋を混ぜてただけで?」

 と、戍亥。

 食堂の掃除が早めに終わり、リゼは途中から厨房に入り、ずっと鍋をかき混ぜていた。その反動で、今はテーブルにぐったりと死にそうな顔で突っ伏している。

「私の貧弱さは折り紙付きだよ、とこちゃん」

「自信満々で言うことやないよ?」

 呆れ顔の戍亥に向かって、リゼはにっこりと笑ってみせる。朝の小さな労働がなきゃ美味しいご飯は食べられないとでも言いたそうに。

「ふふ、すぐに朝ごはんの用意をしますね」

 リゼの気持ちを察知して、小野町が動く。戍亥が聞き耳を立てると、どうやら彼女もお腹が空いているようだった。

 すぐに四人分のごはんが運ばれてくる。

 白米と旬の野菜をふんだんに使った味噌汁に、パリッと香ばしく焼かれた魚の横には大葉といっしょに戍亥が擦った大根おろしが置かれている。

 あとは小さな小鉢が二つ。片方は豆苗とニンジンの胡麻和え。もう片方は半分に切り分けられた煮卵が転がっていた。

「お、おぉ……」

 今にも涎を垂らしそうなリゼに、戍亥と小野町は顔を見合わせる。

「それじゃあ、手を合わせて。いただきます」

 食前の合掌。

 戍亥とリゼも祈るように両手を合わせる。

 これは小野町の祖先が住んでいた極東の文化らしく、目の前の食事に感謝して、ありがたく頂くという意味が込められているらしい。

 小野町に教わるまで二人も知らなかったことだ。

「実は私も自分の故郷についてはあまり知らないんです。フミ様と凛月からちょっと話を聞いたぐらいで」

「帰りたいと思います?」

 リゼの質問に小野町は少し悩んで、

「どうでしょう……。故郷といわれても生まれも育ちもヘルエスタ王国ですから。帰っても懐かしいとは思わないでしょう。行くとしても旅行みたいな感じですかね」

「てことは、小野町さんはこれからもヘルエスタ王国にいてくれるってこと?」

「もちろんです」

 その返事を聞いたリゼは安心したように、ほっと息を吐き出した。

「小野町亭がなくなると思って不安やったの?」

「うん」リゼは続ける。「だってこんなに美味しいご飯が食べられなくなるって、人生の半分くらいは損した気分にならない?」

「まあ、確かに」

 リゼの意見には戍亥も大変同意である。

 神様の加護を受けられる宿屋は世界中を探してもおそらくこの小野町亭だけだろう。極東の国がどの位置にあるのか分からないが、ヘルエスタ王国から小野町亭が消えてしまうことは、安らぎの喪失である。絶対に阻止なければならない。

 戍亥は小鉢に転がっている煮卵に箸を伸ばし、ひと口で、パクリ、と。

 甘い醤油の香りが口いっぱいに広がった。

「それにしてもフミ様はどこに行っちゃたんだろう……手伝うって約束だったのに……」

「ああ、えぇっと……フミ様は忙しいって連絡があったよ」

「春ちゃん、それ騙されてるよ。フミ様が忙しいって言うときは大抵どこかでサボってるんだから」

 凛月はフミを探して視線を彷徨わせる。

 戍亥は危うく、飲んでいた味噌汁を噴き出すところだった。

「そ、そんな事ないと思うよ?」

 小野町が言う。

「ううん。絶対に騙されてる。春ちゃんの前では立派に振る舞ってるかもしれないけど、神様っていうのは結構、かーなーり、ろくでもない連中なんだから。今頃、寝てるか、お酒を飲んでるかのどっちかだよ」

 実際、凛月の予想は当たっている。

 現在のフミは自身の所有ている白夜の世界に籠って、優雅に御神楽の酒を楽しんでいるのだから。

「帰ってきたら問い詰めてやらないと。全く」

「ほどほどにね、凛月……」



     △△△



 昼頃。リゼにとって緊張の瞬間が訪れた。

 冒険者になるための研修期間が終わり、これから冒険者ギルドでその結果を受け取る。

 手応えはあった。

 猫のような虎を見つけてサロメに感謝されたことも、街の清掃活動を行っている最中も苦手なコミュニケーションを一生懸命がんばった。

 しかしそれは、自分で自分を採点した場合の話。冒険者ギルドからすれば、リゼの行動はすべて無意味に映ったかもしれないし、そもそも戦力として期待できない以上、採点するまでもなく戦力外と放り投げられる可能性だってある。

 そうやって妄想に次ぐ妄想がぶつかり合って、昨晩は上手く寝付けなかった。おかげで寝不足である。

 さらに、リゼを不安にさせている要素のひとつが、この三日間の書類に目を通している受付嬢───先斗寧の表情がやけに暗い。

 眉間にしわを寄せて、イライラしているようにも見える。

 薬草採取のときは魔物から全速力で逃げたけど、そのことが原因だろうか? でも、依頼はちゃんと達成したから問題ないでしょ、とリゼは頭のなかで何か言われたときの対策を練ってみる。

 先斗の顔が上がった。

 いよいよ、だ。

「はい。問題ありません。皆さんは今日から冒険者として認められます」

「やったー!」

 喜びのあまり、リゼは後ろにいたアンジュと戍亥に抱きつく。

 二人からおめでとうの言葉を貰って、また先斗のほうに顔を寄せる。受付カウンターにはいつの間にか三人分の冒険者カードが置かれていた。

「どうぞ手に取って確認してみてください」

 言われるがまま、リゼは自分の名前が刻まれた銀の板を手に取り、まじまじと見つめる。そこには生まれて初めての感動があった。

 リゼ・ヘルエスタは別に、努力しなくても生きていける星の下に産まれた。そのことに文句はないし、悲観するようなことでもない。

 むしろ恵まれている。

 最初から必要なモノすべてが傍にあるのだから。

 この恵まれた環境を嘆くのは贅沢というものだろう。

 しかし、無味無臭の人生であることも事実。

 今、リゼが感じているのはこれまでとは違う達成感───当たり前のことだけど、私はこうやって最初の一歩を踏み出すんだ。

「では、こちらを───」

 先斗の説明を受けて、この三日間の報酬がカウンターの上に置かれる。

 小さな袋がぽつん、と。

 中には今日を生きていけるだけのお金が入っていた。

「……自分で稼いだ初めてのお金。ほ、本当に受け取っていいんでしょうか?」

「もちろんです」

「だって私なにもしてないですよ? ただ街の掃除をして虎を見つけたくらいで。本当になにも」

「これは皆さんが依頼をこなしてくれた報酬です。受け取って貰わないと逆に冒険者ギルドが信用を失ってしまいます」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 手に持った袋をアンジュと戍亥にも見せつける。

「戍亥、リゼが嬉しそうにしてる。可愛い」

「ィゼちゃん……可愛い」

「う、うるさいなぁ。私だって普通に喜んでもいいでしょ!」

 からかってくる二人にそっぽを向いて、リゼは手に持った袋の重さに集中する。

 胸に込み上げてくる感情を言葉にするのに少しだけ時間が掛かった。

 リゼにとって、自分で稼いだお金、というのはさほど重要ではない。お金はリゼにとって困るようなものではないからだ。

 素直に。

 彼女が感じているのは美味しいご飯を食べた後のような満足感。

 自分が誰かの役に立てるという証明が、手の平に収まる程度の小さな袋に入っている。

「へへへ」

 嬉しい。

 声にならないくらい嬉しい。

「リゼ、先斗さんが……おーい、聞こえてる?」

 リゼの肩をアンジュが触った途端、

「浸ってるんだけど。あと、セクハラだから」

「え、怖っ。急に不機嫌になるやん」

 話が逸れた。

「そうじゃなくて、先斗さんからチームの名前はどうするのか聞かれてますけど」

 アンジュのひと声でリゼはカウンターの方に視線を戻す。

 書類が一枚増えていた。

「チームの名前って……」

「いえ、三人でチームを組むのも冒険者としてのスタイルなので。もちろん必要なければソロで活動して頂いても構いません」

「なるほど。とこちゃんとアンジュと私でチームを───」

 組むことは確定として問題はチーム名だ。

 絶滅危惧種の錬金術師。

 地獄の門番ケルベロス。

 職歴元王様の一般銀髪美少女。

 確かに個性豊かな主人公たちが集まっているが、どこに共通点があるのかは謎である。

「二人はなにか思いつく?」

「アンジュと愉快な仲間たち、とか?」

「それだとアンジュがリーダーみたいじゃん。却下」

「聞いといてその扱いは酷くない?」

「とこちゃんは?」

「ウチはなんでもええよ。リゼが決めて」

「うーん……」

 腕を組んで頭を悩ませるリゼ。

 本来なら、何か意味のある目標を掲げたチーム名にするべきなのだろうが……あいにく、リゼたちには目的がない。冒険者ギルドに来たのも成り行きでなんとなく足を踏み入れただけだ。

 叶うことなら、これからも三人仲良く、楽しく生きていければいいなと思っている。

「さんにん……たのしく……」

 ふと、リゼは自分の腕章が目に入った。

 ヘルエスタ王国の象徴である藤の花とは違う。二つの羽───。

「三羽……カーニバル……」

 リゼは頷いて、

「よし。決めた」

 チーム名を書類に書き込んでいく。

「今日から私たちのチームは『さんばか』です!」

「……なんか。バカっぽい名前になっちゃった」

「とこちゃん?」

「いいんじゃない。あたしは好きよ……」

「だったら二人ともどうしてこっちを見ないのかな? いいと思うなら目を逸らす必要はないと思うんだけど」

 元王様からの圧。

 逆らえば明後日の方向に首が飛んでいってしまうだろう。

「とってもいいチーム名やと思いますー」

 片言の戍亥。

 アンジュが続く。

「いやー、実はあたしも『さんばか』って名前にしようと思ってたんだよね。先に言われちゃって悔しいわー」

「アンジュ……あとで覚えとけよ」

「何であたしだけ!? 戍亥は!?」

 抗議してくるアンジュの隣で、戍亥はアハーと笑って流す。

「それではチーム名を『さんばか』で登録します。よろしいですか?」

 先斗寧から最後の確認。

「はい! 後ろの二人に文句は言わせません」

「受理しました。皆さんは今日から好きな依頼を受けられます。早速、依頼を受けますか?」

「そうですね……」

 依頼書が張られた掲示板を見ても正直どの依頼を受ければいいのか分からない。

 安全そうだと思って受けた依頼が、実は犯罪の片棒を担がされていた、なんて話もあるくらいだ。ここは慎重に、用心して選びたい。

「イディオスのメンバーがいれば、色々話を聞けたのに」

「イディオスならしばらく冒険者ギルドに顔を出しませんよ」

「え? 何かあったんですか?」

「ちょっと問題行動が多かったのでギルドの地下で労働───雑用をさせています」

「そ、そうなんですか……それは残念です……」

 先斗寧が浮かべてた微笑はやけに冷たい。

 リゼは声が震えないよう喉の筋肉を操り、次の話題に進んだ。

「でも、自分で選ぶってなるとちょっと怖いですね。……先斗さんのオススメ依頼ってあります?」

「オススメですか。……そうですね。リゼ様はこんな条件の依頼は絶対にイヤだ! っていうのはありますか?」

「とくに……あ! 出来るだけ命の危険がないやつでお願いします。まだ死にたくないので」

「それはもちろん」

 先斗は口元に手をあて、上品に笑ったあと一枚の依頼書を選び取る。

 内容を確認したのち、リゼに手渡した。

「博物館の警備依頼?」

「はい。こちらは博物館側から正式に依頼されたものです。ただ、時間帯が夜遅くになってしまうので……」

 確かに。───今日の深夜から朝にかけて、とある。

 リゼの生活リズム的には、一日寝なければいいだけで気にしなくてもいい。

 依頼の内容についても問題になるような部分は見当たらなかった。むしろ、リゼが気になったのは先斗が口籠って何かを隠そうとしたこと。

 先斗はカウンターの奥にあるドアを見てから、念入りに周囲を確認すると、リゼに向かって手招きをした。

 リゼは誘われるまま、そっと先斗に耳を近づける。

「ここだけの話。今日、博物館に予告状が届いたらしいんです」

「なにそれちょっとワクワクする」

「ワクワクしちゃダメですよ。今はまだ笑い話に聞こえるかもしれませんけど、博物館から貴重品が盗まれたら大変な騒ぎになるんですから」

「冗談、冗談ですって。それで予告状の内容は? なにが書いてあったんですか?」

 依頼が怪しいかどうかよりも、リゼの好奇心が勝った瞬間である。

 先斗は話をしたことを少し後悔しながら、唇を離した。

「指定はなかったみたいです。ただ、盗むとだけ」

「じゃあ、悪戯の可能性もあるんだ。……残念」

「悪戯だったらいいんですけどね。でも、万が一の可能性もあるってことで冒険者ギルドに依頼が来たんです。あと、博物館の警備にはヘルエスタ王国の警備隊も参加しているそうなので、余程のことがない限り失敗はしないと思います」

「なるほど」

 頷いてから、リゼは再び依頼書に視線を落とす。

 先斗が自分に博物館の依頼を見せたのは、自分に警備の才能を見出した、という訳ではないだろう。

 ───多分だけど、とこちゃんに参加してほしいんだろうな。

 彼女の耳と嗅覚があれば、どんな盗人も逃げることは出来ない。

 もし逃げようとすれば、ケルベロスの爪が容赦なく襲い掛かり、盗人はこれから楽しみが待っていたであろう人生とおさらばする事になる。

 リゼにとって重要なのは、失敗しない、という部分。

「ちなみに。博物館に展示してあるものを私が盗んだらどうなります?」

「警備隊に捕まって、牢屋にぶち込まれます」

 先斗の口調が荒くなったことで、リゼは何かを察した。

 以前、展示品を盗もうとしたバカな冒険者がいたのかもしれない───安心しなよ、ぽんちゃん。私にそんな度胸はないから。

「ですが、リゼ様が欲しいと言えば展示品を預けてくれたオーナーさんも快くプレゼントしてくれると思いますよ。掛け合ってみますか?」

「大丈夫! 私は見て満足できるタイプだから」

 でも、本当に欲しいものが見つかったらそれもありだな、と思うリゼだった。

 ひとしきり笑い合ってから、

「それじゃあ、博物館の警備を受けるということでよろしいですか?」

「はい。お願いします」

 処理が終わり、

「警備隊の方にはこちらからリゼ様の参加を伝えておきますね」

 先斗から依頼書を受け取るとお礼を言って、リゼは後ろでのんびりしている戍亥へ駆け寄った。

「とこちゃーん。次の依頼が決まったよ」

「聞いてた。博物館の警備依頼やろ? ウチは大丈夫やけど……ンジュさんが……」

「アンジュがどうかした?」

「それが……」

 戍亥が指を差す方向を見る。

 そこには冒険者ギルドの職員───宇佐美リトの胸ぐらを掴んで、常識を疑うような発言をしているアンジュがいた。

「おい、宇佐美。お前あたしのこと好きなんだって? 好きって言えよ。なぁ?」

「なんか数日見ないあいだに迫力増しましたね、アンジュさん……」

 どうやら突発的な発作を起こしているらしい。

 今のアンジュは誰の言葉も届かない怪物だ。落ち着いた後にでも依頼の内容をそれとなく伝えておこう。

「そんで。夜までどないする? まだ結構、時間あるけど」

 時計はまだ午後一時ほど。

 依頼に指定された時刻まで、半日ほど残っている。

「うーん、時間があるなら娯楽街に行ってみようかな。気になってる店もあるし」

「ほな、決まりやね。そんで……ンジュさんはどないする?」

「諦めるしかないね」

 結局。

 アンジュの発作が落ち着きはじめたのは一時間ほど経ってのことだった。




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