ハリネズミ
ハリネズミ君は恋をした。
春の日差しが暖かく輝く山村で、小さくて可愛い白ウサギちゃんを見かけたのだ。
白ウサギちゃんは、村の仲間と野菜を育てていた。畑にはレタスやニンジン、カブに大根と何でもあった。
ハリネズミ君も野菜は好きだ。
「僕にも美味しい野菜を分けて下さい」
白ウサギちゃんに勇気を出して話し掛けた。とても心配だったが、白ウサギちゃんは笑顔で元気に応じてくれた。
「いいですよ。どうぞ」
ハリネズミ君は、野菜と交換にお花を差し出してお礼を言った。
「どうもありがとう」
「どういたしまして」
ハリネズミ君は、明るくすてきな白ウサギちゃんをもっと好きになった。
それからもキノコやドングリを集めてハリネズミ君は、白ウサギちゃんのところへ遊びに行った。
でも、ハリネズミ君は他の村民からは仲間に入れて貰えなかった。それは全身が針のハリネズミ君が近付くとチクチクするからだ。
「痛いよバカ野郎、向う行け」
おじさん黒ウサギに怒られて、心の優しいハリネズミ君はしゅんとした。
ただ全身が針で生まれて来ただけなのだ。友達が欲しかった。愛が欲しかった。
ある日、大きな狼が村にやって来た。
それは猛々しく咆哮し、のしのしと歩く、いぶし銀の毛皮をまとった銀狼であった。
銀狼は余程お腹が空いていたらしく、次々とウサギたちに噛みついた。いや、狩りを楽しんでいるのかも知れない。
恐怖した畑のウサギたちは、村の巣穴へと逃げた。
「たいへんだ」
たまたま村に遊びに来ていたハリネズミ君は、ふさふさの白ウサギちゃんを守るように庇いつつ走った。
しかし、巣穴の入り口でハリネズミ君は、ウサギたちに拒絶された。
「針のお前は入るな。迷惑だよ」
でも今は、喧嘩している場合ではない。
「じゃあ、白ウサギちゃんは巣穴に逃げて。僕は外で戦うよ」
そう言ってハリネズミ君は、白ウサギちゃんの返事も聞かずに振り返り、銀狼に向かって走り出した。
白ウサギちゃんのためなら死んでもいい。いや、必ず狼を撃退して白ウサギちゃんを守るんだ。あの明るく優しい笑顔を守るのは、この僕だ!
必死になったハリネズミ君は弾丸のごとく大地を走り、針の身体で銀狼の横腹に体当たりを食らわした。ドシン。
ガオーッ、と怒りに吠えた銀狼。
ハリネズミ君は、銀狼の大きな前足で地面に叩きつけられた。かなりの痛さだ。
怒り狂った銀狼は、トドメとばかりに鋭い牙をむいて噛みついて来た。
危ない、絶体絶命。死ぬ気でハリネズミ君は、尖った針を逆立てて回転し、銀狼の鼻から眉間へと強烈な体当たりをブチかました。
いかにどう猛な狼であろうとも、目や鼻は弱点である。
ハリネズミ君の体当たりで、敵はまぶたを切った。その大きな銀狼は、逃げるようにして畑から出て行った。
「やった」
勝ったのだ。
全身が傷だらけになったハリネズミ君は、しばらく立ち上がれなかった。
周りに村の仲間たちが集まって来てハリネズミ君の勇気を褒め称えた。
「まさか、お前が倒したのか? ありがとう。よくやった」
「ハリネズミ君、大丈夫?」
白ウサギちゃんも心配して来てくれた。あまりのボロボロな様子に涙をためている。
ハッとしたハリネズミ君は飛び起きた。
「ええ、この通り大丈夫です。白ウサギちゃんこそ、ケガはなかったですか?」
「はい、お陰さまで村は救われました。ありがとう」
「白ウサギちゃんが無事なら良かったです」
「また美味しい野菜を作りますので、ハリネズミ君もいっぱい食べて下さいね。ねえ、みんなも良いでしょ」
「もちろんだ」
大好きな白ウサギちゃんが、ハリネズミ君を村の仲間に加えてくれた。笑顔の皆に囲まれて、どうして良いかわからない。
こんなにも優しい白ウサギちゃんを守れたハリネズミ君は誇らしく、とても嬉しくて胸が熱くなった。