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7-3

 年が明け、友人たちと気持ちをぶつけ合い、そして現実を認識した真宙は、桜良が死んでから初めて彼女の墓前に立った。

 寒々しい空と冷たい空気、そして温度の感じない無機質な墓石。それを肌で感じるとより一層、彼女の死を実感してしまう。

 だが真宙はもう、現実から目を逸らさない。

 真っすぐに桜良の墓に視線を向け、現実を噛み締めながら口を開く。

「……こんにちは、桜良」

 返事がないことなんてわかり切っているのに、本当にもう二度と彼女の声を聞くことが出来ないという実感はわかっていても真宙の心を少しずつ削っていく。

「……今まで、お墓参りに来なくてごめん。どうしても来る勇気がなくて……いや、認めたくなかったんだ。桜良がもう、いないなんて……」

『死』という単語をここへ来て口に出来ないことが、自分の心の弱さだと感じる。

 そして真宙の心が弱かったからこそ、桜良が死んだことを考えられなかったし、考えたくもなかったし、あの幸せだった日々がもう戻ってこないなんて信じたくはなかった。

 だから現実逃避した。桜良は死んでなんていない。今まで通りずっと隣にいてくれる。そう願ってしまったからこそ、真宙は現実から目を逸らしてしまった。

だが現実を認めても全てを受け入れられたわけじゃない。もう逃げたりするつもりはないが、それでもまだ口にするまでには時間がかかりそうだった。

 手を伸ばし、そっと彼女の墓石に触れる。

 とても冷たい。それはまさに『死』を連想させる冷たさで、容赦なく真宙に現実を突きつける。

「……桜良、本当にもう……いないんだね……。本当にもう、一緒に過ごすことは、出来ないんだね……っ」

 答えはない。だがその答えがないことこそが、桜良からの返事であるような気がした。

 涙が頬を伝う。

 しかし泣いたところでなにも変わりはしない。そして変わらなくてはいけないのは、むしろ自分自身だ。

 だから桜良との関係に、ここでキリをつけなくてはいけないのだ。

 それがどれだけ辛く、どれだけ悲しく、どれだけ苦しくても。

 どれだけ気が狂ってしまいそうになっても。

 どれだけ足を止めたくなっても。

 それでも、現実を受け入れて前に進むと決めた以上、真宙は進んでいかなくてはいけない。また振り返って停滞してしまうことを、きっと桜良は望まないから。

 風が吹く。身を斬りつけるような冷たい風が。

 その風が真宙の手の中のものを揺らしカサカサと音を鳴らした。

 真宙が手にしているのは、キレイにラッピングされた一凛の花。ただし普通の花ではなく、旬の時期を過ぎたものを加工したドライフラワーだ。

 桜良の好きな、秋桜。

 黒い色の、チョコレートコスモス。

 今ではもう、名を聞けばその香りさえも連想することが出来るチョコレートコスモス。

 真宙はそのチョコレートコスモスを、そっと桜良の墓前に供える。

「…………桜良」

 それは真宙からの決別にして、真宙の決意。

 振り返らず、足を止めず、前へ進むという意思表示。

 それと同時に――。

「……桜良、今まで、ありがとう……」

 涙に濡れて震える声で真宙は語りかける。でも決して、止めることはない。

 そして最後に、全ての感情を込めて、告げる。

 もういない、最愛の恋人へ向けて――。

「…………――さよなら」


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