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校内で甘々イチャイチャで有名な2人は、兄妹以上恋人未満な秘密な関係

作者: 夜狩仁志

気分転換で書いたものが埋まってたので、発掘して修正してみました。

「ねぇ、(いつき)、帰ろうー」

「あぁ、もうそんな時間か」


 (あおい)が待ちきれなくなったのか、俺の教室の前まで迎えにやってきた。


 夕暮れ時の陽に照らされて赤みをおびた両頬は、ふてくされたように少し膨らませるも、表情全体から漂う寂しさまでは隠しきれていなかった。


 放課後、教室で友達と無駄話をしてしまい、葵と一緒に帰る時間を過ぎていたのを、スッカリ気がつかないでいた。


「わりぃ、じゃあ今日は先、帰る」


 慌ててリュックを背負うと、席の回りでダベってた友人達に、そそくさと別れの挨拶をして席を立つ。


「なんだよ、今日もかよ。付き合い悪いなー」

「相変わらず仲の良い兄妹だな、妬けるぜ!」


「うるせーな、いいだろ、べつに」


「いっそうのこと、結婚しちまえば?」

「お似合いのカップルじゃんか」


「そんなんじゃねーっての!」


 こんな冷やかしの言葉もスッカリ慣れてしまった自分が、我ながら恐ろしく感じる。

 しかも葵もその気になって、嬉し恥ずかしそうに目をそらすもんだから。

 そんな仕草を見ては、周りがさらに勘違いして茶化してくるというのに……


「お待たせ。んじゃ、帰るか」

「うん」


 昇降口までの道のりは、そんなに遠くはない。

 その短い廊下を歩くだけでも、葵は肩を寄せて並んで歩く。

 さすがに手を握ることは出来ないので、かわりに俺の制服の裾をつかんで放さない。

 これではまるで本当にカップルのようだ……


「あの……だな、あんまりくっつくのは、どうかと思うぞ」

「なんで? 別にやましいことしてないし」


 本当にこいつは、所構わずベタベタと接してきて……


 そのまま正門まで歩いていくと、俺たちを後ろから追い越していく葵のクラスメイトの女子達。

 俺にとっては一年後輩の彼女達は、振り向き様に葵に声をかけていく。


「あおいー またお兄さんと一緒?」

「そうだよ。羨ましいでしょ?」


「いいわね、カッコいいお兄さんがいて」

「誰にもあげないからね!」


「じゃあ、また明日!」

「うん」


 俺という本人を目の前にして、変なことを口にしながら去っていく。


「ねぇ、樹のこと、カッコいいだって」

「そう……なのか?」


 葵はまるで自分のことを褒められたかのように顔を緩めて、照れ笑いを隠すことなく俺に見せつけてくる。


 そんな姿に、


 ちくしょう……


 かわいいじゃないか……


 と、不覚にも思ってしまうのだった。


 そのまま駅までの道のりを、2人並んで歩いて行く。毎日2人で帰るのが普通となってしまっていた。

 周りも気を遣ってなのか、俺たちと一緒に帰ろうとはしない。

 もう、なんというのか、校内で俺たちの仲の良さは、公然の事実となって広まっているようだった。


「ねぇ、どこか寄ってく?」

「今日は……まっすぐ帰るか」


「暑いからーどこかで涼んでいこうよ」

「んー まあ、そうだな」


「私、あれ飲んでみたいんだ」

「なんだよ、あれって?」


「新発売の九州ザボンシェイク!」

「ザボン……シェイク? それって上手いのか?」


 俺たちの家は電車で20分、そこから歩いて10分ほど。

 だいたい片道1時間もあれば着ける距離だ。

 それを毎日、一緒に登下校する。

 駅まで2人並んで歩き、同じ車両に揺られて20分。


 そして今日も、登校と同じように逆の道のりを同じ2人が帰っていく。


 電車から降り、駅を出ると、時刻はすでに夕方ではあるが、まだ日が照らされ明るい。

 家が近づくにつれ、葵の表情が明るくなっていくのが分かる。

 学校内では、校則やら周りの目などが気になり、色々と行動に制約がかかるが、家に帰ればそのリミッターは解除され、葵本来の明朗活発、ヤンチャでオテンバな性格が現れるのだ。


「もうすぐ夏休みだね!」

「そうだな」


 俺は高校生になって2回目の夏休み。

 葵は初めての夏休みとなる。


 去年は葵が受験勉強のため、ほとんど一緒に過ごせなかったが、今年は目一杯遊べると意気込んでいる。


「今度の休みに、映画見に行きたいんだけど?」

「一緒に映画か……」


 葵が提案してきた映画鑑賞。

 最近、よく俺たちの会話の中に出てくる話題。


「ズーッと行きたいの我慢してたんだよ」

「見たいのは俺もそうだが、兄妹で行くようなところなのか?」


「別に誰も私たちのことなんか見てないって。気にしてないよ」

「もし、万が一、同じ映画館で誰かと会ったら?」


「その時は、べつにいいじゃん。兄妹で映画見に来ましたーで」

「そーゆーもんかね」


「その後はショッピングして……」

「ああ……」


「夏休みに着る服も買いたいね」

「ああ、いいんじゃね」


「私も高校生になったから、おしゃれな水着、着てみようかな」

「そうだな」


「ねぇねぇ? 私がどんな水着着るか見てみたい?」

「どんなのって……?」


「きわどいのとか!?」

「べつに、お前の……見たって……」


「じゃあ、樹には見せないから、いいよ」

「……なら、誰に見せるんだよ」


「……」

「……」


「…………」

「…………」


「…………樹以外……誰にも、見せたくない」

「…………俺だってさ、本当は葵の水着姿……見たいって……でもな」


 無理なんだよ。俺たちが学生の間は……


「そうだよね……私たちって」

「今は……無理だな。卒業して大人にな……」


「じゃあ、手、繋いでもいい?」

「そうだな……あ? それは無理だろ、手は繋げないだろって!」


「それくらいは、いいんじゃない? 仲の良い兄妹なら、それくらいはするでしょ?」

「そんなもんなのか?」


「そんなもんだよ。それに、ここまで来れば、学校の人なんかいないって」

「じゃあ……ほらよ」


 左手を差し出すと、待ってましたとばかりに掴みかかってきた!


 そして「エヘヘ」と笑いながら「もう家まで離さないからね」と俺の顔を覗き込むかのように見ながら、手を強く握りしめて言うのだった。


 くっそ!

 かわいい!!

 本当なら、この場で抱き締めたいというのに!!


 こうして残りわずかの道のりを、俺たちは手を繋ぎながら歩くのだった。


「でもこれ以上は……ダメ、かな?」

「それ以上ってなんだよ?」


「腕を組むとか?」

「組むのは……NGだろ?」


「……」

「……」


「…………」

「頭を……なでるのは?」


「ふぇ?」っと、驚いた顔で見上げる葵。


 自分でも、なんでそんな言葉が口から出てきたのか?分からなかった。

 いや、たしかに、撫でてはみたいんだけど。


「それは……大丈夫なんじゃない?」

「そ、そっか? じゃあ……」


 サラサラの細く流れるような、葵の髪。

 その上に、ポフッっと手のひらを乗せる。


 葵の口から「ふぃ……」っという吐息が漏れる。


 うん。

 すごく気持ちいい。

 触り心地がすごくいい。


「ねぇ、他には……」

「ほ、ほかに?」


「抱き合うのは?」

「無理だろ! さすがに!」


「……」

「……」


「…………」

「……でも、背負ったり、お姫様抱っこは…………

 いけるんじゃね?」


「い、いけるのかな?」

「足を怪我したとか理由があれば、兄妹でもするだろそれくらい」


「な、なるほどね!!」

「まあな」


「じゃあ、私今から足の骨、折る!!」

「まてまてまて!!」


「……」

「……」


「…………」

「…………」


「……じゃあ」

「今度はなんだよ?」


「……」

「……?」


「……キ……」

「き?」


「……キス……とかは?」

「はあ!?」


「そ!それはまずいだろ!

 兄妹でそれはまずいって!

 それ以上は無理だ!!」


「……樹は……したいと思わないの?」

「な、なにを?」


「……私と……キス」

「……そ、そりゃあ……まあ、そのなんだ……」


「なら!」

「ここでは無理だろ!

 兄妹としては! 

 せめて家に帰ってから!」


「なんで! 外じゃ無理なの!?」

「ちょっと、無理だろうって」


「映画、観終わって感動した時とか、できないの!?」

「……」


「夜の公園でとか!」

「…………」


「もう!! いったい何時になったらできるのよ!恋人っぽいこと!!」

「そりゃあ……お互いが卒業するまでだろ」


「そんなんじゃ、青春終わっちゃうじゃん! もう私、おばさんになっちゃうよ!」

「高校卒業したからって、おばさんになるわけないだろ」


「もぅ……なんなのよぉ……ぜんぜん青春してないよぉ……

 せっかく一緒の高校に行けたと思ったのに……」


 葵は散々怒鳴って暴れたあと、自分の不幸を思ってか、肩を落とし力無く歩き始める。


 俺だって、こんなことになるとは……

 しょうがないだろ。この学校に来ちまったんだから……


 そして気が付けば、もう目の前は葵の家の前。


「あのさ、葵。家に帰ったら恋人同士に戻ればいいだろ?」

「はぁ、なんでこんな学校に来ちゃったのかしら」


「それは……」

「樹が、ろくに調べないで進学するから!」


 うっ……


 そう、もとはと言えば、俺がこの高校に入学したのが間違いの始まりだったのだ。


 実は俺たち2人は、血は繋がっていない赤の他人同士なのだ。

 だた、両家の家が隣どうして、俺たちが生まれる前から、お互いの親同士が中が良かったらしい。

 そこに俺たち2人が生まれて、そこから家族ぐるみの付き合いが始まったのだ。


 幼馴染として幼少期は一緒に過ごすことが多かった俺と1歳下の葵。

 お互いの家に交互で泊まりに行ったり、両家そろって旅行に行ったりと、俺たちは本当に兄妹同然に過ごしていた。

 そしていつからか、俺は一人の女の子として葵のことを意識し始めていた。

 それはの葵の方も同じだったようで、いつしか俺たちは将来を約束するような関係に。

 これには両親たちも大賛成で、こうして俺たちは親公認のカップルとして、中学生から許嫁として付き合っていたのだった。


 こうして俺たちは、何事もなく青春時代を共に過ごしていくのかと思っていたのだが……


 問題だったのが、俺が特に深く調べもせずにこの進学校へと入学してしまったことだった。

 学内の設備や環境、通学までの時間、進学率、カリキュラム、学校イベントなどに気を取られ、校則の厳しさまでは気が回らなかったのが失敗だった。


 この高校では、在学中は異性交遊は絶対禁止だったのだ。

 勉学に恋愛など不必要。

 もし交際しているのがバレたたら、即退学という厳しさ。

 その事に入学してから気が付いたのだった。


 俺は葵にそのこと話して、表立って一緒にいることは控えるように提案したのだ。

 しかし、3年間恋人として付き合うことが禁止されることを、葵には到底受け入れられることではなかった。

 それだけにとどまらず、あろうことか、俺が止めたにもかかわらず、同じ高校に入学してしまったのだ!


 彼氏彼女としていられないなら、同じ学校の生徒として一緒にいれば、毎日顔を合わせられる。

 という短絡的で極端すぎる思考を、なんと葵は実行してしまったのだ。


 さらに問題だったのは、ある日の放課後のこと、我慢できなくなった葵が、俺に抱きついたりベタベタしてきたところを、他の生徒に目撃されてしまったのだ!


 その事はすぐに学校側の知るところとなり、呼び出された俺たちはとっさに……


『お、俺たち兄妹なんです』

『わ、私とは兄妹です!』


 と答えてしまったのだ。


 学校側は事実を確認するために、お互いの保護者を呼び出すことに。


 でも事前に親に相談していた俺たちは、


「じゃあ、兄妹ってことにしちゃえば?」

「か、母さん、なに言って……」


「それは名案だ」

「と、父さん?」


 こうして両家の策略により、俺の父親と葵の母親がもともと夫婦で、その間に生まれたのが俺たち2人兄妹ということに。

 そして離婚してお互い再婚した相手に、俺と葵がそれぞれ引き取られた。

 そのため苗字は違えど、実は血の繋がった兄妹です、という設定が誕生した。


 学校に呼び出された保護者は、それを熱弁し力説したのだった。

 離婚、再婚、連れ子、といったデリケートな問題に、学校側も深く聞き出すことも出来ず。

 しかも、親たちの気迫に押され、特に詳しく調べることもなく、両方の保護者がそういうのなら、ということで事態は丸く収まってしまったのだ。


 こうして俺たちは学校内では兄妹を演じ、公認で兄妹らしいことは普通に出来るようになったのだった。


 ただ……


 どこへ行っても兄妹以上のことは出来なくなってしまったのではあるが。


 さらに、俺のところに男子生徒どもが、

「妹のスリーサイズ教えてくれ!」

 だとか……


「昔の写真とかないの?くれない?」

 とか……


「連絡先、教えて」

 しまいには、


「葵ちゃん、好きなんだ。卒業したら付き合いたいんだ」

 なんて、ぬかすやつもいる!


 将来、葵の夫になる俺の目の前で、知らないこととはいえ、良くそんなこと言えるよな、と!


 それは葵の方も同じようで、

「カッコいいお兄さんとお付き合いしたい~」という申し出が絶えないんだとか。


「ねえ、樹?」

「なに?」


 玄関に入ろうとした葵が、振り返って俺を見て言う。


「今から、うちに寄って行ったら? ご飯食べていきなよ」

「あーでも、この前もお邪魔したからなぁ」


「今日、カレーだって言ってたよ」

「……食べていこうかな」


 葵の家のカレーって、なんだか俺ん家よりのも美味いんだよな。


「ねえ、樹」

「ん?」


「家に帰ったら兄妹じゃなくて恋人なんでしょ?」

「まあ、そうなるだろうな」


「じゃあ、私んち来たら何する? 恋人っぽいこと?」

「はぁ?」


「一緒にご飯食べた後は……

 一緒にお風呂? 

 それとも一緒にベッド……」

「おまっ、バカ! 親、いんだろ!」


 家に着いたとたん、機嫌を取り戻しては葵はニヤニヤしながら俺を眺める。


「お互い親同士公認だから、なにしても大丈夫だよ」

「そーゆー問題じゃないだろ!」


「あーあ、いついなったら、カップルとして公然と一緒に外に出れるのかなー」

「しょうがない、卒業までの辛抱だな」


「そうだね、樹お兄ちゃん!」

「家では、お兄ちゃんじゃないだろ!」

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