第五話 体力測定
第五話 体力測定
さて、開けて翌日。今日は能力測定の日である。
生徒達は1年生からクラスごとに移動し、体力、魔力を測定していく。
まずクレア達が向かったのは体力試験会場だった。
耐力試験会場では、短距離走(100メートル)、跳躍力(垂直跳び)、中距離走(1000メートル)の3種目で瞬発力や持久力を測る。長さの単位は地球と同じメートルだ。さすがに日本で生まれた小説の世界だなとクレアは思う。
「まずは魔力強化なしで測定し、その後魔力強化が出来るものは魔力で強化して測定だ」
担任のアーギュスト先生がストップウォッチのような魔道具を持って短距離のゴール付近に立つ。
「名前を呼ばれたものからこちらへ走ってこい。まずはアレキサンドル王子、君からだ」
「おう、任せろ」
何をまかされたいのか分からないが、自信満々でスタートラインに立つアレクサンドル。「用意、ドン」
担任のかけ声で王子が走り出す。
さすがに剣術で鍛えているだけあってなかなか早い。
「11秒25だ。なかなか早いぞ」
「当然だ」
王子は褒められて満足そうだ。
「アナベラ・ガトレーゼ。15秒88」
「はあ、走るのはあまり得意ではありませんわ」
アナベラが走った後にクレアがスタートラインに立つ。
「クレア・リッチモンド。君で最後だ。準備はいいか」
「はい」
「よし、行くぞ。ようい、ドン」
アーギュスト先生がかけ声を言い放った瞬間、クレアの姿が消えた。
そしてバギュンという衝撃を伴った破裂音。
ゴールに立っていたアーギュスト先生は風圧で吹き飛ばされ、ゴールにはいつの間にかクレアが立っていた。
周囲は時が止まったかのように静まりかえる。
やがて我に返ったアーギュストが口を開く。
「クレア・リッチモンド。魔法は禁止だと言っただろ。強化魔法で走っちゃいかん。いや、強化魔法でも早すぎるな。一瞬でゴールするなど……。まさか最奥難易度の転移魔法か!
凄いな、クレア・リッチモンド。まさか国内でもほとんどいない転移魔法の使い手とは。さすが雷帝の娘だな。でも、魔法の腕は認めるがここは素の体力だけで走るべきところだ。やり直しだ」
アーギュストの言葉にクレアが反論する。
「でも、先生。体操服に強化魔法をかけなければ服がはじけ飛んでしまいますのよ。
私、公衆の面前で全裸になる趣味はございませんわ。
それに私、転移魔法はまだ使えませんの」
この言葉の意味を正確に把握できた人間が何人いるだろうか。
そもそも、普通の人は音速を超えて走れない。
だから、音速を超えると何が起こるか理解していない。
瞬間で音速以上のスピードを出せば、当然洋服の生地はその衝撃に耐えられない。
それ故、クレアは、自分自身の走力に強化魔法を使ってはいないが、服や皮膚には音速に耐えるだけの強化を施していたのだ。
「それでもだ。やり直し」
アーギュストの言葉にため息をつきながら、
「分かりましたわ。服が破けないように手加減して走りますわ」といい、クレアは再測定した。
「さ、さ、3秒10……
これ、本当に強化魔法を使っていないのか?」
さすがはレベルMAX令嬢である。手加減しても半端ない記録だ。
「天地神明に誓って純粋な体力だけです」
断言するクレアに疑問を残しつつも、アーギュストは次の種目へ生徒を誘導した。
この日、クレアが出した記録は、垂直跳び2メートル以上、1000メートル中距離走31秒だった。垂直跳びは測定板の遙か上まで飛び上がったため測定できなかったので、測定板の一番の上の数値を記録とした。長距離走は服が破れないように加減して走ったため、短距離走の記録のちょうど10倍のタイムとなった。ちなみに中距離走のタイムを時速換算すると105km/hくらいになる。グラウンドは高速道路ではないのだが、この世界にそれを指摘する人はいない。
担任のアーギュスト先生が魔力強化で走ったときのタイムを計測していないことを思い出したのは全種目魔力なしで測定し終えた後だった。
「クレア・リッチモンド、君は魔力強化での測定免除だ。さっきの魔力なしでの様子だと短距離も垂直跳びも測定限界オーバーは確実だからな」
アーギュスト先生は疲れたような表情で告げて、他の面々の魔力強化での値を測定した。
中距離走までを測定し終えた生徒達は、魔力で強化しても思ったほどの記録を出せず、クレアの魔力なしの記録を抜くものは現れなかった。
「これは、現時点で私とともに戦える人材はいないみたいね」とクレアは残念に思った。
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