第三話 あざとい女子生徒
第三話 あざとい女子生徒
「それにしてもクレア様。
リッチモンド家の御令嬢であるあなたが、なぜお一人で登校しているのですか」
「アナベラ様、私は学生時代は自分で考え自分で行動したいと考えています。
両親は使用人を着けようとしましたが、独立心を養うためにも一人での生活を希望して一番小さい部屋に入寮したのです。
広いと自分だけでは掃除も行き届きませんでしょ」
「それは素晴らしいお考えですわね。
私も見習おうかしら」
本当は抜け出して鍛錬する時間欲しさの一人暮らしなのだが、さすがにそれを正直に話すほど常識が欠落しているクレアではない。
真の御令嬢であるアナベラには決して見習わないで欲しい。
大講堂への道すがら、クレアとアナベラは楽しく会話をする。
家格が同格である二人は性格でも意気投合できたようである。
大講堂が近づいてきたそのとき、右手の男子寮方向から一人の男子生徒が従者と思われる男性を連れて歩いてくるのが見えた。
「アナベラ様、あれはご婚約者のアレキサンドル様ではありませんか」
取り巻きのタニア・マローネが指摘したとおり、金髪青眼の第二王子、アレキサンドル・ゴンドギアナその人であった。
「はぁ、ここで会ってしまったものは仕方が無いですね。挨拶せねばならないでしょう」
アナベラが不快そうに呟くのを聞いたクレアは疑問に思い質問した。
「アナベラ様。御婚約者様とは上手くいっていないのですか」
「はぁ……、ここだけの話にお願いできますか」
クレアの質問にアナベラはため息をつく。
「はい、秘密にします」とクレアは頷く。
「実は、アレキサンドル様とは性格があまり合いませんの。
アレキサンドル様は勉強嫌いで、剣の腕は立つのですがそれ以外は平均以下で、そのくせプライドが高く、王家以外の者を見下す傾向にありますの。
私も侯爵家に生まれ、幼い頃から蝶よ花よと育てられて下々の者に辛く当たることが当たり前と思っていた時期がありましたのですが、アレクサンドル様と婚約して彼の振る舞いを見るにつけ、他人を見下す姿の醜さに気がつき、それ以来、彼を反面教師として身を慎んでおりますのよ」
「ああ、そうだったのですか。
アナベラ様のご立派な他者への対応能力・コミュニケーション力はある意味殿下のおかげで培われたと言うことなのですね。
でも、それはお辛い状況ですね」
「全くですわ」
ますます二人が意気投合している隣で、取り巻きの二人は主とも言えるアナベラの過去を聞いて、自らを反省することしきりである。
そうするうちに一人の女生徒がトテトテと後ろから走ってきてクレア達の集団を追い抜く。ピンクブロンドのふわふわした髪にライトブラウンの瞳を持つ女生徒だ。
その生徒はクレア達に脇目も振らず走り抜くと、第二王子達の目の前でなにもないのにすってんころりんと転んでしまう。
そして上半身を起こして座り込むと見る見る涙をあふれさせ、「ふェェーン」と泣き出した。
「大丈夫ですかお嬢さん。立てますか」
目の前で転んで泣き出した生徒を放って置くわけにもいかず、アレキサンドル王子は女生徒に声をかけ右手を差し出す。
泣いていた生徒は声をかけて来た王子を見てびっくりしたのか泣くのを止め、差し出された右手に自らの右手を重ねた。
「はい、ありがとうございます。
わたし、ドジで、よく転ぶんですけど、入学式の日まで転んじゃうなんて」と言いつつ王子に手を引いてもらって立ち上がる。
「ありがとうございました。私はリフリアと言います。特待生枠で入学したんでお友達とかいないんです。よかったら仲良くしてくださいね」といい、上目遣いであざとく微笑む。
その様子を見ていたクレアは……「うわぁ、ベッタベタの出会いイベントじゃん」と心の中で玖玲愛の記憶が叫んでいる。しかし、この時点で、乙女ゲームっぽいイベントだなぁとは思っても、ダークファンタジー小説もしくはその小説を元にしたRPGと思い込んでいるクレアは、まさかこの世界が乙女ゲームの世界だとまでは思い至ることが出来なかったのである。
一方王子は、その愛らしい女生徒に興味を持ったのか、しなくてもよいはずの自己紹介をした。
「ああ、俺はアレクサンドルという。こんなかわいいこなら、こちらこそよろしくお願いしたい」
「アレクサンドル様……素敵なお名前ですね」
「ああ、リフリアの名前もかわいいよ。よかったら一緒に大講堂へ行こう」
「はい、よろしくお願いします」
離れていく集団を見送りながらアナベラはゴキブリでも見たかのような冷たい視線で王子の背中を見つめた。
「おバカな上に気の多い節操なしとか、救いようがありませんわね」アナベラがぽつりと呟く。
「苦労されてますのね」
クレアはアナベラの助けに成りたいと心から思った。
今日は夕方にもう一話更新予定です。