第六話 魔法の威力確認
第六話 魔法の威力確認
翌日の入学3日目。一年生は全員魔法の適性や威力を記録するために演習場へと移動する。
「攻撃魔法が使える者はまず攻撃魔法の威力確認からだ」
担任のアーギュスト先生の指示でクラスの半分ほどの生徒が魔法の的が設置されている場所に集まる。
剣術バカの王子はこちらに来ていない。遠距離魔法は使えないようだ。
「それでは順番にあの的に魔法を当てて見せろ。
自分が使える最高の魔法を当てるんだぞ」
担任はそう言うが、昨日の体力測定で測定器の性能をぶっちぎったクレアは疑問を感じていた。
『体力測定を参考にするなら、魔力の方も私の最高出力を想定した測定器はないんじゃないかしら。お母様の魔法に耐える侯爵家の魔法用の的でも私の中級魔法に耐えられるものは無かったんだから、学校のがあれより丈夫とは思えないわ。壊れるだけならまだしも、壊滅的な被害が出たら大変だからちょっと鑑定しておこうかしら』
学園の施設の耐久性に疑問を感じたクレアは迷わず魔法の的を鑑定した。
「鑑定、耐久力……
魔法耐久力198……ダメじゃん……」
クレアのつぶやきを聞いた者はいなかった。
ついでに的の後ろの壁も鑑定したクレアは驚くべき事実に気がつく。
『壁の魔法耐久力251……
的より丈夫だけど、私の初級火魔法にも耐えられそうにないわよね……』
これはもう、全力でやったら学校が壊れるだけではなく、壁の外の町も被害を受けることは確実なようだ。
「仕方ない……壊さないように手加減しましょう」
クレアはそう呟くと自分の順番を待った。
「アナベラ・ガトレーゼ。魔力値93。素晴らしい記録だ。学園でしっかり鍛えればこの学生用測定器の測定限界の99を超えるのも夢じゃないぞ」
「ありがとうございます。アーギュスト先生」
「次、クレア・リッチモンド」
「はい……
あの、先生。出来ればもっと丈夫な的でやりたいのですが……
ダメでしょうか?」
クレアはダメ元で聞いてみる。
「学園にはあれ以上のものは残念ながら置いていない。
まあ、今まで測定値の限界を超えた生徒は最高学年のトップクラスのもの達だけだから、入学したての君たちは心配しなくても大丈夫だろう。
いや、アナベラ嬢はもしかしたら今年中に限界を超えるかも知れないがな。はははっ。
まあ、心配せずに試してみなさい。クレア・リッチモンド」
「はい、分かりました。やってみます」
クレアは返事をして的の前に立つ。しかしどう考えても不安しかない。レベル9999を突破しているクレアにとって耐久値5桁は欲しいところだ。自分の魔法攻撃力はきっとレベルの数値の9999よりも高い。そう信じているクレアにとって、この紙装甲の魔法の的はどれほど手加減すれば壊れないのか全く予想できないのだ。
『耐久値198か……
測定限界も99しかないって言ってたし、これくらいでいいかな』
とクレアは考えに考えて結論を出した。
「点火」
クレアが選択したのは炎系最弱の「火球」ですらない、生活魔法としてよく使われる「点火」だった。
クレアの指先から現れた小さな炎は、ゆらゆらと揺れながらふわふわと的へと飛んでいく。
「おい、クレア・リッチモンド。
全力でやれと言ったのだが、ふざけているのか」
担任のアーギュストは少しあきれながらクレアに問う。
と、そのとき、クレアが放った魔法がようやく的にたどり着いた。
炎は的の真ん中にあたり、そのまま消えることなく的を通過した。的の真ん中に穴が空いている。そのまま消えることなく壁までたどり着き、壁の一部を溶融させてようやく消えた。炎が通過した的は燃え始める。
「えっ、あの的燃えていないか」
「バカな……」
「魔法耐性の的が……」
「いや、よく見ると真ん中に穴が空いているぞ!」
「馬鹿野郎。そっちからは見えなかったかも知れないが、こっちから見たら火が的を通過して壁を溶かしているのが良く見えたんだぞ。あの火は異常だ!」
ザワザワと周りの生徒達が騒ぎ出したのを聞いて、アーギュスト先生が的へと振り返った。
「そんな……
測定値99……、限界値の表示だ……。
しかも的が燃えているなんて……」
「すいません、先生。
手加減したんですけど、的の耐久値を超えてしまったみたいですわ」
クレアの謝罪は誰の耳にも届いていないようだった。
弁償させられたら、実家まで報告が行ってまたお母様から怒られるのではないかとドキドキしたクレアだったが、幸い的は消耗品扱いだったため、おとがめはなかった。
めでたし、めでたし……。
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